[期日不明 時刻不明 場所不明 井辺翔太]
「う……」
井辺の意識レベルが回復した。
「……?」
起き上がると、そこは地下牢のようだった。
とても薄暗く、時間は分からない。
「ここは……どこなんだ?どうして俺は……?」
直近の記憶の糸を手繰り寄せる。
「はっ!荷物が……!」
井辺はいつものスーツではなく、何故か人間ドックを受ける時に着る検査着のような物を着せられていた。
腕時計もケータイも無く、鞄も無い。
「これは一体、どういうことなんだ……?」
[9月18日10:00.天候:晴 東京都墨田区内・貸会議室 敷島孝夫]
「……弊社のプロデューサー、井辺翔太が行方不明になっています。どうか、皆さんの御協力をお願い致します」
敷島は悔しそうな顔を浮かべて、記者団の前で会見した。
井辺が行方不明になる直前の行動まで記者団の前で話した。
「敷島社長はKR団などのテロ組織の捜査に協力していたということですが、そちら側からの報復などの犯行の可能性は高いですか?」
「高いと思います。しかしながら直近まで捜査していたKR団は事実上瓦解していますし、警察の捜査で残党は次々と摘発されています。とても弊社の社員に報復ができる状態ではないと考えております」
「では、新たな組織の犯行でしょうか?」
「まだ何とも言えません」
「芸能界ではボーカロイドの営業について、かなり批判的な部分もあると言われていますが……」
敷島は記者達の質問に次々と答えていった。
中には、井辺の行方不明について全く関係の無い質問も出て来た。
「そこのシンディ・サードはロシアだけでなく、日本国内でもテロ活動に参加していたということですが、再稼働についてどうお考えですか?」
など。
「シンディ自身の罪ではなく、シンディにテロ活動を命令していた人間の責任です。私がユーザーである以上、私の目が黒いうちは絶対に2度と人を傷つけることは致しません」
と、答えた。
「超法規的措置という理由で銃火器を装備しているそうですが、安全性については?」
「芸能活動の予定は?」
[期日不明 時刻不明 場所不明 井辺翔太]
「あれ?」
井辺は鉄格子の扉を開けようとした。
当然ながら、誰が掛けたか南京錠が掛かっていた。
が、何故か扉を無理にこじ開けようとしたら、錠前が壊れて開いた。
「……よし」
井辺は鉄格子のドアを開けて、牢屋の外に出た。
因みに、履き物も素足にサンダルである。
(取りあえず明るい所に出て、今の状況を把握しないと……)
井辺はジメジメした暗い通路を進んだ。
何とか上りの石段に着く。
ここを駆け上がると、鉄格子に木板が嵌め込まれたドアがあった。
開けようとするが、鍵が掛かっていて開かない。
「くそ……っ!どこかに鍵は無いのか?」
井辺は階段を下りて、今度は反対方向へ歩いてみた。
天井には、今時珍しい裸電球がポツリポツリ点灯しているだけで薄暗い。
他にも牢屋があるのだが、収監されているのは井辺だけのようだ。
いや、本当にまるで中世ヨーロッパの城の地下牢を模した感じだ。
どこかの遊園地のアトラクションではないかと思うほど。
でも、どうやら違うようだ。
反対側は行き止まりだったが、古い木製の机の上にはメモ書きがしてあった。
「『牢破りを図る者、人ならず者の力を用いて……』?」
日本語が書かれているところを見ると、ここは日本国内ではあるようだ。
「…………」
更にメモ用紙を裏返しにすると、
「『歌唱人形の色に合わせよ』?歌唱人形って……ボーカロイドのことか?」
先ほどまで自分が収監されていた牢屋を覗くと、ベッドの足元に光る物が見えた。
拾ってみると、それは緑色のメダル。
直径10cmくらいある。
これをどうせよというのだろうか?
ところで、さっきから気になるものがある。
通路の途中にある柱時計。
といっても地面に据え置かれているタイプで、壁に固定されている。
高さは2mくらい。
もしこの時計が合っているのだとしたら、夕方かもしくは朝の5時だろう。
その時計は振り子が見えない。
見えない代わりに、丸い窪みがあった。
そこに緑色のメダル……。
「あっ!?」
窪みには01とか02とか数字が書かれている。
「これは、もしかして……。初音さんが01号機で、イメージカラーは緑だから、ここに入れろ、と……?」
01と書かれた窪みに緑色のメダルを嵌め込む。
すると、時計の長針が動いて5時20分になった。
どうやらこの時計は、正確に時を刻むつもりは無いようである。
他にも誰もいない牢屋から黄色のメダルや赤いメダルを探し出し(他の牢屋には鍵が掛かっていなかった)、それをそれぞれ合う窪みに嵌め込む。
すると時計が12時を差し、文字盤の下の扉がパカッと開いた。
鳩でも出て来るのだろうか?
「!?」
しかし、出て来たのは鳩ではなかった。
「な、な、な!?」
素早く飛び出してきたそれは、鳥ではなかった。
無論、人間もない。
小さな人の姿をして、空を飛ぶ……。
「ま、待ってくれ!」
階段を登った先にあるドアへ光を放ちながら飛び去って行く何か。
井辺が慌てて追い掛けると、ドアが開く音がした。
そして、ドアクローザーで勝手に閉まるドアを押さえ、何とかドアの外に出ることに成功した。
パタンと閉まったドアはオートロックなのだろう。
外側からも開かなかった。
「ふう……」
ドアの外は外で、これまた異様な光景だった。
確かに外には出られた。
曇り空の下、どこかの敷地内であることが分かった。
公園だろうか?
しかし、人の気配はしない。
時計の中から飛び出し、あのドアを開けてくれた……そう、妖精みたいなもの。
それもいなくなっていた。
(ここでボーッとしていても始まらない。とにかく、進んでみよう)
少し行ってみると、どうやらここは公園とかではなく、人んちの庭であることが分かった。
それも、ただの民家の庭ではない。
「凄い屋敷だ……」
まるで古城と言っても良いくらいの大きな洋館が建っていた。
曇り空だが少し明るいので、時間帯的には夜ではないようだ。
真っ昼間というほどの明るさでもないが……。
石段を登ってみて、2階の外廊下みたいな所に行く。
しかし部屋を覗いて見るが、中は薄暗く、様子が分からない。
また、外から入るドアも見当たらなかった。
階段はまだ上に向かっている。
つまり、3階があるということだ。
登ってみる。
3階くらいの高さだったら、周囲を見渡して……。
「何だここは?本当に日本か?」
3階の高さから周囲を見渡したが、鬱蒼とした森しか見えなかった。
洋館の中庭の植木は一見して、ちゃんと剪定されている。
地面も土だが、雑草もちゃんと刈り取られていた。
「…………」
2階とは違い、3階の部屋には外から入るドアがあった。
ドアノブに手を掛ける。
鍵は掛かっていなかった。
中に入ると、誰かの私室のようだった。
広い部屋で、まずは大きなベッドが目についた。
柱時計が時を刻み、天井ではスズランを模した電球の照明器具が点灯している。
地下牢もそうだったが、時計が動いていて、こうやって照明も点灯しているということは、ここは打ち棄てられた廃墟ではないのだ。
誰かがここを管理している。
外部と連絡が取れる電話が無いか探してみたが、そんなものは無かった。
それと大きく目立ったのは人物画。
白人の老紳士である。
(どこかで見たことがあるような……?)
部屋にはもう1つドアがあり、その先は屋敷の更に奥へと続いていそうだ。
井辺はそのドアを開けようとした。
が、鍵が掛かっていて開かない。
部屋の中なのだから内鍵のはずなのたが、何故かそこにあったのは外鍵と同じ鍵穴があるだけだった。
(また何か仕掛けを解かないと開かない仕組みなのか?見た感じ、豪勢な造りの部屋だが……)
赤道のリゾートで高い部屋を予約すると、こういう部屋があてがわれるのでは?と思うような造りだ。
(どこかで鍵を探してこな……)
その時、井辺の背後に気配を感じた。
さっきまで誰もいなかった場所……そこにはいたのは……。
「う……」
井辺の意識レベルが回復した。
「……?」
起き上がると、そこは地下牢のようだった。
とても薄暗く、時間は分からない。
「ここは……どこなんだ?どうして俺は……?」
直近の記憶の糸を手繰り寄せる。
「はっ!荷物が……!」
井辺はいつものスーツではなく、何故か人間ドックを受ける時に着る検査着のような物を着せられていた。
腕時計もケータイも無く、鞄も無い。
「これは一体、どういうことなんだ……?」
[9月18日10:00.天候:晴 東京都墨田区内・貸会議室 敷島孝夫]
「……弊社のプロデューサー、井辺翔太が行方不明になっています。どうか、皆さんの御協力をお願い致します」
敷島は悔しそうな顔を浮かべて、記者団の前で会見した。
井辺が行方不明になる直前の行動まで記者団の前で話した。
「敷島社長はKR団などのテロ組織の捜査に協力していたということですが、そちら側からの報復などの犯行の可能性は高いですか?」
「高いと思います。しかしながら直近まで捜査していたKR団は事実上瓦解していますし、警察の捜査で残党は次々と摘発されています。とても弊社の社員に報復ができる状態ではないと考えております」
「では、新たな組織の犯行でしょうか?」
「まだ何とも言えません」
「芸能界ではボーカロイドの営業について、かなり批判的な部分もあると言われていますが……」
敷島は記者達の質問に次々と答えていった。
中には、井辺の行方不明について全く関係の無い質問も出て来た。
「そこのシンディ・サードはロシアだけでなく、日本国内でもテロ活動に参加していたということですが、再稼働についてどうお考えですか?」
など。
「シンディ自身の罪ではなく、シンディにテロ活動を命令していた人間の責任です。私がユーザーである以上、私の目が黒いうちは絶対に2度と人を傷つけることは致しません」
と、答えた。
「超法規的措置という理由で銃火器を装備しているそうですが、安全性については?」
「芸能活動の予定は?」
[期日不明 時刻不明 場所不明 井辺翔太]
「あれ?」
井辺は鉄格子の扉を開けようとした。
当然ながら、誰が掛けたか南京錠が掛かっていた。
が、何故か扉を無理にこじ開けようとしたら、錠前が壊れて開いた。
「……よし」
井辺は鉄格子のドアを開けて、牢屋の外に出た。
因みに、履き物も素足にサンダルである。
(取りあえず明るい所に出て、今の状況を把握しないと……)
井辺はジメジメした暗い通路を進んだ。
何とか上りの石段に着く。
ここを駆け上がると、鉄格子に木板が嵌め込まれたドアがあった。
開けようとするが、鍵が掛かっていて開かない。
「くそ……っ!どこかに鍵は無いのか?」
井辺は階段を下りて、今度は反対方向へ歩いてみた。
天井には、今時珍しい裸電球がポツリポツリ点灯しているだけで薄暗い。
他にも牢屋があるのだが、収監されているのは井辺だけのようだ。
いや、本当にまるで中世ヨーロッパの城の地下牢を模した感じだ。
どこかの遊園地のアトラクションではないかと思うほど。
でも、どうやら違うようだ。
反対側は行き止まりだったが、古い木製の机の上にはメモ書きがしてあった。
「『牢破りを図る者、人ならず者の力を用いて……』?」
日本語が書かれているところを見ると、ここは日本国内ではあるようだ。
「…………」
更にメモ用紙を裏返しにすると、
「『歌唱人形の色に合わせよ』?歌唱人形って……ボーカロイドのことか?」
先ほどまで自分が収監されていた牢屋を覗くと、ベッドの足元に光る物が見えた。
拾ってみると、それは緑色のメダル。
直径10cmくらいある。
これをどうせよというのだろうか?
ところで、さっきから気になるものがある。
通路の途中にある柱時計。
といっても地面に据え置かれているタイプで、壁に固定されている。
高さは2mくらい。
もしこの時計が合っているのだとしたら、夕方かもしくは朝の5時だろう。
その時計は振り子が見えない。
見えない代わりに、丸い窪みがあった。
そこに緑色のメダル……。
「あっ!?」
窪みには01とか02とか数字が書かれている。
「これは、もしかして……。初音さんが01号機で、イメージカラーは緑だから、ここに入れろ、と……?」
01と書かれた窪みに緑色のメダルを嵌め込む。
すると、時計の長針が動いて5時20分になった。
どうやらこの時計は、正確に時を刻むつもりは無いようである。
他にも誰もいない牢屋から黄色のメダルや赤いメダルを探し出し(他の牢屋には鍵が掛かっていなかった)、それをそれぞれ合う窪みに嵌め込む。
すると時計が12時を差し、文字盤の下の扉がパカッと開いた。
鳩でも出て来るのだろうか?
「!?」
しかし、出て来たのは鳩ではなかった。
「な、な、な!?」
素早く飛び出してきたそれは、鳥ではなかった。
無論、人間もない。
小さな人の姿をして、空を飛ぶ……。
「ま、待ってくれ!」
階段を登った先にあるドアへ光を放ちながら飛び去って行く何か。
井辺が慌てて追い掛けると、ドアが開く音がした。
そして、ドアクローザーで勝手に閉まるドアを押さえ、何とかドアの外に出ることに成功した。
パタンと閉まったドアはオートロックなのだろう。
外側からも開かなかった。
「ふう……」
ドアの外は外で、これまた異様な光景だった。
確かに外には出られた。
曇り空の下、どこかの敷地内であることが分かった。
公園だろうか?
しかし、人の気配はしない。
時計の中から飛び出し、あのドアを開けてくれた……そう、妖精みたいなもの。
それもいなくなっていた。
(ここでボーッとしていても始まらない。とにかく、進んでみよう)
少し行ってみると、どうやらここは公園とかではなく、人んちの庭であることが分かった。
それも、ただの民家の庭ではない。
「凄い屋敷だ……」
まるで古城と言っても良いくらいの大きな洋館が建っていた。
曇り空だが少し明るいので、時間帯的には夜ではないようだ。
真っ昼間というほどの明るさでもないが……。
石段を登ってみて、2階の外廊下みたいな所に行く。
しかし部屋を覗いて見るが、中は薄暗く、様子が分からない。
また、外から入るドアも見当たらなかった。
階段はまだ上に向かっている。
つまり、3階があるということだ。
登ってみる。
3階くらいの高さだったら、周囲を見渡して……。
「何だここは?本当に日本か?」
3階の高さから周囲を見渡したが、鬱蒼とした森しか見えなかった。
洋館の中庭の植木は一見して、ちゃんと剪定されている。
地面も土だが、雑草もちゃんと刈り取られていた。
「…………」
2階とは違い、3階の部屋には外から入るドアがあった。
ドアノブに手を掛ける。
鍵は掛かっていなかった。
中に入ると、誰かの私室のようだった。
広い部屋で、まずは大きなベッドが目についた。
柱時計が時を刻み、天井ではスズランを模した電球の照明器具が点灯している。
地下牢もそうだったが、時計が動いていて、こうやって照明も点灯しているということは、ここは打ち棄てられた廃墟ではないのだ。
誰かがここを管理している。
外部と連絡が取れる電話が無いか探してみたが、そんなものは無かった。
それと大きく目立ったのは人物画。
白人の老紳士である。
(どこかで見たことがあるような……?)
部屋にはもう1つドアがあり、その先は屋敷の更に奥へと続いていそうだ。
井辺はそのドアを開けようとした。
が、鍵が掛かっていて開かない。
部屋の中なのだから内鍵のはずなのたが、何故かそこにあったのは外鍵と同じ鍵穴があるだけだった。
(また何か仕掛けを解かないと開かない仕組みなのか?見た感じ、豪勢な造りの部屋だが……)
赤道のリゾートで高い部屋を予約すると、こういう部屋があてがわれるのでは?と思うような造りだ。
(どこかで鍵を探してこな……)
その時、井辺の背後に気配を感じた。
さっきまで誰もいなかった場所……そこにはいたのは……。