報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「ワンスターホテルに向かう途中で」

2020-04-27 20:34:52 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月25日15:00.天候:晴 東京都北区王子 JR王子駅→京浜東北線1443B電車10号車内]

 再びタクシーに乗って王子駅まで戻った。
 王子駅前も狭いので、一般車の送迎は南口の方が良い。
 しかし稲生達はタクシーなので、堂々と北口で降りられる……か、どうかは分からない。
 煽り運転の代名詞、都営バスにクラクション鳴らされたw

 稲生宗一郎:「それじゃ勇太、気をつけて。先生方もありがとうございました」
 稲生勇太:「うん。それじゃ」
 イリーナ:「いえいえ。この前は巻き込んでしまいまして、申し訳ありませんでした」
 マリア:「うちの毒親は絶対シャバに出させませんから」
 宗一郎:「まあまあ、そう言わずに。もし出所してくるようであれば、一度お会いしてみたいですな」

 どうやら宗一郎、マリアの母親アレクサは、あの事件で逮捕され、収監されたものと思っているらしい。
 あながち嘘ではないのだが、逮捕したのは司法警察ではなく、ダンテ・アリギエーリ。
 収監先も拘置所や刑務所ではない。

 マリア:「それが、できれば。(ママは差別主義者だから、多分、面と向かって挨拶しても【お察しください】)
 勇太:「そろそろ行きましょうか」
 イリーナ:「そうね」

 勇太の両親は再びタクシーに乗り、仮住まいの家に帰って行った。
 勇太達はまた駅構内に入る。

〔まもなく2番線に、快速、磯子行きが参ります。危ないですから、黄色い点字ブロックまで、お下がりください〕

 パァァンと電子警笛を鳴らしながら電車が入線してきた。

〔おうじ、王子。ご乗車、ありがとうございます〕

 ホームドアと電車のドアが開く。
 やはり乗客は少なくて、稲生達はブルーの座席に座った。

〔2番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車をご利用ください〕

 かつては東北本線の汽車も停車した王子駅。
 しかし、今は汽車が走った列車線とは分離され、電車線の一中間駅として機能している。
 それでも本線であることに変わりは無い。
 そんな線路は起伏に富んでいて、電車もそんなに高速では走らない。

〔次は上中里、上中里。お出口は、右側です〕
〔The next station is Kami-Nakazato.JK35.The doors on the right side will open.〕

 イリーナ:「どこで降りるの?」
 稲生:「御徒町にしましょう。休日ダイヤは京浜東北線の快速も御徒町には停車するので、そこから都営大江戸線に乗り換えができます」
 イリーナ:「さすが勇太君ね。路線図も見ずに検索できる」
 稲生:「学生時代、こっちの電車にはよく世話になりましたから。冥界鉄道公社が勝手に乗り入れてきたせいで、ダイヤをメチャクチャにされたこともありましたし」
 イリーナ:「ああ。そんなこともあったわねぇ……」
 稲生:「埼京線では久しぶりに205系に乗ったと思ったら冥鉄の幽霊電車だったし。あの探偵さんと芸能事務所の社長さん、どうしてるだろう?」
 イリーナ:「さ、さあ?コロナウィルスで色々と大変なことになってるんじゃない?感染まではしていないと思うけどォ……」

 あえて占わないイリーナであった。

[同日15:14.天候:晴 東京都台東区上野 JR御徒町駅→ジュエリータウンおかちまち]

〔おかちまち~、御徒町~。ご乗車、ありがとうございます。次は、秋葉原に止まります〕

 稲生達を乗せた電車が御徒町駅に到着する。

 稲生:「それじゃ、都営大江戸線に乗り換えましょう」

 電車を降りて改札口に向かう。
 1番後ろの車両に乗っていたので、必然的に北口から出ることになる。
 JR御徒町駅から昭和通り(国道4号線)に向かって、宝石商が立ち並び、まるでそれの商店街のような感じになっている。
 稲生には全く縁の無い所かと思いきや……。

 イリーナ:「ねぇ、あそこ。あそこから魔力の気配がするわよ?」

 イリーナが都営地下鉄大江戸線の上野御徒町駅の先を指さした。
 イリーナに言われなければ、稲生達はそこへ行こうとはせず、地下鉄への階段を下りていたところだろう。

 イリーナ:「マリアは感じない?」
 マリア:「……言われてみれば、邪悪な魔力の気配を感じます」
 稲生:「ええっ!?ま、まさか、“魔の者”の眷属!?」
 イリーナ:「いえ、魔道士の気配ね、これは。東アジア魔道団かしら?」
 マリア:「中国でウィルスばら撒いただけでは飽き足らず、日本でも何かしようってのか」
 稲生:「日本でも随分ウィルスばら撒かれましたけどね。……って、マリアさんは真相知ってるの!?」
 マリア:「私に限らず、魔道士全員知っている」
 イリーナ:「ゴメンねぇ。情報の対象がマスター(一人前)以上なもんでぇ……」
 稲生:「早くマスターになれるよう頑張ります!」

