報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「ホテル天長園」 6

2021-06-06 20:16:49 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[5月2日16:30.天候:晴 栃木県那須塩原市 ホテル天長園]

 愛原:「すいません、ホテル天長園の前で降ろしてもらえますか?」
 運転手:「はい、ホテル天長園ですね」

 これはタクシー車内での会話ではない。
 私達が乗った路線バスは、郊外区域ではフリー乗降制となり、バス停以外の場所でも乗り降りできるのだ。
 さすがにホテルの敷地内までは入ってもらえないところがタクシーとの違いだが、それでも便利である。

 運転手:「こちらでよろしいですか?」
 愛原:「ありがとう。大人4名で」
 運転手:「はい」

 引率者である私が全員分の運賃をまとめて払う。

 運転手:「ありがとうございました」

 高橋と絵恋さんがしれっと降りる中、リサだけが上機嫌の笑顔で運転手にペコリと御辞儀しながら降りた。

 愛原:「さすがにBSAA、引き上げたかな?」
 高橋:「出掛ける前と比べると静かになりましたね」

 バスが走り去ってからホテルの敷地内に入る。
 駐車場に入っても、関係者の車しか駐車していなかった。
 今日も宿泊客は私達だけなのだろうか。

 フロント係:「お帰りなさいませ」

 建物の中に入り、フロントに立ち寄る。
 フロントに預けていた部屋の鍵をもらう為だ。

 フロント係:「実は先ほど、こちらに善場様がお見えになりました」
 愛原:「善場主任が来たの!?」
 フロント係:「はい」
 愛原:「それで、善場主任は?」
 フロント係:「先ほど御退出されました」

 ということは、私には用は無かったということか。

 愛原:「BSAAは?」
 フロント係:「こちらも先ほど……」
 愛原:「そうか……。白井伝三郎を捕まえて帰って行きましたか?」
 フロント係:「申し訳ございませんが、そこまでは……」
 愛原:「そうか。善場主任は誰と話していた?」
 フロント係:「うちの女将と、BSAAの責任者の方です」
 愛原:「女将さんね……。後で女将さんとお話しできる?」
 フロント係:「かしこまりました。伝えておきます」
 愛原:「悪いね」

 私はカードキーを受け取ると、1枚をリサに渡した。
 そして、エレベーターに乗り込む。

 高橋:「善場の姉ちゃんが来てたんですか?」
 愛原:「そのようだな。まあ、目的はBSAAの様子見と白井の動向確認だろう。たから、俺達には特に用は無かったみたいだ」
 高橋:「BSAAは白井をパクれたんでしょうか?」
 愛原:「どうだろうなぁ。俺的はまた逃げられたような気がする。もし拘束できたのなら、善場主任が教えてくれそうなもんだろ」
 高橋:「あ、そうか……」

 7階に着いて、自分達の部屋に入る。
 部屋は清掃されていた。

 高橋:「先生、どうします?早速、風呂入りますか?」
 愛原:「そうだな。ようやく夕方の露天風呂に入れそうだ」

 もちろん浴衣もタオルも洗濯済みの物に交換されている。
 リサと絵恋さんは浴衣を持って、襖を挟んだ隣の間へ向かった。

 高橋:「先生が気になっているのは、姉ちゃんが女将と話をしたことですか?」
 愛原:「そうだ。ちょっと気になるところだ。それに……『上野暢子』について、どれだけ知ってるか、今日教えてくれることになっている」

 私的には何らかの血縁があると思っている。
 絵恋さんはあえて触れなかったが、リサと凛さんの顔立ちがやや似ているのは偶然とは思えない。
 浴衣に着替えると、今度は大浴場に向かった。

 愛原:「どうやら今夜も、宿泊客は俺達だけみたいだな」

 大浴場の脱衣場に行って、私は言った。

 高橋:「もしかしたら、本当は休業中だったんじゃないスかね?」
 愛原:「有り得るな」

 で、私が1番気になっているのは斉藤社長である。
 このホテルを予約したのは絶対に偶然ではないはずだ。
 怒られるかもしれないが、この旅行が終わり、報告書を提出する際に聞いてみることにしよう。
 因みに温泉は天然のもので、無色透明である。
 アルカリ性単純泉とのことだ。
 硫黄の臭いがグッと効いた温泉と比べればシンプルなものだが、それがいいという人もいるだろう。
 何せ硫黄成分が強いと、アレルギー反応を起こす人がいるくらいだ(作者の弟は鳴子温泉に行った際、硫黄成分にやられて湿疹などの症状を引き起こした)。

