報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「東京入り」

2020-04-26 19:36:51 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月25日11:30.天候:晴 東京都台東区上野 JR上野駅・新幹線乗り場]

 稲生の両親が仮住まいの為に借りたマンションは、北区王子にある。
 新幹線で行こうとすると、途中通ることになる。
 但し、ホームは無いので車窓から眺めるだけだ。
 右手には飛鳥山公園、左手には国立印刷局王子工場がある。
 後者には近隣に東京工場という別の工場があり、そちらは一般人向けの見学会が定期的に行われるのに対し、王子工場では一切行われていない(代わりに『お札と切手の博物館』が併設されている。入館無料)。
 もっとも、それらとてコロナウィルス騒ぎでどうなっているのか不明である。

 稲生:「駅に程近いマンションだっていうので、歩いてすぐだよ」
 マリア:「そう」

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく、上野です。山手線、京浜東北線、常磐線、地下鉄銀座線と地下鉄日比谷線はお乗り換えです。お降りの際はお忘れ物の無いよう、お支度ください。上野の次は、終点東京です〕

 上中里駅の横を通過する頃、自動放送が流れて来た。

 稲生:「そろそろ先生を起こしに行きますか」
 マリア:「私が行く」
 稲生:「いいんですか?」
 マリア:「いざとなったら、これで一発叩いて……」

 マリアはローブの中から魔法の杖を出した。
 魔女っ娘が持つ短い棒ではなく、頭部に装飾が施された長い物である。
 これがスルスルとローブのポケットに入るのだから、どちらも魔法の物なのだと分かる。

 稲生:「いや、ハハハ……」

 マリアは隣の11号車に向かった。

 稲生:「さて、僕も降りる準備をしよう」

 因みにマリアの人形達は自分で荷棚から下りて来た。
 しかも自分達が入っていたバッグも下ろして。
 マリアに持ってもらう必要、無いのではないかと一瞬首を傾げる。
 で、自分達でバッグの中に入ってしまった。

 ミク人形:「バイバイ」(@^^)/~~~

 最後に稲生に手を振ってスッポリと中に入った。

 稲生:「完全に旅慣れてしまっている……」

 そうしているうちに列車は日暮里駅の横を通過し、完全に地下に潜った。
 地下トンネルの中にホームがある新幹線の駅なんて、上野駅くらいしか無いのではないかと思ってしまった。

〔「ご乗車ありがとうございました。まもなく上野、上野です。22番線に到着致します。お出口は、右側です。上野駅から常磐線ご利用のお客様、今度の快速、勝田行きは10番線から11時52分。特急“ひたち”11号、いわき行きは8番線から12時ちょうどに発車致します」〕

 マリア:「ほら、こっちですよ」
 イリーナ:「マリアぁ、もう目は覚めてるから引っ張んないでよ~」
 マリア:「私が起こしに行かないと寝てた癖に何言ってるんですか!」

 無事にマリアはイリーナを起こしてくれたようだ。
 そうしているうちに列車がホームに入線した。

 イリーナ:「何か地下鉄のホームみたいね」
 稲生:「まあ、地下に通った鉄道路線のホームという意味では同じですかね」

〔ドアが開きます〕

 停車してドアが開く。
 上野駅にもホームドアは無い。

〔「ご乗車ありがとうございました。上野、上野です。車内にお忘れ物の無いよう、ご注意ください。……」〕

 ホームに降りた乗客も数少なかった。
 反対側の下りホームはもっと乗客が多いはずだが、そちらも疎らである。

 稲生:「何か、出歩いているのが申し訳無いくらいです」
 イリーナ:「用事を済ませて、さっさとホテルに引き篭もる?」
 稲生:「その方がいいかも……」
 マリア:「ショッピングができないとなると、無駄に出歩く理由が無いですからね」

 マリアはそう言って、エスカレーターに乗った。

 稲生:「まあ、確かに」

 稲生達もエスカレーターで地上に向かう。

[同日11:54.天候:晴 JR上野駅 在来線改札内コンコース→JR京浜東北線1112A電車10号車内]

 途中、トイレに立ち寄った。
 出てくるのは、いつも稲生が1番最初。

 マリア:「お待たせ」
 稲生:「あ、はい」
 イリーナ:「飲んだワインの半分くらいは出して来たよ」
 稲生:「あはは……」

 元々イリーナは酔ってすらいない。
 まあ、アルコールチェックでもすれば、少しは反応が出るのかもしれないが。

 稲生:「それじゃ、行きましょう」

 階段を下りて、田端方面ホームに向かう。
 新幹線で通った所を少しだけ戻るという奇妙なコースだが、乗車券の旅客営業規則上は何の問題も無い。
 前回でも述べたが、稲生達が持っている乗車券は『東京都区内』が下車駅。
 つまり、東京23区内にあるJRの駅なら、どこででも降りて良いというものだ。
 王子駅は北区にあるので、対象内である。
 因みに関西にも同じような名前の駅があるが、当然そちらは対象外である。