 インターン(見習い)の稲生。
 それぞれ魔法の杖を手に、魔力の気配のする方へ向かう。
 それは1つの寂れた宝石店からであった。

 エレーナ:「何だぜっ!いつになったら入荷するんたぜっ!?」
 店長:「ですから、コロナウィルスのせいで国際便が軒並み運休……」
 エレーナ:「Amazonマーケットプレイスの出品者みたいなこと言ってんじゃねーぜ!?フザけてると、この店潰すぜ、あぁっ!?」

 ボコッ!(マリア、魔法の杖でエレーナの後ろからど突く)

 エレーナ:「いでっ!?何すんだぜ、コラ!?……って、あーっ!?」
 マリア:「オマエこそ何やってんだ?」
 エレーナ:「うるさいぜ!ここで私とエンカウントするとはいい度胸だぜっ、あぁ!?オマエのマテリア、私が頂くぜ!」
 稲生:「魔法石をFF7みたいな言い方するんじゃない。作者がスクエニに怒られる」
 イリーナ:「それじゃ私が、チート魔法見せてあげようかしら?エレーナちゃん?」
 エレーナ:「じょ、冗談っスよ!たかがローマスター(Low Master 魔道士だが、導師ではない)の私が、グランドマスター(Grand Master 大魔道師。弟子持ちの導師)に楯突くわけないじゃないっスか!」
 イリーナ:「分かればよろしい。ここで何をしていたの?」
 エレーナ:「今月に入ってから、新しい魔法石が入ったって言うんで注文してたんです。そしたら、入荷待ちだとか言いやがりまして……」
 稲生:「ちょっと待って。ここ、宝石店でしょ?ここで魔法石なんて手に入るの?」
 エレーナ:「ああ。御徒町や秋葉原には、裏でそういうの売ってる店あるんだぜ。で、いつまで経っても入荷の連絡が来ねぇと来た。『どうなってやがるんだ、クォラッ!』ってなるのが普通だろ?あぁ?」
 稲生:「なるほど。で、店長の言い分は?」
 店長:「本来でしたら、15日前後に届くはずなんです。ですが、この新型コロナウィルスのせいで、航空便も船便も軒並み運休になってしまって、商品が入って来ないんです」
 稲生:「運休してるの、旅客便だけじゃないんだぁ」
 エレーナ:「こっちは先に金払ってるんだぜ?届かねぇんだったら、金返せだぜ?!」
 店長:「いえ。先方からは間違いなく発送したとの連絡は入っています。だから、いつか必ず届くはずなんです」
 エレーナ:「やっぱこの店潰すか、あぁ?」
 イリーナ:「やめときなさい。この騒ぎの中、ホイホイ注文するあなたもあなたでしょう?」
 エレーナ:「いや、そりゃそうですけど……」
 稲生:「気の短い魔道士さんと売買契約してしまった店長さんもかわいそうだと思います。せめて、入荷の目途が立ったらすぐに連絡するということでどうですか?」
 店長:「はい、それはもう!」
 エレーナ:「稲生氏!勝手に話を進めるんじゃねーぜ、あぁ!?」
 イリーナ:「はいはい。これ以上もめると教会関係者に嗅ぎ付けられるからね、さっさと出ましょう」
 マリア:「だいたい魔法石って、人間界で買う物じゃないだろうが……」

 そんなことを話しながら店の外に出る。

 エレーナ:「じゃあ、オマエは人間界で必要になった時、どうやって手に入れるんだぜ?」
 マリア:「……モンスター倒して、ドロップアイテムとして手に入れる?」
 エレーナ:「それは魔界の話だぜ!」
 稲生:「まあまあ。それより僕達、これからワンスターホテルに行く所なんだ。エレーナはどうする?」
 エレーナ:「ん?あ、もうそんな時間か。私も買い物終わったから、そろそろ帰るとするぜ」
 マリア:「師匠。私達、買い物はどうしますか?ワンスターホテルの周り、デパートとか無いですよ?」
 イリーナ:「こっちの商店街の方が開いてる店はあるのね。ちょっと探してみましょうか」
 エレーナ:「私は向こうのカフェで休んでるんで、終わったら声掛けてください」
 稲生:「ああ、分かった」
 マリア:(先に帰らないのか、アイツ)

 エレーナが行ってしまうと、件の宝石店から店長が出てきた。

 店長:「先ほどはありがとうございます」
 イリーナ:「もう少し、お客は選んだ方がよろしいですわね」
 店長:「いえ、あれでもあの方はお得意さんなんです。機嫌を損ねさえしなければ、なかなかの上客でして……。あ、良かったらこれ、御礼です」

