報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“新アンドロイドマスター” 「メイドロイドの暴走」

2015-10-16 19:22:19 | アンドロイドマスターシリーズ
[期日不明 時刻不明(時計の振り子は動いているが、針が止まっている) 天候:晴 洋館(旧館)3Fスイートルーム 井辺翔太&シー]

「う……」
 井辺はスイートルームのベッドの上で目が覚めた。
(ここは……?ああ。あの部屋か……。何でここに?)
 井辺が記憶の糸を手繰り寄せようとしたが、ようやく都内で乗ったタクシーの中で急に眠くなったことしか思い出せない。
 と、枕元でブブブブブと虫の羽音のような音が聞こえた。
「シー君?」
 音のする方を見ると、月明かりを背にシーが深刻そうな顔をして井辺を見ていた。
 影になりながらも、青白い眼光が見えるあたり、やっぱりロイドなのだと思う。
 妖精の羽は基本無音だが、意図的に羽音を出すことができるらしい。
「シッ。翔太さん。ゆっくりこっちへ来て。ゆっくり、静かに……」
「えっ?それはどういう……?」
 井辺が起き上がって、ベッドから出ようとした時だった。
「わっ!?」
 突然、背後から抱きつかれる。
「な、何ですか!?」
 振り向くと、そこにいたのはダニエラだった。
 いつの間にかダニエラが同衾していたらしい。
 別に、服とかはそのままだが……。
 井辺が驚いていると、ダニエラは立ち上がった。
「お客様……私には……足りないのです……」
「な、何がですか!?」
「男の……器の……!」
 窓際に立って、何度も窓ガラスに頭を叩き付ける。
「ちょっ……ちょっと!」
 そして、大きな音を立てて窓ガラスが割れた。
 その後、鋭く尖った破片を拾い上げると、それをペロッと舐める。
「男の……人間の……!」
 破片を手に、ゆっくりと近づいて来る。
「翔太さん!逃げよう!」
 シーが井辺を促すと、井辺も急いで部屋から飛び出した。
「あ、あれは一体、何なんですか!?」
「ボクも知らないよ!ただ……」
 シーのメモリーには、倒れた井辺を抱え上げたのはエリオット。
 スイートルームのベッドに寝かせると、ダニエラに監視しておくように命じていた。
 監視だからただ単に見ていていいはずなのだが、何故か広いダブルベッドの隣に潜り込んで……。
「1つ、言えることがあります!」
 井辺は走りながら仮説を言った。
「恐らく、ダニエラさんは……あっ!」
 石段から躓いて転げ落ちる井辺。
「翔太さん!」
「きゃははははははは!!」
 背後から狂った笑いをしながら、ダニエラが鋭いガラスの破片を手に、階段の上から見下ろしていた。
「男の……器の……!!」
 そして、階段の上から破片を井辺に向けて飛び降りた!
「だーっ!」
 そこでシー、ある行動に出る。
 どこから拾ってきたのか、スタンガンを抱えると飛び降りて来たダニエラに向けた。
 ダニエラは感電して倒れた。
「翔太さん!しっかり!」
「あ、いててててて……!」
「ケガは無い!?」
「えぇ、何とか……。ダニエラさんは……」
「スタンガンで気絶せておいた」
「さすがです!」
「でも、もうスタンガンのバッテリーはゼロだから使えないよ」
「何ですって!?」
「今のうちに新館に行こう!」
「そうですね!」

[期日・時刻不明 洋館(新館)2F 井辺翔太&シー]

