報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「青い目の人形」 富士市内

2021-06-27 11:34:16 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[6月22日08:30.天候:晴 静岡県富士市 JR富士駅南口→身延線ホーム]

〔「ご乗車ありがとうございました。終点、富士駅南口です」〕

 バスが終点に到着する。
 ここから見えるホームは比較的遠く、多くの線路を挟んだ先にある。
 そこから見える東海道本線は、この辺りではローカル区間であり、電車もラッシュ時は5~6両編成といったところである。
 バスを降りて駅の中に入ると、一応まだ朝のラッシュ時であることが伺えた。
 始業時間が程近いのか、学生の姿はあまり無く、むしろ通勤客の方が多い。
 だが、中には学校に遅刻しそうなのか、駅構内を全力ダッシュする学生の姿も。
 とはいうものの、トーストを咥えたまま走る女子中高生の姿はさすがに無い。
 地方駅でも、朝ラッシュの光景の基本は変わらぬということだ。

 稲生:「ここまで来ても、さっきのバスみたいにSuicaが使えるのは便利です」
 マリア:「確かに」

 富士駅の改札口も自動化されており、Suicaを使って通過する。
 もっとも、この辺りはJR東海なので、エリア的にはToikaとなる(でも、地元の路線バスはPasmoを主張している)。

 稲生:「特急はさすがに乗れないよな……」

 稲生はコンコースの発車標を見て呟いた。
 先発の身延線下りは特急“ふじかわ”1号。

 マリア:「そう?」
 稲生:「あれだと西富士宮駅、止まらないので」

 急行“ふじかわ”時代は停車していた。

 マリア:「ふーん……」
 稲生:「次の電車は8時52分発か……。これでも、身延線では本数の多い区間なんですよ」
 マリア:「別にいいよ。急いでるわけじゃないし」

 

 稲生:「今のうちに田部井さんに電話しておこう」

 身延線のホームは、幾分東海道本線のホームよりは人が少ない。
 そのホームに下りると、稲生は自分のスマホを取り出した。

 マリア:「ミスター田部井もいるの?」
 稲生:「言い出しっぺは自分だからと、立ち会ってくれるみたいです。それに、いくら同じお寺の信徒さんでも、僕とはあまり面識が無い人達ですから。田部井さんという仲介人が立ち会ってくれる方がいいでしょう」
 マリア:「なるほど」

 稲生は田部井に電話した。

 稲生:「あ、もしもし、田部井さん。稲生です。今、富士駅にいまして……はい。8時52分発の電車に乗りますので、9時半頃にはそちらの御宅に到着するかと……はい。是非、よろしくお願いします」
 マリア:「ミスター田部井は迎えに来てくれないのか?」
 稲生:「フェアレディZじゃ、3人乗れないから」
 マリア:「ああ、あの赤い車……」

 信徒が乗り回す分にはまだ『功徳』だから良いが、僧侶が乗り回すと批判の的になるのだから不思議なものだ。
 尚、作者の父方の菩提寺の住職氏はハーレーダビッドソンを【お察しください】。
 さすが真言宗は景気いいなぁ!


 稲生:「ま、駅からタクシーも出ているので、それで行こう」
 マリア:「分かった。……ああ、それで現金ね」
 稲生:「そういうこと」

[同日08:52.天候:晴 身延線3533G列車先頭車内]

 

 しばらくして、折り返しの普通列車が1番線に入線してきた。
 2両編成のワンマン列車である。

 

 東海道本線を走る同じ形式の電車はオールロングシートだが、身延線のはロングシートとボックスシートが組み合わされたセミクロスシートである。
 名古屋駅付近を走る転換クロスシート車は、基本静岡支社管内にはいない。
 電車に乗り込むと、稲生とマリアはボックスシートに向かい合って座った。
 今は駅舎に隠れているが、下りの進行方向右側に乗ると、富士山側である。

〔「お待たせ致しました。8時52分発、身延線の普通列車、西富士宮行き、まもなく発車致します」〕

 ワンマン列車なので、肉声放送は運転士が行う。
 また、ホームにベルやメロディは流れない。
 車両に取り付けられた車外スピーカーから、発車メロディが流れる。
 ドア開閉時に流れるチャイムは、首都圏では京王電車のそれと音色が同じ。
 そして、電車が走り出した。
 朝ラッシュの終わり掛けであるが、車内はそんなに混んでいない。
 稲生達の座る4人用ボックスシートも、まだ相席になることはなかった。

