田舎おじさん 札幌を見る!観る!視る!

私の札幌生活も17年目を迎えました。これまでのスタイルを維持しつつ原点回帰も試み、さらなるバージョンアップを目ざします。

山口昌夫文庫と札幌大学

2017-10-30 16:53:50 | 大学公開講座
 札幌大学創立50周年記念公開講座「個人文庫をもつ大学 ~ その意義と可能性」の最終回は、札幌大学に創設された「山口昌夫文庫」についての講座だった。山口昌夫は、これまでの加藤周一や丸山眞男と同じく日本の言論界に影響を与えた一人だったが、前出二人とは趣の違った形で発信を続けられた方のようだった…。 

                
                ※ 在りし日に自宅書斎で寛ぐ山口昌夫氏です。

 10月25日(水)午後、札幌大学図書館において「個人文庫をもつ大学 ~ その意義と可能性」の第3回講座(最終講座)が開催された。
 最終回は、札幌大学々長をされた山口昌夫が自身の蔵書を寄贈した「山口昌夫文庫」について、札幌大学名誉教授(この日名誉教授に推挙されたらしい)で、立命館大学加藤周一現代思想研究センター客員研究員である石塚純一氏「山口昌夫先生と山口文庫について」と題して講師を務められた。

                 
                 ※ 講師を務めた札幌大学名誉教授の石塚純一氏です。

 山口氏は生誕の地がオホーツクの美幌町で、網走南ヶ丘高から東大に進学したこともあり、東京外大で長く務められて退官した後に札幌大学に招かれたようだ。札幌大学では1999年から2003年まで学長を務められている。
 その縁で、氏の蔵書が札幌大学に寄贈され「山口昌夫文庫」が創設されてということのようだ。
 札幌大学の図書館の一角には、山口氏の東京の自宅の本に囲まれた書斎(居間?)が再現されていた。

            
            ※ 札幌大学の「山口昌夫文庫」内に再現された山口家の書斎の様子です。

 石塚氏は先ず、個人文庫の持つ意義について、次のように整理した。
 ① 優れた個人(研究者)の思想や仕事を後世の人が調べ検証するためのアーカイブとしての機能。
 ② 個人の身体を通して集められた書物の群れは、一つの時代精神・文化を体現する。それらが図書館内にまとまって存在することに意義がある。

 さて、山口昌夫の思想界における業績についてだが、私が石塚氏から伺うかぎりは、山口は加藤周一や丸山眞男のように政治に直接コミットするような言論は展開しなかったよう受け止めた。
 山口が世に出ようとした頃は、社会全体が騒然としていた時代(全共闘の時代)で、文化的にはサブカルチャーの勃興期とかぶさり、山口の目はサブカルに注がれることが多かったようだ。
 そうしたこともあり、山口が本格的に世に問うた著作「瓢箪と学生」も当初はあまり注目されてなかったようだが、石塚氏にはその著は、時代の空気を鋭く突いていると話された。

 その「瓢箪と学生」の一節には次のようなくだりがある。
「現在の状況は、徹底的に俗なるものに転化し、間化した時間の上に構築された世界を一挙にくつがえし、いわば人間化した聖なる時間を回復する要求と見受けられます。そこで私には、行動においてラディカルな学生運動がかえって研ぎすまされた精神性の上に成り立っているような気がします。喧噪のさなかに身を挺して、瞬間的にも世俗的な時間を停止させるというのは、まさに祭りの状況に対応すると思うのです。」
 この時代、山口は海外で生活していたこともあり、日本の状況を客観的に概観していたようにもうかがえる。
 この姿勢は、山口が日本へ帰ってきた後もある意味で一貫していたともいえるようである。

            
            ※ 札幌大学図書館の一角に設けられた「山口昌夫文庫」の書棚です。

 札幌大学の「山口昌夫文庫」は、1997年、山口が札幌大学文化学部長として赴任した際に、山口の蔵書など約4万点(冊?)が札幌大の地下室の運び込まれたのが最初だという。そのご整理され、公開していたのだが、管理する人員の不足などにより2010年から公開を止めていたが、石塚氏たちの尽力により2012年から再び公開する運びになったということだった。

 ことほど左様に、大学の個人文庫は人的にも、財政的にも厳しい状況に置かれていることに石塚氏は危機感を示した。
 そのことは、「加藤周一文庫」や「丸山眞男文庫」の関係者の同様のことを口にしていた。
 
 加藤周一、丸山眞男、山口昌夫といった「知の巨人」と称される人などは、私などからは遠い存在であるが、私たちの価値観の醸成に少なからず影響を与えているらしいことをおぼろげながらでも感得できたことが本講座を受講した成果と言えようか?
 そうした価値ある個人文庫が永続されることを願いたいと思った今回の講座だった。