ヒトリシズカのつぶやき特論

起業家などの変革を目指す方々がどう汗をかいているかを時々リポートし、季節の移ろいも時々リポートします

最近、増えている米国の「3Dプリンター」革命追従論の記事に戸惑っています

2013年06月16日 | 日記
 最近、機械技術に詳しい方と話すと、話題になるのは「3Dプリンター」関係の技術のことです。具体的な事実関係が分からない点があるからです。

 多くの報道は、米国が3Dプリンターを用いた「デジタル産業革命」を進めているから、日本も後れをとってはならないという論調が底流にあり、混乱させています。米国の製造業と日本の製造業の企業群の構造も蓄積した技術も異なり、単純な思考による追従論は危険です。

 2013年6月16日に発行された日本経済新聞紙の朝刊一面のトップ記事は「家電量産に3D印刷機 パナソニック コスト3割減」という3Dプリンター関係の記事が掲載されています。Webサイトの電子版では見出しが異なっています。



 この記事によると、プラスチック部品の製造に必要な金型を3Dプリンターでつくると、生産コストが3割程度削減すると報じています。

 この記事では金属製の“金型”は通常、「1カ月程度の期間」がかかるのを半分に短縮できるので金型作製費用が安くなり、さらにプラスチック部品のコストが安くなるよう読めるように書いてあります。

 まず、金型と一言でいっても、金属のプレス加工用や鍛造加工用の金型と樹脂の射出成形用金型では、一般に作製期間とコストが異なり、きちんとした比較になっていません。例えば「自動車」と一言でいっても、原付スクーターと大型トレーラーを一緒に論じるような乱暴なものです。

 この記事で一番分からない部分は「金属の粉を溶かしたうえで固めて金型にする」という文章です。この金属製の金型を「3Dプリンター」でどうやってつくるかが、機械技術に詳しい方と話すといつも話題になります。

 この記事の文章をそのまま読むと、金属粉と樹脂バインダーを混ぜたものを3Dプリンターで積層し、高温にして金属粉を焼結させます。樹脂バインダーは高温にして気化させて除去します。この樹脂バインダーの除去はそれなりのノウハウがあり、時間がかかります。この時間は、金型を通常の切削加工でつくる時の時間と比較する必要があります。

 さらに、金属の焼結体は表面に細かい穴が開いており、これをどう埋めるのか、その仕上げ加工をどうするのかが記事には書かれていません。この仕上げ加工の度合いを許容するプラスチック部品にしか適用できないのが現状です。

 一番の問題点は、パナソニックが今回の手法で生産するプラスチック部品の個数が不明なことです。同じ仕様で、当該プラスチック部品をいくつつくるかが部品の製造コストを決めるからです。安くなるものもあれば、高くなるものもあり、一概には製造コストを計算できません。

 この記事には、プラスチック部品の冷却を速くする金型構造を簡単に作製できるとの文章があります。金型構造を最適化ができる点は「3Dプリンター」の利点ですが、コスト削減とは目指す目標が異なります。この使い方は日本では10年前からありました。

 前提条件があいまいなままで、コストの比較論はできないのですが、今回の日本経済新聞紙の一面の見出しをみると、多くの方は「3Dプリンター」を使うことはイコール低コスト化と考えるようになりそうです。

 同様に6月16日に発行された朝日新聞紙朝刊の中面にある「米発 3Dプリンター革命」は、米国が官民挙げて3Dプリンター革命を進めているから、日本も遅れてはならないという内容の記事で、部品製造の前提条件があいまいなままでの追従論です。

 最近、機械技術に詳しい方と話すと、「3Dプリンター」の盲目追従論を進めるテレビや新聞新の記事の危険性が話題になります。もちろん、「3Dプリンター」をうまく適用できる試作品や嗜好品はかなりあると思います。部品製造の前提条件となる部品仕様を比較する議論が必要です。