まりっぺのお気楽読書

読書感想文と家系図のブログ。
ゆる~い気持ちでお読み下さい。

『ダブリン市民』小さな街の片隅にも

2008-07-06 23:23:41 | イギリス・アイルランドの作家
DUBLINERS 
1906年 ジェイムズ・ジョイス

私はこの本を何度読みかえしたことでしょう。
ご覧の通りボロボロです。

ダブリンに暮らす人々を愛情深く描いた佳作がつまった一冊。
全部全部たまらないんですが、特に好きだった話を3つ挙げるとしたら

『土くれ(Clay)』
洗濯屋で働く老女マライアは、昔子守りをしたジョウの一家と万霊節を過ごすため
1日の仕事を終えていそいそと出かけます。
道中子供たちへのおみやげに買ったプラムケーキを無くしてしまいましたが
ジョウの一家は温かくもてなしてくれました。

マライアの一つ一つのしぐさや表情にいちいち泣ける私です。
彼女は幸せなのかしら? 不幸せなのかしら?
現代のものさしでは分からないけど、幸せだと思いたい。

『死せる人々(The Dead)』
ケイトとジューリアの老姉妹が催す、恒例の古き良きクリスマスパーティーに
甥のコンロイが妻のグレタと訪れます。
微笑みと喧噪が入り交じるダンスや昔ながらの晩餐の後、幸福感に包まれて
ホテルに戻ったコンロイでしたが、グレタの思い出話に怒りを覚えました。

とことんノスタルジックなパーティー模様が描かれた前半と
パーティーの後、妻に過去の恋人の思い出を聞かされ
苦悩する夫を書いた後半からなる一篇で、ふたつの物語を読んでいるようです。
過去の人のことでそんなに悩まなくても・・・
死んでしまった人の美しい思い出には勝てませんからね。

『下宿屋(The Bording House)』
下宿屋のやり手女将ムーニー夫人は娘ポリーの様子がおかしいと気付きました。
相手は商店に勤める宿泊人のドーラン氏です。
ムーニー夫人は頃合いを見計らってドーラン氏に話しをつけることにします。
その頃ドーラン氏は部屋で不安のために震えていました。

若い娘のちょっとした優しさに惹かれて手を出したために
結婚に追い込まれる真面目な事務員の話です。
男の“やられちゃった感” がひしひしと伝わります。
押しの強い母親と、乱暴者の兄が控えてる娘なんだから最初に考えておかないと…

エピソードは他愛無いものですが、石造りの家のぼんやりと灯りが点る窓の
ひとつひとつに物語が潜んでいるようでわくわくします。
ダブリンという町がなにやら特別なところに思えてくるんです。

一つ一つの短い話の中で、登場する人の人物像がありありと浮かぶあたり
短篇はこうでなきゃ!と納得の一冊。

ダブリナーズ 新潮社


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