〔お待たせ致しました。次は柚木、柚木です。柚木では、後ろの車両のドアは開きません。お降りのお客様は、前の車両にお移りください〕

 マリア:「あれから人形に、何か異常はあったかどうか聞いた?」
 稲生:「いえ、そこまでは……。ただ、もし何か異常があったら、僕に言ってくるはずですからね」
 マリア:「そう」
 稲生:「実は僕、少し気になって調べてみたんだけどね……」
 マリア:「なに?」
 稲生:「マリアがあの人形を透視してみて、アメリカのパスポートが映ったってことだけども……」
 マリア:「一瞬だけね」
 稲生:「実はそれだけで、ある人形達のことがヒットしたんだ」
 マリア:「何それ?」
 稲生:「『青い目の人形』」
 マリア:「『青い目の人形』?」
 稲生:「第2次世界大戦前、アメリカから日本に大量に送られた西洋人形のことだよ。あくまで民間レベルでの、日米親善活動の一環だったらしいんだけど……」
 マリア:「第2次世界大戦前とはいえ、結局その後のことを考えたら、その活動は失敗だったのでは?」
 稲生:「そういうことになる」
 マリア:「アメリカ政府が関わってるのなら、私の手に負えないかもしれないよ?」
 稲生:「その時は、先生にお願いすればいいよ。先生達の中には、アメリカ政府高官に何か言える人もいるでしょ?」
 マリア:「いると思うね。誰だったかなぁ……」

 イリーナとかアナスタシアはロシア政府だし、マルファはフランス、ポーリンはイギリスと……。

 稲生:「まあ、あくまでも可能性だから。人形の特徴と、アメリカのパスポートという特徴が一致しただけのね」
 マリア:「私がこれから見に行く人形以外で、そういう人形は現存している?」
 稲生:「してるしてる!何体かは今でも一般公開されてるくらいだよ」
 マリア:「ほお!」

 マリアは久しぶりに目を丸くした。

 マリア:「是非、見てみたいものだ」
 稲生:「後で検索しておくよ」
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“大魔道師の弟子” 「青い目の人形」 新富士→富士

2021-06-26 20:51:55 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[6月21日22:00.天候:曇 静岡県富士市 東横イン新富士駅南口]

 客室のテレビで映画を観る稲生とマリア。

〔「高橋、車を回してくれ。俺達は俺達で、BSAA極東支部に向かうぞ」「分かりました」 BSAA欧州本部には、あのクリス・レッドフィールド氏が向かったと聞く。BSAAの闇落ちは本部だけではないのだろうか。私達の仕事は、まだまだ続きそうだ。〕

 稲生:「ここで終わりかぁーっ!」
 マリア:「“THe Tantei Manabu Aihara”は長いシリーズになりそうだな」
 稲生:「“Android Master”はいつの間にか終わってたのにねぇ……」
 マリア:「朝も早かったし、そろそろ寝るわ」

 マリアは大きく伸びをした。

 稲生:「そう。マリアが乗り気じゃないならいいや」
 マリア:「ああ……。明日はあの人形と対面することを考えたら、体力は温存しておきたい。このミッションが終わったら……ね」
 稲生:「分かった。楽しみにしてるよ。それじゃ」
 マリア:「明日は何時にチェックアウトする?」
 稲生:「うーん……。8時にはここを出たい。バスに乗り換えて、富士宮に向かうから」
 マリア:「分かった。おやすみ」
 稲生:「お休み」

 稲生は自分の部屋のカードキーを手に取ると、部屋を出た。

 マリア:「よし」

 マリアは稲生が出て行ったのを確認してから、人形に命じた。

 マリア:「バスタブに湯を張って来て」
 ミク人形:「Yes,sir!」

 ミク人形がトテトテと歩いて、バスルームに向かう。

 マリア:「着替えを用意して」
 ハク人形:「Yes,sir!」

 ハク人形はマリアのローブの中から、替えの下着を取り出した。

 マリア:「映画を観てる最中、勇太が襲って来ないかなと思ってたけど、そんなことは無かった。紳士的で素晴らしいけど、ちょっと寂しい……」
 ハク人形:「?」
 ミク人形:「?」
 マリア:「いや、何でも無い」

[6月22日06:00.天候:晴 同ホテル客室 稲生の部屋]

 稲生は訳の分からない夢を見て目が覚めた。
 枕が変わると、往々にしてそういうことはある。
 だが、今回の場合は比較的はっきりとした夢だったが、脈絡的には何も無いものであった。
 それが以下。

