ヒトリシズカのつぶやき特論

起業家などの変革を目指す方々がどう汗をかいているかを時々リポートし、季節の移ろいも時々リポートします

単行本「アジアから鉄を変える 新しい鉄の基礎理論」を拝読しました

2013年06月06日 | 
 国の研究開発機関である物質材料研究機構(略称NIMS、茨城県つくば市)のナノ材料科学環境拠点のマネージャーを務める長井寿さんなどが執筆した「アジアから鉄を変える 新しい鉄の基礎理論」(発行は東洋書店)という啓蒙書を拝読しました。この単行本の発行日は2013年5月1日です。

 本のタイトル「アジアから鉄を変える」からは、一般の方はすぐには中身を推し計るのは難しいかもしれません。この啓蒙書は、日本の鉄鋼業の未来を予測し、工業材料として重要な鉄(この本では“鉄”は“鋼”を意味しています)の将来像を提示します。



 特に、日本国内にある鉄スクラップを資源として再利用する近未来が訪れると論理的に推論しています。長井さんは、こうした鉄の利用を“地産地消”と表現しています。

 その際に、約10年ほど前に、長井さんたちの研究グループが基盤研究として確立した高度に熱処理など加えてつくる“新しい鉄”を鉄スクラップを原料に製品化して“新しい鉄”を実現すると主張しています。この新しい鉄は、高性能な基盤材料として日本のモノづくりを支えると、この本は主張します。

 日本では主に第2次大戦の敗戦時から鉄橋や線路などの土木系インフラストラクチャーや建物の骨格に用いた鉄の構造体のスクラップや、そして高度成長期以降に蓄えられた自動車車体などのさまざまな鉄のリサイクルから発生するスクラップは、1年間に約3000万トン発生しているそうです。

 現在、日本国内は鉄の使用量(内需としての利用量)は1年開当たり約7000万トンに達しています。欧米などの先進国では、使った分だけ鉄スクラップは発生するようになるために、長井さんたちは日本もいずれ鉄スクラップの発生量が約7000万トンに達すると推定します。

 このて鉄スクラップの平均組成(含まれている元素の比率)は、鉄にマンガン、ケイ素、炭素です。長井さんたちの研究グループは、そのスクラップの単純な組成のままで、精錬によって鉄の原料をつくり、これからつくる鋼材(鋼板や鋼厚板など)に高度な加工と熱処理を施して、従来の高価な合金添加元素入りの鋼板や鋼厚板などを作製する基本原理を見いだしました。

 ニッケルやクロム、バナジウムなどのある種のレアメタルを合金添加元素として利用しなくても、同じような性能を発揮する鋼を事業化することが、近未来の日本の産業競争力を高めると主張します。高性能な鋼材を、合金添加元素に頼らず、高度な加工熱処理によって、高性能な鋼材を実現すると、本書は主張します。

 簡単にいえば、現在の日本の鉄鋼業は、鉄鉱石と石炭を輸入し、高度な製錬工程によって、基本性能を持つ鋼材の原料をつくり、鋼材に成形するやり方をとっています。現在、原料の鉄鉱石は中国の鉄鋼業の成長によって、資源確保に苦心することが増えています。

 もし、国内の鉄スクラップを原料に、高性能な鋼材が製造できるようになれば、日本は鉄鉱石を輸入する際の資源問題に悩まされることがなくなります。

 この本は、技術は超一流と自負している日本の鉄鋼業の未来像を示し、この高性能な鋼材を基に、日本のモノづくり産業が復活する道を示しています。

 第二章以降は、高性能な鋼材を製造する技術を、分かりやすく説明します。最近、神戸製鋼所は既存の高炉を削減するなどの事業再建策を発表しました。近未来の日本の製鉄業のあり方を勢力的に語る啓蒙書です。