 店長からもらったのは魔法石だった。

 イリーナ:「これは『自動通訳』の魔法石ね。自動通訳魔法具に使うヤツ。これも消耗品だから、補充用として持っておくといいかもね」
 稲生:「こういう所で手に入れるんですね」
 マリア:「良かったな、勇太。これで1つ、『クエスト』達成だ」
 稲生:「あ、これ、『クエスト』だったんですか!?」
 イリーナ:「ちゃんと採点しておくからね」

 期せずして『クエスト』を達成した稲生であった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“大魔道師の弟子” 「仮住まいの実家」

2020-04-27 10:46:22 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月25日12:03.天候:晴 東京都北区王子 JR王子駅→稲生家(仮住まい)]

〔おうじ、王子。ご乗車、ありがとうございます〕

 田端駅まで快速運転していた電車も、そこから先は各駅停車となる。
 幕式表示だった頃の209系なら、行き先表示の種別部分を各駅停車にするだけでクルクルと幕が回っていたのであるが、フルカラーLEDとなった現在の車両はパッと変わるだけである。
 電車のドアが開くと、ホームに降り立つ魔道士達。
 やはりここも乗客は少ない。

 稲生:「家はこっちです」

 王子駅の北口改札を出ると、明治通り沿いに歩を進める。
 王子駅前公園に差し掛かると……。

 顕正会婦人部員:「冨士大石寺顕正会でーす!顕正新聞、無料配布してまーす!」
 稲生:「うわ、ここにもいた……!」

 見たところ、ざっと3人くらいはいる。
 公園やバス停に並ぶ人々に声を掛けている。

 ケンショーグリーン:「クフフフフ……。そこの白人の御嬢様方、顕正会の欧州弘通にご協力を。クフフフフ……」

 ジャキッ!(マリア、殺気を漲らせて魔法の杖を横田の首に突きつける)

 マリア:「あ?何に協力しろって?あ?」
 ケンショーグリーン:「嗚呼ッ!こ、ここ、これはダンテ一門の皆様……!そ、そそ、その……何ですね。今日は、いい天気で……!」
 稲生:「仮にも魔界共和党総務理事さんが、ここで何をしているの?」
 ケンショーグリーン:「クフフフフ。稲生さん、いい質問です。確かに私は、向こうの世界ではかような肩書を預かっております。ですが、ここでは顕正会男子部員として活動しているのです」
 稲生:「今さら?」
 ケンショーグリーン:「そう、今さら……って、大きなお世話です!」
 稲生:「信心に目覚めたのなら、宗門に……あ、いや……」

 こんなセクハラ野郎、宗門に来られても迷惑だと口を閉じた稲生だった。

 ケンショーグリーン:「さあ稲生さん!阿部日顕が死んだ今、顕正会に戻るチャンスですよ!?」
 稲生:「顕正会で不幸になったヤツに言うかなぁ、そのセリフ!?」
 ケンショーグリーン:「私は幸せです。コホン。では、ここで私の体験発表を1つ。先ほども若い女性とお知り合いになれました。これは男子部員としての功徳であります!」
 稲生:「はあ……。僕が現役だった頃と比べて、だいぶ白髪がお増えになったのに、随分とお盛んなことで」
 イリーナ:「魔界共和党の時は白髪染めしてるのよね」
 稲生:「あっ、そういえばそうだ!」
 ケンショーグリーン:「続きを聞いてください。その若い女性というのは、10代のお美しい……嗚呼、お美しい……」

 すると、駅とは反対方向から30代の女性と10代後半の女性が血相を変えて走って来た。

 顕正会女子部員:「班長、あいつです!女子トイレで私に付きまとって来たの!」
 顕正会女子部班長:「ちょっと待ちなさい!どこの組織の人ですか!?本部に言いますよ!」
 ケンショーグリーン:「それでは皆さん、また後で!!」

 ピューッと脱兎の如く逃げ去ったグリーンであった。

 イリーナ:「マリア、どうする?またボコす?」
 マリア:「いや、それはあの女達に任せます。何だか疲れた……」
 稲生:「早く家に行って、昼食にしましょう。こっちです。帰りはこのルートを通らない方がいいですね」
 マリア:「全くだ」

 こうして3人は、稲生家のマンションに到着した。
 タワーマンションではない。
 どういう経緯で宗一郎の友人が購入したのかは不明だが、一応は住む目的のようであったようだ。

 稲生勇太:「駅前の公園に顕正会員達がいて大変だったよ」
 稲生佳子:「何かトラブルに巻き込まれた?」
 イリーナ:「うちのマリアが危うく某理事をボコボコにするところでしたわ~」
 マリア:「師匠っ!」
 佳子:「ええ?」
 マリア:「何でもありません!」
 稲生宗一郎:「先生、昼間から何ですが、よろしかったらワインでもどうですか?」
 イリーナ:「あらぁ~?さすが気が利きますわねぇ」
 マリア:「また飲む気ですか!」
 宗一郎:「また?」
 マリア:「さっきも新幹線で……フガッ!?」

