[3月5日20:00.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 斉藤家1F応接間]
夕食が終わった後、私と斉藤社長は応接間に移動した。
斉藤秀樹:「ウィスキーでもどうですか?」
愛原:「はあ……ありがとうございます」
斉藤社長は内線電話を取ると、それでメイドに言い付けた。
秀樹:「水割りを2つ持って来てくれ」
しばらくして、メイドのオパールが水割り2つを持って来た。
愛原:「今日はありがとうございました」
秀樹:「いえいえ、こちらこそ、うちの娘のワガママに付き合ってもらって恐縮です」
愛原:「本当に御嬢様は、リサのことが大好きみたいで……」
秀樹:「ホントですね」
愛原:「でもそんなワガママを叶えてあげる、社長もなかなかの親バカぶりでは?」
秀樹:「はっはっは!いやあ、返す言葉もありません。何しろ私の、大事な一人娘ですからな。本当はダメだと知りつつ、どうしても聞いてしまうのですよ」
愛原:「うちのリサも気に入っているようですし、こういうので良ければ、またお引き受け致しますよ」
秀樹:「真にかたじけない」
愛原:「それより、今月中には蔓延防止が解除されるようですね」
秀樹:「そのようですな」
愛原:「春休みはどう致しましょう?また、娘さんをお連れしましょうか?」
秀樹:「ふむ、そうですね……。まあ、私も異動などで忙しいのは間違いないので……」
愛原:「BSAAでの取り決めもありますので、海外はちょっとムリですが……」
生物兵器たるリサを海外へ移送することは禁止されている。
なので、リサにはパスポートは発行されない。
例え数日の旅行であったとしてもだ。
最初は本州からも出られないという縛りがあったが、八丈島の件以降は『本州内』から『日本国内』へ、交通手段も『陸路限定』から『限定解除』と緩和されている。
つまり、んっ?さんの九州へ行くことも可能となったわけである。
秀樹:「でしょうね。どこか、オススメの所とかありますか?」
愛原:「そりゃもう色々ありますよ。というか、メインの御嬢様がどこに行きたいかですよね」
秀樹:「はっはっは!娘のことですから、『リサさんと一緒なら無間地獄にだって行くわ』と言うはずです。ですのでね、そこは愛原さんが決めて頂いて大丈夫ですよ」
愛原:「そうですか。実は、リサが関心を寄せた場所があるのですよ」
ウソである。
ここから先は、私の探偵の仕事だ。
秀樹:「どこでしょう?」
愛原:「北海道です」
秀樹:「北海道ですか」
愛原:「社長方、冬休みは北海道に行かれましたでしょ?」
秀樹:「はい」
愛原:「リサはまだ北海道に行ったことがないので、凄く関心を寄せているんですよ」
秀樹:「そうなんですか」
愛原:「確か社長方、倶知安とかニセコの方とかに滞在されたんですよね?」
秀樹:「そうです」
愛原:「あの辺はどうですか?」
秀樹:「私みたいにのんびりと過ごしたい場合はいいですが、活発に動きたい娘には苦痛だったようです」
愛原:「あそこにはスキー場とかもあったはずですが?」
秀樹:「はい。ですが、かといってずっと毎日滑っているわけにもいきません。また、1日中吹雪の日もあって、そんな日は外にも出られませんから、やはり屋内にいるしかないのです。元々はマスコミなどから逃げる為でしたが、娘には苦痛を与えてしまいました」
愛原:「どういう所に泊まられたんですか?」
秀樹:「知り合いが経営しているペンションですよ。これがリゾートホテルなら、まだホテル内に色々と施設がありますから、そこで気を紛らわすという手もありますが、一個人経営のペンションでは……」
愛原:「なるほど」
秀樹:「娘としては、北海道はしばらくは控えたいようです。……ので、別の場所でお願いできますか?」
愛原:「リサが行きたいと言った場合は?私も、絵恋さんはリサと一緒なら地獄迄も一蓮托生といった感じだと思います。その場合は?」
秀樹:「……父親として許可しかねます。リサさんには、第2希望でお願いすることになると思います」
