1940年 サマセット・モーム
5篇の物語が収められた小作品集です。
最初のエピソード以外は男性のエゴが感じられる物語だと思います。
それを自嘲しているのか美学と捉えているのか、ちょっと分からないですねぇ…
さくさくっと全篇ご紹介します。
『3人の肥った女(The Three Fat Women of Antibes)』
共にダイエットに励む仲のよい3人の女たちに、ひとりのスレンダーな女が加わります。
彼女に飲むわ食べるわを見せつけられるうちに、3人はお互いを憎み合うようになります。
痩せた女は唐突にいなくなりましたが、その時3人は…
悪気はないのでしょうが「そんに食べるのになんで…」とムカつくことはありますねぇ。
スレンダー女性はもう少し3人を思いやってほしかったですね。
『良心的な男(A Man with a Conscience)』
流刑地で会った知的な好青年が犯した罪は妻殺しでした。
彼は幼なじみと同じ女性を愛してしまい、自分のものにするために友人を裏切ったのです。
せっかく愛する人と結ばれたというのに、彼は後悔の念に苛まれます。
まったく自分勝手な理由で殺されてしまった新妻の無念を考えると許せませんね。
いくら知的で気持ちがいい模範囚の好青年だとしても
「それがどーした!」と言わせていただくよ。
『掘り出し物(The Treasure)』
独身生活を謳歌する裕福な男性が完璧な女中を手に入れました。
彼女のきりもりのおかげでまったく申し分ない生活を送っていたというのに
ある晩気紛れから一夜を共にしてしまいます。
後悔しきりの彼の前に、いつもとまったく変わらない彼女が姿を見せたので
彼は胸をなでおろします。
ひっどーい! それでいいわけ? 私なら皆に言いふらしてやるんですけどねぇ。
逆にそれが彼女の美学なのかしら?
『ロータス・イーター(The Lotus Eater)』
カプリ島に魅せられた英国人の男性が何もかも捨てて島に移住して来ました。
25年間幸福に暮らせれば死んでもいいとそれだけの金を用意して人生を謳歌していました。
けれども彼は25年より長生きしてしまったのです。
その後は天国のような島で地獄のような生活を送るしかありませんでした。
南の島で好きなように暮らすって夢みたいな話ですが、いくら自分の人生だからとはいえ
寿命は自分で決められるものではないんですね。
でも若い時に好きなように生きた方が幸せな気がする…この年になると。
『ジゴロとジゴレット(Gigolo and Gigolette)』
ナイトクラブで大盛況の危険な曲芸で生活の糧を得る妻と司会者として彼女を見守る夫。
妻は日に日に恐怖が募っていき曲芸をやめたいと言いだします。
けれでも破格のギャラを捨ててしまえば過去のその日暮らしに戻るしかありません。
妻は静かに控え室を後にしてステージに向かいます。
合意の上とはいっても危険に晒せれているのは妻なのですから
彼女の気持ちを尊重してあげてほしい…
女性サイドから見ると、男性の美学ってけっこうエキセントリックなのよね。
それから多分にナルシスティックな要素を含んでいるような気がします。
男性が女性より何かを達成することが多いのも美学に負うところが多いと思うわ。
偉大な発見から下らない発明までいろいろあると思いますけど。
そしてたいがいの女性はそれにつきあわされちゃうんですよね…
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『ジゴロとジゴレット』『ロータス・イーター』はこちらに収められています