報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「青い目の人形」 アルピコ交通“中央高速バス”白馬線

2021-06-22 20:27:07 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[6月21日06:50.天候:雨 長野県北安曇郡白馬村 八方バスターミナル]

 屋敷から車で村中央部にあるバスターミナルまでやってきた魔道士2人。
 車と運転手役の幻魔獣は稲生が魔法を使った物で、車は最近流行りのトールワゴンタイプのタクシーに酷似していた。

 マリア:「昨日、急いでキップ買いに行ったんだ?」
 稲生:「まだ座席が空いていて良かったよ。これなら、都内まで乗り換え無しで行ける」
 マリア:「ルゥ・ラ(瞬間移動魔法)が使えるといいんだけどね」

 車を降りて、バスターミナルの中に入る。
 バスターミナルと言っても、終点のバスタ新宿のそれと比べればこぢんまりとしたもので、観光案内所を兼ねたものだった。
 他にもカフェやモンベルもあったりするが、時間が早いせいかまだ空いていない。

 稲生:「朝食はマリアの人形達に作ってもらったお弁当があるし……。あとは、飲み物でも買って行くか……」

 2人っきりの時は、階級差や先輩・後輩の垣根を無くしてタメ口になる稲生。
 マリアもそれで良いと思っている。

 係員:「お待たせしました。7時ちょうど発のバスタ新宿行きでーす!」

 ターミナルの外にバス停があり、建物の前にバスが横付けされる形になる。
 ターミナル内の待合所にいた何人かの乗客達が外に向かって行った。
 稲生達も外に出るが、その前に自販機で飲み物を購入する。

 稲生:「えーと……缶コーヒーと……。マリアは何にする?」
 マリア:「紅茶。できれば、ストレートティー」
 稲生:「紅茶ね……」

 するとマリアのバッグの中から、人形2体が顔を出した。
 どことなく初音ミクに似ていることから、ミク人形と呼ばれている。
 もう1体はどことなく弱音ハクに似ていることから、ハク人形と呼ばれている。
 普段は人間の姿でマリアの屋敷でメイドを務める人形で、前者はミカエラ、後者はクラリスと名乗っている。
 しかし、今はコミカルな西洋人形として振る舞っていた。

 ミク人形:「オレンジジュース」
 ハク人形:「アップルジュース」
 稲生:「飲むのかよ……」

 稲生は自分の分も含めて、飲み物を4本買うハメになった。

 マリア:「ありがとう」
 稲生:「じゃあ、バスに乗ろう」

 乗車券を手に、バスの乗車口に向かう。

 運転手:「はい、おはようございます。えー、稲生様……9のBですね。マリアンナ様、9のAです」
 稲生:「よろしくお願いします」

 バスに乗り込み、後ろの席に向かう。
 新型コロナ対策の為か、運転席の横には透明のシートが設置されていた。
 あとは消毒液とか。
 長距離バスということもあってか、4列シートながら、シートピッチは比較的広めである。
 フットレストも付いている。

 稲生:「よいしょ」

 手荷物は荷棚の上に乗せる。
 マリアの人形達もそこに乗せるのだが、大抵は勝手に鞄の中から出て来て……。

 ミク人形:「カンパーイ!」
 ハク人形:「カンパーイ!」

 荷棚の上で勝手に寛ぐのである。
 それはバスだけでなく、電車も同じ。

 稲生:「向こうに着くのはお昼頃だよ」
 マリア:「じゃあ、ランチは東京だね」
 稲生:「藤谷班長とは久しぶりに会うから、もしかしたら何か御馳走してくれるかもしれない」
 マリア:「そりゃいい」
 稲生:「コロナ禍で殆ど外に出られなかったからね。村の外に出ることさえできなかった」
 マリア:「それが、こうして緊急事態宣言が解除されて出られるようになったというわけだ」
 稲生:「でも、そんなのは表向きでしょ?」
 マリア:「表向き、建前、忖度……」

 しばらくして、バスが走り出した。
 白馬村村内だけでなく、大町市内などの周辺自治体のバス停にも停車して行って、客を拾い集める方式だ。

 稲生:「ま、今はお弁当食べよう」
 マリア:「うん。ミカエラの作ったサンドイッチは美味しい」

 マリアは荷棚でオレンジジュースを飲んでいるミク人形を見上げて言った。
 とても、あの人形が作ったとは思えない。

 稲生:「今度はネギは入ってないだろうね」
 マリア:「さすがに長ネギは入ってない。ちゃんとしたBLTサンドだ」
 稲生:「それならいいけど……」

 前の方を見ると、フロントガラスの上を大きなワイパーブレードが規則正しい動きで雨粒を削ぎ落しているのが見えた。

 稲生:「あいにくの雨だねぇ……」
 マリア:「日本では雨期に入ったんだろう?Tuyuと言ったか?」
 稲生:「梅雨ですね」
 マリア:「向こうでの予定は?」
 稲生:「池袋駅で藤谷班長と待ち合わせだね。多分、その足でまずは昼食で、その後で正証寺に行く。そこで例の人形の詳しい話を聞く、といった感じかな」
 マリア:「なるほど。でも今日中に、大石寺に向かうわけじゃないだろう?」
 稲生:「向かうわけじゃないけど、でも途中までは行くよ」
 マリア:「途中まで?」
 稲生:「一応、富士市内で一泊しようと思う」
 マリア:「それなら、わざわざ東京まで出る必要は無いのでは?」
 稲生:「いや、それが一応あって……」
 マリア:「?」
 稲生:「せっかくだから、大石寺に添書登山させて頂こうと思う」
 マリア:「ああ、そうか……。大石寺の近くだって言ったな……」
 稲生:「そう。添書を受ける為には、所属寺院に行って申し込み手続きをしないといけない。その為にも、正証寺へ行く必要があるんだ」
 マリア:「分かった。そういうことなら」
 稲生:「この辺りは、マリアを付き合わせてしまってゴメン」
 マリア:「いや、いいよ。ずっとここ最近、屋敷の中に籠りっ放しだったし。外へ出る口実ができて良かったよ」

 それまではコロナ禍を理由に、稲生の実家への帰省もできなかったし、正証寺への参詣も、大石寺への登山もできなかった。
 今回やっと屋敷の外(というか村の外)に出ることを許されたのは、偏に今回の件が魔法絡みであることの現れであると言える。

 マリア:「勇太の実家には行かないの?」
 稲生:「今回はそれが目的じゃないし、まあ、行けたら行く……かな」
 マリア:「日本語だとそれ、結局行かないことの遠回しな表現だって聞いたよ」

 尚、途中で藤谷から連絡があり、昼食は藤谷が御馳走してくれることになった。
コメント
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