報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「3月半ばの頃は、まだ都市封鎖なんて他人事だった」

2020-04-05 19:43:58 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月13日11:22.天候:曇 東京都千代田区丸の内 都営バス東京駅丸の内北口停留所→都営バス東20系統]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 大日本製薬本社ビルで、斉藤社長と会談した私は事務所に戻るべく、再び東京駅に向かった。
 といっても、その前から出ているバスに乗れば乗り換え無しで帰れる。

 高橋:「先生。1つ思ったんですけど……」
 愛原:「何だ?」

 バスに乗り込み、後ろの席に座って高橋が言った。

 高橋:「あれだけの大企業のトップに会いに行くのに、都営バスってのもどうかと……」
 愛原:「別に、堂々とエントランスから入って受付することに変わりは無いんだからいいだろうが」

 私はそう言ったのだが、確かに恐らく都営バスで社長に会いに行くVIP客もいるまい。
 そりゃ新幹線で上京してきて、そこから徒歩であのビルに向かうというのはあるだろう。
 本社ビルは東京駅から歩いて行ける距離にあるからだ。
 あとはハイヤーか、安くしてもタクシーといったところか。
 ハイヤーならそのまま地下駐車場に入って行き、VIP用車寄せからビル内に入って行くことができるからだ。

 愛原:「経費削減の折、公共交通機関に拘ってしまったが、今度はタクシーくらいチャーターするか」
 高橋:「レンタカーを手配してくれれば、俺が運転しますよ?」
 愛原:「……いや、それは遠慮しておく」

 私は肩を竦めた。
 と、時間になったのか、バスにエンジンが掛かる。

〔発車致します。お掴まりください〕

 バスが走り出す。
 それにしても、最近のバスは前扉が再び折り戸になり、折り戸のすぐ後ろの展望席も無くなったものだ。
 で、オートマが増えつつある。

〔ピンポーン♪ 毎度、都営バスをご利用頂きまして、ありがとうございます。このバスは日本橋、門前仲町、東京都現代美術館前経由、錦糸町駅行きでございます。次は呉服橋、呉服橋。朝日生命大手町ビル、日本ビルヂング、丸の内中央ビル、東京駅日本橋口へおいでの方は、こちらが便利です。次は、呉服橋でございます〕

 愛原:「このバスで行くと、ちょうどお昼くらいに事務所に着けるな。ついでに昼飯を買って行こう」
 高橋:「そうっスね」
 愛原:「高野君と……どうせリサもいるだろうから、何がいいか聞いてみよう」

 私はスマホを取り出した。
 因みに都営バスでは、一般路線バスにしては珍しくWi-Fiが導入されている。
 一部には運転席の後ろにモニターも付いているし、さすが予算が潤沢にある公営バスは違う。

 愛原:「高野君は照り焼きマックバーガーのセット、リサがビッグマックのセットだって」
 高橋:「結局、マックに走るわけですか」
 愛原:「まあ、いいや。たまにはハンバーガーもいいだろう。吉牛はこの前食べたし」
 高橋:「先生が仰るなら、吝かではないですが……」
 愛原:「俺のdポイントカード使ってくれ」
 高橋:「分かりました」

[同日11:55.天候:曇 東京都墨田区菊川 都営バス菊川駅前バス停→マクドナルド菊川駅前店→愛原学探偵事務所]

〔ピンポーン♪ 次は菊川駅前、菊川駅前でございます。都営地下鉄新宿線、都営バス、東京すかいつりー駅方面と築地駅方面はお乗り換えでございます。次は、菊川駅前でございます〕

 愛原:「そういえば、絵恋さんのマンションもこの近くだったよなぁ?」
 高橋:「な、何スか?奴らのマンションは、新大橋通り沿いっスよ?ぶっちゃけ、次の次のバス停の辺りっス」
 愛原:「俺は絵恋さんのマンションだと言ったのに、高橋君は『切り裂きパール』も思い浮かべたわけだね」
 高橋:「せんせぇ……」
 愛原:「ああ、悪かった悪かった」

〔「ご乗車ありがとうございました。菊川駅前です。菊川駅の入口は、バスの進行方向に進んだ先の交差点にございます」〕

 私達はバスを降りた。

 愛原:「明日は迎えの車が来るって話だからな。絵恋さんも一緒に乗って行くんだとしたら、もしかしたら霧崎さんも一緒かもしれんぞ?」
 高橋:「!」

 やれやれ。
 これでゲイぶりが治ってくれればいいんだが。

 愛原:「ただいまー」

 マックに寄って頼まれた物を買い、両手にビニール袋を提げて私達は意気揚々と引き揚げた。

 高野:「お疲れ様です、先生」
 リサ:「お帰りなさい、先生」
 愛原:「うーっス。お昼にしよう。早速買って来たぞー」
 リサ:「わー♪」

 リサは喜びの余り、第1形態に戻ってしまった。
 これだけなら、まだ体が赤銅色に変わり、額に一本角が生え、両耳が長く尖り、両手の爪も尖る程度で済むのだが……。
 いや、確かにこれだけでも相当の変化だとは思う。
 だけど、まあ、まだ御愛嬌な方か。
 因みに犬歯も尖るので、ますます鬼のようだ。

 愛原:「リサ、明日、絵恋さんの家に行くぞ。埼玉の方だ」
 リサ:「ほーなの?」

 リサ、口いっぱいにハンバーガーを頬張りながら答えた。

 愛原:「斉藤社長が夕食会を開くって言うから、お前も一緒に来い。多分、絵恋さんも一緒だ」
 リサ:「りょーかい」
 高橋:「おい、コラ!先生に何だその口の利き方は!?『かしこまりました。先生』だろ!?」

 高橋はリサに向けてマグナムの銃口を向けた。

 高野:「マサ、そういうのは先生が注意するものよ。いいからあんたも食べな」
 愛原:「そうだよ。別に俺は気にしてないから。それに、リサにマグナムは効かないって何度言ったら分かるんだ」

 マグナム弾を頭に受けても、『痛っ!』で済むようなレベルだぞ?
 普通なら、頭が潰れたトマトになって即死するところを。
 それをリサも知ってか、はたまた高橋が本当に撃つわけないと思っているのか、リサは全く気にせずハンバーガーを食べている。

 リサ:「一個じゃ足りないかな……」
 愛原:「ほら、こんなこともあろうかと、予備を買っておいた」

 私は単品で購入したチーズバーガーをリサに渡した。

 リサ:「さすが先生!」
 愛原:「セットのポテトもあるから、それも食っていいから」

 食欲旺盛な所は育ち盛りだからというのも去ることながら、やっぱりそういうことには貪欲なBOWなんだからだろうな。
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“私立探偵 愛原学” 「斉藤社長の帰国」

2020-04-05 11:32:54 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月13日09:41.天候:曇 東京都墨田区菊川 都営バス菊川駅前バス停→都営バス東20系統車内]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 先日、ついに斉藤社長が帰国した。
 しかしマスコミの囲み取材は答えず、無言で迎えの車に乗ったのがテレビで観た社長の姿だった。
 その後で正式な記者会見をしたのだが、社長の答えは、新型コロナウィルスに対して有効と確認できるワクチンを手に入れることはできなかったというものだった。
 では一体、何の為にヨーロッパに行ったのか?ただの国外逃亡だったのではないかという批判に対しては、まるで政治家のように交わしていった。

 高橋:「先生、バス来ましたよ」
 愛原:「ああ」

 私と高橋はこれから斉藤社長に会いに行く。
 どんな話が聞けるのだろう。
 バスに乗り込むと、後ろの席に座った。
 本数の少ないバス路線であるから、そんなにいつも混んでいるわけではないのだが、今日は尚更空いているような気がした。
 大日本製薬を始め、多くの大企業ではそろそろテレワークなどを始めているらしい。
 それに、学生達も自宅待機からそのまま春休みに入ったということもあろうか。

〔発車致します。お掴まりください〕

 バスが走り出す。
 大日本製薬も、研究所などではテレワークは無理だろう。
 できるのは本社の事務部門とか、それくらいではなかろうか。

〔ピンポーン♪ 毎度、都営バスをご利用頂きまして、ありがとうございます。このバスは東京都現代美術館、門前仲町、日本橋経由、東京駅丸の内北口行きでございます。次は森下五丁目、森下五丁目でございます。……〕

 愛原:「どうなんだ?霧崎さんのことは?」
 高橋:「俺は先生一筋ですんで、あいつのことなんかどうでもいいんです」
 愛原:「お前はLGBTのGだと思っていたが、実はBなんじゃないのか?」
 高橋:「そ、そんなことはないっス」

 確かに思いっ切り影のあるメイドさんであるが、容姿はけして悪くはない。
 彼女が事件を起こした時、未成年だったということもあって、実名報道だの顔写真だのは出てこなかった。
 高橋に言わせれば、当時の『切り裂きパール』はポッチャリしていた上、メイクも派手で、いかにもヤンキー女って感じだったらしい。
 今はむしろほっそりしていて、メイクも地味だ。
 メイドカフェの店員の中には、コスプレの一環なのか、派手なメイクをしている者もいるというのに。

 愛原:「いいんだって。気にするなよ。男の俺を追い掛けるより、女の尻を追い掛ける方が男にとってはごくごく自然なことだから」
 高橋:「俺は今は一流の探偵目指して勉強中です。そんなヒマはありませんよ」
 愛原:「はは、そうか」

 硬派ぶっているが、私には強がっているように見えたがな。

[同日10:30.天候:曇 東京都千代田区丸の内 大日本製薬本社]

 終点でバスを降り、東京駅に程近い高層ビルの中に大日本製薬はある。
 そこの総合受付で、見目麗しい容姿の受付嬢に用件を伝える。
 高橋にも一応スーツは着させているが、やっぱりどうしてもこいつが着ると歌舞伎町のホストみたいになってしまう。
 顔に傷跡があるホストなんかモテるのかと思うかもしれないが、『だが、それがいい』という女性客も一定数いるようだ。
 俗に言うオラオラ系というか、ワルだった頃の武勇伝を聞くのが好きな女とか……いるのかと思うのだが、いるらしいな。

 受付嬢:「お待たせ致しました。それでは奥のエレベーターで、30階へどうぞ」
 愛原:「ありがとうございます」

 私と高橋はVIP用ゲストカードを受け取った。
 これは役員エリアに向かう来訪者に渡すものらしい。
 受付嬢は私に渡す時は普通の対応だったが、高橋に渡す時は何故か生唾を飲み込むような仕草になった。
 本人は気づいていないが、イケメンなんだよなぁ……。

 愛原:「それじゃ、行くぞ」
 高橋:「はいっ!」
 警備員:「それでは、こちらのゲートからお通り下さい」

 警備員の敬礼に迎えられて、役員エリアに向かうエレベーターホールに入る。
 さすがにオフィスビルということもあってか、外が見えるエレベーターではなかった。

〔ピンポーン♪ 30階です〕

 エレベーターで一気に上がると、耳がツーンとなるのはセオリー。

 秘書:「お疲れ様でございます。ご案内させて頂きます」
 愛原:「どうもすいません」

 私達は女性秘書についていった。
 役員エリアということもあって、その空間はとてもシックな造りになっている。

 秘書:「こちらでございます」

 応接室に通された。
 もう1つドアがあるが、そこが社長室だろう。

 高橋:「先生も、いずれはこのようなビルに……」
 愛原:「いや~、さすがに無理だろう」
 高橋:「先生ならきっとできますよ」
 愛原:「プレッシャー掛けないでくれよ」

 大手の探偵会社の中には、立派なオフィスビルを構えている所もあるにはあるが……。
 警備会社だって超大手のセコムやアルソックであれば、今私達がいるビルに匹敵する規模の本社ビルを構えているくらいだ。

 秘書:「失礼致します」

 秘書さんがお茶を持ってきてくれる。

 愛原:「あ、こりゃどうも。どうぞ、お構いなく……」

 やはり、もう1つのドアは社長室なのだろう。
 そこから斉藤社長が出て来た。

 斉藤秀樹:「やあ、どうも。今日は御足労ありがとうございます」
 愛原:「いえいえ。仕事の依頼とあらば、どこへでもお伺い致しますよ」
 秀樹:「残念ながら、今日は仕事の依頼ではないのですよ。もっとも、この前の仕事の報酬追加払いの話ではありますがね」
 愛原:「追加払い?」
 秀樹:「娘が色々とお世話になりましたからね」
 愛原:「さすがにBOWは想定外でしたが、何とかなりましたので。それで、娘さんは今後どうなさるおつもりですか?」
 秀樹:「ドイツの愚息を折檻してきまたよ。妹……つまり、娘を勝手に実験台にした廉でね」
 愛原:「実験台!?」
 秀樹:「全く。あれでは昔のアンブレラと何ら変わることが無い。ワクチンというのは、そのウィルスを弱毒化または無毒化したものであることは愛原さんも御存知ですね?」
 愛原:「ええ。インフルエンザのワクチンなんか、その代表例ですね。あとは、BCGとか……」
 秀樹:「ええ。ワクチン同士であっても実験はできると見た愚息が娘を勝手に実験台にしました。目論見は成功し、娘はああなったというわけです」
 愛原:「そりゃヒドい」
 秀樹:「しばらく日本に帰って来なくていいと言っておきました。本当なら留学そのものを中止させて強制帰国させようかと思ったんですが、どうもこの先、むしろそうしない方がいいような気がしましてですね」
 愛原:「何かあるんですか?」
 秀樹:「新型コロナウィルスの猛威は更に酷くなるでしょう。さしもの日本も、鎖国せざるを得ない。そんな状況になりそうです」
 愛原:「ええっ!?」
 秀樹:「もちろん江戸時代以前じゃあるまいし、鎖国はオーバーな表現ではありましょうが、しかしそれくらいの勢いの対応を政府は迫られるということです。ヨーロッパでは既にその対応を始めている。到底オリンピックどころではないわけです」
 高橋:「『中止だ、中止!』」
 愛原:「高橋」
 高橋:「サーセン……」
 秀樹:「とにかく愚息にはワクチンを作らせました。それを娘に投与すれば、娘はまた元に戻れるはずです。手遅れでなければ、の話ですが」
 愛原:「じゃあ、急いで打ちませんと」
 秀樹:「今日、娘が都内の病院に行っているはずです。その時、投与されるはずです」
 愛原:「おお~」
 秀樹:「そこでやっぱり仕事の依頼をしたいのですが、娘の様子を見に行ってはもらえませんか?病院の場所はお教えします」
 愛原:「あ、はい。もちろん、喜んで」
 秀樹:「報酬は……そうですね。明日、お支払いしましょう」
 愛原:「明日は土曜日ですが?」
 秀樹:「私の家に来てください。もちろん、リサさんも連れてね」
 愛原:「なるほど」

 夕食会でも開こうって話か。
 飲食店とかはウィルスが怖いから、家に集まろうって話なのかな。
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