愛原:「そんなに北海道は許可できませんか?」
秀樹:「娘には窮屈な思いをさせてしまったので」
愛原:「宿泊先は札幌の大きなホテルとかでは?」
秀樹:「ですから、娘は今、北海道に行くこと自体がトラウマになっているのです」
斉藤社長は、私達が北海道に行くことを必死で止めようとしている。
私達に北海道に行かれること、それも、斉藤社長らが滞在した場所を探索されるのを恐れているようだ。
秀樹:「愛原さんこそ、何か北海道に思い入れでもあるんですか?」
愛原:「まあ、警備会社にいた頃、社員旅行で何度か訪れた思い出の地ですから」
それは本当だ。
年によっては、逆方向の沖縄に行ったこともある。
秀樹:「それだけですか?」
私は1つだけ情報を出してあげることにした。
愛原:「社長は、白井伝三郎が羽田空港近くの道路で事故死したことは御存知ですね?」
秀樹:「ええ。テレビでも新聞でも、大きく報道されていましたから」
愛原:「その白井は捜査の目を掻い潜っている最中、北海道に潜んでいたそうですよ」
秀樹:「そうなんですか」
愛原:「ついでに、白井が滞在していたとされる場所に行ってみようかなと思いましてね。本人はもう死亡していますし、こんな一探偵が知り得たわけですから、捜査機関もとっくに知っているでしょう。なので、直接現場までは行けないと思いますがね」
秀樹:「そんな野次馬根性に、娘を付き合わされても困ります。何度も言うように、春休みも娘の事はお願いするとは思いますが、行き先は北海道以外でお願いします」
愛原:「分かりました」
このやり取りは、後で善場主任に報告しておこう。
愛原:「では後でリサに第2希望はどこか聞いておきますので、またその時に……」
秀樹:「よろしくお願いします」
話が終わったのを見計らったかのように、オパールが入って来た。
オパール:「失礼致します。お風呂の準備ができました」
秀樹:「分かった。愛原さん、先に入ってください。私はまだ残務がありますので……」
愛原:「分かりました」
私は応接間をあとにした。
夕食が終わった後、私と斉藤社長は応接間に移動した。
斉藤秀樹:「ウィスキーでもどうですか?」
愛原:「はあ……ありがとうございます」
斉藤社長は内線電話を取ると、それでメイドに言い付けた。
秀樹:「水割りを2つ持って来てくれ」
しばらくして、メイドのオパールが水割り2つを持って来た。
愛原:「今日はありがとうございました」
秀樹:「いえいえ、こちらこそ、うちの娘のワガママに付き合ってもらって恐縮です」
愛原:「本当に御嬢様は、リサのことが大好きみたいで……」
秀樹:「ホントですね」
愛原:「でもそんなワガママを叶えてあげる、社長もなかなかの親バカぶりでは?」
秀樹:「はっはっは!いやあ、返す言葉もありません。何しろ私の、大事な一人娘ですからな。本当はダメだと知りつつ、どうしても聞いてしまうのですよ」
愛原:「うちのリサも気に入っているようですし、こういうので良ければ、またお引き受け致しますよ」
秀樹:「真にかたじけない」
愛原:「それより、今月中には蔓延防止が解除されるようですね」
秀樹:「そのようですな」
愛原:「春休みはどう致しましょう?また、娘さんをお連れしましょうか?」
秀樹:「ふむ、そうですね……。まあ、私も異動などで忙しいのは間違いないので……」
愛原:「BSAAでの取り決めもありますので、海外はちょっとムリですが……」
生物兵器たるリサを海外へ移送することは禁止されている。
なので、リサにはパスポートは発行されない。
例え数日の旅行であったとしてもだ。
最初は本州からも出られないという縛りがあったが、八丈島の件以降は『本州内』から『日本国内』へ、交通手段も『陸路限定』から『限定解除』と緩和されている。
秀樹:「でしょうね。どこか、オススメの所とかありますか?」
愛原:「そりゃもう色々ありますよ。というか、メインの御嬢様がどこに行きたいかですよね」
