[期日不明 時刻不明(時計の振り子は動いているが、針が止まっている) 天候:晴 洋館(旧館)3Fスイートルーム 井辺翔太&シー]
「う……」
井辺はスイートルームのベッドの上で目が覚めた。
(ここは……?ああ。あの部屋か……。何でここに?)
井辺が記憶の糸を手繰り寄せようとしたが、ようやく都内で乗ったタクシーの中で急に眠くなったことしか思い出せない。
と、枕元でブブブブブと虫の羽音のような音が聞こえた。
「シー君?」
音のする方を見ると、月明かりを背にシーが深刻そうな顔をして井辺を見ていた。
影になりながらも、青白い眼光が見えるあたり、やっぱりロイドなのだと思う。
妖精の羽は基本無音だが、意図的に羽音を出すことができるらしい。
「シッ。翔太さん。ゆっくりこっちへ来て。ゆっくり、静かに……」
「えっ?それはどういう……?」
井辺が起き上がって、ベッドから出ようとした時だった。
「わっ!?」
突然、背後から抱きつかれる。
「な、何ですか!?」
振り向くと、そこにいたのはダニエラだった。
いつの間にかダニエラが同衾していたらしい。
別に、服とかはそのままだが……。
井辺が驚いていると、ダニエラは立ち上がった。
「お客様……私には……足りないのです……」
「な、何がですか!?」
「男の……器の……!」
窓際に立って、何度も窓ガラスに頭を叩き付ける。
「ちょっ……ちょっと!」
そして、大きな音を立てて窓ガラスが割れた。
その後、鋭く尖った破片を拾い上げると、それをペロッと舐める。
「男の……人間の……!」
破片を手に、ゆっくりと近づいて来る。
「翔太さん!逃げよう!」
シーが井辺を促すと、井辺も急いで部屋から飛び出した。
「あ、あれは一体、何なんですか!?」
「ボクも知らないよ!ただ……」
シーのメモリーには、倒れた井辺を抱え上げたのはエリオット。
スイートルームのベッドに寝かせると、ダニエラに監視しておくように命じていた。
監視だからただ単に見ていていいはずなのだが、何故か広いダブルベッドの隣に潜り込んで……。
「1つ、言えることがあります!」
井辺は走りながら仮説を言った。
「恐らく、ダニエラさんは……あっ!」
石段から躓いて転げ落ちる井辺。
「翔太さん!」
「きゃははははははは!!」
背後から狂った笑いをしながら、ダニエラが鋭いガラスの破片を手に、階段の上から見下ろしていた。
「男の……器の……!!」
そして、階段の上から破片を井辺に向けて飛び降りた!
「だーっ!」
そこでシー、ある行動に出る。
どこから拾ってきたのか、スタンガンを抱えると飛び降りて来たダニエラに向けた。
ダニエラは感電して倒れた。
「翔太さん!しっかり!」
「あ、いててててて……!」
「ケガは無い!?」
「えぇ、何とか……。ダニエラさんは……」
「スタンガンで気絶せておいた」
「さすがです!」
「でも、もうスタンガンのバッテリーはゼロだから使えないよ」
「何ですって!?」
「今のうちに新館に行こう!」
「そうですね!」
[期日・時刻不明 洋館(新館)2F 井辺翔太&シー]
「ボクはあんまり新館のことは分からないんだ」
「そうなんですか」
新館に入ると、そこはまるで近代的な建物のようだった。
明治・大正時代から一気に現代までタイムスリップしたかのよう。
現に、途中に鍵が掛かっているドアがいくつかあったが、中には電子ロックになっているものまであった。
つまり、どこかで電子ロックを解除しなければならないということだ。
因みに新館と旧館を繋ぐ渡り廊下のドアには鍵を掛けておいたが、シーに言わせれば、ダニエラは普段から旧館と新館を行き来しており、恐らく鍵を本人も持っているだろうとのこと。
46号機も館内を警備するセキュリティ・ロボットという役割もあった為、鍵を持っていたようである。
旧館がそのまんま明治期の洋館だとするなら、新館は平成の現代に、わざと昔っぽく作りましたよといった感じだ。
照明も明るく、さすがにLED照明までは見当たらなかったが、旧館が電球中心でローソクも普通に使っていたのに対し、こちらは電球型も含めてほとんど蛍光灯である。
「どこへ向かいましょうか?」
「1Fに降りて、出入口を確認した方がいいかもね。どうせ閉まってるだろうけど」
「ま、確かに見るだけでも……ですね」
ここは2Fだから、1Fに降りる必要がある。
「!?」
階段を探していた井辺達だったが、何とエレベーターを見つけた。
「動くのでしょうか?」
下のボタンを押すと、ちゃんと動いた。
アナウンスとかチャイムの無いものである。
だが、見た目は相当に古い。
マンションのエレベーターのように、2枚扉が片方に開くサイド・オープン式のようだが、木製である!
……いや、木目調なだけか?
背後から足音と時折、狂った笑い声が聞こえる。
「くっ……まだですか、エレベーターは!」
階数表示板が無いので、エレベーターが何階にいるのか分からない。
「あっ、開いた!」
やっぱり木製なのだろうか、昔の古い電車のドアみたいにガラガラガラとローラーの転がる音を立てながらドアが開いた。
中は特段、変な構造ではないが。
「きゃははははははははは!!」
「くっ!」
井辺とシーは急いでエレベーターに乗り込んでドアを閉めた。
間一髪、エレベーターで逃げることができた。
ドアの向こうからは、
「お客様ァ!どこへ行かれるのですかぁぁっ!!」
と、狂った女の声とドアが乱暴に叩かれる音がしたのだが、エレベーターはゆっくりと1階に下りていった。
「マズいですね。ダニエラさんは私達以上に、この新館のことをご存知なんですよね?」
「そのはずだよ」
「もし階段が近くにあったりしたら、それで先回りされるかもしれません」
「何か、武器があればいいんだけどなぁ……」
井辺のハンドガンには既に弾は無く、シーにも武器は無かった。
「シー君は武器があれば戦えるのですか?」
「うん、あればね。……ああ、さすがにそういう大きいのはムリだよ」
シーは井辺のハンドガンを見ながら答えた。
ガコン!(エレベーターが止まる)
ガラガラガラ……。(木製のドアが開いた)
「ここが1階ですね」
「うん、そうみたいだね」
幸いダニエラが先回りして待っているということは無かった。
「取りあえず、エントランスへ!」
2人は比較的迷わずにエントランスに向かうことができた。
何故なら新館は古いながらも、非常口の表示灯があったからである。
昔の表示灯は、不自然にデカかった。
今のピクトグラムだけのシンプルな表示灯が一般的になってからというもの、とてもレアである。
やはり、ここは日本国内なのだろう。
その古めかしい非常口表示灯は、昔ながらのデカいもので、しかも明朝体で『非常口』と描かれていたからである。
ゴシック体なのは後期タイプ、明朝体は初期タイプである。
暗闇の中、明朝体はどことなく和風ホラー的な雰囲気があるため、昔の病院なんかでそれが使われていたりすると、それだけでホラーである。
但し、現在のコンパクトなLEDタイプと比べると電気代は食うし、蛍光灯の寿命は短いし、何より実は今の消防法にそぐわないというのもあってか、古い建物であっても、交換されることが多い。
大石寺の古い堂宇などには、まだデカい旧タイプが残っているのではないだろうか。
「ダメだ!やっぱり施錠されている!しかも、内鍵じゃない!」
新館のエントランスも、2階まで吹き抜けのT字型階段があるタイプだったが、旧館と違って、シャンデリアはもう少しシンプルな上、電球型の蛍光灯が使われていた。
「そうかぁ……。どこかで鍵を探さないとダメかぁ……」
2階にはダニエラがいる恐れがある為、まずは1階を探索してみることにした。
「う……」
井辺はスイートルームのベッドの上で目が覚めた。
(ここは……?ああ。あの部屋か……。何でここに?)
井辺が記憶の糸を手繰り寄せようとしたが、ようやく都内で乗ったタクシーの中で急に眠くなったことしか思い出せない。
と、枕元でブブブブブと虫の羽音のような音が聞こえた。
「シー君?」
音のする方を見ると、月明かりを背にシーが深刻そうな顔をして井辺を見ていた。
影になりながらも、青白い眼光が見えるあたり、やっぱりロイドなのだと思う。
妖精の羽は基本無音だが、意図的に羽音を出すことができるらしい。
「シッ。翔太さん。ゆっくりこっちへ来て。ゆっくり、静かに……」
「えっ?それはどういう……?」
井辺が起き上がって、ベッドから出ようとした時だった。
「わっ!?」
突然、背後から抱きつかれる。
「な、何ですか!?」
振り向くと、そこにいたのはダニエラだった。
いつの間にかダニエラが同衾していたらしい。
別に、服とかはそのままだが……。
井辺が驚いていると、ダニエラは立ち上がった。
「お客様……私には……足りないのです……」
「な、何がですか!?」
「男の……器の……!」
窓際に立って、何度も窓ガラスに頭を叩き付ける。
「ちょっ……ちょっと!」
そして、大きな音を立てて窓ガラスが割れた。
その後、鋭く尖った破片を拾い上げると、それをペロッと舐める。
「男の……人間の……!」
破片を手に、ゆっくりと近づいて来る。
「翔太さん!逃げよう!」
シーが井辺を促すと、井辺も急いで部屋から飛び出した。
「あ、あれは一体、何なんですか!?」
「ボクも知らないよ!ただ……」
シーのメモリーには、倒れた井辺を抱え上げたのはエリオット。
スイートルームのベッドに寝かせると、ダニエラに監視しておくように命じていた。
監視だからただ単に見ていていいはずなのだが、何故か広いダブルベッドの隣に潜り込んで……。
「1つ、言えることがあります!」
井辺は走りながら仮説を言った。
「恐らく、ダニエラさんは……あっ!」
石段から躓いて転げ落ちる井辺。
「翔太さん!」
「きゃははははははは!!」
背後から狂った笑いをしながら、ダニエラが鋭いガラスの破片を手に、階段の上から見下ろしていた。
「男の……器の……!!」
そして、階段の上から破片を井辺に向けて飛び降りた!
「だーっ!」
そこでシー、ある行動に出る。
どこから拾ってきたのか、スタンガンを抱えると飛び降りて来たダニエラに向けた。
ダニエラは感電して倒れた。
「翔太さん!しっかり!」
「あ、いててててて……!」
「ケガは無い!?」
「えぇ、何とか……。ダニエラさんは……」
「スタンガンで気絶せておいた」
「さすがです!」
「でも、もうスタンガンのバッテリーはゼロだから使えないよ」
「何ですって!?」
「今のうちに新館に行こう!」
「そうですね!」
[期日・時刻不明 洋館(新館)2F 井辺翔太&シー]
「ボクはあんまり新館のことは分からないんだ」
「そうなんですか」
新館に入ると、そこはまるで近代的な建物のようだった。
明治・大正時代から一気に現代までタイムスリップしたかのよう。
現に、途中に鍵が掛かっているドアがいくつかあったが、中には電子ロックになっているものまであった。
つまり、どこかで電子ロックを解除しなければならないということだ。
因みに新館と旧館を繋ぐ渡り廊下のドアには鍵を掛けておいたが、シーに言わせれば、ダニエラは普段から旧館と新館を行き来しており、恐らく鍵を本人も持っているだろうとのこと。
46号機も館内を警備するセキュリティ・ロボットという役割もあった為、鍵を持っていたようである。
旧館がそのまんま明治期の洋館だとするなら、新館は平成の現代に、わざと昔っぽく作りましたよといった感じだ。
照明も明るく、さすがにLED照明までは見当たらなかったが、旧館が電球中心でローソクも普通に使っていたのに対し、こちらは電球型も含めてほとんど蛍光灯である。
「どこへ向かいましょうか?」
「1Fに降りて、出入口を確認した方がいいかもね。どうせ閉まってるだろうけど」
「ま、確かに見るだけでも……ですね」
ここは2Fだから、1Fに降りる必要がある。
「!?」
階段を探していた井辺達だったが、何とエレベーターを見つけた。
「動くのでしょうか?」
下のボタンを押すと、ちゃんと動いた。
アナウンスとかチャイムの無いものである。
だが、見た目は相当に古い。
マンションのエレベーターのように、2枚扉が片方に開くサイド・オープン式のようだが、木製である!
……いや、木目調なだけか?
背後から足音と時折、狂った笑い声が聞こえる。
「くっ……まだですか、エレベーターは!」
階数表示板が無いので、エレベーターが何階にいるのか分からない。
「あっ、開いた!」
やっぱり木製なのだろうか、昔の古い電車のドアみたいにガラガラガラとローラーの転がる音を立てながらドアが開いた。
中は特段、変な構造ではないが。
「きゃははははははははは!!」
「くっ!」
井辺とシーは急いでエレベーターに乗り込んでドアを閉めた。
間一髪、エレベーターで逃げることができた。
ドアの向こうからは、
「お客様ァ!どこへ行かれるのですかぁぁっ!!」
と、狂った女の声とドアが乱暴に叩かれる音がしたのだが、エレベーターはゆっくりと1階に下りていった。
「マズいですね。ダニエラさんは私達以上に、この新館のことをご存知なんですよね?」
「そのはずだよ」
「もし階段が近くにあったりしたら、それで先回りされるかもしれません」
「何か、武器があればいいんだけどなぁ……」
井辺のハンドガンには既に弾は無く、シーにも武器は無かった。
「シー君は武器があれば戦えるのですか?」
「うん、あればね。……ああ、さすがにそういう大きいのはムリだよ」
シーは井辺のハンドガンを見ながら答えた。
ガコン!(エレベーターが止まる)
ガラガラガラ……。(木製のドアが開いた)
「ここが1階ですね」
「うん、そうみたいだね」
幸いダニエラが先回りして待っているということは無かった。
「取りあえず、エントランスへ!」
2人は比較的迷わずにエントランスに向かうことができた。
何故なら新館は古いながらも、非常口の表示灯があったからである。
昔の表示灯は、不自然にデカかった。
今のピクトグラムだけのシンプルな表示灯が一般的になってからというもの、とてもレアである。
やはり、ここは日本国内なのだろう。
その古めかしい非常口表示灯は、昔ながらのデカいもので、しかも明朝体で『非常口』と描かれていたからである。
ゴシック体なのは後期タイプ、明朝体は初期タイプである。
暗闇の中、明朝体はどことなく和風ホラー的な雰囲気があるため、昔の病院なんかでそれが使われていたりすると、それだけでホラーである。
但し、現在のコンパクトなLEDタイプと比べると電気代は食うし、蛍光灯の寿命は短いし、何より実は今の消防法にそぐわないというのもあってか、古い建物であっても、交換されることが多い。
大石寺の古い堂宇などには、まだデカい旧タイプが残っているのではないだろうか。
「ダメだ!やっぱり施錠されている!しかも、内鍵じゃない!」
新館のエントランスも、2階まで吹き抜けのT字型階段があるタイプだったが、旧館と違って、シャンデリアはもう少しシンプルな上、電球型の蛍光灯が使われていた。
「そうかぁ……。どこかで鍵を探さないとダメかぁ……」
2階にはダニエラがいる恐れがある為、まずは1階を探索してみることにした。