報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Cindy” 「作戦会議」

2016-05-18 23:00:25 | アンドロイドマスターシリーズ
[5月14日16:00.天候:晴 アメリカ合衆国テキサス州ダラス・DC Inc.ダラス支社]

 最後にシンディの起動が完了し、テストが終わった頃は夕方になっていた。
「まさか、意外とボカロ達の方で時間が掛かるとはなぁ……」
 平賀は汗を拭った。
「皆さん、お疲れさまでした。ブライアン支社長から、今日の所は宿舎に入って休んでくださいとのことです。明日、アーカンソー州へ移動します」
 鳥柴がアリスと平賀を労った。
「タカオはどこにいるの?」
「ヒマなので、ビルの中を散策すると仰ってました」
「オフィスビルなんて、どこ歩いても同じでしょうよ」
 アリスは呆れた。
「明日の移動手段などについてご相談したいのですが、よろしいでしょうか?」
「そうね。シンディ、タカオを呼んできて」
「かしこまりました。社長がどこにいるか、目星は付きませんか?」
「確か、リン・レンと一緒のはずだ」
 平賀が言うと、
「OK.それなら簡単に見つかるわね」
「エミリーはここに控えていてくれ」
「イエス。プロフェッサー平賀」

 敷島はビルのエントランスホールにいた。
 そこに自動演奏機能の付いたエレクトーンが設置してある。
 どうもこのビルにそういったメーカーが入居しているらしく、その会社のCMの一環として展示されているようだ。
 敷島はこのエレクトーンの所有者に許可を取り、そこにリンとレンの持ち歌のデータを入力した。
 エレクトーンがリンとレンの持ち歌を伴奏する。
 リンとレンは、持ち歌の歌詞を英訳したものを歌った。
 英語の発音なら巡音ルカやLilyの方が流暢で、リンとレンは本当に日本人が喋る英語かもしれない。
 それでもこのゲリラライブに、たまたまホール内にいた来館者達の目と耳が奪われた。

「うん?」
 エレベーターを1階で降りたシンディは、何故かエントランスホールが歓声に包まれているのを不審に思ったが、すぐにそれがリン・レンのせいだと分かって納得した。
「んじゃあ、お次は“千本桜 〜和楽バージョン〜”行っちゃうYo〜!」
「社長!」
 シンディは聴衆をかきわけて、ようやくエレクトーンの所まで辿り着いた。
 リンがこぶしの効いた歌声を披露する。
 日本語の歌詞で、恐らくここにいる聴衆は歌詞の意味は分からないだろうが、リン達の歌声自体に聴き惚れているようだった。
 これが、ボーカロイドの力であるという。
「お、シンディ。起動実験終わったのか」
「そうよ。早いとこ、大会議室に戻ってきて!明日の行動について相談するってさ」
「ああ、分かった。じゃあ、この曲が終わってからだ」

 歌が終わってから、敷島達は再びエレベーターに乗り込んで34階へ向かった。
「いやあ、ミニライブは大盛り上がりだ。日本から連れて来て良かったな」
 火照った体はエミリーが氷を持って来て冷やしていた。
 ダンサブルな歌は披露していないのだが、ボーカロイドの初期の短所で、すぐに体温が上がる。
 精密機器の塊である為、放置は重大な故障に繋がる。
 これが結月ゆかりやLilyなど、比較的後期に作られたタイプは、その辺が上手く改良されている。
 リン達も今のボディの使用期間が過ぎたら、見た目は殆ど変わらず、しかし最新機器が搭載されているものに交換されることだろう。
「売り込むのはいいけど、今はあんまり目立たない方がいいかもよ」
「それもそうだな」
 エレベーターを降りて、向かったのは別の会議室。
 少し小さめの、小会議室といったところだ。
「ボーカロイドの調子は良いようで良かったです」
 と、鳥柴が微笑を浮かべた。
「おかげさまで」
 敷島も笑みを浮かべて椅子に座った。
「それでは改めまして、皆さん、お疲れ様でした。4機のアンドロイド達は正常に起動が完了したようで、一先ず安心です。今日のところは皆さん、宿舎に入ってお休みください。ホテルは既に取ってあります。明日ですが、早速アーカンソー州へと向かいます。まずは州都リトルロックに向かいますが、前にもお話しした通り、アーカンソー州は件の研究所以外、デイライト関係の施設はありません。ですが、本社が威信を掛けて、今回の事件を解決しようとしています。その為の助力は惜しまないとのことです」
「で、どうやってアーカンソー州に向かうんですか?飛行機は使えないんですよね?」
「はい。既にヘリで研究所に向かった警備会社の社員が、ヘリを撃ち落とされて全員死亡との報告が来ています」
「うあー、既にもう人を殺してるのか……」
 敷島は右手を頭にやった。
「てか人殺ししてるんだったら、捕獲じゃなくて、もう破壊でいいんじゃないですか?」
「一応、暴走した原因を調査したいとのことなので。成功すれば、帰りはファーストクラスです」
「タカオ!何としてでも捕獲するのよ!」
「ビジネスクラスでもいいだろうが……。こりゃ、とんでもない目に遭いそうだぞ……!あ、で、結局何で行くの?」
「チケットは明日お渡ししますが、グレイハウンドバスです」
「そこはアムトラックじゃないんですね」
 平賀は苦笑いした。
「市内のバスターミナルから出発しますので、遅れないようにしてください。明日の10時出発です」
「グレイハウンドかぁ……。何か、子供の頃に乗ったなぁ……」
 アリスは懐かしそうに言った。
「ヒューストンからダラスまでだったかなぁ……」
「確かそうですよ」
 と、シンディ。
「お嬢様……失礼、マスターが10歳の頃、ヒューストンの児童養護施設からウィリアム博士が引き取っています」
「シンディも一緒だったっけ?」
「はい。ダラスに着いた時、警察のパトカーが追って来たので、持ち上げて電柱に串刺しにしたメモリーがまだ……」
「……こんなのと明日相手にするのかよ……。東京決戦の再来だな。てか、あの時はシンディだけだったからいいけど、今度は同じようなマルチタイプが2機……」
「だから、アタシ達が来たんでしょ?」
「相手が・2機。上等・です。こちらも・2機です。お任せ・ください」
 エミリーが大きく頷いた。
「そうよ。いくら最新型だからって、どうせまだ実戦データも詰み上がっていないヒヨっ子でしょ?」
「アリスと鳥柴さんは捕獲しろってことだけど、俺的には破壊でもいいと思うぞ?」
「タカオ!いい加減にして!」
「捕獲に成功しましたら、敷島エージェンシーさんにもっと便宜を図るよう本社に打診しますよ?」
 アリスと鳥柴。
 2人の女性に迫られる敷島だった。
「だ、だが、せっかくのエミリーやシンディが破壊されるようなことがあったら、さすがにマズいだろ!ここはこちら側の安全を第一にだなぁ……」
 するとシンディが微笑を浮かべた。
「心配してくれるの、社長?」
「エミリーとお前、合わせて100億円だぞ?それが鉄塊になるような事態は避けたいと言ってるんだ」
「大丈夫・です。私とシンディ・絶対に・勝ちます。どうか・信じて・ください」
 エミリーも口角を上げ、敷島の手を握って言った。

 そしてついに敷島も折れてしまい、マルチタイプ達にジャニスとルディの破壊命令ではなく、捕獲命令を出したのであった。
コメント (1)
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