 マリア、イリーナに口を封じられる。

 イリーナ:「このコにも一杯頂けないでしょうか?」
 宗一郎:「もちろんですよ」
 マリア:「フガガ、モガ!(私を巻き込まないでください!)」

 昼食会なので、そんなに豪勢な料理が沢山出てくるわけではない。

 勇太:「いっそのこと、都内に住んじゃったら?」
 宗一郎:「元は埼玉支社長だったからな。今でも時々埼玉支社に行く必要があるので、家は埼玉県にあった方が良い。それに、今再建中の家も少し都内に近い所になった」
 勇太:「川口市か」
 宗一郎:「昼食会が終わったら、タクシーを呼ぶので、それで向かいましょう」

[同日14:00.天候:晴 埼玉県川口市某所 稲生家再建地]

 昼食を終えた稲生達はタクシーに乗り、再建中の工事現場に向かった。
 5人いるので普通のタクシーには乗れない為、大型のタクシーを注文した。

 宗一郎:「ちょっとここで待っててもらえる?」
 運転手:「はい、分かりました」

 通りの狭い一方通行の道沿いにある為、タクシーは近くに止めさせる。

 宗一郎:「ここですね」

 土曜日である為、工事は行われている。

 イリーナ:「これはまた立派なお家が建ちそうですね。規模は前の家と同じくらいで?」
 宗一郎:「そのつもりで注文しました。あと2ヶ月で、出来上がります」

 注文住宅だと、どうしても完成するのに時間は掛かる。
 ましてや稲生家のように大規模なものだと……。

 宗一郎:「今度の家は3階建てでしてね。どうしても、平地面積が前の家と同じように確保できなかったので……」
 勇太:「あ、本当だ。奥行きが……うん、前と半分くらいしかない」
 マリア:「3階建てなら、うちの屋敷と同じだ」
 稲生:「マリアさん、規模が違います」
 マリア:「ん?」
 宗一郎:「普段使わない勇太の部屋は3階な。客間は1階の奥に造る」
 勇太:「前の家と大して変わんないじゃん。僕の部屋が3階になったくらいで」
 マリア:「ダディ。その……勇太の部屋の近くには、シャワールームがありますか?」
 宗一郎:「その予定です。家の1階にはもちろん風呂がありますが、3階にも一応シャワーだけ作っておきます」
 勇太:「水圧確保が大変そう」
 宗一郎:「だから普段は電源を切っておいて、勇太達が来る頃に電源を入れておけば大丈夫」
 勇太:「それだけのポンプ!?」
 イリーナ:「完成したら、新築祝いを持ってお伺いしますわね」
 宗一郎:「ありがとうございます。その頃までには、コロナウィルスが収束してくれるといいのですが……」
 イリーナ:「希望を持つことは、けして悪いことではありません」

 イリーナはそれだけ言った。
 恐らく、イリーナの占いでは……。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“大魔道師の弟子” 「東京入り」

2020-04-26 19:36:51 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月25日11:30.天候:晴 東京都台東区上野 JR上野駅・新幹線乗り場]

 稲生の両親が仮住まいの為に借りたマンションは、北区王子にある。
 新幹線で行こうとすると、途中通ることになる。
 但し、ホームは無いので車窓から眺めるだけだ。
 右手には飛鳥山公園、左手には国立印刷局王子工場がある。
 後者には近隣に東京工場という別の工場があり、そちらは一般人向けの見学会が定期的に行われるのに対し、王子工場では一切行われていない(代わりに『お札と切手の博物館』が併設されている。入館無料)。
 もっとも、それらとてコロナウィルス騒ぎでどうなっているのか不明である。

 稲生:「駅に程近いマンションだっていうので、歩いてすぐだよ」
 マリア:「そう」

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく、上野です。山手線、京浜東北線、常磐線、地下鉄銀座線と地下鉄日比谷線はお乗り換えです。お降りの際はお忘れ物の無いよう、お支度ください。上野の次は、終点東京です〕

 上中里駅の横を通過する頃、自動放送が流れて来た。

 稲生:「そろそろ先生を起こしに行きますか」
 マリア:「私が行く」
 稲生:「いいんですか?」
 マリア:「いざとなったら、これで一発叩いて……」

 マリアはローブの中から魔法の杖を出した。
 魔女っ娘が持つ短い棒ではなく、頭部に装飾が施された長い物である。
 これがスルスルとローブのポケットに入るのだから、どちらも魔法の物なのだと分かる。