 エレーナ:「おーい、稲生氏。もしかして、私のパンツ持ってってなーい?」
 稲生:「ご、ゴメン。持ってった」
 エレーナ:「やっぱりなぁ。返せよ」
 稲生:「ほ、本当にゴメン」
 エレーナ:「いいぜ。返してくれれば」
 稲生:「ちょっと使っちゃった」
 エレーナ:「ん?何か言ったか?」

 というもの。

 稲生:「エレーナ、どこから出て来たよ……」

 稲生は鳴り響くスマホのアラームを止めると起き上がった。
 そして、窓のカーテンを開く。
 今朝は昨日と打って変わって、カラッと晴れていた。

 稲生:「よしっ、今日はいい日になりそうだ!」

 稲生は急いでバスルームに入り、朝の身支度を整えた。
 そして……。

 稲生:「えーと……新富士駅がそこにあるから……東京はあっちの方だな。で、大石寺が向こうか。よし。南無妙法蓮華経、南無妙蓮華経、南無妙法蓮華経……」

 東の方を向いて、まずは題目三唱をしたのだった。

[同日07:15.天候:晴 同ホテル1F・朝食会場]

 朝の勤行を終えた稲生は、マリアを伴って朝食会場に向かった。
 ベタな法則通り、バイキング形式である。
 コロナ禍の影響から、一時期はバイキング形式を取り止めにしたそうだが、今は復活している。

 稲生:「おにぎりと玉子焼きとウィンナーと……」
 マリア:「勇太、この食事は無料なんだろう?」
 稲生:「そうです。食べ放題ですよ」

 因みにドリンクバーもある。
 人形達にあっては、ドリンクバーのジュースだけ飲んでいた。

 マリア:「多分、宿泊料金の中に入ってるんだろうな」
 稲生:「そうですね。多分、飛行機の機内食と同じですよ」
 マリア:「ああ、そうか」
 稲生:「外国ではなかなか無いでしょう?朝食代が宿泊料金の中に入ってるって」
 マリア:「師匠が泊まるような大きなホテルでは無いな。イン(Inn)みたいな所とかは、たまにそういう所も……あっ、だから規模はHotelなのに、名前はInnなのか」
 稲生:「あ、そういうこと!?」
 マリア:「ここはルームサービスやレストランが無い代わりに、宿泊者専用で朝食は出す。だけど、師匠が泊まるような大きなホテル(シティホテル)はレストランがあるから、食事はそこで別料金で取るか、あるいはルームサービスを取って食べる」
 稲生:「あー、確かに先生と一緒だと予算がいっぱいあるから、シティホテルに泊まれるんだよね」

 一応今回の旅行もプラチナカードを渡されているということは、ぶっちゃけて言えば予算が潤沢にあるということではある。
 しかし、弟子の身分であることを考えると、大っぴらに贅沢はできないのが常識だろう。
 だから稲生も、駅前にあって便利とはいえ、リーズナブルなチェーンホテルに宿泊したのだ。

 稲生:「ルームサービスがメチャクチャ高いのにはビックリした」
 マリア:「ルームサービスがあるようなホテルは、だいたいどこも高いよ」
 稲生:「凄いなぁ……」
 マリア:「それより、8時にチェックアウトするんでしょ?その後は?」
 稲生:「ああ。こことは反対側、新富士駅の富士山口の方のバス停からバスに乗るよ。8時21分発だから、ここを8時過ぎに出るとちょうどいいかなと思って」
 マリア:「なるほど。分かった」

[同日08:21.天候:晴 同市内 JR新富士駅富士山口→富士急静岡バス“ゆりかご”号車内]

 ホテルをチェックアウトして、バス乗り場に向かう。
 朝のラッシュの時間帯ではあるのだが、新幹線のみの駅だと、やはり通勤電車が走っているような駅と違う雰囲気があった。

 

 

 バスは広告がラッピングされた、中型の路線バスが来た。
 それに乗り込む。

〔「8時21分発、富士駅南口行き“ゆりかご”です」〕

 バスに乗り込むと、1番後ろの席に座った。
 富士山に面したバスプールの為か、バスの車内からでも富士山はよく見える。
 7~8人の乗客を乗せたところで、発車の時間になった。

