報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Cindy” 「ロボット未来科学館・オープン3日目」

2016-05-01 23:04:29 | アンドロイドマスターシリーズ
[4月3日09:00.天候:晴 埼玉県さいたま市西区・DCJロボット未来科学館]

 実際はそこから徒歩10分ほど歩かされる『ロボット未来科学館入口』バス停。
 その為か、多くの関係者は自分の車やバイクで通勤している。
 開館中は他の行き先のバスが立ち寄ってくれるので、その時はアクセス性が向上するのだが、あくまでも開館中の来館者の足の為である。
 井辺はそんな不便なバスで、バス停から歩いて行った。
 ただ、単に不便な行路というわけではない。
 その途中でも、マルチタイプ3号機のシンディと7号機のレイチェルが格闘した現場があったおかげで、そこに看板が立っていた。
 巻き添えになって破壊され、地面に体を半分ほど埋めているバージョン4.0の残骸と一緒に。

『……デイライトコーポレーショングループは、人類の夢と未来を悪用するロボット・テロリズムに断固として戦って参ります』

 という言葉で締められていた。
 バージョン4.0はあれから風雨に晒されたままなので、朽ちるに任せるだけである。
 右腕にペイントされた個体番号もほとんど剥げ落ちてしまい、何号機なのかも分からない。
 見せしめの為に敵の死体を埋葬せず、わざと腐るに任せるという手法は外国企業ならではか。
 井辺はそんな晒し者を見た後で、科学館に向かった。
 入口バス停から科学館までの中間地点にあるので、アクセス性の悪さを却って会社の正義の主張に利用しているというわけだ。

 科学館に到着し、通用口入ってすぐの所にある警備受付で入館証を借りる。
 入館受付簿を見るに、まだ敷島達は到着していないもよう。
 奥へ向かうと、
「あ、プロデューサーさん。おはようございます」
 関係者用女子トイレの前で、結月ゆかりと遭遇した。
 ロイドがトイレ?と思ったが、ただ単に水の補給に行ってただけか。
「おはようございます」
「早いんですね。まだ社長さん達は来てないですよ」
「そのようですね。やはり社長が来る前に、担当の私が……」
「かわいいボクに会いに来てくれたんですね!?嬉しいです!」
 ゆかりと井辺の間に、萌が飛んできた。
「萌!」
「ボクもMEGAbyteに負けないように、一生懸命頑張りますからね!」
「……頼もしい言葉です」
 井辺は頷いた。
「本当に、プロデューサーのことが好きなのね」
 トイレの中から、水タンクを持って出てきたLilyが呆れて言った。
「もっちろんですよ〜!翔太さんは、ボクにとってのピーターパンですから!」
「ピーターパン!?」
 ゆかりとLilyが同時に素っ頓狂の声を上げた。
「えー……と……」
 井辺は困ったように頭をかいた。
「あいにくと私は空は飛べませんし、永遠の命があるわけでもないのですが……」
 ピーターパンの能力はそれだけではないはずだが、取りあえず、井辺がパッと浮かんだ能力がそれだった。
「ほら、プロデューサー困ってるでしょ」
 Lilyは呆れた顔を隠さない。
「でも、素直でいいコだわ〜」
 奥から未夢もやってきた。
「未夢さん」
「おはようございます。今日もよろしくお願いします」
「こちらこそ。今日も来館者が大勢来られると思いますので、頑張ってください」
「はい!」

[同日10:00.天候:晴 DCJロボット未来科学館]

 井辺が午前の部について、スタッフと入念な打ち合わせをしている。
 そこへ、
「よお、井辺君」
 敷島が颯爽と現れた。
「あっ、社長。おはようございます」
「MEGAbyteのミニライブ、今日で最後だな」
「はい」
「今日はMEIKOを連れてきた」
「おはようございます。MEIKOさんのような大物に来て頂き、光栄です」
「いいのよ。ボーカロイドの使命は、歌って踊って皆を幸せにすることだからね」
 MEIKOは目を細めて、井辺に応えた。
「MEIKO。調整はアリスが行うから、控え室に移動してくれ」
「了解」
 MEIKOがMEGAbyteも使用している控え室に向かうと、ゆかりは、
「さすがはMEIKO先輩です。貫禄がありますね」
「そりゃ南里研究所時代からの稼働だもの。当然よ」
 LilyもMEIKOには一目置いている様子だ。
「MEIKOさんが持ち歌を披露されている間、皆さんにはバックダンサーを務めて頂きます。それと、MEIKOさんと共に歌って頂く所もあります」
「何だかミニライブにしては、随分と大掛かりになってしまったな。グッズをじゃんじゃん売れないのが残念だ」
 と、敷島は商売っ気を出した。
「社長。今回は科学館さんオープンのセレモニーの1つであって、敷島エージェンシーの営業じゃないんだから」
 後ろに控えていたシンディが口を挟んだ。
「まあ、それはそうなんだが……。ああ、お前はエントランスホールで、来館者の相手でもしててくれ」
「了解」
 メイドロイドの亜種は、いかにもなバドスーツを着用するが、シンディはそのままである。

「ん?」
 シンディが単独でエントランスホールに行くと、何だか鈍い音がした。
「お姉ちゃん!」
 そこへ8号機のアルエットが半泣き状態でやってくる。
 シンディ達とは続きの番号ということになっているが、製法もまるで違うフルモデルチェンジである。
「どうしたの?」
「萌が3回転半宙返りに失敗しちゃったー!」
「はあ!?2回転宙返りでもギリってところなのに、何ムリしてんのよ!」
 エントランスホールにあるガラス張りのエレベーター。
 1階と2階、そして屋上に向かう油圧式のエレベーターである。
 カゴが完全にガラスの壁と天井に覆われている。
 萌は墜落して、エレベーターのカゴの屋根の上に落ちていた。
 エレベーターの壁や天井に使われているだけに、ガラスは強化ガラスが使用されている。
 その為、小さな妖精サイズの萌が落ちた程度ではヒビすら入らないが、それでも鈍い音が響き渡るほどであったようだ。
「お姉ちゃん、どうしよう!?あれじゃ取れないよー!」
 萌は墜落した衝撃でシャットダウンしてしまったらしく、動こうとしない。
「はいはい。アタシが取ってあげるわよ」
 シンディはエレベーターを1階に下ろした。
 そして自分は吹き抜けの2階に上がる。
 大きな階段を登るのではなく、ブースターを使って、2階まで大ジャンプした。
 それだけでも拍手モノだが、シンディは2階のエレベーターの横から身を乗り出して、
「ロケット・アーム!」
 左手の有線ロケットパンチを飛ばした。
 細いチェーンが付いており、これで最長20メートルほど左手を飛ばすことができる。
 その飛ばした左手はエレベーターの屋根の上に達し、そこでノビている萌を掴んだ。
 そして、再び左手を元の左腕に戻す。
「ほら、再起動しな!」
 シンディはペチッと指先で、萌の頬を叩いた。
 その衝撃のせいか、萌の体が光って、また消える。
「うーん……(゜-゜)」
「ほら、さっさと目ほ覚ましな!」
「はっ!?ここはどこ!?ボクは誰!?」
「3回転半宙返りなんて無茶はやめな!アタシでも失速して墜落するよ!」
「ひいっ!?はい!」
 シンディの叱責に、萌は再びシャットダウンしかかったのだった。
コメント (2)
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