☆非常に面白かった^^v
観ている3時間、思ったより劇的な展開は抑えられていたのだが、味わい深い展開が、私の目を逸らさせなかった。
この作品は、ブラッド・ピット演じるベンジャミンが、末期の老人の身体で生まれ、そこから年を経るに従って、(これは当然だが)彼を取り巻く世界は通常に流れていく中で、ベンジャミン自身だけが身体の成長の逆行現象を起こし、若返っていく、というところが物語の特別な前提となっている。
故に、「数奇な人生」という副題がついている。
しかし、観終えてわかるのが、ベンジャミンは、特殊ではあるが、全く、「数奇な運命」を送っていないのが面白い。
ベンジャミンは、ちゃんと、普通の人生を送り、・・・そう、普通の人以上に青春を謳歌できているのだ。
例えば、ベンジャミンが老体の頃に出会い、運命の恋に落ちる少女・デイジーがいる(写真の美少女)。
そこでの、デイジーとの逢瀬は、「幼馴染」との交歓の如くである。
真夜中のキッチン(?)のテーブルの下での、ベンジャミンのデイジーとの心の触れ合いなど素晴らしいシーンだ。
ちょっと話がそれるが、幾らでもドラマチックにできるそんなシーンを、作り手は、非常に短く描く、そんな展開を3時間の上映時間に詰め込んでいる作り手の姿勢が豪勢である。
・・・で、若返ったベンジャミンと、妙齢に達したデイジーは再会し、お互いの、正反対の成長の交差した一瞬、猛烈に愛し合う。
この「刹那の恋」は、特別な悲恋か?
・・・否である。
「恋」の期間は、どんな人間にも等しく、短い期間でしかない。
故に、このベンジャミンの物語は、その身体の特殊性によるものが面白いのではない。
ベンジャミンという「普通の人間」の人生が面白いのである。
いや、交差して、ベンジャミン以上に描かれるデイジーの人生も、非常に面白い。
可愛らしいデイジーが成長し、美しくなり(ケイト・ブランシェット)、その過程で、あまりにも性に対し奔放な時期が描かれる。
そのリアルな描写に、観ている私たちは、ベンジャミンもろとも、「そうなっちゃっているのだから、しょうがない」と、切ない気分を感じさせられる。
デイジーが美しすぎるのも問題だ^^;
◇
ベンジャミンとデイジーだけではない。
この物語は、淡々と、坦々と、ベンジャミンと多くの人物の係わり合いが描かれる。
外見は老人だが、中身は子供のベンジャミンが、素直に、そして、老人の顔で、でも幼いので、面白い周囲の人間たちにうまいリアクションを取れず、無表情であることなどで、なんともユーモラスな「すっとぼけた」味わいが物語全般のイメージとして起こり、実に面白い。
拾ったベンジャミンを愛情込めて育てた黒人夫婦・・・。
ベンジャミンが育った老人ホームの老人たち・・・(落雷男・ピアノロンリーウーマン)。
ベンジャミンが歩けるように奇跡を起こし、直後に死んだ黒人神父・・・。
ピグミー族の若者・・・。
ベンジャミンを捨てたが、後に改心する実の父親・・・。
老人のベンジャミンを船乗りとして雇ってくれた全身入れ墨の船長・・・。
チェルシー号の面々・・・。
北欧(ロシア?)で知り合う英国のスパイの妻・・・(この方のエピソードは素晴らしい)。
作り手のデビッド・フィンチャーは、対象にやや距離を置いた語り口の監督だが、それが物語をウェッティにさせず、だが、それ故に、観ている者の心に合致したとき、大きな感動を生む。
ベンジャミンの人生に、近代史(大戦~宇宙開発~ビートルズなど)をうまく配させているのも心憎い^^
◇
それぞれの人々との出会いは、何がしかの教えをベンジャミンに授けただろう。
しかし、それらの教えに、整合性はつけられない。
私はそこに、作り手の抑制を感じた。
もし、人々との出会いで示されるものが、一つの事象に誘導集約されていたら、この作品は凡百のものに堕していただろう。
なぜなら、ベンジャミンに限らず、そんなテーマに沿って展開されるのが「人生」ではないからだ。
・・・だが、それでも、整合性のない出会いを通し、形作られる「一個の人間」が、整合性の帰結としてあろう。
◇
若返りを続け、無垢な存在になるベンジャミンと、老い続け、無償の愛で見守るデイジー。
幼児となったベンジャミンと小道を歩くデイジーの後姿に、私は無性に切なさを感じた。
「無垢の存在」であり、「無償の愛」である。
人は、つくづく、時を経て、「無」に近づいていくのだなあ。
◇
PS:ところで、落雷おじさんは、7回カミナリに打たれと言い、その都度、サイレント映画風の再現映像が出て、館内に笑いが起こったのだけど、あの再現は7回行われていたのでしょうか?