〔「発車します。お掴まりください」〕

 バスは駅前のロータリーを発車した。

〔ピン♪ポン♪パーン♪ ご乗車ありがとうございます。このバスは、富士駅南口行きです。次は下横割、下横割でございます。お降りの際は、押釦でお知らせください〕

 稲生:「これで富士駅まで行って、それから身延線という路線に乗り換えます」
 マリア:「かなり田舎にあるんだろうね」
 稲生:「田部井さんの話だと、そうでしょうね。まあ、大石寺自体が富士宮市の郊外にありますから。その富士宮市自体も、そんなに大きな町ではないので……」
 マリア:「ミスター田部井の話だと、どうして外国製の人形がそこにあったのか、それ自体が不明だそうだ」
 稲生:「ですよねぇ。あの家に住んでいる人達、一度も海外に行ったことはないし、海外から来た人を招いたことも無いと……。そういうことってあるんですか?」
 マリア:「あまり考えられないな。それでも誰かが人為的に人形をあの家に持ち込み、そしてKuraの中に放置してそのまま忘れられたんだろう。それならあの人形も哀しむのは分かる」
 稲生:「恐ろしいことにならなければいいねぇ……」
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“大魔道師の弟子” 「青い目の人形」 東横イン新富士駅南口

2021-06-26 14:39:25 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[6月21日18:03.天候:曇 静岡県富士市 JR新富士駅→東横イン新富士駅南口]

〔♪♪(車内チャイム“いい日旅立ち・西へ”サビ)♪♪。まもなく、新富士です。新富士を出ますと、次は静岡に止まります〕
〔Ladies & Gentlemen.We will soon make a brief stop at Shin-Fuji.The stops after Shin-Fuiji,will be Shizuoka.Thank you.〕

 確かにマリアの言う通り、静岡県に入る頃には雨も止んでいた。
 雲も薄いせいか、外も幾分明るい。
 だが、まだまだ空が雲に覆われているせいか、車窓からはっきり見えるはずの富士山が、今日は顔を隠していた。

 稲生:「ここから富士山がよく見えるはずなのに……」
 マリア:「明日以降は晴れるから、それに期待するしかないね」
 稲生:「マリアといると、天気予報要らずだね」
 マリア:「一人前の魔道士は大抵、天気当てられるよ」
 稲生:「僕がいつまでも一人前とされない理由はそれかなぁ……」
 マリア:「でも、必須項目ではないはずだけど……」

 列車は速度を落とし、副線ホームに入った。

〔「当駅で5分ほど停車致します。発車は18時8分です。発車まで、しばらくお待ちください」〕

 列車がホームに停車すると、ドアチャイムが鳴ってドアが開いた。
 その音色は私鉄のものとも、同じJR東海でも在来線のものとも違う。

 

〔「ご乗車ありがとうございました。新富士、新富士です。お忘れ物、落とし物の無いよう、ご注意ください。2番線に到着の電車は、18時8分発、“こだま”743号、名古屋行きです」〕

 ホームに降りて、階段に向かって歩いていると、通過列車が轟音を立てて通過していった。

 稲生:「もう駅から見えてる。今日はあのホテルに泊まるから」
 マリア:「本当に駅近」

 階段を下りて、すぐに改札口がある。

 稲生:「ようやく一泊できると分かったら、疲れて来たなぁ……」
 マリア:「魔界じゃ、殆ど歩き通しになるんだよ。電車などの交通機関が使えるのは、アルカディアシティ内だけだよ」
 稲生:「知ってるけどさぁ……」

 駅を出て、すぐ近くにあるホテルに向かう。

 マリア:「でも、さっきまでは降ってたみたいだね。何だか湿っぽい」
 稲生:「あー、それは分かる」
 マリア:「日本の夏は湿度が高いから、不快になる」
 稲生:「熱中症になるのも、湿度のせいだからねぇ……」
 マリア:「プールはどうなの?」
 稲生:「今年もプール開きやりたいけど、結局国内にいる人達しか来ないんですよねぇ……」

 マリアの屋敷の地下にはプールがある。
 コロナ禍で日本への渡航を自粛している組が多数あり、マリアの屋敷に来るのは、結局国内にいるエレーナとリリアンヌだけであった。
 が、何故か自粛しているはずのアナスタシアなどの大魔道師達が長距離瞬間移動魔法で来ることが昨年はあったが。

