[3月9日09:00.天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
神奈川県の山奥にある秘密の研究所に行ってから一日が経った。
愛原:「ようやく通常業務再開だな。で、仕事の依頼は?」
高野:「ありません」
ズコーッ!
愛原:「く、くそっ!」
高野:「先生のおかげで、今は大日本製薬やら政府特務機関やらの依頼で食べるには困らない報酬を得ているではありませんか」
愛原:「いや、そりゃそうだけどさ、もっとこう、バイオハザード以外の仕事もやりたいだろ」
高野:「それよりマサ、先生に昨日のあの狂ったメイドのことを話したんでしょうね?」
高橋:「い、いや、まだ……」
高野:「あんだって!?」
愛原:「まあまあ、高野君。昨日は疲れたから、早めに休んだんだ。それに、リサもいたしね」
高野:「リサちゃん、1人でお留守番ですか?」
愛原:「いつ、学校が再開するか分からんからなぁ……」
高野:「もうこのまま春休みと一緒にして、4月の新学期からスタートになることが決定してるじゃありませんか」
愛原:「まあ、そうなんだけど……」
高野:「延長はあるかもしれませんが、短縮は無いかと」
愛原:「そうかねぇ……。それより高橋君、どうせヒマだ。昨日のメイドさんのことについて話してくれないか?」
高橋:「はあ……。いや、俺も直接ヤツと話したわけじゃないんです。ネンショー(少年院)を出てから上京して、こっちで色々とやってたんスけど……」
高野:「また、ヤンキーしてたんでしょ?」
高橋:「うっせ!まあ、こっちでも仲間作って、色々と楽しくやってたんですが……。1人、アホなヤツがいましてね。一応、グループのお笑い役だったんですが、何と言うか……下半身がダラしないヤツだったんですよ。それでネンショーに入ってたらしくて」
愛原:「まあ、不良あるあるだよな。それだけだったら」
もちろん、レイプされた方はたまったものじゃないがな。
愛原:「それで?」
高橋:「そのアホがまた1人、女を捕まえてヤってるって話を聞いたんで、他の仲間と一緒に様子を見に行ったんです。そしたら……」
その時、高橋の顔が不快感を露わにしたものだった。
高橋:「そのアホに服を破られたか何かしたのか、上半身裸だったんですが、そのアホ……首を切られて死んでましたよ。ちょうど俺達が駆け付けた時、殺した直後だったんでしょうね。ヤツの返り血を浴びて真っ赤に染まった裸体とナイフを手に、今度は俺達を見て笑ったんです。ええ……あれは、ゾンビより怖かったです」
愛原:「それがあのメイドさん!?」
高橋:「後で他の仲間から聞いたところ、『切り裂きパール』と呼ばれるヤンキー女だったと。俺は初めて聞いたんですが、まあ、そういうヤツが都内にいたらしいんです」
愛原:「まあ、レイプされた際の正当防衛のつもりだったんだろうが、さすがにナイフを持ち歩いていて、それで血祭に上げたとなると、警察は過剰防衛と銃刀法違反で捕まえるかなぁ……」
意外と女性が抵抗して男性にケガを負わせても、結構司法は正当防衛を認めてくれることが多い。
逆はまず無理だが。
しかし、その『切り裂きパール』が最初からナイフを持っていたとなると、さすがの警察も見逃してはくれないだろう。
愛原:「それでさすがに捕まって、収監されたのか。その時、まだ未成年だったかな?」
高橋:「そうッスね。俺がまだ17の時でしたから。多分『切り裂きパール』も同い年くらいです」
愛原:「ふーん……。でもまあ、お前のアホな仲間が下半身をしっかりさせていたなら防げた事件だよな」
高橋:「あれはそうですね。だけど、聞いた話、人を殺したのはあれが初めてじゃないらしいんです」
愛原:「どういうことだ?」
高橋:「俺も気になって色々と調べたんですが、どうもあいつ、中学の時には既に殺人やってたらしいんですよ」
愛原:「おいおいおい!」
高橋:「もちろんその時から『切り裂きパール』の異名があったわけじゃなく、イジメの復讐で動いてたら、いつの間にか死んでたらしいんですが」
愛原:「んん?」