「ボクはあんまり新館のことは分からないんだ」
「そうなんですか」
 新館に入ると、そこはまるで近代的な建物のようだった。
 明治・大正時代から一気に現代までタイムスリップしたかのよう。
 現に、途中に鍵が掛かっているドアがいくつかあったが、中には電子ロックになっているものまであった。
 つまり、どこかで電子ロックを解除しなければならないということだ。
 因みに新館と旧館を繋ぐ渡り廊下のドアには鍵を掛けておいたが、シーに言わせれば、ダニエラは普段から旧館と新館を行き来しており、恐らく鍵を本人も持っているだろうとのこと。
 46号機も館内を警備するセキュリティ・ロボットという役割もあった為、鍵を持っていたようである。
 旧館がそのまんま明治期の洋館だとするなら、新館は平成の現代に、わざと昔っぽく作りましたよといった感じだ。
 照明も明るく、さすがにLED照明までは見当たらなかったが、旧館が電球中心でローソクも普通に使っていたのに対し、こちらは電球型も含めてほとんど蛍光灯である。
「どこへ向かいましょうか?」
「1Fに降りて、出入口を確認した方がいいかもね。どうせ閉まってるだろうけど」
「ま、確かに見るだけでも……ですね」
 ここは2Fだから、1Fに降りる必要がある。
「!?」
 階段を探していた井辺達だったが、何とエレベーターを見つけた。
「動くのでしょうか?」
 下のボタンを押すと、ちゃんと動いた。
 アナウンスとかチャイムの無いものである。
 だが、見た目は相当に古い。
 マンションのエレベーターのように、2枚扉が片方に開くサイド・オープン式のようだが、木製である!
 ……いや、木目調なだけか?
 背後から足音と時折、狂った笑い声が聞こえる。
「くっ……まだですか、エレベーターは!」
 階数表示板が無いので、エレベーターが何階にいるのか分からない。
「あっ、開いた!」
 やっぱり木製なのだろうか、昔の古い電車のドアみたいにガラガラガラとローラーの転がる音を立てながらドアが開いた。
 中は特段、変な構造ではないが。
「きゃははははははははは!!」
「くっ!」
 井辺とシーは急いでエレベーターに乗り込んでドアを閉めた。
 間一髪、エレベーターで逃げることができた。
 ドアの向こうからは、
「お客様ァ!どこへ行かれるのですかぁぁっ!!」
 と、狂った女の声とドアが乱暴に叩かれる音がしたのだが、エレベーターはゆっくりと1階に下りていった。
「マズいですね。ダニエラさんは私達以上に、この新館のことをご存知なんですよね?」
「そのはずだよ」
「もし階段が近くにあったりしたら、それで先回りされるかもしれません」
「何か、武器があればいいんだけどなぁ……」
 井辺のハンドガンには既に弾は無く、シーにも武器は無かった。
「シー君は武器があれば戦えるのですか?」
「うん、あればね。……ああ、さすがにそういう大きいのはムリだよ」
 シーは井辺のハンドガンを見ながら答えた。

 ガコン!(エレベーターが止まる)
 ガラガラガラ……。(木製のドアが開いた)

「ここが1階ですね」
「うん、そうみたいだね」
 幸いダニエラが先回りして待っているということは無かった。
「取りあえず、エントランスへ!」
 2人は比較的迷わずにエントランスに向かうことができた。
 何故なら新館は古いながらも、非常口の表示灯があったからである。
 昔の表示灯は、不自然にデカかった。
 今のピクトグラムだけのシンプルな表示灯が一般的になってからというもの、とてもレアである。
 やはり、ここは日本国内なのだろう。
 その古めかしい非常口表示灯は、昔ながらのデカいもので、しかも明朝体で『非常口』と描かれていたからである。
 ゴシック体なのは後期タイプ、明朝体は初期タイプである。
 暗闇の中、明朝体はどことなく和風ホラー的な雰囲気があるため、昔の病院なんかでそれが使われていたりすると、それだけでホラーである。
 但し、現在のコンパクトなLEDタイプと比べると電気代は食うし、蛍光灯の寿命は短いし、何より実は今の消防法にそぐわないというのもあってか、古い建物であっても、交換されることが多い。
 大石寺の古い堂宇などには、まだデカい旧タイプが残っているのではないだろうか。

