報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「ワンスターホテルで過ごす」

2020-04-29 19:53:07 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月25日16:35.天候:曇 東京都江東区森下 ワンスターホテル]

 エレーナ:「ワンスターホテルへようこそ!……だぜ」
 稲生:「雨が降る前に到着できて良かった」
 マリア:「ていうか師匠、“マジックスター”開いてますよ?そっちでいいんじゃないですか?」
 イリーナ:「それもそうね。でも、雨が降って来る方が先よ」
 マリア:「はあ……」
 エレーナ:「オーナー、ただいまですー」
 オーナー:「お帰り。……あ、いらっしゃいませ」
 稲生:「こんにちは。予約していた稲生です」
 オーナー:「お待ちしておりました。それでは、こちらに御記入を」

 稲生、慣れた様子で宿泊者カードにペンを走らせる。

 オーナー:「ありがとうございます。それではお部屋の方ですが、デラックスツインとデラックスシングルを御用意させて頂きました。お支払いは……」
 イリーナ:「ダー。私のカードで」

 イリーナ、プラチナカードを差し出す。
 ブラックカードも持っているはずだが、伝家の宝刀のつもりか、普段は使わない。

 オーナー:「ありがとうございます」

 暗証番号は稲生にも教えられているので、代わりに稲生が操作する。

 オーナー:「それでは、こちらの501号室がデラックスツイン、502号室がデラックスシングルになっております」
 イリーナ:「じゃ、私はシングルで……」
 稲生:「えっ!?」
 マリア:「師匠!」
 イリーナ:「……と、言いたいところなんだけど、後でダンテ先生に説明するのが面倒だから、マリアがシングルねw」
 マリア:「もっと面倒なことになると思いますが?」
 エレーナ:(『いけない女教師シリーズ』……?)

 もちろん、稲生が502号室の鍵を受け取ることになった。

 エレーナ:「それじゃ、ごゆっくりー」

 稲生達は鍵を受け取ると、エレベーターに乗って5階に上がった。
 その直後……。

 鈴木:「こんにちはー」
 オーナー:「いらっしゃいませ。……エレーナ、お客様だぞ?ご挨拶!」
 エレーナ:「よ、ようこそいらっしゃいませー
 鈴木:「全然歓迎してないな。今日もお世話になります」
 オーナー:「いつもありがとうございます。それでは、こちらに御記入を」

 鈴木も慣れた様子で宿泊者カードにペンを走らせる。

 オーナー:「ありがとうございます。お支払いは?」
 鈴木:「カードで」
 オーナー:「はい、お願いします」

 鈴木が出したカードはグリーンカード。
 同じアメリカンエキスプレスでも、イリーナのプラチナカードに比べて最下級のカードである。
 とはいうものの、年会費やらサービスやら、その価値は他のクレカのゴールドカードに相当するくらいであるという。

 オーナー:「ありがとうございます。本日はスタンダードシングルでのご利用ですね。3階の311号室を御用意致しました」
 鈴木:「よろしくお願いします」

 鈴木は鍵を受け取ると、エレベーターのボタンを押した。
 だが、ランプが点かない。

 鈴木:「あれ?ランプが点かないよ?」
 オーナー:「えっ?そんなはずは……」
 エレーナ:「ないですよねぇ?」

 エレーナが押すとちゃんとランプが点いて、5階からスーッとエレベーターが下りてくる。
 それもそのはず。
 鈴木は下のボタンを押していたからである。
 地下階は機械室と倉庫、そしてボイラー技師室を改装したエレーナの部屋があり、普段はスイッチが切ってあるので、行けないようになっているのだ。
 行くようにするには、専用のスイッチ・キーが必要である。

 エレーナ:「さあ、どうぞ。ごゆっくり」

 エレーナは3階のボタンを押すと、鈴木を促した。
 顔は笑顔だが、終始こめかみには怒筋が浮かんでいる。

 鈴木:「こりゃ厳しいな。後で遊びに行くよ?」
 エレーナ:「マジックトラップ仕掛けておきまーす」

 エレベーターのドアが閉まって、鈴木を乗せた籠が上階に向かって行った。
 それを確認すると、エレーナはエレベーター・キーを操作して地下階に行けるようにした。

 エレーナ:「オーナー、あいつの部屋、稲生氏の隣にしてやったら良かったのに……」
 鈴木:「しかし、鈴木さんは今日スタンダードシングルでのご利用だ。5階にそれが無いことくらい知ってるだろう?」
 エレーナ:「ぐぬぬ……。ここ最近あいつデラックスじゃなくなったの、何ででしょうね?」
 オーナー:「何でだろうねぇ……」

 エレベーターが3階から下りて来た。
 鈴木が乗っていないのを確認してから、エレーナは地下1階のボタンを押した。

 オーナー:「全く。日が暮れちゃうよ」

 エレーナが地下階へ下りたのを確認してから、オーナーは溜め息をついた。

 オーナー:(デラックスシングルはセミダブルベッドを使用しているので、2人での利用も可能。あわよくば、鈴木さんはエレーナを連れ込もうと画策していたのだが、最近はたまにエレーナの部屋に出向けるようになったので、その必要が無くなった……といったところか。もっとも、今日はエレーナの機嫌が悪いから無理そうだけどな)

 エレーナの機嫌が良かったり、リリアンヌの好感度が上がったりすると、鈴木が地下室に行けるようになるので、これもまた1つの『クエスト』であったのかもしれない。

[同日17:00.天候:雷雨 ワンスターホテル5F501号室]

〔「5時になりました。ニュースをお伝えします。国内での新型コロナウィルスの感染者が……」〕

 マリアが適当にテレビを点けていると、窓の外からドドーンという大きな雷鳴が聞こえて来た。

 マリア:「おっ、本当にスコールか。さすがは師匠だ」

 マリアは窓の外とバスルームを見比べた。
 イリーナはバスルームでシャワーを浴びている。
 『付着したウィルスを洗い流しなさい』とのことだ。
 ローブに付いた分は、魔法の力で消し去ることができるのだが、体に付いた分にあってはシャワーなどで流さないとダメらしい。
 マリアは部屋の電話を取った。

 マリア:「……ああ、勇太。夕食の時間だけど、1時間後にしよう。師匠の指示で、私もシャワーを使うことになったから。多分、勇太も流しておいた方がいいと思うよ。……うん。それじゃ」

 外線電話は別料金だが、内線電話は無料である。
 当たり前だ。
 電話を切ると、また雷鳴が轟き、窓ガラスに滝のような雨が流れた。

 マリア:「確かに、雨に当たる前に着いて良かった」

 マリアはそう呟くと、ダークグリーンのブレザーを脱いでハンガーに掛けた。
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“大魔道師の弟子” 「ワンスターホテルへ」

2020-04-29 11:34:44 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月25日16:19.天候:晴 都営地下鉄上野御徒町駅→都営大江戸線1613B電車先頭車内]

〔まもなく2番線に、両国、大門経由、光が丘行き電車が到着します。ドアから離れて、お待ちください〕

 ホームに下りてしばらく待っていると、接近放送が鳴り響いた。
 魔界高速電鉄が運営するアルカディアメトロの地下鉄線では、ほとんど放送が流れない。
 代わりに電車が、けたまましい警笛を鳴らしながら入線してくるわけである。
 こちらの地下鉄はホームドアもあってか、滅多に警笛を鳴らして入線してくることはない。

〔上野御徒町、上野御徒町。銀座線、日比谷線、JR線はお乗り換えです〕

 マゼンタ色に塗装された電車がやってくる。
 車内は虫食い状態で席が空いている程度。
 稲生達は着席することはなく、開かないドアの前に立っていた。
 イリーナだけブルーの優先席に座る。
 マゼンタ色はピンク色と紫色に近い色のせいか、イリーナの契約悪魔レヴィアタン(シンボルカラーはピンク)と稲生との契約が内定している悪魔アスモデウス(シンボルカラーは紫)が現れている。
 もちろん人間の姿に化けた状態で優先席の前、つまり連結器の所に立っていた。
 車外スピーカーから短い発車メロディが流れ、それから電車のドアとホームドアが閉まる。
 ホームドアが無かった頃はワンマン運転ということもあり、すぐに発車していたものだったが、ホームドアの確認が加わったせいか、発車するまでに少々のブランクが発生した。

〔次は新御徒町、新御徒町。つくばエクスプレス線は、お乗り換えです。お出口は、右側です〕
〔The next station is Shin-Okachimachi.E10.Please change here for the Tukuba Express line.〕
〔日蓮正宗妙縁寺、常泉寺、本行寺へおいでの方は、蔵前で都営浅草線にお乗り換えになり、本所吾妻橋でお降りください〕

 エレーナ:「なに?あの店長から魔法石もらった?」
 稲生:「うん、まあね」
 エレーナ:「あのクソ店長」
 マリア:「オマエのせいだろうが」
 エレーナ:「私も魔界で『クエスト』に参加しようかなぁ……」
 稲生:「明日、仕事でしょ?ここにいるってことは……」
 エレーナ:「明日は夜勤だぜ」
 稲生:「だろうね」
 エレーナ:「そもそも稲生氏、『クエスト』の意味分かってるか?」
 稲生:「もちろん。『RPGにおいて、ゲームマスターから提示された冒険シナリオを端的にこう呼ぶ事がある。世界観の根幹に関わような大長編では無く、物語のメインストーリーからは外れた、短めの時間で終了する外伝的なシナリオがこう呼ばれることが多い』でしょ?」
 エレーナ:「ウィキペディアのコピペご苦労だぜ。意味そのものは大体合ってるけど、ゲーム感覚でやったら最悪死ぬイベント満載だからな?」
 稲生:「えっ!?」
 マリア:「私がフォローする。今の勇太の説明から転じて、『ダンテ一門内で行われている定期テストのこと。主にアルカディアシティ内で発生している問題を魔道士として解決に導き、その報酬を得ることで得点とする』というものだよ」
 エレーナ:「そうそう。そしてその得点が多ければ多いほど、昇格の確率も格段に上がるというわけだぜ。そうすれば稲生氏も晴れて一人前だぜ」
 稲生:「なるほど。そうか」
 エレーナ:「そうなれば稲生氏は、晴れて私と結婚できるってことだぜ。ウハウハだぜ」
 稲生:「なるほど!……ん?」
 マリア:「あぁ?
 イリーナ:「んん~?」
 マリア:「何言ってんだ、テメェ……

[同日16:26.天候:曇 東京都江東区森下 都営地下鉄森下駅]

〔森下、森下。都営新宿線は、お乗り換えです〕

 稲生:「ふう……無事に着いた」
 イリーナ:「私が止めなかったら、電車が脱線してたところだったわねぇ……」
 エレーナ:「マリアンナ、沸点が低過ぎるぜ」
 マリア:「オマエのせいだろうが!」
 稲生:「まあまあ!」

 電車を降りて改札口に向かう。

 稲生:「こりゃ早いとこ魔界に行った方がいいかもしれませんね」
 イリーナ:「慌てなさんな。今日は取りあえず、ゆっくり一泊するよ」
 エレーナ:「おう。オーナーがいい部屋用意してくれてるから、先生の仰る事に従うんだぜ?」
 稲生:「だったらもう少しマリアさんと仲良くしてくれよ~」
 エレーナ:「いや、私はしてるぜ?」
 マリア:「ウソつけ、このやろ……」

 改札口を出て更にエスカレーターと階段を上り、やっと地上に出た。

 イリーナ:「ふぅ~。地下鉄は便利だけど、アップダウンが激しいねぇ……」
 稲生:「あー、エレベーターに乗った方が良かったですね。すいません」
 イリーナ:「ま、たまには運動するさね」
 マリア:「ていうか師匠のカードで、簡単にタクシーに乗れましたね」
 イリーナ:「エレーナがアテンドしてくれるって言うんだから、その顔を立ててあげなきゃ」
 マリア:「はあ……」
 稲生:「何か曇って来てる?」
 イリーナ:「夕方、スコールがあるみたいね。夕食は、スコールが止んでからにしましょう」
 稲生:「スコールって……。いや、まあ、日本も段々そんな気候になってきましたが……」
 エレーナ:「ホウキで飛ぶのは危険だな……」
 稲生:「“魔女の宅急便”のキキも、大雨に遭って、慌てて貨物列車に避難してたもんね」
 イリーナ:「あれでいいんだよ。ヒヨっ子のうちは貨物列車に便乗するのがセオリーってもんだ。私も昔はやったねぇ……」
 マリア:「え?私無いですけど?」
 エレーナ:「だいぶ前、荷物の見張りでトラックの荷台に乗ったくらいスかねぇ……」
 稲生:「昔、威吹と一緒に貨車を改造したトロッコ列車に乗ったことがあります」
 イリーナ:「勇太君だけ合格。あとの2人は落第w」
 マリア:「何でですか!」
 エレーナ:「観光列車でいいんなら、今から乗って来ますぜ?」
 稲生:「あ、いや、エレーナ。残念だけど、今コロナウィルスのせいで、そういう列車は全面運休だ」
 エレーナ:「くそっ」

 今一つ、魔道士の定期試験の合格点が分からない弟子3人であった。
 もっともエレーナはイリーナ組ではないので、あんまり関係無い(但し、組違いであっても、そちらの師匠から合格点をもらえれば、自分の全体的な点数の足しにはなる)。
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