みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0532「侵略の始まり」

2019-05-01 18:52:32 | ブログ短編

「想像(そうぞう)してみて下さい。もしあなたが恋(こい)をしたいと思ったとき、理想(りそう)の相手(あいて)と巡(めぐ)り合うためにどれだけ時間を費(つい)やさなくてはならないか。でも時間を費やしても、巡り合える保証(ほしょう)はどこにもない。そうじゃありませんか?」
 男は大勢(おおぜい)の人たちを前にしてさらに続けた。
「しかし、もうそんな心配(しんぱい)はありません。我々(われわれ)のこの装置(そうち)を使えば、頭の中で思い描(えが)いた理想の異性(いせい)をプリントアウトできるのです。あなたはただ、この装置の前に立つだけ。もう、面倒(めんどう)な婚活(こんかつ)など必要(ひつよう)ありません」
 観衆(かんしゅう)の一人が声を上げた。「でも、それって生身(なまみ)の人間(にんげん)じゃないですよね」
 男は顔色(かおいろ)ひとつ変えずに答えた。「そうですよ。どうして生身の人間でなきゃいけないんですか? 自分の思い通りにならない人間と一緒(いっしょ)に暮(く)らして、何か楽しいことがありますか? 結婚(けっこん)しても浮気(うわき)をされたり、暴力(ぼうりょく)や虐待(ぎゃくたい)で離婚(りこん)する人たちがどれだけいるか。しかし、これは違(ちが)います。あなたの思い描いた理想の家庭(かてい)を持つことができるのです。まさにこれは、あなたたち人間にとって夢(ゆめ)の装置と言ってもいい。――我々(われわれ)のこの技術(ぎじゅつ)を使えば、それが可能(かのう)なのです。我々は見返(みかえ)りは求(もと)めません。あなたは、お金を支払う必要はないのです。どんなに貧(まず)しい方でも、我々は拒(こば)みません。ただ、我々に、この地球(ちきゅう)での永住権(えいじゅうけん)を与(あた)えて下さるだけでいいのです。あなた方、一人一人の意志(いし)を示(しめ)して下さい。この装置を使うことで、我々の永住権が認(みと)められるのです」
<つぶやき>だまされないで下さい。彼らの言う通りにしたら、人間はいなくなっちゃう。
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