私は漠然と数えていたのですが、6回しかなかったような・・・?
◇
PS:この作品を好きになった方は以下の作品にもあたってみて下さい。
手塚治虫著 『火の鳥;宇宙編』
ダン・シモンズ著 『ハイペリオン』
ピーター・セラーズ主演 『チャンス』
フランシス・コッポラ監督 『ジャック』
ベタだが、ダニエル・キイス著 『アルジャーノンに花束を』
あるいは、ペニー・マーシャル監督の、「一瞬の輝き」を描いた諸作品。
『ビッグ』『レナードの朝』『プリティ・リーグ』
(2009/02/08)
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カミナリおじさんのシーンでは、一回目から、「あっはっは」と笑う初老のおじいさんのお客さんがいて、映画の内容とは別に、それも楽しかった^^
そうですか!
やっぱり、落雷は6回でしたか、
そこなんですよね、この作品の凄さは!
それから、これは、2回目を見た後にじっくり書こうと思ったのですが、誰も言及しないうちに書いておけば、この作品では、「グッナイ」が、物語の句読点のように使用されていましたね^^
では、グッナイ!!
TBさせていただきました。
白黒の落雷シーンは6回しか流れていません。
この辺も、観客をじらしていますね。
とてもほのぼのする作品でしたね。
若返る点以外は普通の人生なんだけど、色々と考えさせられました。
雷のおじさん、大好きなシーンでしたが数えるのを忘れてました(笑)
ベンジャミンは、マイナスから始まったので、後は、幸せが加算する方向性にありますが、
「レボリューショナリー・・・」の夫婦は、なまじっかはじめが幸せなので、マイナスへと落ち込んでいきましたね。
しかし、最近の特殊撮影技術は見事ですね。
ブラッド・ピットもすごいですが、ケイト・ブランシェットの老け具合もうまいものです。
これからもよろしく!
交差した一瞬どころか、ほとんどの人生、愛し合ってましたよね。
ものすごく幸せそうに見えましたわ。
この物語の「80歳の身体で、逆行して成長する人間」という<つかみ>がなければ、この作品を見に行く衝動も起こらなかった可能性がありますね。
しかし、面白かった。
デイジーの事故のエピソードも語り口が凝ってましたね。
では、エントリーもしたので、パンフレットを読もうかな。
私は、めっきりパンフレットを買わないのですが、気にいった作品は、そのバックボーンを知りたく買ってしまいます。
最近では『プライド』も買いました^^
例えばこの作品のあらすじを文章で延々書いたとしても「ふーん。」というだけだと思うんですよ。書かれている通り、“体の成長が逆だ”という一点を除いては、別に「数奇な人生」ではないですよね。
しかしではなんで面白かったのか。その“体の成長が逆だ”な男の人生はそれだけで我々にとっては「数奇な人生」に見えてしまうからなのではないでしょうか。
とすれば、我々は無意識に野次馬になっていたのかもしれません。変わった男の人生に興味深々だっただけなのかもしれません。
そんなふうにも感じました。^^;