秀樹:「はっはっは!娘のことですから、『リサさんと一緒なら無間地獄にだって行くわ』と言うはずです。ですのでね、そこは愛原さんが決めて頂いて大丈夫ですよ」
愛原:「そうですか。実は、リサが関心を寄せた場所があるのですよ」
ウソである。
ここから先は、私の探偵の仕事だ。
秀樹:「どこでしょう?」
愛原:「北海道です」
秀樹:「北海道ですか」
愛原:「社長方、冬休みは北海道に行かれましたでしょ?」
秀樹:「はい」
愛原:「リサはまだ北海道に行ったことがないので、凄く関心を寄せているんですよ」
秀樹:「そうなんですか」
愛原:「確か社長方、倶知安とかニセコの方とかに滞在されたんですよね?」
秀樹:「そうです」
愛原:「あの辺はどうですか?」
秀樹:「私みたいにのんびりと過ごしたい場合はいいですが、活発に動きたい娘には苦痛だったようです」
愛原:「あそこにはスキー場とかもあったはずですが?」
秀樹:「はい。ですが、かといってずっと毎日滑っているわけにもいきません。また、1日中吹雪の日もあって、そんな日は外にも出られませんから、やはり屋内にいるしかないのです。元々はマスコミなどから逃げる為でしたが、娘には苦痛を与えてしまいました」
愛原:「どういう所に泊まられたんですか?」
秀樹:「知り合いが経営しているペンションですよ。これがリゾートホテルなら、まだホテル内に色々と施設がありますから、そこで気を紛らわすという手もありますが、一個人経営のペンションでは……」
愛原:「なるほど」
秀樹:「娘としては、北海道はしばらくは控えたいようです。……ので、別の場所でお願いできますか?」
愛原:「リサが行きたいと言った場合は?私も、絵恋さんはリサと一緒なら地獄迄も一蓮托生といった感じだと思います。その場合は?」
秀樹:「……父親として許可しかねます。リサさんには、第2希望でお願いすることになると思います」
愛原:「そんなに北海道は許可できませんか?」
秀樹:「娘には窮屈な思いをさせてしまったので」
愛原:「宿泊先は札幌の大きなホテルとかでは?」
秀樹:「ですから、娘は今、北海道に行くこと自体がトラウマになっているのです」
斉藤社長は、私達が北海道に行くことを必死で止めようとしている。
私達に北海道に行かれること、それも、斉藤社長らが滞在した場所を探索されるのを恐れているようだ。
秀樹:「愛原さんこそ、何か北海道に思い入れでもあるんですか?」
愛原:「まあ、警備会社にいた頃、社員旅行で何度か訪れた思い出の地ですから」
それは本当だ。
年によっては、逆方向の沖縄に行ったこともある。
秀樹:「それだけですか?」
私は1つだけ情報を出してあげることにした。
愛原:「社長は、白井伝三郎が羽田空港近くの道路で事故死したことは御存知ですね?」
秀樹:「ええ。テレビでも新聞でも、大きく報道されていましたから」
愛原:「その白井は捜査の目を掻い潜っている最中、北海道に潜んでいたそうですよ」
秀樹:「そうなんですか」
愛原:「ついでに、白井が滞在していたとされる場所に行ってみようかなと思いましてね。本人はもう死亡していますし、こんな一探偵が知り得たわけですから、捜査機関もとっくに知っているでしょう。なので、直接現場までは行けないと思いますがね」
秀樹:「そんな野次馬根性に、娘を付き合わされても困ります。何度も言うように、春休みも娘の事はお願いするとは思いますが、行き先は北海道以外でお願いします」
愛原:「分かりました」
このやり取りは、後で善場主任に報告しておこう。
愛原:「では後でリサに第2希望はどこか聞いておきますので、またその時に……」
秀樹:「よろしくお願いします」
話が終わったのを見計らったかのように、オパールが入って来た。
オパール:「失礼致します。お風呂の準備ができました」
秀樹:「分かった。愛原さん、先に入ってください。私はまだ残務がありますので……」
愛原:「分かりました」
私は応接間をあとにした。
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