みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0120「始まりは突然に」

2017-12-15 19:07:37 | ブログ短編

 男は、繁華街(はんかがい)で女の子を拾(ひろ)った。どこか寂(さび)しげな彼女の顔(かお)が、目にとまったのだ。何かに導(みちび)かれるように、男は彼女に声をかけていた。
「ほんとに泊(と)めてくれるの?」彼女は半信半疑(はんしんはんぎ)で男に訊(き)いた。
「ああ、あんまりきれいな部屋じゃないけどな」
 男はぎこちなく微笑(ほほえ)んだ。
「ありがとう」彼女は部屋に入ると、ホッとした顔になり言った。「でも、タダで泊めてもらうわけにはいかないわ。お礼(れい)に、あたしのこと、抱(だ)いてもいいよ」
「ふん。俺(おれ)は、好きでもない女は抱かないんだ」
「別にいいのよ。あたし始めてじゃないし。あなたもそのつもりで…」
「俺さ、妹(いもうと)がいたんだ」男はぽつりと言った。「君と同じぐらいの年頃(としごろ)かな。君の顔見てたら、妹のこと思い出してさ。もし、生きてたら…」
「やめてよ、そんな話するの。あたし聞きたくないわ」
「そうか…。そうだよな。忘(わす)れてくれ」男は口をつぐんだ。
 翌朝。彼女が目を覚(さ)ますと、そこに男の姿(すがた)はなかった。枕元(まくらもと)に小さなメモが置(お)かれていた。〈もし泊まるところがなかったら、また来てもいいぞ〉
「何よ、もう」彼女は思わず目を赤くして、「あたし、あなたの名前(なまえ)も知らないのよ」
<つぶやき>いろんな人生を背負(せお)った人たち。ふとしたことで出会い、人生を共有(きょうゆう)する。
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