 愛原:「ま、ホテルの温泉貸し切りなんて、こういうことは滅多に無いぞ。今のうちに堪能しておこうや」
 高橋:「そうですね。……先生、思いっ切り嫌な予感がするんですが……」
 愛原:「何だ?まさかこの状態でクリーチャーが襲ってくるなんて言うなよ?」
 高橋:「まあ、その……ある意味では、そのまさかと言いますか……」
 愛原:「はあ?」
 高橋:「直接俺達には関係無いと言いますか……」
 愛原:「何が言いたいんだ?」
 高橋:「隣の女湯も貸切状態じゃないっスか」
 愛原:「まあ、そうだろうな」
 高橋:「レズガキが2人っきりの時、何をするか大体想像つきません?」
 愛原:「あー……。でも、それを言うなら俺達もじゃね?」

 高橋はLGBTのGを自称していたが、実際はBであるようである。
 で、そんなGだのBだのから見ても、Lは【ぴー】とのこと。

 高橋:「先生がお望みでしたら、そのように致しますが!?」

 高橋は鼻息を荒くしてきた。

 愛原:「変な事したらクビ!」
 高橋:「ええーっ?!」

 高橋が落胆した。

 愛原:「まあとにかく、さっさと背中流してくれや。やってくれるんだろ?」
 高橋:「は、はい!もちろんです!」

 内湯の洗い場にいる時は気づかなかったが、露天風呂に出ると、すぐ近くに女湯の露天風呂があるのか、少女2人のフザける声が聞こえて来た。
 そのうち、明らかに絵恋さんの声が、リサを『性的に襲う』声であったことを特記しておく。
 リサのことだから黙って襲われることはなく、むしろ返り討ちにするだろうが、何というか……メンド臭いね。

 愛原:「それにしても、何で絵恋さんはLGBTのLなのやら……」
 高橋:「さァ……?生まれつきなんじゃないスか?」

 高橋は面倒臭そうに答えた。

 愛原:「お前のBもか?」
 高橋:「俺は……まあ、その……男だらけの鑑別所やら少年院やら少年刑務所やら行ってたもんで」
 愛原:「それ、理由になんのか?」

 私はこれ以上聞くのをやめた。
 何にせよ、ノーマルの私が聞いて理解できるシロモノではないことは分かった。
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“愛原リサの日常” 「水面下のエージェント」

2021-06-06 15:59:34 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[5月2日11:00.天候:晴 栃木県那須塩原市 ホテル天長園]

 県道369号線板室街道を走る1台の黒塗りアルファード。

 部下A:「主任、ホテル入口が封鎖されています」
 善場:「まだBSAAがいるのね。とんだ営業妨害だわ」
 部下B:「この様子ですと、白井確保には失敗したようですね」
 善場:「欧州本部のことといい、最近のBSAAはちょっとおかしいね」

 駐車場に入ろうとすると、自衛隊や米軍とは違う軍服を着た隊員が駆け寄って来る。
 運転席にいる部下Aは窓を開けると、自分の身分証を見せた。
 世を忍ぶ仮の姿であるNPO法人ではなく、本当の日本政府特務機関の身分証である。

 部下A:「日本政府特務機関【検閲により削除】の者です。特別調査で参りました」
 BSAA隊員:「……はっ!」

 バリケードを開ける隊員。
 車はスーッと入って行く。
 そして、車は適当に駐車場に止まった。

 善場:「それじゃ、いつもの通り……」
 部下A:「ははっ」

 善場と部下Bは車を降り、運転席にいる部下Aはそのまま車内で待機する。
 善場も含めて全員が黒スーツだ。
 但し、男性の部下達は2人ともサングラスを掛けている。

 善場:「後で、あなた達の指揮官とも話がしたいです。お時間の方、よろしくお願いします」

 善場はエントランス入口前で歩哨警戒に当たっているBSAA隊員に言った。
 今頃、隊内の無線が飛び交っているだろう。
 日本政府のエージェント達がやってきたと。

 善場:「私は日本政府から来た者です」

 善場達はフロントに行くと、フロント係に身分証を見せて言った。
 因みにこの身分証、縦に2つ折りの黒い手帳になっている所は警察手帳に似ている。

 善場:「まず、ここの支配人の方はいらっしゃいますか?」
 フロント係:「申し訳ありません。今は不在にしておりまして……」
 善場:「そうですか。それでは、『聖堂』の管理者……」
 フロント係:「聖ヨハンも不在でございます」
 善場:「ほお……。聖堂の管理者は聖ヨハンと仰いますか」
 フロント係:「御存知無く来られたのですか?」
 善場:「いえ、私は白井伝三郎と伺って参ったのですが?」
 フロント係:「そ、それは……」
 部下B:「正直に言わないと、犯人隠避の疑いで、あなたを拘束させて頂くことになりますよ?」