「ダメだ!やっぱり施錠されている!しかも、内鍵じゃない!」
 新館のエントランスも、2階まで吹き抜けのT字型階段があるタイプだったが、旧館と違って、シャンデリアはもう少しシンプルな上、電球型の蛍光灯が使われていた。
「そうかぁ……。どこかで鍵を探さないとダメかぁ……」
 2階にはダニエラがいる恐れがある為、まずは1階を探索してみることにした。
コメント (7)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“新アンドロイドマスター” 「メイドロイド?ダニエラ」

2015-10-16 15:18:45 | アンドロイドマスターシリーズ
[期日不明 時刻不明 天候:晴 洋館(旧館)3F 井辺翔太&シー]

 バージョン3.0の46号機を撃退した井辺達は小休止しようと、旧館のスイートルームに戻って来た。
 どうやらこの洋館、新館と旧館に分かれているらしく、今まで井辺達がいる所は旧館のようである。
 46号機は撃退したが、それまで姿を見せていたメイドロイドのダニエラや執事を自称するエリオットは見かけない。
 で、そんなスイートルームに戻って来た1人と人外1機を出迎えた者がいた。
「あっ!」
「ヨンロック!お前、また!」
 件のバージョン3.0、46号機がいた。
 礼拝堂で井辺とシーの連係プレイに完敗し、井辺を“神降臨”と崇めたのではなかったか。
「ブブブブブ!」
 46号は井辺達の姿を見つけると、両膝をついて“伏せ拝”した。
 そして、両手で何かを差し出した。
「えっ?何かくれるのですか?」
 二足歩行のテロリズム・ロボットだが、両手もちゃんとゴツいながらも指が5本ある。
 そこに小箱が乗っかっていた。
 宝石箱のようだ。
 御供養……いや、御供物のつもりだろうか。
 井辺が受け取ると、46号は床に頭を擦り付けた。
 どうやら本当に井辺を“神”と見ているようである。
 ていうか、46号がドアの前にいるせいで、スイートルームに入れないのだが。
「……ありがたく、頂戴しておきます。シー君、別の場所で休もう」
「えっ?う、うん……」
 井辺は宝石箱を手に、スイートルームから離れた。

 代わりに向かったのは探索済みのゲストルームの方。
 新館へ通じる廊下の途中にある。
 そこの待合所みたいな所には電話機があるのだが、これがまたいわゆる黒電話ってヤツだ。
 さっき探索の際に取ってみたのだが、電話線が切れているらしく、うんともすんとも言わなかった。
 井辺はその椅子に腰掛けた。
「喉が渇いたでしょ?冷たいお水でもいかが?」
「おっ、ありがたい。お願いします」
 確かここには水道があった。
 飲めるかどうかは不明だが、少なくともシーがコップに汲んで来た水は澄んでいた。
 実際飲んでみても、別に変な味はしなかった。
 とにかくそれで一息つき、宝石箱の中を開けてみた。
 すると、中に鍵が1本入っていた。

 
 
 それと、メモ書き。

『井辺君へ

 これを持っているということは、あの狂暴な46号機を倒したということか。どうやって倒したのかは知らんが、実に見事なり!
 旧館からの脱出は不可能である。
 この鍵を手にしているということは、既に新館への通路を見つけていることだろう。
 あるいは新館からなら脱出が可能かもしれない。
 新館は旧館と違い、文字通り新しい。だがその代わり、仕掛けも新しいタイプで複雑だ。それに疲弊してしまうかもしれない。
 その覚悟があるなら、新館へ来なさい。私も新館のとあるエリアで、キミを待っている。直接会えたら、脱出経路を教えられるのだが……。

 追伸:エリオットに気を付けろと言ったが、ダニエラにも気をつけろ。あいつも危険だ。この手紙を書いている時、既にヤツの居場所が分からなくなった。それは不本意ながら、私が命令を出せずにいるということでもある。十分に気をつけてくれ

