報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「切り裂きパール」

2020-04-02 19:49:05 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月8日19:10.天候:雨 東京都墨田区菊川 斉藤絵恋のマンション]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 中央高速の石川パーキングエリアで夕食を取った私達は再び車に乗り、菊川を目指した。
 都内に入る頃から曇り出して来たが、都心ほど雨が降りやすいのか、首都高に入ると雨に当たった。

 愛原:「雨か。この雨がウィルスを洗い流してくれるといいんだがな」

 私はフロントガラスの上を規則正しく動くワイパーを見ながら言った。
 車は既に最寄りの首都高出口で降り、都道を走行している。

 高野:「実際、洗い流してくれていると思いますよ。だから感染率は屋外よりも屋内の方が高いんです」
 愛原:「ま、そりゃそうだ」

 映画や何かじゃ、バイオハザードたけなわの夜は雨が降っていることが多い。
 ホラー的演出もあるのだろうが、私はウィルスが洗い流されたおかげで、町の外に拡散することは無かったという設定にしたいが為だと思っている。
 もっとも、アメリカのルイジアナ州の農場で起きたバイオハザードでは何の意味も無かったようだがな。
 あれはウィルスではなく、新種のカビを使った特異菌だそうで、雨が降って湿度が上がることで、余計に活性化されたのだろうと見ている。

 愛原:「先に絵恋さんを送って行くから、そっちのマンションに行ってくれ」
 高橋:「分かりました」

 私は最初、絵恋さんを埼玉の実家に送るべきかどうか悩んだ。
 そしたら絵恋さんが東京のマンションがいいと言ったので、そうすることにした。

〔「目的地周辺です。音声案内を終了します」〕

 マンションの裏手にある駐車場に車を止める。

 高橋:「ここでいいっスか?」
 愛原:「いいだろう。絵恋さん、着いたよ」
 絵恋:「はーい……」

 絵恋さんは眠い目を擦った。
 リサと同様、途中で疲れて寝てしまった。

 愛原:「学校がいつ再開するのか分からないけど、また遊びに来なよ」
 絵恋:「はい。ありがとうございます」

 マンションの裏口からメイド服姿のメイドさんが傘を差して出て来た。
 さすがにメイド服は目立つな。
 もっとも、このマンションの住人達は既に慣れたらしいが。
 昨今のサブカルチャーに見られるベタな法則通りのメイド服っぽく見えるところを見ると、どこかのメイドカフェの制服を模したものであろうか。

 愛原:「おっ、そうだ。俺も挨拶しないと」

 私も車を降りた。

 メイド:「…………」
 愛原:「絵恋さん、メイドさんの名前、何て言うんだっけ?」
 絵恋:「私は『パール』と呼んでます。何か……パールがそう呼んでくださいって……」
 愛原:「そうですか。パールさん、お疲れさまです。この通り、御嬢様をお連れしました。なので……」

 何か変だな。
 さっきから俯いたままだ。

 パール:「…………」(←左手をスカートの中に突っ込み、左足にある何かを手にする)
 高橋:「先生!!」

 高橋はその『何か』を見逃さなかった。
 次の瞬間、パールと名乗るメイドは傘を放り投げると、私目掛けてそれを振りかざして来た。
 それは大型ナイフ。
 高橋が私の前に入り、そのナイフを交わす。

 愛原:「な、な、な……!?」
 高橋:「どこかで見たことがあるかと思ったら、やっぱテメーか!」
 パール:「どこかで見たことがあるかと思ったら、やっぱりアンタか」

 え、なに!?
 2人は知り合い!?

 高橋:「『切り裂きパール』!」
 パール:「『マーサー』!」

 高橋は『切り裂きパール』の左手を掴んでねじ伏せ、見事にナイフを落とすが、パールもメイド服のポケットに入れていた胡椒を高橋の顔に振り掛ける。
 あの高橋が押されているだと?
 パールはナイフを拾い上げ、視界を失っている高橋に振り下ろそうとした。

 高野:「そこまでだ。ナイフを捨てな」

 高野君がパールの頭に銃を突きつけた。

 絵恋:「ぱ、パール!やめなさい!」

 ようやく絵恋さんがそう言うと、パールはパッとナイフを捨てた。

 パール:「かしこまりました。御嬢様」
 愛原:「おい、大丈夫か、高橋君!?」
 高橋:「く、くそっ……!」
 高野:「先を手を出したのはアンタだよ。事情を聞かせてもらおうかしら?言っとくけど、拒否権は無いからね。拒否しようものなら、あなたはこれから塀の中。それすら面倒なら、この引き金を引くまで。政府エージェントには、『メイドがゾンビ化し掛かったので射殺した』とでも言えばいいことになっているから」

 ん、んなワケない!
 感染したか否かは後で調査するだろうから、それでバレるはずだ。
 これは恐らく高野君のハッタリだろう。

 パール:「御嬢様が研究所に行ったせいで化け物になったと聞きました。それで責任者に責任を取ってもらおうと思ったのです」

 そう言って、『切り裂きパール』は私に冷たい目線を向けた。
 マジかよ。
 あれは人を殺したことのある目だ。

 高橋:「『切り裂きパール』。本名は確か……霧崎真珠って言ったな」
 霧崎:「高橋正義。昔の暴走族みたいな字を書く人だよね?『夜露死苦』とか『愛羅武勇』とか。……何か、思ってたのと違う」

 一体何なんだ、この2人は?
 私が呆気に取られていると、パール……いや、この際本名で呼ばせてもらおう。
 霧崎真珠という本名を持つメイドは、私を見た。

 霧崎:「御嬢様をお送りして頂けたことを確認しました。後程、旦那様に報告しておきます」
 愛原:「あ、ああ。よろしくお願いしますよ」
 高橋:「お、お笑いだな。敵を血祭に上げてた奴がメイドだと?」
 霧崎:「お笑いだね。『下越のヤンキー』が探偵の助手なんて」

 この2人、何か夫婦漫才してる?

 霧崎:「御嬢様、早いとこ中へ入りましょう」
 絵恋:「う、うん。だ、ダメよ?こんな所でケンカなんて……」
 霧崎:「申し訳ございませんでした」

 マンションの中に戻って行く2人を見送る私達。

 高橋:「あいつ……いつの間に出所してやがったんだ」
 高野:「多分向こうもそう思ってるでしょうよ。マサ、先生に隠し立てするのはダメだからね?アンタの昔の残りカスなんだか悪友なんだか元カノなんだか知らないけど、そのせいで先生が危険な目に遭うところだったんだから」

 高野君がガシッと高橋の肩を掴む。

 高橋:「べ、別に隠し立てしてねーし!元カノなんかじゃねーし!」
 高野:「だったら、さっさと帰って先生に説明しな!このバカタレ!」

 何気に女性にどつかれることの多い高橋だな~。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“私立探偵 愛原学” 「ようやく帰途へ」

2020-04-02 16:06:06 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月8日17:00.天候:晴 神奈川県相模原市緑区 (独)国家公務員特別研修センター→中央自動車道]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 ようやく私達は帰途に就くことができた。
 絵恋さんはあれから暴走することもなく、BOWに変化することもなく、今朝も投薬をしてから様子を見るなどしたが、特に異常が出ることもなかった。
 しかしリサのようにならなかったというだけで、体内には明らかにウィルスが遺伝子レベルで残っており、恐らくアメリカ合衆国政府エージェント、シェリー・バーキン氏のように、何らかの驚異的な能力を有している可能性は大とされた。

 善場:「延長期間も含めまして、御苦労さまでした。この報酬は後日、必要経費も含めましてお支払いしますので」
 愛原:「毎度どうも。それにしても、一時はどうなるかと思ったねぇ……」

 最悪、絵恋さんがBOW化してこのセンターが阿鼻叫喚の地獄になった可能性もあったわけだ。
 因みにリサの第2形態だか第3形態、つまり背中に翼が生えて飛べるというものだが、基本的にそこまでの変化は禁止された。
 あくまでも許されたのは、明らかに自らの意思で制御できることが確認できた第1形態までのみ。
 但し、非常時などはこの限りではない。

 守衛:「警備官、特に検査異常無しです!」

 比較的若い守衛が警備官と呼ばれた年配の守衛に敬礼する。
 やはりここの警備員達は警備会社から派遣された者ではなく、直接雇用された公務員なのである。
 で、ここを出る時にも手荷物検査やら身体検査やらがある。
 無断持ち出しを防止する為なのだとか。

 警備官:「以上で手続きは終了です。ご協力ありがとうございました。それでは、お気をつけてお帰り下さい」

 最後に誓約書を提出する。
 この施設のこと、この施設であったことは一切口外しないことを誓約したものだ。
 破った場合、法律により罰せられても文句は言えないという。
 監督省庁の他、国家公安委員会の名前まで出て来ていた。