〔まもなく1番線に、快速、南浦和行きが参ります。危ないですから、黄色い点字ブロックの内側で、お待ちください。次は、田端に止まります。鶯谷、日暮里、西日暮里には停車致しません。山手線の電車をご利用ください〕

 上京すれば必ず世話になる京浜東北線がやってくる。
 快速運転時間中は山手線より混む路線だが、やはりガラガラであった。

〔うえの~、上野~。ご乗車、ありがとうございます。次は、田端に止まります〕

 マリア:「乗客、少ないな」

 マリアはブルーの座席に座りながら言った。

 イリーナ:「東京に来れば必ず、私達のような入国者がいたわ。だけど今は、それすら見かけない」
 稲生:「もちろん全員が出て行ったわけではありませんから、少しは残っているでしょうけどね。だけど、確かに明らかに少なくなりました。だからこそ、余計に目立ちやすい」

 更にローブなんか着ていると尚更だ。

〔「お待たせ致しました。快速、南浦和行き、まもなく発車致します。次は、田端に止まります。停車駅にご注意ください」〕

 ホームから発車ベルの音が聞こえてくる。
 山手線の方は発車メロディになったが、京浜東北線は相変わらず電子電鈴である。

〔1番線の京浜東北線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車を、ご利用ください〕

 電車のドアとホームドアが閉まる。
 利用者が少ないからか、駆け込み乗車は無かったようで、再開閉は無かった。
 それから走り出す。

〔この電車は京浜東北線、快速、南浦和行きです。停車駅は田端と、田端からの各駅です。次は、田端です〕
〔This is the Keihin-Tohoku line rapid service train for Minami-Urawa.The next station is Tabata(JK34).〕

 左に向かって大きなカーブがあるので、車輪の̰軋み音が響いてくる。
 新型コロナウィルス対策の為、滅多に開けない窓が開いているので、尚更響いて来るのだ。
 今日は暖かいが、更に天井からは空気清浄機の作動する音も聞こえて来ている。

 イリーナ:「御両親に、もうすぐ到着するってメール、送っておいたら?」
 稲生:「そうですね。恐らく、昼食を用意して待ってくれていると思います」
 イリーナ:「それはいいわね。本当はディナーの方が盛り上がるんでしょうけど……」
 稲生:「普通はその後泊まるコースでしたからね。ところが今は、それが使えないので……」
 マリア:「うちの毒親が本っ当すいません!」

 電車は軽やかに途中の駅を通過していった。
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“大魔道師の弟子” 「Stay Home週間」 2

2020-04-26 11:31:16 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月25日09:50.天候:晴 長野県長野市 JR長野駅新幹線乗り場→北陸新幹線556E列車]

 屋敷のある白馬村から県内移動の特急バスで長野駅までやってきた魔道士達。
 駅前も閑散としている。

 稲生:「思っていたよりも、随分寂しくなったものです」
 イリーナ:「厳戒態勢ね。もっとも、ロシアのそれと比べたら随分とユルユルだけど」
 マリア:「それは言えてます」

 マリアも一瞬、『元・共産主義国と一緒にしてやらないでください』と言いたかったが、イギリスよりも緩い態勢なので言わないでおいた。

 マリア:「店も閉まってる」
 稲生:「NEWDAYSは辛うじて開いてますね。因みに情報では、車内販売も一斉休業中です」
 ミク人形:「ファッ!?」
 ハク人形:「ファッ!?」
 稲生:「もしアイス食べたかったら、今のうちにNEWDAYSで買っておいた方がいいですよ」
 マリア:「その方が良さそうだ」
 稲生:「飲み物くらいなら、ホームの自販機くらい稼働しているでしょうけどねぇ……」
 マリア:「飲み物も確保しておいた方が良さそうだ」
 稲生:「……ですね」
 イリーナ:「♪」
 マリア:「師匠、昼間っから酒はダメですよ!」
 イリーナ:「ええ~?」

 イリーナ、ミニサイズのワインを手に取っていた。

 マリア:「だいたい、いつも寝てるじゃないですか?」
 イリーナ:「さっきバスの中で寝たから、少し眠気が覚めたのよ」
 マリア:「だからって、酒は……」
 ポテンヒット:「はい、外人の姉ちゃん達、ちょっとゴメンよ~、ヒック。やっぱ旅のお供には酒だよなぁ、あぁ?ビールにワンカップに“鬼殺し”っと……ヒック」
 イリーナ:☞
 マリア:「あ、あれは日本人ですから!」
 稲生:「マリアさん、そろそろ急がないと列車が出てしまいます」
 マリア:「あー、もう!自己責任でお願いしますよ!」
 イリーナ:「やった!」

 飲み物やら食べ物やら購入して、それから新幹線ホームに向かった。

〔13番線に9時55分発、“かがやき”506号、東京行きが12両編成で参ります。この電車は大宮、上野、終点東京の順に止まります。グランクラスは12号車、グリーン車は11号車、自由席は……〕

 ホームに出ると、上り副線には“はくたか”が停車していた。
 稲生達が乗るのは、こちらの方である。
 バスの遅延などを懸念して、少し余裕を持たせたのであるが、杞憂であったようだ。

 稲生:「それでは先生はグリーン車へどうぞ」
 イリーナ:「はいよ。一人寂しくやってるよ。いつもの通り、大宮で降りるのね」
 稲生:「いえ、違います。上野です」
 イリーナ:「あ……」
 マリア:「師匠。勇太の御両親は都内で仮住まいだって言ってたじゃないですか」
 イリーナ:「そうだったわね」
 稲生:「乗車券が『東京都区内』ですから」

 長距離キップの時、東京都区部のJR駅ならどこで最終的な出場をしても良いという乗車券。
 中距離だと『東京山手線内』になり、山手線とその内側にある中央線の駅ならどこで出場しても良い。

 マリア:「あっちもガラガラだ」

 上り本線にやってきた速達列車。
 新幹線は速達列車ほど混雑する傾向があるが、それでさえ車内を見ると数えるほどの乗客しかいなかった。
 最速達の“かがやき”でさえその有様なのだから、それより遅い“はくたか”にあっては……。

 稲生:「本当にグリーン車誰もいない……」
 イリーナ:「寝るには静かでいいかもねぇ……」

 その隣の普通車に乗る稲生とマリアは……。

 稲生:「2人……いや、3人……かな」
 マリア:「ルーシーに、『新幹線、ほぼ貸し切りなう』って水晶玉でツイートしておくか」
 稲生:「『ユーロスター、完全貸し切りなう』って返されますよ、きっと」
 マリア:「そもそも今、運行してるの、あれ?」
 稲生:「分かりません」

 2人は指定された2人席に腰かけた。
 人形達の入ったバッグは荷棚に置く。
 バッグの中に入れてても人形達は勝手に中から出て来て、直接荷棚の上に寝そべったり、座り込んだりするのだ。

[同日09:59.天候:晴 JR北陸新幹線556E列車10号車内(イリーナは11号車)]

〔14番線から、“はくたか”556号、東京行きが発車致します。次は、上田に止まります。黄色い線の内側まで、お下がりください〕

 発車メロディとして、長野県民歌“信濃の国”が流れる。
 それから客終合図の甲高いブザーが鳴って、車両のドアが閉まった。
 因みに長野駅新幹線ホームには、ホームドアが無い。
 仙台駅と同じ、全列車が停車するという理由で設置されていないそうだ。

 稲生:「取りあえず、母さんに無事に列車に乗ったというメールだけしておきます」
 マリア:「うん」

 マリアは頷きながら紅茶の入ったペットボトルの蓋を開けた。
 列車が走り出すと同時に、稲生はスマホを操作する。

 ミク人形:「アイス美味しー」
 ハク人形:「アイス美味しー」

 今やシンカンセンカタイアイスは希少物か。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。本日も北陸新幹線をご利用くださいまして、ありがとうございます。この列車は、“はくたか”号、東京行きです。次は、上田に止まります。……〕
〔Ladies & Gentlemen.Welcome aboard the Hokuriku Shinkansen.This is the Hakutaka superexpress bound for Tokyo...〕

 稲生:「それにしても、こんなガラガラの光景は珍しいですよ」
 マリア:「今のうちかもね」
 稲生:「今回の旅行の目的、何もうちの両親の見舞いと再建中の実家の視察だけじゃないんでしょう?」
 マリア:「ワンスターホテルへの宿泊を許可したということは、だ。魔界に行って、何か『クエスト』でもして来いってことだろ」
 稲生:「クエスト。達成できるかなぁ?」
 マリア:「できなかったら、『追試』か『補習』かな」
 稲生:「何とか頑張ります」

 稲生は大きく頷いた。

 マリア:「まあ、魔界に行っていきなり『クエスト達成しろ』なんてことはないだろう。アナスタシア組じゃあるまいし。その辺はのんびりできるところが、うちの組のいい所かな」
 稲生:「助かります」
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