 稲生:「掃除は終わったんで、あとは水を入れるだけです」
 マリア:「So good.今年も泳ぐからよろしく」
 稲生:「はいはい」

 この魔女達、泳いでいる最中に『スカイクラッド』と称して水着を脱ぎ、全裸で泳ぐことがあるので、稲生は参加できないのである。

 フロント係:「いらっしゃいませー」

 ホテルの中に入り、稲生はフロントに向かった。

 稲生:「今日から一泊で予約している稲生と言いますが……」
 フロント係:「はい、稲生様ですね」

 稲生は自分の会員証を出した。
 そして、宿泊者カードにボールペンを走らせる。
 マリアはその間、イリーナから預かったカードを取り出した。

 稲生:「支払いはカードでお願いします」

 宿泊料金をカードで払う客は多いだろうが、まさかアメリカンエキスプレスのプラチナカードはいないだろう。

 フロント係:「ありがとうございます。こちら、カードキーになります」

 因みにいくら2人が相思相愛だからといって、さすがにまだ部屋は一緒にはさせてもらえない。
 シングル2部屋分ということで、カードキーを2枚もらった。
 エレベーターで客室フロアに向かう前、部屋着のガウンを取る。

 稲生:「さて、部屋はどっち向きかな……」
 マリア:「指定しなかったの?」
 稲生:「特には。ただ、禁煙の部屋にはしたよ。あとは出たとこ任せ」

 エレベーターに乗り込んで、客室フロアに向かう。

 稲生:「夕食は食べたし、あとは明日の朝までやることはない。か……」
 マリア:「映画でも観る?」

 エレベーターホールには、VODのカードの自販機があった。

 稲生:「それはいいね。飲み物は……あっ、1階の自販機か」
 マリア:「後で買いに行こう」
 稲生:「そうしましょう」

 部屋はさすがに隣同士。
 稲生が中に入ると、チェーンホテルならではのシンプルな造りになっていた。

 

 料金プランはシングルだが、ベッドはダブルサイズのものが置かれている。

 稲生:「ダブルかぁ……。2人で寝れそうだなぁ……」

 取りあえずは荷物を置いて、バタッとベッドに仰向けに倒れ込んでみる。
 その後、起き上がって、窓のカーテンを開けてみた。

 稲生:「おっ、トレイン・ビュー」

 客室は駅の方を向いていた。
 それはつまり、富士山の方を向いているということでもある。
 防音にはなっているようだが、通過列車が通過する際には微かにそのような音が聞こえて来た。
 もちろん、鉄ヲタでもある稲生には全く不快感は無い。
 むしろ、室内にあるエアコンの風や冷蔵庫のモーター音の方が大きいくらい。
 トイレに行って用を足していると、部屋の電話機が鳴った。

 稲生:「はいはい」

 電話を取る。

 稲生:「もしもし」
 マリア:「ああ、私。準備できたから、飲み物とか買いに行く?」
 稲生:「行きましょう行きましょう」

 稲生は電話を切ると、小銭入れとスマホだけを持って部屋を出た。
 もちろん、カードキーを持って行くのも忘れない。
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“大魔道師の弟子” 「青い目の人形」 卯酉東海道……もとい、東海道新幹線

2021-06-24 21:02:38 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[6月21日16:42.天候:雨 東京都千代田区丸の内 JR東京駅→東海道新幹線743A列車1号車内]

 

〔ピン♪ポン♪パン♪ポーン♪ 新幹線をご利用頂きまして、ありがとうございます。まもなく15番線に、“ひかり”510号が到着致します。安全柵の内側まで、お下がりください。この後、16時57分発、“こだま”743号、名古屋行きとなります。車内の整備が終わるまで、お待ちください〕

 ホームに向かうと、ちょうど列車が入線するところだった。

 稲生:「何か雨、強くない?」
 マリア:「東京はね。でも、大丈夫。向こうに着く頃には止んでる」
 稲生:「そうか」

 マリアも天気くらいなら予知できるようになった。
 但し、地震予知や水晶玉占いなどの高度な予知はまだ未熟である。

〔「15番線、ご注意ください。“ひかり”510号が到着致します。折り返しは16時47分発、“こだま”743号、名古屋行きです。黄色い点字ブロックの内側を御歩きください。安全柵から離れてください」〕

 折り返し先頭車となる1号車に向かっている最中、N700Aと呼ばれる列車が入線してきた。
 一瞬見えたフロントガラスの上のワイパーブレードは規則正しく動いている。
 列車が停車するか否かの時点で、安全柵が開き出す。
 作動時のメロディは“乙女の祈り”である。

〔東京、東京。東京、東京。ご乗車、ありがとうございました〕

 ドアが開くと、ここまでの乗客がぞろぞろと降りて来た。
 “ひかり”もそれなりに乗客が多いらしい。

 清掃員:「ありがとうございましたー」

 ドア横に立っている清掃員がゴミ袋を広げて、乗客が手にしているゴミの回収をしている。

〔15番線に停車中の電車は、16時57分発、“こだま”743号、名古屋行きです。電車は前から1号車、2号車、3号車の順に、1番後ろが16号車です。グリーン車は8号車から10号車、自由席は1号車から7号車までと、13号車から16号車です。……〕