高橋:「あいつは処女じゃないんです。中学ん時、レイプされたみたいですから。ただ、そのレイプしたのは同じ中学のヤンキー達なんですが、そいつら全員あの世に行ってます」
愛原:「はあ!?」
高橋:「俺はヤツが殺したと思ってるんですが、1人を除いてサツはその証拠を掴めなくて、結局立件したのは不良グループの1人を殺した件だけです。もちろん、レイプされたことの仕返しだということで、随分と同情はされたみたいですがね。だから、ネンショー行きだけで済んだわけです」
愛原:「何か、週刊誌とかが書きそうな事件だな」
高橋:「多分、調べたら出てくるんじゃないスかね。……まあ、俺が知ってるのはそれくらいっスかね」
高野:「いや、まだよ。あんたはまだ何か知ってる」
高橋:「何だよ、アネゴ?俺だって、直接あいつとは話してないんだからよ。詳しく知ってるわけねーだろーが」
高野:「いや、知ってるはず。いくら下半身のダラしないアホだからといって、仲間が殺されたのにそのまま引き下がるわけないでしょ?」
高橋:「うっ……!」
高野君は高橋の顔を指さした。
高橋の顔には刀傷の痕がある。
高野:「案外、この傷跡、『切り裂きパール』に付けられた痕だったりしてね?」
高橋:「なワケねーだろ!ナイフくらい振り回すバカは他にもいたんだよ!」
高野:「昨日、『切り裂きパール』が言ってたね?『昔の暴走族みたいな字を書く人だよね?』って。パールはあんたのこと、そこまで知ってるのはどういうこと?」
高橋:「知らねーよ!向こうが勝手にストーキングしたんじゃねーの!?」
何か、高橋が慌ててるなぁ……?
というか、耳が赤くなってる。
これは、もしかして……?
と、その時、事務所のインターホンが鳴った。
ドアを開けると、コンビニみたいに音が鳴る仕組みだ。
リサ:「こんにちは。やっぱり来ちゃった」
愛原:「何だ、リサか。びっくりしたな。やっぱり部屋に1人でいるのは寂しいか?」
リサ:「うん。サイトーも一緒だから、ここで一緒に勉強させて。春休みの宿題」
愛原:「そうか、絵恋さんも一緒か。じゃあ、そこの打ち合わせコーナーでも使えばいいさ」
リサ:「ありがとう。サイトー、OKだって」
絵恋:「おはようございます。お邪魔します」
そこへ絵恋さんが入って来た。
うん、良かった。
BOW化していない。
どうやら昨日投薬した点滴や注射が効いたようだ。
後日、また薬を取りに行かなくてはならない。
今度は経口摂取できるタイプだというから、カプセルとかタブレットだろう。
或いは粉末剤か。
霧崎:「おはようございます」
そこへメイド服を着た、あの『切り裂きパール』がいた。
本名は霧崎真珠というらしい。
霧崎:「御嬢様をお送りに参りました。どうか、よろしくお願い致します」
『切り裂きパール』が私に恭しく御辞儀する。
これがあの殺人鬼?
どういうことなんだ?
愛原:「あ、ああ、どうも」
私も御辞儀し返した。
と、高橋をチラリと見る。
こいつのことだ。
敵と見做したら、女性でも容赦しないだろう。
そして実際、敵と見做している人物がここにいる。
こんな所でケンカはやめてもらいたいものだ。
少なくとも昨日のように、このメイドさんの方から手を出そうとしてきているわけではないのだから。
しかし、高橋は呆然と立ち尽くしていた。
ん、どういうことなんだ?
霧崎:「それではまた後で、御嬢様をお迎えに参りますので」
愛原:「あ、はい。お預かりします」
切り裂き……もとい、メイドの霧崎さんは恭しく御辞儀をすると、事務所を退出した。
この態度、知らないと殺人罪で女子少年院や女囚刑務所に行ってたとは思えないのだが(日本には『女子少年刑務所』は存在せず、未成年の少女が重罪を犯した場合には普通の女囚刑務所に送られる)。
愛原:「高橋、よく我慢したな。偉いぞ」
私は高橋の方に向き直って褒め言葉を掛けた。
だが、高橋は何故かボーッとしていた。
彼女はオーラを隠していたようだが、やはり元ヤンとしては、隠されたオーラを感じ取ってしまったのだろうか。
高野:「先生、違いますよ」
高野君は溜め息を吐いた。
高野:「とんでもない女に『惚れ』ちゃったね」
な、何だってー!?
