報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Cindy” 「バス旅の途中で」

2016-05-20 20:47:33 | アンドロイドマスターシリーズ
[5月15日12:20.天候:晴 グレイハウンドバス、ダラス〜リトルロック間]

 グレイハウンドバスに使われるバスは、日本の大型バスよりもサイズが大きい。
 それが10メートルくらいなのに対し、グレイハウンドバスは12〜13メートルくらいの車長である。
 幅についても同様で、日本のバスより広く、それが為、シートは4列シートしか無いが、快適とは行かないまでも、良く作られている。
 5月のテキサス州は日本の夏並みの暑さということもあり、車内はクーラーがガンガンに効いて寒いくらいである。
 だから敷島や鳥柴はスーツの上着を着たし、平賀もジャケットを羽織っていた。
 低所得者層がよく利用するということで、車内の治安は悪いのかというと、意外とそうでもない。
 もちろん、貴重品の管理を日本の感覚で行うとどうなるかは言うまでも無いが、大宮競輪場辺りに集っていそうなオヤジ達酔っ払いが騒いだりとか、強面のヤンキーが他の乗客に因縁つけたりとか、そういうことは無かった。
 何故なら、ドライバーが1番怖いからである。
 アリスの話では、ステレオタイプのヤクザ者が他の乗客に迷惑行為をしようものなら、運転手が1度は強く注意し、それでもダメなら2回目は完全なる警告、そして3回目はついに……ということらしい。
 そこが例え何にも無い荒野を走る道路であっても、容赦なく強制下車させられるだろうとのこと。
 最近のグレイハウンドでは他のライバル社に対抗する為、急行便を中心にWi-Fiの導入を推進したり、シートピッチを拡大したり、座席コンセントを設けていたりする。
 急行便といっても、そこは長距離バス。
 全便が特急みたいなものだが、それよりもっと速達タイプという意味である。
 例えば、JRバスで運行されている“東名ライナー”。
 これは特急便扱いだが、この路線にはそれより速い超特急“スーパーライナー”があり、要はこれがグレイハウンドで言うExpressのようなものである。
 敷島達が乗っている路線にはそういうExpress便の設定は無かったが、今乗っているバスにはコンセントが付いていたし、座席もアメリカ人の体格に合わせて設計されているのか、なかなか広かった。
 日本の高速バスの独立3列シート、それ用のシートを、シートピッチそのままで4列シートにしたような感じ。
 但し、フットレストやレッグレストは無かった。
 後ろの方にはトイレがあるが、あまり利用している乗客はいなかった。
 アリスも利用したくないという。
 バスのボディはきれいに洗車されているし、車内もそこそこ清掃されていたのだが、恐らくトイレに関してはそんなに手入れしていないのかもしれない。
 そうこうしているうちに、昼食の時間帯になった。
 走り出してから2時間くらい経ったが、どこで休憩するのだろうと思った。
 するとバスが高速道路(フリーウェイ)を降りて、ドライブインみたいな所に入った。
 ここにはバス停のポールがポツンと立っている。
 グレイハウンドの特徴である、犬の絵が書いてあったのですぐに分かった。

〔「ハーイ、皆さんお疲れさまー!ここで昼食タイムに入りまーす。13時になったら出発しますので、ヨロシクでーす!」〕

 運転手の陽気な放送が車内に流れた。
「タカオ。休憩だって」
「おっ、そうか。13時って言ってたな」
「ええ。ここでランチにしましょう」
「エミリー、お前は護衛として付いてきてくれ」
 平賀はエミリーに命令した。
「イエス。プロフェッサー平賀」
「シンディは車内で待機。俺達の席と荷物を確保しててくれ」
「りょーかい」
「13時って言ってたけど、早めに出発してしまう恐れがあるからね。その時はシンディ、すぐに教えてよ」
 アリスが通信機片手にシンディに言った。
「かしこまりました。マスター」

 バスを降りると目の前にあったのは……。
「マックかよorz 見え見えのオチになってしまった」
 敷島は頭を抱えた。
 あのマクドナルドの黄色いMの看板が、くるくると回っていた。
「いいから!アメリカに来て、回転寿司の方がもっと無いでしょ!」
 アリスが呆れて敷島の背中を押した。
「いや、そりゃそうだけどさ……」
 メニューを見ると、やはり、てりやきバーガーは無かった。
「因みに、何て注文すりゃいいんだ?」
「アタシが代わりに注文してあげるわよ」
 アリスは少しイラッとした感じになった。
「えーと、チーズバー……あれっ!?」
 敷島はメニューの写真を見て目を見開いた。
 写真には、明らかにてりやきマックバーガーと思しき物が載っている。
「これって……」
「Samurai burger 1!」
「サムライ・バーガーって言うの!?てりやきマックバーガーって英語で……」
「他には?」
「ポテトとコーラでいいよ」
 アリスが店員に注文した。
「10ドル札でお釣り来る?」
「日本のマックだって、普通1000円札でお釣り来るでしょうよ……」
 アリスはもはや苛立ちを越えて呆れていた。

 グレイハウンドバスがマクドナルドの店舗を休憩箇所にしている理由は、何も提携しているからいう理由ではなく、マクドナルドでは基本的にアルコール飲料を販売しないからである。
 グレイハウンドバスは飲酒禁止、つまり酔っ払いお断わりである。
 その観点から、アルコールを提供しないマクドナルドを食事休憩箇所にしていると思われる。
 現に、グレイハウンドのバスターミナルで、大規模な所では売店やカフェテリアが設置されているが、アルコール飲料の販売・提供は一切行われていないそうだ。
 アリスが日本の夜行バスに乗った時、普通に日本人乗客がビール缶を開けていたのを見て、
「Why Japanese People!?」
 と、叫んでいたかどうかは【お察しください】。
 尚、日本の高速バスでも、バス会社によっては飲酒禁止にしている所があるそうである(ソースは“バスターミナルなブログ”様より)。
「味付けは日本のマックと大して変わらんな。ただ、サイズがデカい」
「まあ、そうでしょうね」
「てかアリス、俺はMサイズ頼んだはずだぞ?何でLサイズで来るんだよ?」
「アメリカのMサイズは日本のLサイズなの!」
「嘘だぁ……」
 実はアリスの英語は、平賀に言わせるとイギリス人が喋る英語に近いのだという。
 アメリカでも、南部の方は『南部訛り』という方言があり、英語圏の人間であるアリスであっても、店員の英語に対して聞き返すシーンがあった。
 もっとも、平賀の英語は敷島のそれと比べると、かなり流暢な喋り方であるのだが、それでも店員達から逆に聞き返されていたので、
「私の英語も分からずに、日本発祥のサムライ・バーガーを売ってるのかキミ達は?」
 というアメリカ式の嫌味を言っていた。

 敷島達にとっては、英語という壁が、テロ・ロボットよりも破壊するのが大変な代物であるようだ。
コメント (3)
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