 マリア:「勇太、スマホで私を撮ってくれない?」
 稲生:「いいよ」

 マリアは車両のドアの横にある大きな行き先表示の下に立った。
 特に何かポーズを撮るわけではないが、映る時はマスクを撮って微笑を浮かべた。

 稲生:「(マリア、かわいい……)これでいい?」
 マリア:「Thanks.あとはこの画像をルーシーに送る」
 稲生:「そうか。ルーシー、新幹線が好きだもんね」
 マリア:「箱根に行った時の帰りに乗った……えー……」
 稲生:「小田急ロマンスカー」
 マリア:「そう、それ。あれも良かったみたい」
 稲生:「そうか。それは良かった」
 マリア:「今度は展望席に乗ってみたいって」
 稲生:「あれか。あれは大人気で、すぐに売り切れるんだよな。ま、機会があったら頑張ってみるよ」
 マリア:「そうしてやって。ただ、コロナ禍で飛行機飛んでないのがネックだけど……」
 稲生:「それ、魔道士のセリフかな?瞬間移動魔法……」
 マリア:「だから、High Master以上にならないと無理だって。私も試しにMiddle Masterが使える短距離移動魔法(Teleportation)に挑戦してみたけど、あまり上手くいかなかった」
 稲生:「“エスパー魔美”みたいにビーズぶつけてみる?」
 マリア:「いつの時代のマンガだよ」

 尚、長距離移動の魔法にはルゥ・ラ(Lu la)という名前が付けられているのに、何故か短距離移動魔法には名前が付いておらず、超能力の1つとしてのテレポーテーションと呼ばれている。

〔「お待たせ致しました。15番線、まもなくドアが開きます。乗車口まで、お進みください」〕

 そんなことを話していると、あっという間に清掃時間終了となった。
 ドアが開いて、2人の魔道士は新幹線車内に入った。
 進行方向右側の2人席に座った。
 乗った車両はN700A“Advance”と呼ばれるもので、車内の内装の違いと言えば、座席モケットの柄とヘッドレストの違いである。
 “Advance”ではない車両と比べると、ヘッドレストが深い。

〔ご案内致します。この電車は、“こだま”号、名古屋行きです。終点、名古屋までの各駅に止まります〕

 マリアは窓側に座ると、高速バスの時にもそうしたようにローブを脱いだ。
 因みにローブの色はダークグリーンである。
 一瞬、黒いローブに見えるが、光に当たると緑色に反射するので、ダークグリーンなのである。
 それを丸めて荷棚の上に置く。
 人形達の入ったバッグも隣に置いた。
 ローブの下はブレザーを着ておらず、長袖の白いブラウスの上にグレーのニットのベストを着ている。
 下はモスグリーンのスカートだった。
 但し、首に着けているのはリボンではなく、魔法石の付いたペンダントである。
 緑色に光ることから、宝石のエメラルドが素と思われるが……。

 稲生:「もう食べる?駅弁」
 マリア:「そうだねぇ……。まあ、食べようか。人形達も食べてるみたいだし」

 人形達が食べているのはシンカンセンスゴイカタイアイスである。
 但し、“こだま”では車内販売が無いので、駅の売店で買って来たが、駅の売店で売っているものについては、そこまで硬くない。
 2人は駅弁の蓋を開けた。

[同日16:57.天候:晴 東海道新幹線743A列車1号車内]

〔「レピーター、点灯です」〕

 発車の時間になり、ホームに発車メロディが響き渡った。
 JR東日本の新幹線ホームがベルなので、混同することはない。
 ましてや曲が、かつては300系“のぞみ”で流れていた車内チャイムなのだから。
 普通は1コーラスしか流れないが、最終列車だと2~3コーラス流れることもある。

〔15番線、“こだま”743号、名古屋行きが発車致します。ドアが閉まります。ご注意ください。お見送りのお客様は、安全柵の内側までお下がりください〕
〔「15番線、まもなく発車致します。閉まるドアに、ご注意ください。ITVよーし!乗降、終了!」〕

