報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Cindy” 「アメリカへ上陸」

2016-05-16 19:27:04 | アンドロイドマスターシリーズ
[5月14日09:15.天候:晴 アメリカ合衆国テキサス州ダラス・フォートワース空港]

 飛行機は10分遅れで、目的地のダラスに到着した。
「タカオ、この時期のダラスは暑いから、そのスーツじゃ大変よ」
「そうなのか?まだ5月だぞ?」
「テキサス州は南部だから暑いよ」
 アリスは呆れた顔をして言った。
 まだ飛行機内は空調が効いて涼しいが、確かにアリスは既にTシャツにデニムのショートパンツ姿になっているし、平賀も半袖のカジュアルシャツに着替えていた。
「そうか。アリス、キミはテキサス育ちだったから知ってるのか」
「そうよ」
 平賀の質問に大きく頷くアリス。
「大丈夫なのか?降りた途端、こっちの警察に逮捕されるなんてことは無いよな?」
 敷島は眉を潜めた。
「大丈夫。じー様については全部FBIに情報提供したことで、もうアタシには何の法的拘束はしないって約束させたから」
 司法取引というヤツか。
 そもそもアメリカでも有名企業であるデイライト、それの日本法人の社員になっているものだから、デイライト側でも何かアリスを保護するような動きがあったのかもしれない。

 飛行機を降りると、確かに暑かった。
 まるで、日本の夏のようである。
「精密機器作る会社なんだから、もっと北部の方が良かったんじゃないのか?」
 敷島がスーツの上着を脱いで、文句を言った。
 ただ、日本の夏と違うところは、カラッとしていることである。
 つまり、真夏の日本では日陰に入ってもジメジメして暑いのに対し、こちらは日陰に入れば涼しかったりする。
 ということは、昼以外の時間帯は比較的過ごしやすいのだろう。
「もちろん、工場などは北部の州にあります。こちらにあるのは、あくまでも支社です。南部でも営業活動はしていますので、拠点は必要ですから」
 と、鳥柴が言った。
「それもそうですね」
 機内に預けておいた荷物を受け取る。
「それで、エミリー達は?昨夜、日本を出発したから、もう着いてるはずですよね?」
「はい。支社の方で保管しているそうです」
 ターミナルの外に向かうと、ふくよかな体型の中年の男と長身で黒縁眼鏡を掛けた20代後半くらいの青年が立っていた。
 中年男の手には、スケッチブックに『Daylight Corporation Japan.』と書かれたものを持っている。
「あれ、お迎え?」
 アリスが聞くと、
「そうですね」
 鳥柴が頷く。
 4人がその2人の男に近づくと、
「やあ、ようこそ、ダラスへ。日本のエージェントの皆様〜」
「すぐ支社へご案内しますよ!」
 と、話し掛けて来た。
「デイライト・ジャパンの鳥柴です。本社の依頼で、こちらの三傑……もとい、御三方をご案内しました」
 鳥柴は流暢な英語で2人に言った。
「アリスよ。よろしく」
「おお〜、これはこれは美しい……!私はキース。よろしく」
「僕はクエント。以後、お見知り置きを……」
「敷島エージェンシー社長の敷島孝夫です。……あんまり英語が上手く無くて、申し訳無い」
「アタシが通訳するからいいわよ」
 敷島の片言英語に、アリスは呆れた顔をした。
「東北工科大学の平賀太一です。よろしく」
 平賀はさすが大学教授ということもあり、明らかに敷島より英語が上手い。
 レポートを英文で書くことも多々あり、また、外国の学会に出席してプレゼンしたりするからだろう。
「お噂はかねがね聞いておりますよ。僕、日本の大学に留学していたこともあります」
 クエントが反応した。
「それじゃ、日本語も喋れる?」
 敷島はクエントに食い付いた。
「ニホンゴ、ヨク分かりませン」
「いやいや、喋っとるがな!」
 敷島は全力で突っ込んだ。

[同日09:45.天候:晴 ダラス市内・DC Inc.ダラス支社]

 支社といっても、ダラス市街の高層ビルの中にそれはあった。
 空港からキースとクエントが車で迎えに来ていて、敷島達はその車に乗って支社へと向かった。
「キャデラックなんて、初めて乗ったなぁ……」
「アメリカじゃ、フツーに走ってるわよ」
「日本から送ったロイド4機は到着してますか?」
 と、平賀が運転席と助手席に向かって聞いた。
「へい、教授。支社の倉庫に、厳重に保管してあります」
 助手席のクエントが右手を挙げて答えた。
「外したパーツを取り付けて、起動させて……。大変だな……」
「た、確かに大変ですね」
 敷島はなまじ取り外す方を見ていただけに、それを取り付ける方はもっと大変だろうと思った。
「人手は一応、確保してありますよ」
 と、キース。
「アルバート所長のやり方についていけなくて、あの研究所を飛び出した研究員達がいます。彼らに手伝ってもらいますよ」
「直接マルチタイプの研究に従事していただけに、腕前は期待できそうですね」
 平賀は大きく頷いた。
 だが敷島は、懐疑的だった。
「待った待った。ムシが良過ぎますよ。もしかして、中にはアルバート所長が送り込んだスパイとかいるんじゃないの?」
 何だかんだ言って、敷島の日本語をクエントは理解できるようだ。
「ソノ心配ハアリマセン。アルバート所長ノ造反デ逃ゲ出シタ研究員達ハ、一旦警察ニ拘束サレマシタ。容疑ノ晴レタ者達ハ、釈放サレテイマス。アルバート所長ノシンパサイザーハ、未ダニ拘束サレテイルノデス。デスノデ、今ココニイル研究員達ハ心配スルコト、ナイデス」
「敷島さん、もし変な動きをするヤツがいましたら、自分分かりますから」
「そうよ。基本的にはアタシとプロフェッサー平賀が主導でやって、他の研究員達はアシスタントだけやってもらうから」
「まあ、2人がそう言うのなら……」

 車を降りて、荷物ごと支社の中に入る。
 高層階へ向かうエレベーターに乗り込んで、34階で降りる。
 会議室が並んでいるフロアだったが、そこで広い会議室に案内された。
「この部屋を自由に使ってください」
 支社長のブライアンが言った。
 既に室内には、シンディ達や取り外したパーツなどが梱包された状態で置かれていた。
「じゃあ、始めましょ」
 敷島は上着を荷物の上に置き、ネクタイをワイシャツの中に入れて、ワイシャツの腕を捲った。
「梱包から取り出すくらいは、私も手伝いますよ」
「敷島さん、助かります」
 敷島がまず開けたのは、鏡音リンとレンの入った箱。
 この2人は体育座りするような恰好で梱包されていたが、マルチタイプ達はまるで棺に入っているかのように、横になった状態で梱包されていた。
「どのくらい掛かりそうですか?」
 鳥柴が聞いた。
「そうですねぇ……。できれば、ここで一泊してから向かいたいくらいの余裕は欲しいですよ」
 と、平賀が答える。
「そんなに!?」
 驚いたのは敷島。
「いや、ここまでバラして輸送したのは初めてなので、組み立てた後、起動実験とか、できればしたいんですよねぇ……」
「どうですか?」
 敷島は鳥柴に聞いた。
「ブライアン支社長に聞いてみます」
 鳥柴は会議室を出ると、支社長室へ向かった。
 代わりに入って来たのは、研究員達。

 こうして、アンドロイド達の起動作業が始まった。
コメント (3)
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“Gynoid Multitype Cindy” 「マルチタイプ達の造反?」

2016-05-16 10:13:25 | アンドロイドマスターシリーズ
[5月12日07:00.天候:晴 アーカンソー州某所・DCアーカンソー研究所]

 研究所内のどこかにある居住区。
 そこのベッドに、アルバートは寝ていた。
 起こしに来るのは、金髪碧眼の青年。
「おはようございます、ドクター。起床のお時間です」
 白いワイシャツに黒いベストを羽織り、黄色いネクタイを着けて、黒いズボンをはいている。
 まるで、鏡音レンを大人の男性にしたような風体である。
「そうか……」
 アルバートはベッドから起き上がった。
「ジャニスが朝食の用意をしておりますよ」
「ああ、分かった。すぐ行けばいいんだな、ルディ?」
「もちろん、顔を洗ってからですよ」
 ルディはニッコリ笑った。
 そして出て行く時、部屋のドアの鍵を開けた。
 電子ロックらしく、ルディが右手をセンサーにかざすとドアが開いた。
「外の様子はどうだ?」
「まだ安全とは言えません。でも、安心してください。ボク達が全力でドクターの安全を守ります」
「そ、そうか。それは……頼もしいな」
 何故か冷や汗を流すアルバート。
「この研究所自体がドクターの“お城”です。ボク達は“ナイト(騎士)”として、当然ですよ」
 ルディは笑みを浮かべた。
 だがその笑みは、どこか冷たかった。
 作り主に似てそうなっているのか……。