 ケイン・ローズウェル』

「……何だか知りませんが、今のところ、警戒すべき相手は2人。支援して下さっているのは1人ということですね」
「う、うん……」
「分かりました。このままここにいても、事態が好転するとは思えません。新館に向かいましょう」
 井辺は新館への鍵を手に、新館への渡り廊下に向かった。
 それまでは木製のドアが多かった旧館だが、新館へのドアだけは鉄製だった。
 それだけでも、比較的新しい建物だということが分かる。
 そのドアの鍵穴へ鍵を差し込んだ時だった。
「!!!」
 突然、後ろから肩を叩かれた。
 左肩にはシーが乗っかっているので、右肩だ。
 振り向くと、そこにいたのはダニエラだった。
「な、何ですか?」
 ダニエラは無表情で答えた。
「お食事の・準備が・整って・ございます。お客様」
「ええっ?いや、しかし、もうこんな夜遅い時間ですし……」
 もっとも、今何時だかは分からない状態である。
 外が暗いので、真夜中であることは間違いないのだが……。
 井辺が固辞しようすると、ダニエラは顔を近づけて来た。
 そして、微笑を浮かべる。
「お食事の・準備が・整って・ございます。お客様」
「……あ、はい」
 何だかここで逆らったらヤバいような気がする。
 井辺は小さく頷くと、ダニエラの後ろをついていった。
(この人は、本当にロイドなのだろうか……)
 井辺はそんなことを考えた。
 確かに喋り方など、エミリーにそっくりである。
 敷島の話では、当初のエミリーは表情に乏しく、また発声も抑揚が無かったとのことだが、今のダニエラのような感じだったのだろうか。
 しかし顔を近づけられて、ふと井辺はエミリーとも違うような印象を受けたのだった。

 ダニエラに案内された場所は、井辺がサラダオイルを取り出した厨房の隣にある食堂。
 大きな燭台が長テーブルの上に鎮座しているのが印象的なテーブルだ。
 そのテーブルの上には赤いクロスが引かれ、コース料理が来るかのようなナイフとフォークの並びになっていた。
 食事の間、ダニエラは井辺の横に立っている。
 シーはコンセントから、自分の背中にケーブルを繋げて充電していた。
 ロイドだと充電中は“スリープ”状態だが、シーは充電中でも活動できるらしい。
 井辺とは別のテーブルの上に寝そべっていた。
「私の・製作者……ウィリアム・フォレスト博士は・私を・完璧な・ガイノイドに・作り上げようと・熱心に・研究されて・おられ・ました」
 井辺が食べている間、ダニエラが自分語りを始める。
「ドクター・ウィリーは既に死亡しているはずです。何故にあなたは稼働しているのですか?」
 井辺がダニエラに質問した。
「……ウィリアム博士は・この・研究所を・立ち上げ・日夜・研究に・勤しんで・おられます。全ては・全世界への・復讐の・為に」
「は?復讐?」
「お客様は・ウィリアム博士が・お招きした・重要な・助手です。十分に・歓待する・ようにと……」
「は、助手!?」
 初めてダニエラから聞かされる話。
「あの、もしかして、ここにそのドクター・ウィリーが来るなんてことは……?」
 井辺が恐る恐る聞くと、ダニエラはニィッと不気味な笑みを浮かべた。
「いずれ・近いうちに……」
(ヤバい!このままここにいては大変な気がする!)
 井辺は急いで席を立った。
「すいません!急用を思い出しましたので、これにて失礼!ごちそうさまでした!」
 井辺は逃げるように、食堂を飛び出した。
「あっ、待ってよ!」
 シーは慌ててケーブルを外すと、井辺の後を追った。
「…………」
 1人残されたダニエラは、井辺の残していったスープをスプーンですくうと、一口……飲んだ!