 けたたましい客終合図と共にドアが閉まり、安全柵の扉も閉まる。
 そして、列車は降りしきる雨の中、東京駅を出発した。

 稲生:「本当は昼の時間が長い日なのに、何だか薄暗いね」
 マリア:「雨が降るわけだ。まあ、向こうは降ってないから」

 天気は西から東へ変わる。
 列車は西に向かっているので、途中で雨雲を抜けるということだろう。

〔♪♪(車内チャイム“いい日旅立ち・西へ”イントロ)♪♪。今日も新幹線をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は、“こだま”号、名古屋行きです。終点、名古屋までの各駅に止まります。次は、品川です〕

 駅を出てしばらくは、通勤電車や中距離電車と並行して走る。
 通勤電車の方は、そろそろ夕方ラッシュの始まる頃からか、立ち客が目立つようになっていた。

 稲生:「今夜は駅前のホテルに一泊して、明日、現地に向かいます」
 マリア:「かなり念の強い人形だ。一応、写真越しに『私に話を聞かせて。私が行くまで、そこの家の人達には手を出さないで』と伝えておいたけど、果たして通じたかどうか……」
 稲生:「通じてるといいねぇ……」
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“大魔道師の弟子” 「青い目の人形」 東京駅

2021-06-23 19:59:51 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[6月21日16:18.天候:雨 東京都千代田区丸の内 東京メトロ東京駅→JR東京駅]

 東京駅で電車を降りた稲生達は、JRの方へ移動した。
 丸ノ内線からJR横須賀線・総武快速線の乗り場は至近距離にあるが、新幹線は少し歩く必要がある(が、京葉線よりはかなりマシである)。

 稲生:「この丸ノ内線、魔界のアルカディアシティで言えば、魔界高速電鉄の1号線になるんだな」
 マリア:「ああ。デビル・ピーターズ・バーグから1番街方面ね」
 稲生:「そうそう。丸ノ内線っぽいのに、何故か開業当時の銀座線の車両とかが走ってるヤツ」
 マリア:「アルカディアは大丈夫なんだろうか……」
 稲生:「ミッドガードとの戦争か……」
 マリア:「私達は『渡航禁止』の指示が出て来るからね。行こうにも行けない」
 稲生:「威吹は無事だといいけど……」
 マリア:「そう簡単には死なないだろう、あいつも」
 稲生:「まあね。今となれば、一緒に暮らしてた頃が懐かしいなぁ……」
 マリア:「『浸れる思い出があるのは素晴らしい』」
 稲生:「え?」
 マリア:「師匠の言葉さ。1000年も生きてると、浸れる思い出も無くなってくるんだって」
 稲生:「そうなの!?」
 マリア:「『200年で生きるのに飽きて来る。だから体を交換するんだ』ってね」
 稲生:「肉体の衰えのせいじゃなくて?」
 マリア:「それもあるんだろうけどね。……なあ、師匠、少し老けたと思わないか?」
 稲生:「えっ!?そ、そうかなぁ……?」
 マリア:「多分、勇太が初めて私の屋敷に来た時と比べれば、老けたと思わない?」
 稲生:「う、うーん……そう言われれば……」

 30代の女性が40歳を迎えたといった感じだろうか。
 しかし、その年代だとそんなに変わらない気がする。

 マリア:「にも関わらず、私の体は小さいままだよ。おかげさまで、school girlの服がまだ着れる」
 稲生:「いいことじゃない!僕は好きだよ」
 マリア:「称賛どうも。でも、私もそろそろ大人の服が着たいな」
 稲生:「イリーナ先生みたいな?」
 マリア:「将来的にはそうかな。アナスタシア先生のような黒いワンピースも捨てがたい」
 稲生:「それも似合いそうだねぇ……」
 マリア:「勇太は相変わらず、スーツか」
 稲生:「着慣れた服が1番だよ。もっとも、スーツの上にローブは似合わない。というか、まるで裁判官みたい」
 マリア:「コートに加工してもらうといいかもね。あ、でも、それだと夏は着れないか」
 稲生:「色々考える余地がありそうだね」

 JR東京駅に移動する。
 丸ノ内線というからには、当然東京駅は丸の内側からアクセスすることになる。
 こちらはJR東日本の管轄だが、もちろんJR東海の東海道新幹線のキップも買える。
 それも、券売機で。

