報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Cindy” 「デイライト・コーポレーション」

2016-05-29 22:12:21 | アンドロイドマスターシリーズ
[5月16日02:30.天候:晴 アーカンソー研究所敷地外『走る司令室』]

 エミリーから警告が届いた時、敷島達は何かの冗談だろうと思った。
 だが、左のモニターに映っていたエミリーの視点を見るに、それは本当なのだと思った。
「何故にバレたし!?」
「とにかく、避難するよ!」
 ジャニス達はアルバート所長を守る為に、研究所の敷地内に入って来る者には容赦はしないと思っていた。
 それはつまり、敷地外にいる分には何もしてこないというものだ。
 但し、これが長年稼働して十分に学習しているエミリーやシンディだと、そうはいかない。
 稼働したばかりのジャニス達だから、そこまで目は向かないはずだった。
 実際、外で監視していたDSS隊員は無事だったのだから。
 シンディ達との通信電波が傍受されたとも思えない。
 マルチタイプにそんな能力は無いからだ。
 ベンツ製バスを改造した『走る司令室』、運転席に座るキースが急いでバスをバックさせた。
 そして、それまで走って来た道に出ると、
「きゃははははははは!」
 右手をマシンガンに換装したジャニスが狂気の笑いを浮かべながら、バスに向かって乱射してきた。
「伏せろ!」
 敷島の言葉に、急いで床に伏せるメンバー達。
 弾はバスの窓ガラスやボディに被弾するが、まるで小石が当たるような音がするだけで、全く割れる気配が無い。
「こんなこともあろうかと、装甲車並みの装備になっているんだよ!」
 クエントが得意気に言った。
 つまりは、窓ガラスは防弾ガラスになっているということか。
「キース!研究所に突入してくれ!」
 敷島が叫んだ。
「はあ!?」
「相手は最新型のマルチタイプです!とても逃げおおせるとは思えません!エミリーも気づいているようですから、研究所に突入して、エミリー達と少しでも早く合流した方がいいです!」
「なるほど!さすがは敷島さん!」
 平賀も同意した。
 クエントはキースの横にいたので、敷島の提案を英訳して伝えた。
「OK!そうこなくちゃ!」
 キースは右手の親指を上に向けると、早速ハンドルを切って研究所の正面に向かった。
「くっ!逃がしはしないよ!」
 ジャニスは突然急旋回するバスに向かって、何度も発砲した。
 だが、装甲車並みに頑丈に改造されたバスには、マシンガンは歯が立たなかった。
「こうなったら……!バージョンA軍団!あの人間どもを全員殺せ!!」
 ジャニスは敷地内にいるセキュリティロボットに命令を出し、その為に研究所の門扉を開けた。
「わあっ!?」
「OH!?」
 鉄扉をブチ破るつもりで、アクセル全開で向かっていた敷島達。
 急に鉄扉が開いたので、勢い余ってそのまま研究所内に突入した。
 正面エントランス前の広場には、バージョンA達が倒れていたり、立ったまま稼働を停止していた。
「わあーっ!ぶつかるーっ!?」
 バスはそのまま、今度はシャッターの下りた正面エントランスに突っ込んで止まった。
 シャッターとガラス戸をブチ破った状態なので、敷島達はそのまま所内に入れる形だ。
「プロフェッサー平賀!敷島社長!御無事・ですか!?」
 そこへエミリーが駆け付けてくる。
「ああ。何とか……」
「相変わらず、悪運だけは強いみたいだ、俺達」
「そ、それより、エミリー……!」
 敷島達は歪んだドアをこじ開け、バスから降りた。
「役立たずのセキュリティロボット共が!」
 ジャニスは半ギレ状態で、動かなくなったバージョンA達を壊し回っていた。
 そして、ふと我に返ったのか、敷島達の方を見る。
 すぐにエミリーも前に出た。
「お前が・ジャニスか?」
「そうだよ。初めまして。“遠い親戚”のお姉さん」
「エミリー、笑顔に騙されるな」
「分かって・います。お前は・目が死んでいる」
「えっ?」
「ドクター・アルバートは・どこだ?」
「きゃはっ♪きゃはははははははっ!!」
 エミリーの詰問に、ジャニスが笑い出した。
「アルバート博士はどこ?教えて」
「こちらが・聞いている!」
「ま、まさか、アルバート所長は……!」
「敷島さん?」
「アルバート所長は、あいつらから逃げ出しているのでは!?」
「何ですって!?」
 ジャニスがマシンガンを撃って来た。
「わあっ!?」
 すぐにエミリーがガードに当たる。
 マシンガンはエミリーに何発か当たったが、そこはマルチタイプ。
 ほとんどビクともしない。
 そして、ブースターを使ってジャニスに飛び掛かった。
 ラリアットを食らわせて、エントランス外の広場に追いやる。
「来い!」
「いいよ!」
 エミリーとジャニスが取っ組み合いを始めた。
「お姉ちゃん同士、デキの悪い弟妹を持つと大変ね!」
「シンディは・優秀だ!お前の・弟と・一緒に・するな!」
 敷島はこの隙に、研究所内部へと潜入した。
「平賀先生、エミリーを頼みます」
「分かっています。敷島さんも気をつけて」
「俺はここでバスを修理しているよ」
 と、キース。
「じゃ、代わりに僕も行こう。敷島社長の行く先で、ロイドを修理する機会があるかもだ」
「クエント、できるのか?」
「クエントさんは元、ヒューストン工場で勤務していたことがあるんですよ」
 と、鳥柴。
「そうだったのか」
「私も行きます。何だか、嫌な予感がするので」
「嫌な予感?」
「シンディさん達の方が、深刻なような気がします」
「!?」

[同日同時刻 天候:晴 研究所屋上]

 研究所の屋上に、1機のヘリコプターが着陸する。
 そのヘリコプターには、デイライトの社名がペイントされていた。
 だが何故か、ルディはそれを見つめるだけで、攻撃しようとしない。
 それどころか、ヘリコプターから降りてきた人物に対し、片膝をついた。
 日本製のロイドでは専らお辞儀だが、欧米製だと、ロイドの最敬礼は片膝をつく形となる。
「お待ちしておりました。アルバート・ブラックロード様」
「首尾はどうだ?」
 ヘリから降りてきたのは、オールバックに長身の白人の男。
 紺色のスーツを着用している。
「ははっ。こちらに」
 ルディは鏡音リン・レンを差し出した。
 既にリン・レンは電源が落ちてしまい、人間で言う意識の無い状態だった。
「素晴らしい。できれば初音ミクが欲しかったのだが、致し方あるまい。すぐ、ヘリに積み込め」
「ははっ!」
 だが、
「そうはさせないよ!」
 屋上の鉄扉をぶち破り、シンディが飛び込んで来た。
「お前は!?」
 シンディは右手を狙撃用ライフルに換装させており、すぐにヘリコプターのパイロットを撃ち抜いた。
「ぐぐぐ……!」
 だが、シンディは殺すつもりで撃ったわけではなく、パイロットは右肩を撃たれ、座席から落ちた。
「アルバート様、物陰に隠れててください。ここはボクが」
「頼んだぞ」
 アルバート所長……とはまた別のアルバートという名の男は、屋上の排気塔の影に隠れた。
「……アンタがルディね?」
「そういう貴女がシンディ姉さんか」
 ここでも、新旧マルチタイプ対決が行われようとした。

 屋上へ向かう敷島達。
 ヘリコプターの音がするわ、銃声の音がするわで、何だかパニックになりかけていた。
「一体、どういうことなんだ?!」
「僕達の知らない所で、何かが動いている感じがするねぇ!」
「…………」
 真相はまだ闇の中である。
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