ヒトリシズカのつぶやき特論

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住友電気工業などが超電導電力ケーブルを開発している背景を考えました

2013年06月04日 | イノベーション
 2013年5月28日に、住友電気工業、フジクラ、国際超電導産業技術研究センター(ISTEC)の3者は、「イットリウム(Y)系の高温超電導線材を用いた大電流・低損失の66キロボルト級の超電導電力ケーブルを開発した」と、発表しました。1986年に日欧米・韓国などの大学や企業などで始まった高温超電導の研究開発競争の節目の成果発表の一つです。

 この住友電気工業などの3者の発表は、翌日の5月29日から東京都江東区の東京ビックサイトで開催された「Smart Community Japan2013」展示会の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のブースで、この開発品のケーブルが公表されることを受けてのことだったそうです。この超電導電力ケーブルの研究開発は、経済産業省系の新エネルギー・産業技術総合開発機構が研究開発資金を提供しています。



 “超電導材”と聞くと、小難しい最先端技術と感じる方が多いと思います。要は、将来の電線の一部が高性能品に置き換わるということです。そして、これからのBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)やアジア、アフリカなどの新興国の経済成長には、電力網によるエネルギー供給が当然、不可欠です。高温超電導線材は、エネルギー供給網の動向を左右する可能性が出てきたのです。

 例えば、昨日まで横浜市で開催されていたアフリカ開発会議(TICAD)で、日本政府がアフリカ各国の経済成長を支援するといっても、現地に十分な電力網がなければ、できない事業化は多いはずです。

 さらに、先進国である日本やドイツなどで、可能性を10年、20年単位で考えられている“脱原発”を実現するための電力網としても期待されています。つまり、石炭や石油などの化石燃料に頼らない再生可能エネルギー源として、風力発電や太陽光発電などの“グリーンエネルギー”を利用するには、蓄電池と電力網の組み合わせが不可欠になるからです。

 今回は細かい話は大胆に省略し、現時点で電気抵抗がゼロの高温超電導線材を利用する電力ケーブルを実用化する意味を考えてみました。高温超電導の研究開発競争の契機をつくったランタン系セラミックスの高温超電導材料から始まった実用化の研究開発は、日本独自のビスマス(Bi)系と日欧米・韓国などが実用化を図っているイットリウム系の2種類のセラミックスの高温超電導材料が実用化される計画です。

 豊富にある液体窒素で(沸点はマイナス196℃)を用いて、マイナス200度(華氏)以下で、電気抵抗ゼロの超電導現象を利用して送電すると、送電の損失が大幅に少なくなると期待して利用するのが、高温超電導材製の送電ケーブルです。

 今回、住友電気工業などが開発したケーブルは、送電ケーブルの基本技術がメドがついたという意味です。正確には、66キロボルト級の三心一括型のケーブルの基本技術を確立したということです。直径150ミリメートルの管に入る大きさにしました。

 この結果、将来、日本の電力網を大幅更新する時期が来た時に、従来の銅線製ケーブルに代替できる可能性が高まったということです。66キロボルト級の電線を利用する場所は、都市部近くの一次変電所です。ここでの実用化を目指し、日欧米・韓国の企業や研究開発機関は、10年後ぐらいで実用化・事業化する計画です。まずは、先進国同士で送電網という社会インフラの代替需要を目指します。

 日欧米・韓国の企業や研究開発機関が高温超電導材料製の送電ケーブルの実用化を図る理由は、社会インフラとして事業化するためには、液体窒素の冷凍機や、電力変電・送電などの制御技術などのハイテク技術の蓄積が必要となり、ある程度の総合的な技術開発力が不可欠となります。こうしたハイテク機器・装置産業の産業振興になる点がかなり魅力的なことだからです。

 さらに、アジアやアフリカなどでは、日欧米などの先進国に普及している銅線製の送電ケーブルの一部を、いきなり高温超電導材料製の送電ケーブルを部分的に代替して敷設する可能性も出てきました。この場合は、液体窒素の冷凍機などのハイテクインフラも提供する話になります。

 こうした新興国市場を手に入れると、自国と新興国の市場を併せると、その分だけ量産化効果が出てくる可能性が高まります。これが、日欧米・韓国などの先進国の狙いです。中国なども参加する可能性はあります。

 さて、最初に「イットリウム(Y)系の高温超電導線材」と表記しましたが、正確には現在はガドリニウム(Gd)系材料に進化しています(ほとんどの報道は、イットリウムからガドリニウムに代替した点に触れていません)。少し難しい内容ですが、ガドリニウム系はステンレス系のクラッド材箔帯(基板)の上に、接着性を良くするセリア/ジルコニア/セリアというセラミックス材料の中間層を載せ、この上にガドリニウム・バリウム・銅・酸素系(GdBCO)を載せ、さらに低温状態を安定化させる銀(Ag)層を載せます。細かい材料組成は気にせず、結構、複雑な層構造になっていることを覚えてください。

 この4層を、プラズマレーザー蒸着法という手法で作製します。一昔前は、プラズマレーザー蒸着法は大学か公的研究機関などが新しい組成の新材料を開発する実験装置でした。ところが、最近は液晶テレビ・パネルや太陽電池などの製造に利用されるようになり、汎用の製造装置になりつつあります。こうしたプラズマレーザー蒸着装置の普及という点でも、高温超電導線材の実用化は意味を持ち始めました。

 以上、日欧米・韓国が高温超電導線材の実用化の競争に力を入れている背景を考えてみました。