報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Cindy” 「まずはエミリーから起動」

2016-05-17 20:51:34 | アンドロイドマスターシリーズ
[5月14日12:00.天候:晴 アメリカ合衆国テキサス州ダラス・DC Inc.ダラス支社の入居するビル]

 梱包を開けて、まずはエミリーから再起動が行われた。
 やはりというべきか、取り外したパーツを組み立てて、更に起動実験まで行うものだから、思ったより時間が掛かってしまった。
 研究員達はお昼にピザを頼んだりして、それで腹を満たしている。
 アメリカ人だから、どんなに忙しくても、しっかり昼休みは休むのだろうと思っていた敷島だったが、理系はそうでもないらしく、ピザを齧りながら、次は鏡音リン・レンの再起動に取り掛かるという有り様だった。
 シンディが後回しにされたのは、ボカロの方が再起動が簡単だからという理由であった。
 だったら最初からボカロを再起動させた方が良かったような気もするが、それはそれで手持無沙汰のリン達のバッテリーが勿体ないという理由もある。
 で、もっと手持無沙汰なのが敷島と鳥柴。
「俺は下の社員食堂で食って来るよ。鳥柴さんも行きます?」
「あ、はい、そうですね……。!!!」
 鳥柴の背後から、アリスの冷たい視線が突き刺さる。
「あ、えーっとですね……。私はデイライトの社員として、皆さんの作業を見届ける義務がありますので、ここで……」
「そうですか。それは残念です」
 アリスの冷たい視線は敷島にも向けられていたのだが、敷島は器用にエミリーの背後に隠れてやり過ごした。
「じゃあ、俺1人で行ってくるか……」
「タカオ!」
「何だ、アリス?」
 アリスは自分が興奮して大声を挙げてしまったことに気づいたか、一呼吸置いてから静かに言った。
「ビルの外は危険だから、無闇に出ないようにね。ダラスの治安も、そんなに良くないんだから」
「ん、そうなのか?」
「ビルの中は……エントランスに警備員もいるからそれなりに安全だけど、レストランはこのビルの中のを利用してよ?」
「分かった分かった。それじゃ、行って来ます」
 敷島は大会議室の外へ出ようとした。
 それでも不安そうなアリスに対し、平賀はかつての仇敵に塩を送ることにした。
 表向きには、
「あ、敷島さん、待ってください」
「今度は何ですか、平賀先生?」
「レストランは全て英語でしか案内していないと思うので、エミリーを通訳代わりに連れて行ってください」
 片言の英語しか喋れない敷島だった。
「そうですか?でも、ここの守りは……」
「州1つ離れてますし、大会議室の外には警備員が立っていますから」
 1階のエントランスには制服姿の警備員が立っていたが、大会議室の外には黒スーツ姿の屈強な黒人警備員が立っていた。
「なるほど。じゃあエミリー、一緒に来てくれ」
「イエス。敷島社長」
 敷島の言葉に微笑を浮かべて頷くエミリーだった。

 敷島が出て行った後、平賀は小さく溜め息をついて、
「これならいいだろ?」
 と、言った。
「……礼を言うわ」
 エミリーとて命令に忠実なマルチタイプ。
 敷島の予定外の行動は、断固として阻止するだろう。
 シンディと違って、体術の得意なエミリーなら、尚更取り押さえやすいかもしれない。

 デイライトコーポレーションダラス支社は、超高層ビルの10フロアくらいを押さえている。
 32階には社員食堂があり、これは専用の入館証を持っていれば、外部の者でも利用できる。
 で、驚いたのが……。
「ん?メニューに値段が無いぞ?時価か?」
 敷島が首を傾げていると、
「Hi!Mr.Shikishima!」
 空港からここまで車で乗せてくれたクエントとキースがやってきた。
 キースが当然のように、英語で何か喋って来る。
 エミリーが、
「何を・食べるか・決まりましたか?だ・そうです」
 と、通訳した。
 マルチタイプは日本語を含め、50ヶ国語くらいの言語に対応できる。
「その前に、このステーキはいくらなんだ?」
 敷島の日本語を今度は英語にしてキースに聞く。
 すると、キースとクエントは顔を見合わせて笑った。
「な、何だ何だ?俺、変なこと言ったか?」
 するとクエントが片言の日本語で、
「ココノレストランハ、全部タダデース!」
 と、言った。
「な、何いっ!?マジか!?」
「Yes.何デモ好キナ物食ベテクダサーイ!」
「そ、それなら、このサーロインステーキを……。あ、パンも付けて」
 注文する時、デイライト社員は社員証を赤外線センサーにかざす。
 敷島のような部外者が持つ入館証は、直接入館証の番号をテンキーで打ち込むタイプである。
「凄いな……。支社でこうなんだから、本社はもっと凄いんたろうなぁ……」
 敷島の呟くようなセリフも、エミリーは律儀に通訳する。
 キースは笑いながら、
「俺も何度か本社に行ったことがあるが、あそこはレストランがいくつもある。ここは1つしか無いがな。もちろん、本社のレストランも全部タダだ」
「何それ、凄い!日本の巨大企業ですら、社員も少しは負担するのに……」
 そして、敷島は気づく。
「そういえば平賀先生達のピザ、誰も金払って無かったぞ?」
「レストランカラ、直接ケータリングモ可能デス」
「凄い福利厚生だ。日本のブラック企業氏ねって感じだな。……っと、俺も今は経営者だから、あんまり大きな声では言えないか……」

 とはいうものの、注文から配膳・下膳まで全てセルフサービスではある。
 デイライト・ジャパンの場合は、社員からも食事代を取るが、メイドロイドが注文から配膳・下膳までサービスしてくれることでニュースになった。
 どちらがいいのだろうと本気で考えた敷島だった。
 食事を4人用のテーブルに運ぶ。
「あれ?御嬢さんは何も食べないの?」
 キースは、敷島のサーロインより分厚いTボーンステーキを自分の席に運びながら言った。
「食べないのではなく、食べれないんですよ。彼女、ガイノイドなんで」
 因みにエミリー、敷島の日本語を流暢な英語に翻訳しているが、英語の方が滑らかな口調のように聞こえる。
「そ、そうだったのか!あなたが噂の……!言われるまで分からなかった!」
 クエントは感激した様子だったし、キースは目を剝いていた。
「日本の東北工科大学にて“展示”されておりますガイノイド、マルチタイプのエミリー・ファーストです。よろしくお願いします」
 因みに今、エミリーは英語でキースとクエントに挨拶した。
 その為、日本語に直すと滑らかな口調である。
「エミリー、お前には自動車のエンジンオイルでも持ってきてもらおうか?」
「注文・できれば・ありがたい・です」
 日本語モードに戻ると、たどたどしい。
(もしかしたら、エミリーは元々日本語には対応していなかったのかな???)
 エミリーのエンジンオイルの注文に、内線電話を使って本気で注文するクエントだった。
コメント (1)
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