[5月14日10:00.天候:晴 成田空港第1ターミナル]

 ガラガラとキャリーバッグを引く敷島達。
「まだちょっと早かったかな?」
 敷島は腕時計を見た。
「いや、こんなもんですよ。あくまで、10時20分までに手荷物検査を終えて、出発ロビーの中にいろという話ですから。少し余裕があった方がいいです」
 平賀が答えた。
「そうですか。それならいいんですが……。それにしても……」
 敷島は後ろを見た。
 後ろからは辛そうにバッグを引くアリスの姿があった。
「お前、大丈夫か?」
「“多い日”に当たっちゃっいました?」
「……バイキング食べ過ぎた。胸やけする……」
「はあ?」
 変な顔をする平賀。
「バイキングなんて日本の文化だと言って、食いまくってましたから」
「あの、皿に山盛りはネタじゃなかったんですか!?」
 平賀は目を丸くした。
「ネタじゃなくてガチです」
「それと、荷物重い……」
「なに持ってきたんだよ?ちゃんと機内に持ち込める物、持って来たんだよな?」
「エミリー達の交換部品は、現地で調達できるよ?」
「分かってるし、大丈夫だから……」
「後で漢方胃腸薬やるから、とにかくゲートまで頑張れ」
 陸路で移動する場合は、マルチタイプ達が荷物運びをしてくれて、とても楽であったのだが。

「おはようございます」
 待ち合わせ場所に到着すると、既に鳥柴は到着していた。
「おはようございます」
 昨日と同じスーツ姿である。
「あれ、お1人ですか?」
「はい、そうです。よろしくお願いします」
「こちらこそ」
「それでは早速中に入りましょう」
 敷島達は手荷物検査場の中に入った。

[同日11:20.天候:晴 成田空港第1ターミナル→JAL12便機内]

「アリスの希望は、そもそもムリがあったってわけだ」
 敷島はしたり顔で言った。
 アリスは往復ファーストクラスでの移動を希望したわけだが、本社から却下された。
 身分分相応としての判断かと思われたが、実はそもそも成田〜ダラス・フォートワース便にはファーストクラス自体が存在しなかったのである。
 最高クラスでもビジネスクラス。
 ではそれなのかというと、そうではない。
 往路で敷島達に割り当てられたのは、プレミアム・エコノミー。
 これはエコノミークラスとビジネスクラスの間に設けられたクラスだ。
 ビジネスクラスが段々とファーストクラス寄りにバージョンアップして行く中、エコノミークラスはシートの材質や形状が変わるだけで、大したアップはしていなかった為、格差が大きくなってしまった。
 そこで各航空会社では、その差を埋める為に、もう1つクラスを設けることになった。
 それがプレミアム・エコノミーである。
 見た目は、昔のビジネスクラスといった感じである。
 なので、エコノミーより少し広いといった感じ。
 ただ、専用ラウンジが利用できるなどの、ソフト面でエコノミーと差が付けられているようだ。
「うるさいわね」
 アリスは敷島の嫌味に頬を膨らませた。
「お帰りの際はクラスアップが約束されてますよ」
 と、鳥柴。
「生きて帰れたら、の話でしょ?」
「まあ、それはそうですが……。皆様の成果によっては、ファーストクラスの搭乗も考慮するとのことです」
「生きて帰れる保証ができるだけでも、ビジネスクラスは確定なんだ。それでいいじゃないか、アリス?」
「ファーストクラスに乗せてくれる条件って何?」
「色々と細かい所がありますが、要はアルバート所長の生け捕りと、ジャニスとルディを捕獲することです」
「……死体と鉄塊にして確保はダメ?」
「ビジネスクラスでよろしければどうぞ」
「大変だな」
 敷島はソファから立ち上がった。
 ちょうど敷島達が乗る便の搭乗案内の放送が流れたからである。

 成田空港から直行便が毎日飛んでいる路線であるが、飛行機自体はそんなに大きなものではない。
 200人は乗れないだろう。
 それでファーストクラスが無かったのだ。
 帰りに乗るかもしれないビジネスクラスの中を通り、プレミアム・エコノミーは機内の真ん中辺りにある。
「えーと、ここですね」
 窓側に2人席が並び、中央に3人席が並んでいる。
 敷島達には進行方向右側の2列席が前後して確保されていた。
「ここでいいですか?」
「アリスは鳥柴さんと乗っとけよ」
「OK.主任同士、愚痴のフライトになりそうね」
「よろしくお願いします」
 アリスは研究主任、鳥柴は営業主任である。
「あ、なるほど。確かに、エコノミーより広いや」
 敷島と平賀が隣同士で座る。
「そうですね」
 JALスカイプレミアムと呼ばれるもので、シートピッチは107cm(1070mm)。
 これは、一部を除く新幹線の普通車と同じ数字である。
「うん。これなら、エコノミークラス症候群は大丈夫かもしれませんね」
「それは良かったです」

 飛行機は5分ほど遅れて出発した。
 しかしそこから離陸するまで、更に5分ほどの時間を要した。
「平賀先生はよく飛行機にお乗りになってますから、離着陸の重圧や衝撃にはもう慣れっこなんですよね?」
「まあ、そんなもんだということで」
「私なんかあんまり乗りませんで、未だに手に汗握るんですよ」
「はははは。敷島さんもそのうちボカロが海外デビューとかしたら、よく乗るようになるんじゃないですか?」
「……だといいんですが」
 敷島は溜め息をついた。
「よくシンディに連れ戻される際、両脇を抱えられて飛ぶことには慣れたんですけどねぇ……」
「ちょっと待ってください。何ですか、そのディズニーランドより怖いアトラクションは?」
「平賀先生はエミリーにされません?」
「されませんよ!……たまに、うちチビ達を抱えて飛ぶことはしますが」
 エミリーとしては、オーナーの子供の相手をしている一環のつもりらしい。
「普通に飛行機かヘリコプターで飛んでください」
「気をつけまーす」

[5月13日21:20.天候:雨 アメリカ合衆国アーカンソー州・DC研究所]

 敷島達を乗せた飛行機が成田を離陸した頃、1機のヘリコプターが研究所の敷地内に墜落していた。
 火炎を噴き上げて燃え盛るヘリコプター。
 その機体には、辛うじてそのヘリが所属していたと思われる文字が書いてあった。
 『DSS』と。
 デイライト・セキュリティ・サービスというデイライトコーポレーション直営の警備会社のヘリだろう。
 アメリカでは登録手続きさえすれば、警備会社であっても銃の所持はできるし、ややもすれば警察の特殊部隊ばりの活動をすることも可能だ。
 デイライトでは直営警備会社に、そのような装備をさせているのだろう。
 だがヘリまで操縦させる装備を持たせておきながら、マルチタイプには形無しであったようだ。
 何故なら、研究所の屋上からそのヘリコプターを見下ろしてせせら笑うマルチタイプ姉弟の姿があったからだ。
 右手は強力なライフル銃に変形させている。
「ドクター、また邪魔な会社のヘリを撃ち落としましたよ。でも、ごめんなさい。ドクターの大事なお城の敷地内に煙を立ててしまいました。後でちゃんと片付けますので、どうかお許しください」
 ルディは体内に搭載されている通信機で、アルバートに報告した。
{「そ、そうか。よく、やったな。キミの言う通りだ。ちゃんと片付けておいてくれよ」}
 するとジャニスも、
「ドクター!私も褒めて!ヘリを撃ち落としたのはルディだけど、そこから脱出してきたクルーを蜂の巣にしたのは私なんだよ!」
 と、設定年齢の割には鏡音リンと大して変わらぬ無邪気な無線を飛ばしてきた。

 やはり、アルバート達はテロリストに成り下がってしまったのだろうか。
コメント (9)
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