報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「さいたま市でバイオハザード発生!?」

2020-04-13 21:02:27 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月15日08:00.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 斉藤家]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 昨夜は斉藤社長のお誘いで、一泊させて頂いた。
 そして今、朝食まで御馳走になっている。
 朝食を食べ始めて間もない頃、社長のお抱え運転手、新庄氏がダイニングにやってきて、社長に何か言っていた。

 斉藤秀樹:「それは本当なのかね?」
 新庄:「はい。いかがなさいましょうか?」

 新庄氏は私を見た。
 どうやら、私達に何か関係のある話なのだろうか。

 秀樹:「分かった。……ちょっと皆さん、よろしいでしょうか?」
 愛原:「何でしょうか?」
 秀樹:「こちらの新庄が重大な情報を手に入れたようです。食べながらでいいので、聞いてやってください」
 新庄:「お食事中、申し訳ありません……」

 新庄氏はハンカチで顔を拭いながら、深刻な顔をして話し始めた。

 新庄:「愛原様や高橋様は御存知だと思いますが、昨夜、この近所の国道で事故が発生しました。パトカーや救急車がサイレンを鳴らして、現場に向かった所をご覧になったかと思います」
 愛原:「それは知っています」
 新庄:「実は事故を起こしたのは、私がかつて所属していたタクシー会社の車でして、それも、ただの事故ではなかったようです」
 愛原:「と、仰いますと?」
 新庄:「走行中、客を装った強盗に襲われて、それでハンドルを取られて対向車線に飛び出してしまい、そこで大型トラックと正面衝突したそうです。その時の運転手も強盗も死亡しました」
 愛原:「今、ニュースでやってる?」

 私はスマホを取り出した。
 だが、2人死亡の事故なら地域ニュースにくらいなっていると思うが、何故か出ていなかった。

 愛原:「……無いな」
 新庄:「実はあの事故現場のすぐ近くには、同じ会社の別の車がいまして、その運転手が私と今でも懇意なのです。これは、その運転手から聞いた話です」

 新庄氏と懇意のタクシー運転手が事故現場に向かうと、事故を起こしたタクシーは見るも無残な状態になっていたという。
 彼がその事故タクシーの車内を覗くと、そこには異様な光景が広がっていたとのことだ。
 もちろん、大衝突事故だ。
 車内の乗員乗客が無事な状態ではないことは想像に難くない。
 しかし、明らかに異様であったという。
 それは……。

 新庄:「後ろに座っていたのは男性客が1人だけだったんですが、その体が異様に腐敗しており、しかもそれが運転手の首に食らいついた状態だったとのことです」
 愛原:「はあ!?」
 高橋:「先生、それって!?」

 私が回答を出すより、先にリサが言った。

 リサ:「ゾンビに襲われた……」

 その後、事故タクシーは炎上し、2つの遺体は焼死体として警察に回収されたそうである。

 愛原:「その事故タクシーはどこからどこへ向かっていたのか分かりますか?」
 新庄:「大宮区内の住宅地から、さいたま赤十字病院に向かっていたそうです。自宅で具合が悪くなったので、掛かりつけの医者がいるさいたま赤十字病院に急患として向かう途中だったそうで……」
 愛原:「これは、善場主任に連絡した方がいいかもしれないな」

 大宮区のどこの住宅街なのか知りたいが、新庄氏はそこまでは知らないという。
 タクシーを配車するオペレーターなら知っているのかもしれないが、顧客の個人情報に関わるので、教えてくれないそうだ。

 愛原:「分かりました。後で政府エージェントに連絡してみます」

 もしかしたら、もう知っているかもしれないがな。

[同日09:00.天候:晴 斉藤家]

 朝食を終えた私は、早速善場主任に連絡してみた。
 今日は日曜日だから休みかなと思ったが、意外とすぐに電話に出てくれた。
 そして……。

 善場:「確かに何も無ければ公休だったのですが、愛原所長の仰る通り、さいたま市で何かあったようです。私も向かいます」

 とのことだった。
 私は何か手伝った方がいいのかなと思ったが……。

 善場:「今のところは結構です。強いて言うなら、できるだけ速やかに帰京してください」

 とのことだった。
 ま、そりゃそうか。
 向こうは国家公務員、こちらは民間の探偵だ。

 霧崎:「御嬢様、リサ様、制服が仕上がりました」
 絵恋:「ありがとう」
 リサ:「おー、ピカピカ」

 まるで本当にクリーニング店に出した後のように、ピシッと畳まれた制服が2着あった。

 高橋:「なるほど。女子刑務所でも、洗濯やアイロン掛けは教わるんだな」

 高橋の言葉を霧崎さんは無視した。
 本当に嫌われてるんだろうか?

 高橋:「料理や裁縫も教わるみてーだし、メイドには打ってつけかもな」

 そういうことか?
 しかし、斉藤社長の狙いは別にあるような気がする。
 出所後、職住が無くて再犯する受刑者も少なからずいる。
 それを防ぐ為に斉藤社長は使用人として拾ったとのことだが、それにしてもなぁ……。

 リサ:「このまま着るのが勿体ない」
 絵恋:「そうねぇ……。学校が始まるまで取っておきましょうか。パール、この制服包んでくれる?リサさんのも」
 霧崎:「かしこまりました、御嬢様」

 学校、本当に始まれるんだろうか。
 斉藤社長の見立てでは、始業式を行うのは難しいだろうとのことだが……。
 霧崎さんが制服を持って奥に行くと、高橋も後を追った。
 ようやっと愛の告白をするつもりか?
 しかし、霧崎さんの態度を見る限り、物凄く不利な感じだぞ?

 リサ:「先生、これからどうする?」
 愛原:「そうだな……。もうやることもないし、善場主任からは帰るように言われた。そろそろ帰るとするか」

 私は斉藤社長にその旨、伝えた。

 秀樹:「おお、今お帰りですか」
 愛原:「何かあるんですか?」
 秀樹:「実はたった今、新庄が車のガソリンを入れに行った所なんです。戻るまで、しばしお待ち頂けますか?」
 愛原:「何だ、そんなことですか。この近所のガソリンスタンドでしょう?だったら、そこまで私達の方から行きますよ。その方が効率的でしょ」
 秀樹:「ですが……」
 絵恋:「それ、いいですね。ずっと家にいて、体が鈍っちゃうわ。少しは運動しないと」
 秀樹:「絵恋、昨夜あんなにプールで遊んだじゃないか」
 リサ:「でも、まだ少し物足りないような気はする」
 愛原:「このコ達、まだまだ育ち盛りですからね。外で体を動かしたいんですよ。ま、ちょっと歩くだけですけど。天気もいいし、私達の方から行きますよ」
 秀樹:「はあ、分かりました。では、新庄にスタンドで待っているように伝えておきますので」
 愛原:「ありがとうございます」

 私は社長からガソリンスタンドの場所を聞いた。
 そして、荷物を持って斉藤家を後にしたのだった。
 尚、もちろん高橋も一緒だが、霧崎さんも一緒だった。
 高橋がガックリと肩を落とし、霧崎さんは相変わらず無表情で絵恋さんの荷物を持っていた。
 これは……フラれたか。
 かわいそうに……。
コメント (1)
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