 稲生:「いや、ハハハ……」

 マリアは隣の11号車に向かった。

 稲生:「さて、僕も降りる準備をしよう」

 因みにマリアの人形達は自分で荷棚から下りて来た。
 しかも自分達が入っていたバッグも下ろして。
 マリアに持ってもらう必要、無いのではないかと一瞬首を傾げる。
 で、自分達でバッグの中に入ってしまった。

 ミク人形:「バイバイ」(@^^)/~~~

 最後に稲生に手を振ってスッポリと中に入った。

 稲生:「完全に旅慣れてしまっている……」

 そうしているうちに列車は日暮里駅の横を通過し、完全に地下に潜った。
 地下トンネルの中にホームがある新幹線の駅なんて、上野駅くらいしか無いのではないかと思ってしまった。

〔「ご乗車ありがとうございました。まもなく上野、上野です。22番線に到着致します。お出口は、右側です。上野駅から常磐線ご利用のお客様、今度の快速、勝田行きは10番線から11時52分。特急“ひたち”11号、いわき行きは8番線から12時ちょうどに発車致します」〕

 マリア:「ほら、こっちですよ」
 イリーナ:「マリアぁ、もう目は覚めてるから引っ張んないでよ~」
 マリア:「私が起こしに行かないと寝てた癖に何言ってるんですか!」

 無事にマリアはイリーナを起こしてくれたようだ。
 そうしているうちに列車がホームに入線した。

 イリーナ:「何か地下鉄のホームみたいね」
 稲生:「まあ、地下に通った鉄道路線のホームという意味では同じですかね」

〔ドアが開きます〕

 停車してドアが開く。
 上野駅にもホームドアは無い。

〔「ご乗車ありがとうございました。上野、上野です。車内にお忘れ物の無いよう、ご注意ください。……」〕

 ホームに降りた乗客も数少なかった。
 反対側の下りホームはもっと乗客が多いはずだが、そちらも疎らである。

 稲生:「何か、出歩いているのが申し訳無いくらいです」
 イリーナ:「用事を済ませて、さっさとホテルに引き篭もる?」
 稲生:「その方がいいかも……」
 マリア:「ショッピングができないとなると、無駄に出歩く理由が無いですからね」

 マリアはそう言って、エスカレーターに乗った。

 稲生:「まあ、確かに」

 稲生達もエスカレーターで地上に向かう。

[同日11:54.天候:晴 JR上野駅 在来線改札内コンコース→JR京浜東北線1112A電車10号車内]

 途中、トイレに立ち寄った。
 出てくるのは、いつも稲生が1番最初。

 マリア:「お待たせ」
 稲生:「あ、はい」
 イリーナ:「飲んだワインの半分くらいは出して来たよ」
 稲生:「あはは……」

 元々イリーナは酔ってすらいない。
 まあ、アルコールチェックでもすれば、少しは反応が出るのかもしれないが。

 稲生:「それじゃ、行きましょう」

 階段を下りて、田端方面ホームに向かう。
 新幹線で通った所を少しだけ戻るという奇妙なコースだが、乗車券の旅客営業規則上は何の問題も無い。
 前回でも述べたが、稲生達が持っている乗車券は『東京都区内』が下車駅。
 つまり、東京23区内にあるJRの駅なら、どこででも降りて良いというものだ。
 王子駅は北区にあるので、対象内である。
 因みに関西にも同じような名前の駅があるが、当然そちらは対象外である。

〔まもなく1番線に、快速、南浦和行きが参ります。危ないですから、黄色い点字ブロックの内側で、お待ちください。次は、田端に止まります。鶯谷、日暮里、西日暮里には停車致しません。山手線の電車をご利用ください〕

 上京すれば必ず世話になる京浜東北線がやってくる。
 快速運転時間中は山手線より混む路線だが、やはりガラガラであった。

〔うえの~、上野~。ご乗車、ありがとうございます。次は、田端に止まります〕

 マリア:「乗客、少ないな」

 マリアはブルーの座席に座りながら言った。

 イリーナ:「東京に来れば必ず、私達のような入国者がいたわ。だけど今は、それすら見かけない」
 稲生:「もちろん全員が出て行ったわけではありませんから、少しは残っているでしょうけどね。だけど、確かに明らかに少なくなりました。だからこそ、余計に目立ちやすい」

 更にローブなんか着ていると尚更だ。

〔「お待たせ致しました。快速、南浦和行き、まもなく発車致します。次は、田端に止まります。停車駅にご注意ください」〕

 ホームから発車ベルの音が聞こえてくる。
 山手線の方は発車メロディになったが、京浜東北線は相変わらず電子電鈴である。

〔1番線の京浜東北線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車を、ご利用ください〕

 電車のドアとホームドアが閉まる。
 利用者が少ないからか、駆け込み乗車は無かったようで、再開閉は無かった。
 それから走り出す。

〔この電車は京浜東北線、快速、南浦和行きです。停車駅は田端と、田端からの各駅です。次は、田端です〕
〔This is the Keihin-Tohoku line rapid service train for Minami-Urawa.The next station is Tabata(JK34).〕