「は、早く新館に行かねば……!」
 だが、突然目の前が暗くなる井辺。
「ろ、廊下が暗い!シー君、明かりを点けてくれないか!」
「照明なら点いてるよ!元から薄暗いけど!翔太さん、少し休んだ方がいいよ!」
「い、いや、こんなことしてる場合ではない。どうやら、ドクター・ウィリーが生きている恐れがある……!早いとこ脱出して……社長に……ご報告………」
 バタッと倒れる井辺。
「翔太さん!……!?」
 そこへ井辺の元へ歩み寄る者がいた。
 シーは警戒して、物陰にサッと隠れる。
 その人物は井辺を抱き抱えると、スイートルームに連れて行った。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“新アンドロイドマスター” 「第一の中ボス戦」

2015-10-16 02:42:41 | アンドロイドマスターシリーズ
[期日不明 時刻不明(常に時計があるわけではないので)天候:不明 洋館1F 井辺翔太&シー]

 謎解きや仕掛けを解きながら、洋館からの脱出ルートを探す井辺達。
 倒しても復活を繰り返すバージョン3.0-046に追われながらの探索であった。
 どうしても鍵が必要で、開けられないドアがあるのが1ヶ所。
 『新館』と書かれたドアだけだった。
 そのままの意味で受け止めると、それなら今、井辺達のいる所は『旧館』ということになるが……。

 今、井辺達はある場所に来ている。
「『ここから先、明かりを持つ者の先導無くして進むは自害に等しい』?」
 鍵の掛かっていないドアを開けようとすると、入口にそんなことが書いてあった。
「明かり?ライトが必要ってことかな?」
「いや、そうじゃないんだ」
 と、シー。
 ドアを開けて中に入ると、
「何だこれは?」
 向こう側にドアが見える。
 しかし、こちら側と向こう側の間……50メートルくらいだろうか。
 床が真っ黒に塗られていた。
 漆黒と言って良い。
 まるで奈落の底へ通じているようだ……。
「うん、『奈落の穴』だよ」
「えっ?」
「このまま行ったら翔太さん、落ちるよ」
「何ですって?じゃあ、やっぱりライトを……」
「いや、大丈夫。ボクの後ろを着いてきて」
「は?」
 シーが言うと、全身が光った。
「あっ?」
 そして、床の上スレスレを低く飛ぶ。
 その光に黒い御影石が黒光りに反射し、全く反射しない穴とは一線を画していた。
「なるほど。『明かりを持つ者』とはシー君のことでしたか!」
 井辺は納得してシーの後ろを着いて行った。
 御影石の床はまるで山道のようにうねっていた。
 ゆっくりとシーの後ろを着いていったおかげで、井辺は穴に落ちずに済んだのである。
「この先は何になっているのでしょう?」
「確か、教会だね」
「教会?……チャペルですか?こんな所に?」
「うん」

 ドアを開けると、確かにそこは教会の礼拝堂になっていた。
「こ、これは……!?」
 ただ違うのは、他のキリスト教会なら聖母マリア像とかイエス・キリスト像が立っている位置に、別の神像が立っていたことだ。
「これは……人間ですか?」
 神像は石膏で作られていたが、明らかにキリスト教会で安置されているものとは違った。
 白衣を着た老人が、その両側のポケットに手を入れ、台座の上から見下ろしている。
「うん?」
 その台座の前には、神像についての説明があった。
 日本語で大きく書かれたその下に、英語で書かれている。
『ロイドの偉大なる神、ウィリアム・フォレスト』と。
「これはドクター・ウィリーの……!?」
 すると背後でドアの開く音がした。
 振り向くと、あの46号機が入ってきていた。
 46号機はドアを閉めると鍵を掛け、
「キュルキュルキュル……」
 井辺に赤い目(カメラセンサー)を向けた。
「翔太さん、来るよ」
 シーはそれだけ言うと、神像の裏に隠れた。
「くっ!」
 井辺が脱兎の如くその場から離れると、46号機もまたダッシュで突進してきた。
 ドーンと46号機が壁に激突する。
 が、もちろんそれだけで壊れるほどヤワではない。
 次に柱の所に行くと、またもや突進してきて、柱に体当たり。
 まだ井辺の方が若干速いので、体当たりの直撃は避けられているもよう。
「翔太さん!シャンデリアを落として!」
 シーが神像の台座の上から叫んだ。
 背中からはコードが伸びている。
 さっき光ったことで、残りのバッテリーが残り僅かになったようである。
「落としてって……ん?」
 よく見ると、シャンデリアは柱からワイヤーロープで支えられているらしい。
 旧館ということもあってか、館全体が老朽化していることは否めない。
 それで自然発生した罠(抜けた床、崩れた階段、落ちたバルコニー)に悩まされたものだ。
 この礼拝堂もそうで、シャンデリアを吊っている天井からのチェーンは錆びていた。
 そしてさっき柱に46号機が体当たりしたことで、ワイヤーとチェーンのバランスが悪くなっている。
「こっちだ!46号機!」
 井辺は反対側の柱の前に立った。
 案の定、46号がまた体当たりしてくる。
 柱に激突すると、ついにその衝撃で古くなったワイヤーが切れた。
「今だ!」
 そして井辺がシャンデリアの下に46号を誘導する為、そこの元へ向かう。
 いつの間にかシャンデリアの上に移動していたシーが、井辺の通過を待って最後のチェーンを切った。
 台座の下に何か道具があったらしく、それを使用した。

 そして……。

「やったか!?」
 とても大きくて重厚なシャンデリアが落下し、それは46号に直撃した。
 とても大きな音がしたので、井辺もシーもびっくりしたくらいだ。
 46号は火花を散らして、今度こそ動かなくなった。
「やったね!井辺さん!」
「ええ!シー君のおかげです!」
 これでもう46号機が襲ってくることは……。
「えっ?」
「あっ!?」
「グググ……」
 何と!それでも46号は壊れなかった。
 バージョン・シリーズなど、エミリーやシンディにど突かれれば、簡単に壊れるくらいなのに……。
「し、シー君。ど、どうしますかね……?」
「ど、どうって……。もう、手は無いヨ……」
 46号機はシャンデリアをどかすと、ゆっくりと立ち上がり……。
「……!!」
 井辺の前に跪いた。
 そして、まるで顕正会員が浅井会長に伏せ拝するメッカの方角に向かって祈りを捧げるムスリムのように、何度も頭を床に擦り付けた。
 その後でゆっくりと立ち上がると井辺達に背を向け、掛けたドアの鍵を開けると、礼拝堂から立ち去って行った。
「な、何だったのだろう……?」
「翔太さんを『神様』と間違えた?」
 シーが後ろにある神像を見ながら言った。
「ちょうどヨンロックから見て、翔太さんの立ち位置、像の前だし、照明の関係で後光が差しているように見えたからね。あとは……頭を打ったショックとかさ」
「ロボットなのに、意外と信心深いんですねぇ……。とにかく、これでもう46号機が襲ってくることはないということでしょうか?」
「そういうことになるね」
「1つの大きな勝利でしょうが、進展は無さそうですね」
「まあ……。井辺さん、これで少しは安心でしょ?少し休んだら?」
「そう、ですね。取りあえず、戻りましょうか」

 井辺とシーは礼拝堂を出た。
 再び御影石の通路を通らなくてはならなかったが、またもやシーの誘導で安全に通れた。
 何か、微妙に通路の形が変わったような……?
 せっかく戦いに勝ったのに、帰り際、穴に落ちたなんてシャレにもならない。

「あっ!?」
「!?」
 何とかスイートルームの前まで戻ってくると、部屋の前で待ち構えている者がいた。
 それは……。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする