とある会社(かいしゃ)の面接会場(めんせつかいじょう)。就職(しゅうしょく)氷河期(ひょうがき)と言われる昨今(さつこん)、大勢(おおぜい)の若者(わかもの)であふれていた。一人ずつ名前(なまえ)を呼ばれて部屋へ入って行くのだが――。
「あの、立花薫(たちばなかおる)さんは?」
面接官(めんせつかん)は二人で入って来た若い男女に訊(たず)ねた。
「はい、私です」二人同時(どうじ)に答える。
「いや、あの…」面接官は履歴書(りれきしょ)を見て、「えっと、男性の方(かた)…」
「あの」女は微笑(ほほえ)みながら優(やさ)しそうな声で言った。「私たち、二人で一人なんです」
「はい? それはどういう…」
「ですから、私たち、お互(たが)いに欠点(けってん)を補(おぎな)いながら暮(く)らしているんです」
「それは…、ご夫婦(ふうふ)という…」
「夫婦じゃありません。ご説明(せつめい)しますと、私はおもにコミュニケーション担当(たんとう)で、この人は事務全般(じむぜんぱん)と理数系(りすうけい)が得意(とくい)なんです。それに、力仕事(ちからしごと)も担当しています」
面接官はあきれ顔で言った。「あの、うちではそういう採用(さいよう)はしてませんので…」
「でも、御社(おんしゃ)の募集要項(ぼしゅうようこう)にある資格(しかく)も、すべて取得(しゅとく)していますし…」
「でしたら、お一人ずつ面接を受(う)けていただけませんか。そうでないと…」
「でも、二人でないと困(こま)るんです。あの、お給料(きゅうりょう)の方は、一人分でかまいません。私たち、二人で一人なんですから」女は得意(とくい)の笑顔(えがお)を面接官にふりまいた。
<つぶやき>欠点を補い合うのはいいことです。でも、欠点も個性(こせい)なんじゃないのかな。
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