 左に向かって大きなカーブがあるので、車輪の̰軋み音が響いてくる。
 新型コロナウィルス対策の為、滅多に開けない窓が開いているので、尚更響いて来るのだ。
 今日は暖かいが、更に天井からは空気清浄機の作動する音も聞こえて来ている。

 イリーナ:「御両親に、もうすぐ到着するってメール、送っておいたら?」
 稲生:「そうですね。恐らく、昼食を用意して待ってくれていると思います」
 イリーナ:「それはいいわね。本当はディナーの方が盛り上がるんでしょうけど……」
 稲生:「普通はその後泊まるコースでしたからね。ところが今は、それが使えないので……」
 マリア:「うちの毒親が本っ当すいません!」

 電車は軽やかに途中の駅を通過していった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“大魔道師の弟子” 「Stay Home週間」 2

2020-04-26 11:31:16 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月25日09:50.天候:晴 長野県長野市 JR長野駅新幹線乗り場→北陸新幹線556E列車]

 屋敷のある白馬村から県内移動の特急バスで長野駅までやってきた魔道士達。
 駅前も閑散としている。

 稲生:「思っていたよりも、随分寂しくなったものです」
 イリーナ:「厳戒態勢ね。もっとも、ロシアのそれと比べたら随分とユルユルだけど」
 マリア:「それは言えてます」

 マリアも一瞬、『元・共産主義国と一緒にしてやらないでください』と言いたかったが、イギリスよりも緩い態勢なので言わないでおいた。

 マリア:「店も閉まってる」
 稲生:「NEWDAYSは辛うじて開いてますね。因みに情報では、車内販売も一斉休業中です」
 ミク人形:「ファッ!?」
 ハク人形:「ファッ!?」
 稲生:「もしアイス食べたかったら、今のうちにNEWDAYSで買っておいた方がいいですよ」
 マリア:「その方が良さそうだ」
 稲生:「飲み物くらいなら、ホームの自販機くらい稼働しているでしょうけどねぇ……」
 マリア:「飲み物も確保しておいた方が良さそうだ」
 稲生:「……ですね」
 イリーナ:「♪」
 マリア:「師匠、昼間っから酒はダメですよ!」
 イリーナ:「ええ~?」

 イリーナ、ミニサイズのワインを手に取っていた。

 マリア:「だいたい、いつも寝てるじゃないですか?」
 イリーナ:「さっきバスの中で寝たから、少し眠気が覚めたのよ」
 マリア:「だからって、酒は……」
 ポテンヒット:「はい、外人の姉ちゃん達、ちょっとゴメンよ~、ヒック。やっぱ旅のお供には酒だよなぁ、あぁ?ビールにワンカップに“鬼殺し”っと……ヒック」
 イリーナ:☞
 マリア:「あ、あれは日本人ですから!」
 稲生:「マリアさん、そろそろ急がないと列車が出てしまいます」
 マリア:「あー、もう!自己責任でお願いしますよ!」
 イリーナ:「やった!」

 飲み物やら食べ物やら購入して、それから新幹線ホームに向かった。

〔13番線に9時55分発、“かがやき”506号、東京行きが12両編成で参ります。この電車は大宮、上野、終点東京の順に止まります。グランクラスは12号車、グリーン車は11号車、自由席は……〕

 ホームに出ると、上り副線には“はくたか”が停車していた。
 稲生達が乗るのは、こちらの方である。
 バスの遅延などを懸念して、少し余裕を持たせたのであるが、杞憂であったようだ。

 稲生:「それでは先生はグリーン車へどうぞ」
 イリーナ:「はいよ。一人寂しくやってるよ。いつもの通り、大宮で降りるのね」
 稲生:「いえ、違います。上野です」
 イリーナ:「あ……」
 マリア:「師匠。勇太の御両親は都内で仮住まいだって言ってたじゃないですか」
 イリーナ:「そうだったわね」
 稲生:「乗車券が『東京都区内』ですから」

 長距離キップの時、東京都区部のJR駅ならどこで最終的な出場をしても良いという乗車券。
 中距離だと『東京山手線内』になり、山手線とその内側にある中央線の駅ならどこで出場しても良い。

 マリア:「あっちもガラガラだ」

 上り本線にやってきた速達列車。
 新幹線は速達列車ほど混雑する傾向があるが、それでさえ車内を見ると数えるほどの乗客しかいなかった。
 最速達の“かがやき”でさえその有様なのだから、それより遅い“はくたか”にあっては……。

 稲生:「本当にグリーン車誰もいない……」
 イリーナ:「寝るには静かでいいかもねぇ……」

 その隣の普通車に乗る稲生とマリアは……。

 稲生:「2人……いや、3人……かな」
 マリア:「ルーシーに、『新幹線、ほぼ貸し切りなう』って水晶玉でツイートしておくか」
 稲生:「『ユーロスター、完全貸し切りなう』って返されますよ、きっと」
 マリア:「そもそも今、運行してるの、あれ?」
 稲生:「分かりません」