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
神奈川県の山奥にある秘密の研究所に行ってから一日が経った。
愛原:「ようやく通常業務再開だな。で、仕事の依頼は?」
高野:「ありません」
ズコーッ!
愛原:「く、くそっ!」
高野:「先生のおかげで、今は大日本製薬やら政府特務機関やらの依頼で食べるには困らない報酬を得ているではありませんか」
愛原:「いや、そりゃそうだけどさ、もっとこう、バイオハザード以外の仕事もやりたいだろ」
高野:「それよりマサ、先生に昨日のあの狂ったメイドのことを話したんでしょうね?」
高橋:「い、いや、まだ……」
高野:「あんだって!?」
愛原:「まあまあ、高野君。昨日は疲れたから、早めに休んだんだ。それに、リサもいたしね」
高野:「リサちゃん、1人でお留守番ですか?」
愛原:「いつ、学校が再開するか分からんからなぁ……」
高野:「もうこのまま春休みと一緒にして、4月の新学期からスタートになることが決定してるじゃありませんか」
愛原:「まあ、そうなんだけど……」
高野:「延長はあるかもしれませんが、短縮は無いかと」
愛原:「そうかねぇ……。それより高橋君、どうせヒマだ。昨日のメイドさんのことについて話してくれないか?」
高橋:「はあ……。いや、俺も直接ヤツと話したわけじゃないんです。ネンショー(少年院)を出てから上京して、こっちで色々とやってたんスけど……」
高野:「また、ヤンキーしてたんでしょ?」
高橋:「うっせ!まあ、こっちでも仲間作って、色々と楽しくやってたんですが……。1人、アホなヤツがいましてね。一応、グループのお笑い役だったんですが、何と言うか……下半身がダラしないヤツだったんですよ。それでネンショーに入ってたらしくて」
愛原:「まあ、不良あるあるだよな。それだけだったら」
もちろん、レイプされた方はたまったものじゃないがな。
愛原:「それで?」
高橋:「そのアホがまた1人、女を捕まえてヤってるって話を聞いたんで、他の仲間と一緒に様子を見に行ったんです。そしたら……」
その時、高橋の顔が不快感を露わにしたものだった。
高橋:「そのアホに服を破られたか何かしたのか、上半身裸だったんですが、そのアホ……首を切られて死んでましたよ。ちょうど俺達が駆け付けた時、殺した直後だったんでしょうね。ヤツの返り血を浴びて真っ赤に染まった裸体とナイフを手に、今度は俺達を見て笑ったんです。ええ……あれは、ゾンビより怖かったです」
愛原:「それがあのメイドさん!?」
高橋:「後で他の仲間から聞いたところ、『切り裂きパール』と呼ばれるヤンキー女だったと。俺は初めて聞いたんですが、まあ、そういうヤツが都内にいたらしいんです」
愛原:「まあ、レイプされた際の正当防衛のつもりだったんだろうが、さすがにナイフを持ち歩いていて、それで血祭に上げたとなると、警察は過剰防衛と銃刀法違反で捕まえるかなぁ……」
意外と女性が抵抗して男性にケガを負わせても、結構司法は正当防衛を認めてくれることが多い。
逆はまず無理だが。
しかし、その『切り裂きパール』が最初からナイフを持っていたとなると、さすがの警察も見逃してはくれないだろう。
愛原:「それでさすがに捕まって、収監されたのか。その時、まだ未成年だったかな?」
高橋:「そうッスね。俺がまだ17の時でしたから。多分『切り裂きパール』も同い年くらいです」
愛原:「ふーん……。でもまあ、お前のアホな仲間が下半身をしっかりさせていたなら防げた事件だよな」
高橋:「あれはそうですね。だけど、聞いた話、人を殺したのはあれが初めてじゃないらしいんです」
愛原:「どういうことだ?」
高橋:「俺も気になって色々と調べたんですが、どうもあいつ、中学の時には既に殺人やってたらしいんですよ」
愛原:「おいおいおい!」
高橋:「もちろんその時から『切り裂きパール』の異名があったわけじゃなく、イジメの復讐で動いてたら、いつの間にか死んでたらしいんですが」
愛原:「んん?」