 高橋:「早いとこ出ましょう。こんなムショみたいな所、俺は勘弁ですよ」
 愛原:「正式な手続きを経て『出所』したんだからいいじゃないか」
 高橋:「そういう問題じゃないっス」

 私達は車に乗り込んだ。
 運転席には高橋、助手席には高野君、リアシートには私とリサと絵恋さんだった。
 元々は商用バンとしての用途で設計された車のせいか、窓は比較的小さく、その開口部も小さい。
 その小さい窓を開けて、私は見送ってくれた善場主任や守衛達に挨拶した。
 重厚な正門が電動で重々しく左右に開き、ようやくそこで私達はシャバの人となった。

 愛原:「結局夕方になっちまったか……」
 高野:「途中で夕食でもして、帰りましょうか」
 愛原:「そうだな。昼飯はバタバタしてあまり食えなかったし、少し早いけどそうしよう。その方が空いてるだろうし」

 私はそこで咄嗟に中央高速のパーキングエリアを思い出した。
 あそこで食べた八王子ラーメンは美味かったし、リサ達が食べていたカツカレーとかも美味そうだった。

 愛原:「高橋君、石川パーキングに寄ってくれ。そこで飯にしよう」
 高橋:「了解です。先生」

 高橋は最寄りのインターである相模湖インターに向かって舵を切った。
 車のラジオからは、相変わらず新型コロナウィルスについての話で持ち切りだ。

 リサ:「私の血なんかで、そのウィルス倒せる?」
 愛原:「これから研究してからだから、まだ分からんよ。とにかく、いろいろな可能性にチャレンジする必要がある」

 もちろんリサの血はそのまま使えないだろう。
 というより、リサの体内に宿されている生物兵器ウィルスをコロナウィルスワクチンに転用できないかという目的でそもそも呼ばれたのだから。
 ヘタすりゃリサのウィルスでまた別のバイオハザードが起きてしまうわけだから、慎重に研究する必要があると素人の私でも分かる。

[同日17:25.天候:曇 東京都八王子市石川町 中央自動車道・石川パーキングエリア]

 東京都の高速自動車国道では唯一のパーキングエリアに到着する。
 首都高にもパーキングは存在するが、あれは高速自動車国道ではない。
 パーキングエリアながらそこそこの広さがあり、私達は楽に駐車場に止めることができた。

 高橋:「じゃ、取りあえずここで」

 高橋が車を止める。

 愛原:「おっ、お疲れさん。それじゃ、ここで飯にしよう」
 絵恋:「お腹空いたねー、リサさん」
 リサ:「うん」

 絵恋さんの何気ないセリフに私は一瞬びっくりした。
 これが普通の人間が言うのと、BOWが言うのとでは意味が大きく異なるからだ。
 幸い彼女は特にBOWの特徴を出していないので、人間として言ったのだろう。
 私がリサの後に車を降りると、リサがこっそり言った。

 リサ:「大丈夫。サイトーは人間だから」
 愛原:「そうか」

 建物の中に入ると、下り線同様、独立したレストランがあるわけではなく、フードコートがあった。
 で、こちらには吉野家がある。
 う、何かぶっちゃけ吉牛食べたくなってきた。
 あれを食べることで、今までの非日常から日常へ戻れるような気がしたのだ。

 高野:「先生は何にします?」
 愛原:「牛丼アタマの大盛り」
 高野:「ええっ!?」
 愛原:「吉牛を食べて日常に戻るのだ」
 高野:「別に、吉野家なら菊川にもありますが……」
 愛原:「いや、ここでいい」
 高橋:「あ、何だか俺もそうしたくなってきました」
 愛原:「だろ?だろ?」
 高橋:「俺が買って来ますよ」
 愛原:「頼む。牛丼アタマの大盛りと味噌汁で頼む」
 高橋:「了解っス」
 高野:「何だかね……。リサちゃん達はどうする?」
 リサ:「カツ丼!」
 絵恋:「ステーキ丼がいいです!」
 高野:「何で皆して丼物選ぶのよ?丼ウィルスでも蔓延した?」
 愛原:「かもしれんな」

 なワケねーだろw
 一貫して事務所のツッコミ役を高野君は務めてくれている。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする