報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Cindy” 「出発前の準備」

2016-05-13 19:14:30 | アンドロイドマスターシリーズ
[5月13日12:20.天候:晴 JR上野駅]

 JR上野駅新幹線改札口にいるのは敷島、アリス、それにシンディである。
「それにしても、デイライトさんってのは一体何を考えているんだろう?」
 敷島は首を傾げていた。
 敷島達が上野駅のそこにいるのは、仙台からやってくる平賀とエミリーを待っているからである。
 実は今日がアメリカ行き1日前なのである。
 これからの行程における費用は、全てデイライト本社が負担してくれる代わりに、全て向こうの指示で動くことになった。
 それはとても細かいもので、既に日本国内における移動法まで文書で指定してきたのである。
 敷島の疑問は先方も想定済みなのだろう。
 ちゃんと但し書きに、『コースに理解不能な箇所も見受けられるとは思うが、今回の件はテロ事件とも関わって来る恐れが大の為、テロリストの目を攪乱させる理由もある。どうか、従ってほしい』と、書かれていた。
 効率性を重視するアメリカ人とは信じがたい非効率的な動きであるが、そうすることで、アーカンソー研究所における事件の首謀者の目を誤魔化そうという魂胆だろうか。
「あ、どうもこんにちは。科学館オープンの時はお世話になりました」
 地下深い新幹線ホームから長いエスカレーターを昇ってきて、やっと平賀とエミリーが上がって来た。
 海外旅行の為、エミリーは平賀の大きなキャリーバッグを持っている。
 敷島側に至っては、シンディが敷島夫妻の荷物を持っていた。
 マルチタイプに取っては、それでも軽い荷物である。
 エミリーは敷島夫妻に向かって、深々と頭を下げた。
 どちらかというと、角度は敷島の方に向いていたような気がするが……。
「それで敷島さん、この後、自分達はどうすれば?」
 平賀が丸い縁の眼鏡を押し上げながら聞いて来た。
「京成上野駅に移動し、特急電車に乗って向かえとのことです」
 文書というか、メールが敷島のスマホに送られている。
 敷島はそれを見て言った。
「なるほど。それで成田空港へ向かえと……」
「いや、その1つ手前の京成成田で降りてくれとのことです」
「は?」

[同日12:35.天候:晴 京成上野駅]

 新幹線ホーム同様、地下にある京成上野駅ホーム。
 1番線には、特急料金を必要としない通勤電車を使用した8両編成の電車が止まっていた。
「あっ、これですね。12時35分発、特急、成田空港行き」
「これですか……。さすがに、普通の電車代くらいは自分で払えってことですかね?」
 と、平賀。
「恐らくは……」
 3000形と呼ばれる新型車両に乗り込んだ。
 特に乗車車両、乗車位置までは決められていないので、敷島の趣味で先頭車に乗った。
 人間3人は並んで座席に座るが、ロイド2機は人間達の荷物管理の為に車椅子スペースの所に立っている。

〔「お待たせ致しました。1番線から12時35分発、特急、成田空港行き、まもなく発車致します」〕

 地下ホームに発車ベルが鳴り響く。
 電車はドアチャイムの音と共にドアを閉め、ほぼ定刻通りに発車した。

〔「本日も京成電車をご利用頂き、ありがとうございます。12時35分発、特急、成田空港行きです。これから先、日暮里、青砥、高砂、八幡、船橋、津田沼、八千代台、勝田台、佐倉、大佐倉、酒々井、宗吾参道、公津の杜、成田、空港第2ビル、終点成田空港の順に止まります。……次は日暮里、日暮里です」〕

 駅名に京成と付くものがあるが、車内放送ではカットされることが多い。
 電車は地下トンネルの曲がりくねった線路の上を突き進む。
 途中に廃駅があるのだが、今でも倉庫として使われている為、知らない人が発見したらびっくりするかもしれない。
「デイライト・コーポレーションは結局、何をしたいのでしょう?」
「うちのマルチタイプを使って、行方不明になっているマルチタイプを探したいらしいですね。きっとそこにアルバート所長もいるはずだと……」
「そう簡単に行きますかね?」
「向こうさんの言い分では、ジャニスとルディはうちのシンディ達の規格で製造したとのことで、通信関係もそれを参考にしていると。彼女らの『呼び掛け』に反応してくれるんじゃないかということです」
「自分は懐疑的ですねぇ……」
「結局、向こうもほぼハマり状態に陥っているのでしょう。打開策として、姉弟姉妹の結束力の強いマルチタイプが呼び掛ければ、反応してくれるんじゃないかという淡い期待ですね」
「ふーむ……」
「あー、そうだ」
 そこへアリスがポンと手を叩いた。
「そういえば成田に、営業所があるんだった」
「は?」
「デイライト・ジャパンの。成田営業所」
「なーんだ、そういうことか!」
「成田駅で降りろという指示は、きっとそこの営業所に迎えということですよ」
 平賀も納得した様子だった。
「いつエミリー達を梱包するのだろうと疑問に思ってましたが、そこでするんですね」
「なるべくギリギリまで彼女達に動かしておきたいってことですか」

[同日13:41.天候:晴 京成成田駅→DCJ成田営業所]

〔「まもなく成田、成田です。この電車は成田空港行きです。成田を出ますと、空港第2ビル、終点成田空港の順に止まります。東成田、芝山千代田には参りませんので、ご注意ください」〕

 電車がゆっくりとホームに進入する。
 こぢんまりとした駅が多いのも、京成電鉄の特徴だ。
 元々小さな電車から始まった電気鉄道会社ではよく見かける特徴である。
 これが東武や西武など、最初からSL列車で始まった鉄道会社はJRのように駅も広い感じに作られている。
 電車を降りる。
「取りあえず、改札口へ向かってみましょう」
「はい」
 因みに平賀の妻、奈津子は今回同行を見送っている。
 マルチタイプ姉妹は敷島達の大きな荷物、実際重いのだが、まるで中身が空であるかのように軽々と運んでいる。
 自動改札口を出ると、1人の女性がフリップを持って立っていた。
『敷島エージェンシー代表取締役社長・敷島孝夫様、東北工科大学電子工学科教授・平賀太一様、DCJRM主任研究員・アリス敷島様』
 と、書かれている。
「あんなフリップ必要無いんじゃないか?」
 敷島は肩を竦めた。
 平賀は苦笑いして頷く。
「こんにちは」
 シンディはその女性を見下ろして声を掛けた。
 けして小柄というわけではないのだが、エミリーやシンディが高身長なだけだ。
「敷島エージェンシーの敷島です」
「東北工科大学の平賀です」
「DCJRMのアリスよ。あなたが迎えの成田営業所の人?」
 RMとはロボット(未来)科学館の略である。
「どうも遠くからお疲れ様です。私、デイライト・コーポレーション・ジャパン成田営業所の鳥柴と申します」
 まだ30歳は超えていないだろう。
 スーツを着用している鳥柴と名乗る女性は、名刺を出してきた。
 鳥柴優奈というフルネームで、成田営業所の営業主任という肩書きであった。
 敷島と平賀は名刺をもらったので、自分達も返した。
「皆様のお話は伺っています。三傑にお会いできて光栄です!」
「三傑……」
 平賀は変な顔になった。
「酸素欠乏が何だって?」
 と、敷島。
「社長、酸欠じゃありません。社長達、3人の英雄のことですよ」
 シンディがそっと耳打ちした。
「そうか。ま、何を吹き込まれているんだか知りませんが、ここからはあなたの指示に従うことになっているので、よろしくお願いしますよ」
「こちらこそ。まずは車に乗ってください。営業所までご案内します」

 敷島達は駅の外に出ると、駅前に止まっていたミニバンに乗り込んだ。
 運転席には黒いスーツ姿の男が乗っており、どうも鳥柴の部下らしかった。
 助手席に乗り込んだ鳥柴は運転席の男に指示を出すと、後ろに乗り込んだ敷島達を成田営業所へ向かわせた。
コメント (2)
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