高橋:「あいつは処女じゃないんです。中学ん時、レイプされたみたいですから。ただ、そのレイプしたのは同じ中学のヤンキー達なんですが、そいつら全員あの世に行ってます」
愛原:「はあ!?」
高橋:「俺はヤツが殺したと思ってるんですが、1人を除いてサツはその証拠を掴めなくて、結局立件したのは不良グループの1人を殺した件だけです。もちろん、レイプされたことの仕返しだということで、随分と同情はされたみたいですがね。だから、ネンショー行きだけで済んだわけです」
愛原:「何か、週刊誌とかが書きそうな事件だな」
高橋:「多分、調べたら出てくるんじゃないスかね。……まあ、俺が知ってるのはそれくらいっスかね」
高野:「いや、まだよ。あんたはまだ何か知ってる」
高橋:「何だよ、アネゴ?俺だって、直接あいつとは話してないんだからよ。詳しく知ってるわけねーだろーが」
高野:「いや、知ってるはず。いくら下半身のダラしないアホだからといって、仲間が殺されたのにそのまま引き下がるわけないでしょ?」
高橋:「うっ……!」
高野君は高橋の顔を指さした。
高橋の顔には刀傷の痕がある。
高野:「案外、この傷跡、『切り裂きパール』に付けられた痕だったりしてね?」
高橋:「なワケねーだろ!ナイフくらい振り回すバカは他にもいたんだよ!」
高野:「昨日、『切り裂きパール』が言ってたね?『昔の暴走族みたいな字を書く人だよね?』って。パールはあんたのこと、そこまで知ってるのはどういうこと?」
高橋:「知らねーよ!向こうが勝手にストーキングしたんじゃねーの!?」
何か、高橋が慌ててるなぁ……?
というか、耳が赤くなってる。
これは、もしかして……?
と、その時、事務所のインターホンが鳴った。
ドアを開けると、コンビニみたいに音が鳴る仕組みだ。
リサ:「こんにちは。やっぱり来ちゃった」
愛原:「何だ、リサか。びっくりしたな。やっぱり部屋に1人でいるのは寂しいか?」
リサ:「うん。サイトーも一緒だから、ここで一緒に勉強させて。春休みの宿題」
愛原:「そうか、絵恋さんも一緒か。じゃあ、そこの打ち合わせコーナーでも使えばいいさ」
リサ:「ありがとう。サイトー、OKだって」
絵恋:「おはようございます。お邪魔します」
そこへ絵恋さんが入って来た。
うん、良かった。
BOW化していない。
どうやら昨日投薬した点滴や注射が効いたようだ。
後日、また薬を取りに行かなくてはならない。
今度は経口摂取できるタイプだというから、カプセルとかタブレットだろう。
或いは粉末剤か。
霧崎:「おはようございます」
そこへメイド服を着た、あの『切り裂きパール』がいた。
本名は霧崎真珠というらしい。
霧崎:「御嬢様をお送りに参りました。どうか、よろしくお願い致します」
『切り裂きパール』が私に恭しく御辞儀する。
これがあの殺人鬼?
どういうことなんだ?
愛原:「あ、ああ、どうも」
私も御辞儀し返した。
と、高橋をチラリと見る。
こいつのことだ。
敵と見做したら、女性でも容赦しないだろう。
そして実際、敵と見做している人物がここにいる。
こんな所でケンカはやめてもらいたいものだ。
少なくとも昨日のように、このメイドさんの方から手を出そうとしてきているわけではないのだから。
しかし、高橋は呆然と立ち尽くしていた。
ん、どういうことなんだ?
霧崎:「それではまた後で、御嬢様をお迎えに参りますので」
愛原:「あ、はい。お預かりします」
切り裂き……もとい、メイドの霧崎さんは恭しく御辞儀をすると、事務所を退出した。
この態度、知らないと殺人罪で女子少年院や女囚刑務所に行ってたとは思えないのだが(日本には『女子少年刑務所』は存在せず、未成年の少女が重罪を犯した場合には普通の女囚刑務所に送られる)。
愛原:「高橋、よく我慢したな。偉いぞ」
私は高橋の方に向き直って褒め言葉を掛けた。
だが、高橋は何故かボーッとしていた。
彼女はオーラを隠していたようだが、やはり元ヤンとしては、隠されたオーラを感じ取ってしまったのだろうか。
高野:「先生、違いますよ」
高野君は溜め息を吐いた。
高野:「とんでもない女に『惚れ』ちゃったね」
な、何だってー!?