 大柄な体格の部下Bがズイッと前に出て、フロント係に圧を掛ける。

 フロント係:「そ、それは……!」
 女将:「お待ちください。どうか、私とお話しさせてください」

 そこへ女将と凛がやってくる。
 どちらも着物姿だった。

 善場:「あなたは?」
 女将:「私は、このホテルで女将を務めさせて頂いております上野と申します。こちらは娘の凛です」

 すると部下B、善場に耳打ち。

 部下B:「主任、あれはBOWです。上手い事、人間に化けていますが……」
 善場:「そのようね。白井の行方について、教えて頂けますか?」
 女将:「白井はここにはいません。昨夜、うちの娘と『夕方のお勤め』をした後、逃亡しました」
 善場:「またBSAAは出し抜かれたようね。ここに愛原所長方が宿泊しているはずですけど?」
 女将:「はい。今は那須ハイランドパークに行かれておりますかと……」
 善場:「愛原所長方が戻って来るまで、少しお話しよろしいですか?」
 女将:「はい。こちらへどうぞ」

 善場はロビーのソファに座った。
 部下Bだけはその斜め後ろに立っている。

 善場:「白井はヴェルトロの関係者ではなく、天長会の関係者なのですね?」
 女将:「はい。昔から信仰者だったようです。ヴェルトロについては分かりません。ただ、天長会がヨーロッパへ進出を果たした時、何らかの接触があったとは聞いています」
 善場:「その接触した中に、白井はいましたか?」
 女将:「それも分かりません」
 善場:「もう1つ。あなたは上野暢子さんを御存知ですね?」
 女将:「……行き別れた私の姉です」
 凛:「お母さん……!やっぱりあの人は、私の伯母さん!」
 女将:「生きていてくれたのですね……!」
 凛:「で、でも、その割には歳が合わないけど……」
 善場:「Gウィルスの融合次第で、加齢が極端に遅くなるという結果が出ています。『最も危険な12人の巫女たち』がそれに当たります」
 凛:「あの人は『2番』って言ってた!だからそのうちの1人なんだ!」
 善場:「言っておきますが、『2番』以外はもうこの世にいません。『最も危険』過ぎましたので、愛原所長共々、BSAAや私共で掃討しました」
 女将:「姉を御見逃し下さり、ありがとうございます……」
 善場:「今のところ『2番』は、捕食した証拠が無いので。本人も記憶に無いと言ってますし」
 凛:「あの……!母も食い殺してなんかいませんからね!?私もです!」
 善場:「ええ。もう調査済みですよ。もっとも、『何人かの怪我人』は出されたみたいですけど……」
 女将:「申し開きのしようがございません……」
 善場:「ただ、せっかくの姉妹再会ですが、今しばらくは騒がないで頂きたいのです。『2番』はあの通り、肉体年齢はそちらの娘さんと殆ど変わっておりませんし、本名の記憶も殆ど無いのです。今は愛原所長の保護下で生活しておりますので、『愛原リサ』という名前で通っています。今後もそのように呼んであげてください」
 女将:「かしこまりました」
 善場:「それではお2人に過去、何があったのかを教えて頂きたいのですが、よろしいですか?」
 女将:「……かしこまりました」

[同日16:00.天候:晴 同市内 那須ハイランドパーク・バス停→関東自動車バス車内]

 リサ:「あーあ……。もう少しいたかったな……」
 絵恋:「楽しい時間は、あっという間ね」
 愛原:「全くだな。だけど、申し訳ない。このバスに乗り遅れると、もうバスが無いんだ」
 高橋:「しょうがないっスね」

 愛原達は帰りのバスに乗り込んだ。
 何故か往路より少し客が多かった。
 もっとも、7~8人といったところだが。
 今度は1番後ろの席ではなく、後ろ扉付近の2人席に2人ずつ座る。
 愛原達が最後の乗客だったようで、エンジンが掛かると、すぐに出発した。

〔毎度ご乗車くださいまして、ありがとうございます。このバスは板室温泉、黒磯駅前経由、那須塩原駅西口行きのワンマンバスでございます。【中略】次は遅山橋、遅山橋でございます〕

 愛原:「帰ったら、また一っ風呂浴びて、それから夕食だな」
 高橋:「はい」
 リサ:「おー!またすき焼出る!?」
 愛原:「いや、さすがに2日連続は無いだろ。でも、何らかの肉料理は出て来るだろうな」
 リサ:「おー!」
 高橋:「昼飯もガッツリ食ったくせによ……」

 高橋は呆れていた。

 愛原:「ま、何はともあれ、晴れていて良かった」
 高橋:「それはそうっスね」

 ホテルではまだBSAAが物々しい雰囲気で警戒に当たり、善場が重要な話をしていたのを知らずに気楽に過ごす愛原達であった。
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