「未来を生きる君たちへ」をやっとDVDで観ました。
昨年の第83回アカデミー賞で外国語映画賞を獲った時からずっと観たかった作品です。
2010年製作(デンマーク/スウェーデン)
デンマーク出身のスサンネ・ビア監督が暴力や憎しみの連鎖を大人と子どもの世界でうまく
表現し、そしてラストではいつものように少し希望を見いだしてくれます。
ビア監督の「ある愛の風景」にも出ているウルリッヒ・トムセンも出ていました。
おもな内容は・・・
医師アントン(ミカエル・ペルスブラント)は、デンマークとアフリカの難民キャンプを行き来する生活を送っていた。
長男エリアス(マークス・リーゴード)は学校で執拗ないじめを受けていたが、ある日彼のクラスに転校してきたクリスチャン(ヴィリアム・ユンク・ニールセン)に助けられる。
母親をガンで亡くしばかりのクリスチャンと、エリアスは親交を深めていくが・・・。
(シネマ・トゥデイより抜粋)
もともとの原題は「Haevnen」・・・デンマーク語で「復讐」を意味するとか。
子どもの世界での執拗ないじめ、大人の世界でも突然暴力をふるう存在、そして医師アントンが
通う難民キャンプでの「ビッグマン」の存在。
(このビッグマンは妊婦のお腹の子の性別がどっちか賭けて、残忍にも妊婦の腹を切り裂く悪党)
それぞれの場所での暴力の連鎖が巧みに描かれています。
いつも容姿をバカにされていじめられるスウェーデン人のエリアス。
転校してきたクリスチャンと親しくなって嬉しそうな様子が最初は良かった。
エリアスは別居している父アントンが大好きで父親も彼のその気持ちに応えているので父子関係は安定しています。
一方のクリスチャンは母を亡くしたばかりで悲しみが癒えず、父とはなかなか心が通わない・・・
母の死を父のせいにして、悲しみと苦しみがクリスチャンをどんどん歪んだ方向に導いていく。
子ども達は「いじめられてやり返さないといじめは続く」事を知っていて、そこには確かに負の連鎖が生まれてしまうのだが。
いじめられている者が刃物で報復・・・という例も確かにあり得るわけです。
エリアスの父アントンは暴力で対抗する事は意味がない、と子ども達に教え続け、実際にアントンが
暴力男に殴られても抵抗はしないで「なぜ殴るんだ?」と問い、子ども達には「暴力しかふるえない意味のない人間だ」と教える。
そんなアントンが難民キャンプで出会った悪党「ビッグマン」の治療はするものの、最後はあまりにもひどい「ビッグマン」の態度にキレ、彼に恨みを持つ住民達にその身を引き渡してしまうのです。
この二つの彼のとった行動は人間らしくもあり、ギリギリの選択だったようにも思います。
子どもの世界に戻ると、エリアスとクリスチャンは「復讐」という名目でどんどん間違った方向に進んでいきます。
そして二人の前に大きな出来事が・・・
瀕死のエリアスの前で父も母も苦しみ祈り続け、クリスチャンはエリアスの両親に赦しを受け、父ともやっと気持ちを通わせる事ができました。
暴力の現場でのやりきれなさや苦しみは見ていて辛いけれど、結局はエリアスの父との繋がりが未来に向けかすかな希望を生み出していたように思いました。
子どもは大人の偽善を知っているし、子ども社会の「やるか、やられるか」の厳しい現実はどこの世界にもあるんだな、と実感。
スサンネ・ビア監督はそんな表現がとてもうまく、暴力が暴力を生み続ける事を描ききった作品だったと思います。
難民キャンプにはまた新たな「ビッグマン」が出てくるかも知れない。
そして子どもの世界にも陰湿ないじめはなくならないと思う。
その時、どうふるまうか、どう子どもを守るか・・・
いろんな立場で深く考えることのできるこの作品、いつまでも心に残ると思います。
様々な大地や風景、空を映した映像も印象深かったです。
そして何と言ってもエリアス役の少年の顔の作りや表情がまた細部まで生きていました。
とってもうまいです。
今回の評価は・・・ もちろん星4つ ☆☆☆☆
デンマーク映画はなかなか秀作がありますね。