 稲生:「どうせ新富士までだから、自由席でいいだろう」

 稲生は慣れた手付きで指定席券売機を操作した。
 指定席券売機と言っても、指定席も買えるという意味で、自由席が買えないわけではない。

 マリア:「カード使う?師匠から借りて来た」
 稲生:「ありがとう。……って、プラチナカード!?」
 マリア:「また別のクライアントから、報酬に新しいプラチナカードもらったらしいよ。世界全てのクレカ会社のプラチナカードをコンプリートする気だよ、あの大魔道師」
 稲生:「何だか凄いなぁ……。でも、あえてブラックカードには手を付けないんだ」
 マリア:「何故だかね。でも、プラチナカードだけでも凄いよ」
 稲生:「そうだね。うちの父さんでさえ、ゴールドカードがいい所なのに。で、このプラチナカード使っていいんだ?」
 マリア:「今月で使用期限切れるんだって。で、新しいカードを送って寄越さないから、この政治家には同時に政治生命を断たせるらしいよ」
 稲生:「怖っ!」
 マリア:「『金の切れ目が縁の切れ目』っていう諺、日本にもあるでしょ?」
 稲生:「あるけどねぇ」

 稲生はプラチナカードを差し込むと、暗証番号を打ち込んだ。
 これで新幹線のキップは購入できた。

 稲生:「はい、これ」
 マリア:「ありがとう」

 乗車券と新幹線特急券が同じ区間のせいか、それらが1枚に纏められて出て来た。
 なので、券売機からは2枚出て来たことになる。
 稲生はそのうちの1枚をマリアに渡した。
 まずはそれで、在来線の改札口に入る。

 稲生:「東海道新幹線は向こうだ」

 多くの人が行き交うコンコースを、新幹線改札口に向かって進む。
 JR東日本の改札機がコーポレートカラーの緑をモチーフにしているのに対し、東海道新幹線の改札機は新幹線の色である青をモチーフにしている(コーポレートカラーのオレンジではない)。
 そこから晴れて、東海道新幹線の乗客となるのである。
 もっとも、そこが本当にJR東海のエリアなのかどうかは分からない。
 営業エリア的にはそうでも、防災区画においては、そこはまだJR東日本の管轄かもしれないのだ。
 どうしてそんなちぐはぐなことになっているのかというと、東京駅が旧国鉄時代から存在しているからである。
 しかもそこを無理に分割した為に、そういう所にしわ寄せが来ているのである(ので、テロを起こしたければ、そういうちぐはぐエリアで起こすと良い。が、果たしてそこのテロリストのあなた、その場所が分かりますかな?
 JRになってから新幹線乗り場が造られた隣の品川駅ではそのようなことはない。

 稲生:「ちょっと早いけど、駅弁買って行く?」
 マリア:「あー、そうねぇ……。まあ、いいか」

 新幹線の改札内コンコースにも売店はある。
 そこで駅弁を物色した。

 稲生:「おっ、牛タン弁当がある。これにしよう」
 マリア:「ハンバーグか。私これ」
 稲生:「いいねぇ。じゃあ、これにしよう」

 あとはお茶をセットで買った。

 稲生:「Suicaで」
 店員:「はい、タッチお願いします」

 ピピッ♪

 店員:「ありがとうございましたー」

 駅弁とお茶の入ったビニール袋を提げながら、ホームに向かう。

 稲生:「今気づいたんだけど……」
 マリア:「なに?」
 稲生:「僕達、旅を始めてから1度しか現金を使ってない」

 その1回だけ現金を使ったのは、白馬八方バスターミナルの自動販売機だけである。

 マリア:「Ah...なるほどね」

 高速バスの途中休憩箇所でも、自販機や売店はICカードが使えたので。

 稲生:「でも、おかげで、Suicaの減りが早い早い」
 マリア:「2万円までしかチャージできないんだっけ?まあ、また無くなったらチャージすればいいよ。このプラチナカードでもチャージできる?」
 稲生:「券売機にもよるけど、できるよ」
 マリア:「それなら心配ない」
 稲生:「そうだね。(JR東海エリアで、そういう券売機がどれだけあるのか不明だけど……。まず、西富士宮駅とかは無いだろうなぁ……。それと……)でも、富士宮市内では少し現金を用意しておいた方がいいかもしれない」
 マリア:「どうして?」
 稲生:「向こうでカードの使えるタクシーは限られてるし、大石寺境内の売店(仲見世商店街)もキャッシュレスには対応していなかったはず」
 マリア:「そうなのか。でも、ATMはどうしよう?」
 稲生:「確か、新富士駅の中にある。それを使おう」

 銀行のキャッシュカードではなく、イリーナから渡されたプラチナカードで現金を引き出す作戦だ。
 この場合、クレジット会社から借り入れる形となる。

 マリア:「なるほど。そこは勇太に任せるよ」
 稲生:「任せてください!」

 ホームに上がると、稲生達は1号車に向かった。
 もちろん稲生の趣味である。
コメント
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