 2人は指定された2人席に腰かけた。
 人形達の入ったバッグは荷棚に置く。
 バッグの中に入れてても人形達は勝手に中から出て来て、直接荷棚の上に寝そべったり、座り込んだりするのだ。

[同日09:59.天候:晴 JR北陸新幹線556E列車10号車内(イリーナは11号車)]

〔14番線から、“はくたか”556号、東京行きが発車致します。次は、上田に止まります。黄色い線の内側まで、お下がりください〕

 発車メロディとして、長野県民歌“信濃の国”が流れる。
 それから客終合図の甲高いブザーが鳴って、車両のドアが閉まった。
 因みに長野駅新幹線ホームには、ホームドアが無い。
 仙台駅と同じ、全列車が停車するという理由で設置されていないそうだ。

 稲生:「取りあえず、母さんに無事に列車に乗ったというメールだけしておきます」
 マリア:「うん」

 マリアは頷きながら紅茶の入ったペットボトルの蓋を開けた。
 列車が走り出すと同時に、稲生はスマホを操作する。

 ミク人形:「アイス美味しー」
 ハク人形:「アイス美味しー」

 今やシンカンセンカタイアイスは希少物か。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。本日も北陸新幹線をご利用くださいまして、ありがとうございます。この列車は、“はくたか”号、東京行きです。次は、上田に止まります。……〕
〔Ladies & Gentlemen.Welcome aboard the Hokuriku Shinkansen.This is the Hakutaka superexpress bound for Tokyo...〕

 稲生:「それにしても、こんなガラガラの光景は珍しいですよ」
 マリア:「今のうちかもね」
 稲生:「今回の旅行の目的、何もうちの両親の見舞いと再建中の実家の視察だけじゃないんでしょう?」
 マリア:「ワンスターホテルへの宿泊を許可したということは、だ。魔界に行って、何か『クエスト』でもして来いってことだろ」
 稲生:「クエスト。達成できるかなぁ?」
 マリア:「できなかったら、『追試』か『補習』かな」
 稲生:「何とか頑張ります」

 稲生は大きく頷いた。

 マリア:「まあ、魔界に行っていきなり『クエスト達成しろ』なんてことはないだろう。アナスタシア組じゃあるまいし。その辺はのんびりできるところが、うちの組のいい所かな」
 稲生:「助かります」
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“大魔道師の弟子” 「Stay Home週間」

2020-04-25 23:02:45 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月25日08:20.天候:晴 長野県白馬村 白馬八方バスターミナル]

 屋敷からは車でバスターミナルまでやってきた。

 稲生:「シーズンオフになったから、それよりはバスは空いていると思いましたが……」

 一瞬、バスに乗り遅れたのかと思うほど、チケットカウンターに乗客の姿は無かった。

 稲生:「すいません。今度のバスで、長野駅まで大人3枚ください」
 係員A:「はい、ありがとうございます」

 時刻表を何度も見たが、全く乗り遅れたわけではなかった。
 それほどまでに、乗客が少なくなったのだ。
 長距離バスは軒並み運休。
 県内移動の特急バスでさえ、一部に運休が発生しているほどだった。
 乗車券を購入して程なく、バスが入線してくる。
 車種は高速バスで使用されているものと同じだが、トイレが無く、シートピッチも通常の狭さである。
 要は貸切観光バスに、運賃箱や運賃表、自動放送装置などを付けたものと思えば良い。

 運転手:「長野駅東口行きです」
 稲生:「あ、はい。乗ります」

 乗り場の係員がバスの荷物室のドアを開ける。
 悲しいかな、それを利用するのはマリアだけである。

 イリーナ:「どこでもいいんだっけ?」
 稲生:「はい。このバスは全席自由です」
 イリーナ:「そう」

 イリーナは頷くと、真ん中辺りの席に座った。
 一番広いのは一番後ろの席だが、後輪の更に後ろにある為に揺れやすく、寝にくいからだという。

 マリア:「相変わらず、寝る気満々ですね」

 目上の者は目下の者の前の席に座る。
 自動車とは逆である。
 こうすると、後ろの席に気兼ね無く座席が倒せるからである。

 イリーナ:「あなたこそマリア、ショッピングする気満々じゃないの?」
 マリア:「そんなことないですよ」
 イリーナ:「勇太君に、首都圏のショッピングセンターやモールは軒並み休業だって言われたでしょ?」
 マリア:「分かってますって」

〔「お待たせいたしました。8時20分発、長野駅東口行き、発車致します」〕

 稲生:「うわ……誰も乗ってない」

 バスは扉を閉めて定刻に発車した。

 イリーナ:「こんな時に遠出するのは、不要不急でない外出か、私達くらいのものよね」

 イリーナはそう言うと、座席をリクライニングしてローブのフードを被った。
 あえてカーテンまでは閉めないのがイリーナ流。
 因みにマスクはしている。
 もっとも、今品薄の不織布とかアベノマスクみたいな現代のマスクではない。
 占い師として活動する際にも着用する、紫色の布マスクである。
 魔道師としてのイリーナを狙う者もいる為、マスクで顔を隠すのである。
 鼻から下が隠れる。
 今はどのような用途で着けているのか、それは分からない。
 恐らくウィルス対策用と覆面用の両方であろう。
 一応、稲生とマリアもマスクを着けている。

 稲生:「日本の文化、『同調圧力』です」
 マリア:「文化なのか、これ?」

 どちらも不織布だが、稲生は白で、マリアは黒だった。

 イリーナ:「マリアはともかく、勇太君はまだ悪魔の守護が無いから着けておいた方がいいわね」
 マリア:「私はいいんですかね?」
 イリーナ:「日本人からの冷たい視線に晒されたければどうぞ」
 稲生:「マリアさん、どこで教会の連中が見ているか分かりませんから……」
 マリア:「分かったよ」

 マリアは一度外した黒いマスクをもう一度着けた。

 稲生:(黒いマスクを着けたマリアも、なかなか雰囲気が変わっていいな……

 黒いローブに黒いマスクは却ってマッチするということだ。
 もちろんその下はダークグリーンのブレザーに、グレーのプリーツスカートをはいていた。
 ブレザーだけいつもと違うが、これは以前上京した際に、ルーシーと一緒に原宿で買ったものである。
 何故かイリーナが水晶玉でステータス表を出すと、市販のブレザーのはずなのに、前のよりも防御力が上がっているのだが。
 稲生が喜ぶ服装だからというのもあるが、小柄で童顔なのを利用して、どこかの学校に紛れ込んだ留学生のフリをできるというメリットもあることに最近気づいた。

 マリア:「うちのママが暴れてくれたせいで、教会の動きが活発になってるみたいだから、正体がバレないようにしないとね」
 稲生:「いざとなったら、僕の日蓮正宗信徒としての顔を出しますよ。向こうは外道、こっちは内道ですから」
 マリア:「……私を巻き込まないでよ?」
 稲生:「分かってます」

[同日09:35.天候:晴 長野県長野市 JR長野駅]

 バスはだいたい時刻表通りに長野駅東口に到着した。

 運転手:「ありがとうございましたー」
 稲生:「お世話さまでした」

 バスの乗客は、稲生達を除いてたったの2~3人。
 有り得ない数字である。

 稲生:「いつもなら、空いてても半分くらいは席埋まってたのに……」

 バス停のベンチに捨てられていたのか、それとも忘れられていたのか不明だが、今朝の朝刊がポツンと置かれていて、『Stay Home週間』とかいう見出しが見えた。

 イリーナ:「日本の場合は暴動が起きないからいいわね。スワット隊が出て来て鎮圧するまでもない」
 稲生:「それは多分、いいことなんでしょうね?」
 イリーナ:「え?悪いことだと思うの?だったら、私が先導して暴動起こさせようか?」
 稲生:「やめてください!他所の国でそんなことするのは!」
 マリア:「師匠、それにそんなことしたら、教会にロックオンされるじゃないですか」
 イリーナ:「冗談よ。いくら私でも、そんな魔法は使えないわよ」
 マリア:(暴動を直接起こさせる魔法は使えなくても、外堀埋めて、人脈使ってきっかけ作りはできるんだよなぁ……)

 マリアは複雑な顔をした。
 運転手から荷物のキャリーバッグを受け取る。

 稲生:「それじゃ、行きましょうか。次は新幹線です」
 イリーナ:「この分だと、新幹線も空いてるわね」
 稲生:「ガラガラですよ。先生がお乗りになるグリーン車なんか、先生の貸し切りなんじゃないですか」
 イリーナ:「寂しいわね。私もエコノミークラスにしようかしら」
 マリア:「あなたは立場上、ビジネスクラスに乗ってください。(勇太と2人で乗りたい!)」

 因みにファーストクラス(新幹線ではグランクラス)には、大師匠ダンテが乗ることになっている。
 その為、例え大魔道師であっても、ダンテの弟子の身分である以上はそのクラス席に乗ることは許されない。
 但し、ダンテの引率で同乗する場合はこの限りではない。
 その為、拡大解釈されて、師匠が弟子を引率する場合は同クラスに同乗して良いという不文律ができている。
 今回は稲生がアテンドするという名目になっているので、先ほどのバスのようなモノクラス以外は分乗することになるのだ。
 魔道士の世界が、如何に上下関係の厳しい所かが分かるというものである。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする