[9月18日04:00.ヘリコプター機内 敷島孝夫、3号機のシンディ、鷲田警視、村中課長]
「まさか、いきなりへりで東北に向かうことになるとは、私もVIPになった気分です」
敷島がそんなことを言うと、鷲田が答えた。
「KR団殲滅は使命だからな。その黒幕が確保できるかもしれないとあれば、ヘリの1機くらい飛ばすさ」
「さすがは警視」
「お前さんの部下、井辺君とやらは、本当に東北にいるのだろうな?」
「確率は高い、という意味です」
「なにっ?」
「エミリーが高確率で受信したのだから、ほぼ確実ですよ」
「いや、しかしたかだかロボットが受信したくらいで……」
「その高性能さ、目の当たりにすることになりそうですよ。幸い、今度の『ボカロ・フェス』は宮城県のセキスイハイム・スーパーアリーナですから、場所的にもちょうどいい」
「意外とその辺りなんじゃないのか?」
「可能性は無きにしもあらずですが、まだ結論を出すのは早いですよ。今までKR団を相手にしてきましたが、どうも戦う相手が小粒ばかりだと思ってはいたんですよ。もっと戦闘ロボットとかいても良さそうなのにいないし……。最悪、マルチタイプのコピーくらい出てくるかと思ったんですが、それも無いし」
恐らく、計画はしていたのだろう。
まずレイチェルがそうだし、アルエットを手に入れようとしていたのも、それが原因なのかもしれない。
「エミリーやシンディが電波を送って、向こうのバージョン達に命令を送っています。それで分かるかと思います」
「ていうか、もう既に分かったんだけどね」
「おっ?」
「なにっ!?」
シンディの開いた口に警察幹部2人は反応した。
「何故かバージョン3.0が多く集まる箇所がある。そしてそこにアタシの命令を送っても、姉さんが命令を送っても、うんともすんとも言わない連中がいる。そこしか無いと思うね」
「場所はどこだ!?」
シンディはその場所を話した。
「よし、向かうぞ!」
[期日不明 時刻不明 天候:晴 井辺翔太&シー]
「翔太さん!」
シーが見たのは、豹変したエリオットにライフルで狙撃される井辺の姿だった。
幸い、被弾は免れたようで、井辺はジグザグに逃げ出した。
そんな井辺は、敷島が前に言っていたことを思い出した。
『ショットガンは近距離戦には向いているが、遠距離戦には不向きだ。それと同様、ライフルは遠距離攻撃に向いているが、近距離には不向きだ。それと、ポンプアクション式だとリロードが遅いから、そこに隙ができる』
と。
今のシンディはライフルを着装しているが、前期型と後期型で種類が違う。
前者は手動式だった為、リロード中に隙があったという特徴があった。
後期型はオート式になった為、リロード中の隙が無くなった。
「あれは何ですか!?」
しかし、敷島ほど銃火器に詳しくない井辺には、あれがそもそもライフルかどうかも分からなかった。
スコープが付いているので、狙撃銃としてのライフルかなと思っただけだ。
しかし、例えどんな銃でも、弾には限りがある。
弾切れになってリロードしている間がチャンスだと思うのだが。
こっちにだってハンドガンくらいある。
「しまった!」
井辺が逃げ込んだ先は、隠れる場所の少ない広々としたダンスホール。
「逃げても無駄ですよ!あなたには、これからもっと協力してもらう!」
「テロ組織の手先なんて勘弁です!」
「さすがはレイチェルが見込んだ男だ。私は……むっ!?」
「えっ?」
リロードしながら近づくエリオット。
しかし、彼の目線は井辺の頭上に向けられた。
井辺がつられてその先に目を向ける。
すると、ダンスホールの吹き抜け2階廊下の上に老人が立っていた。
「今頃のこのこ現れやがって!老害ジジィ!」
「……随分と騒がしいと思ったが、やはりエリオットだったか」
「あ、あなたは……!」
その老人は旧館スイートルームの室内に掲げられていた肖像画の人物だった。
「ヤツはケイン・ローズウェル。この研究所の所長だった男だ」
エリオットがしれっとこの建物の正体について語る。
「だったって?」
「エリオット。確かにワシは、お前に所長のイスを譲って引退した。じゃが、まだ顧問なんじゃろう?何故ワシに相談も無くこんなことをした?」
「…………」
「ダニエラの費用もタダではないのじゃぞ?」
「あなたがケインさんですか。あのお手紙……」
「いかにも。ワシの名はケイン・ローズウェル。KR団のリーダーじゃ。ま、世界からはテロ組織とされているがな」
「いや、テロ組織でしょ!?」
「御隠居は御隠居らしく、縁側でネコでも抱きながらお茶でも飲んでなさい!全く!老害博士達のせいで、組織をこんなガタガタにしやがって!」
「達って……まさか、十条博士もですか?」
「そうだよ!俺達はテロ組織じゃなく、純粋にサイボーグの研究がしたかっただけだ!」
「サイボーグ?」
ケインが口を開いた。
「愚かな。人はいずれ老いて死ぬ。人間を機械化して、ムリに長命化するなど愚かの極み……」
「黙れ!テロ・ロボットしか作れない老害は、おとなしくそこで老いて死ね!」
「サイボーグ?……ああっ!?」
ケンショー・レンジャーのサイボーグ化、そしてダニエラの正体……。
「イエローだけサイボーグ化に失敗したって……」
「年寄りは手術に耐えられないからな。しかし、あんたならそれが可能だ。世界一強いサイボーグ化への実現だ!」
「いや、カンベンしてくださいよ!」
「……最初はタカオ・シキシマという男が狙いだったのではないか?」
ケインがまた口を開く。
「最初はそのつもりだったんだが、気が変わった。あんたも適性だ!」
「だから、お断わりだって!」
直後、エリオットがライフルを発砲した。
慌てて床に伏せる井辺。
「ぐおっ!?」
しかし被弾したのは、井辺ではなかった。
ケイン・ローズウェル。
呆気ない死であった。
「さあ、来てもらおうか!ここで死にたくなかったらな!」
「くっ……!」
ライフルの銃口は井辺に向けられている。
逃げられはしないだろう。
「わ、分かったよ」
井辺は両手を挙げて立ち上がった。
「では、向こうのドアを開けて進んでもらおうか。……逃げようしたらどうなるかは、言わなくても分かるな?」
「分かってるって」
答えながら井辺は何となく周囲を見渡した。
だが、シーの姿は無かった。
エリオットに怯えて逃げてしまったのだろうか。
「まさか、いきなりへりで東北に向かうことになるとは、私もVIPになった気分です」
敷島がそんなことを言うと、鷲田が答えた。
「KR団殲滅は使命だからな。その黒幕が確保できるかもしれないとあれば、ヘリの1機くらい飛ばすさ」
「さすがは警視」
「お前さんの部下、井辺君とやらは、本当に東北にいるのだろうな?」
「確率は高い、という意味です」
「なにっ?」
「エミリーが高確率で受信したのだから、ほぼ確実ですよ」
「いや、しかしたかだかロボットが受信したくらいで……」
「その高性能さ、目の当たりにすることになりそうですよ。幸い、今度の『ボカロ・フェス』は宮城県のセキスイハイム・スーパーアリーナですから、場所的にもちょうどいい」
「意外とその辺りなんじゃないのか?」
「可能性は無きにしもあらずですが、まだ結論を出すのは早いですよ。今までKR団を相手にしてきましたが、どうも戦う相手が小粒ばかりだと思ってはいたんですよ。もっと戦闘ロボットとかいても良さそうなのにいないし……。最悪、マルチタイプのコピーくらい出てくるかと思ったんですが、それも無いし」
恐らく、計画はしていたのだろう。
まずレイチェルがそうだし、アルエットを手に入れようとしていたのも、それが原因なのかもしれない。
「エミリーやシンディが電波を送って、向こうのバージョン達に命令を送っています。それで分かるかと思います」
「ていうか、もう既に分かったんだけどね」
「おっ?」
「なにっ!?」
シンディの開いた口に警察幹部2人は反応した。
「何故かバージョン3.0が多く集まる箇所がある。そしてそこにアタシの命令を送っても、姉さんが命令を送っても、うんともすんとも言わない連中がいる。そこしか無いと思うね」
「場所はどこだ!?」
シンディはその場所を話した。
「よし、向かうぞ!」
[期日不明 時刻不明 天候:晴 井辺翔太&シー]
「翔太さん!」
シーが見たのは、豹変したエリオットにライフルで狙撃される井辺の姿だった。
幸い、被弾は免れたようで、井辺はジグザグに逃げ出した。
そんな井辺は、敷島が前に言っていたことを思い出した。
『ショットガンは近距離戦には向いているが、遠距離戦には不向きだ。それと同様、ライフルは遠距離攻撃に向いているが、近距離には不向きだ。それと、ポンプアクション式だとリロードが遅いから、そこに隙ができる』
と。
今のシンディはライフルを着装しているが、前期型と後期型で種類が違う。
前者は手動式だった為、リロード中に隙があったという特徴があった。
後期型はオート式になった為、リロード中の隙が無くなった。
「あれは何ですか!?」
しかし、敷島ほど銃火器に詳しくない井辺には、あれがそもそもライフルかどうかも分からなかった。
スコープが付いているので、狙撃銃としてのライフルかなと思っただけだ。
しかし、例えどんな銃でも、弾には限りがある。
弾切れになってリロードしている間がチャンスだと思うのだが。
こっちにだってハンドガンくらいある。
「しまった!」
井辺が逃げ込んだ先は、隠れる場所の少ない広々としたダンスホール。
「逃げても無駄ですよ!あなたには、これからもっと協力してもらう!」
「テロ組織の手先なんて勘弁です!」
「さすがはレイチェルが見込んだ男だ。私は……むっ!?」
「えっ?」
リロードしながら近づくエリオット。
しかし、彼の目線は井辺の頭上に向けられた。
井辺がつられてその先に目を向ける。
すると、ダンスホールの吹き抜け2階廊下の上に老人が立っていた。
「今頃のこのこ現れやがって!老害ジジィ!」
「……随分と騒がしいと思ったが、やはりエリオットだったか」
「あ、あなたは……!」
その老人は旧館スイートルームの室内に掲げられていた肖像画の人物だった。
「ヤツはケイン・ローズウェル。この研究所の所長だった男だ」
エリオットがしれっとこの建物の正体について語る。
「だったって?」
「エリオット。確かにワシは、お前に所長のイスを譲って引退した。じゃが、まだ顧問なんじゃろう?何故ワシに相談も無くこんなことをした?」
「…………」
「ダニエラの費用もタダではないのじゃぞ?」
「あなたがケインさんですか。あのお手紙……」
「いかにも。ワシの名はケイン・ローズウェル。KR団のリーダーじゃ。ま、世界からはテロ組織とされているがな」
「いや、テロ組織でしょ!?」
「御隠居は御隠居らしく、縁側でネコでも抱きながらお茶でも飲んでなさい!全く!老害博士達のせいで、組織をこんなガタガタにしやがって!」
「達って……まさか、十条博士もですか?」
「そうだよ!俺達はテロ組織じゃなく、純粋にサイボーグの研究がしたかっただけだ!」
「サイボーグ?」
ケインが口を開いた。
「愚かな。人はいずれ老いて死ぬ。人間を機械化して、ムリに長命化するなど愚かの極み……」
「黙れ!テロ・ロボットしか作れない老害は、おとなしくそこで老いて死ね!」
「サイボーグ?……ああっ!?」
ケンショー・レンジャーのサイボーグ化、そしてダニエラの正体……。
「イエローだけサイボーグ化に失敗したって……」
「年寄りは手術に耐えられないからな。しかし、あんたならそれが可能だ。世界一強いサイボーグ化への実現だ!」
「いや、カンベンしてくださいよ!」
「……最初はタカオ・シキシマという男が狙いだったのではないか?」
ケインがまた口を開く。
「最初はそのつもりだったんだが、気が変わった。あんたも適性だ!」
「だから、お断わりだって!」
直後、エリオットがライフルを発砲した。
慌てて床に伏せる井辺。
「ぐおっ!?」
しかし被弾したのは、井辺ではなかった。
ケイン・ローズウェル。
呆気ない死であった。
「さあ、来てもらおうか!ここで死にたくなかったらな!」
「くっ……!」
ライフルの銃口は井辺に向けられている。
逃げられはしないだろう。
「わ、分かったよ」
井辺は両手を挙げて立ち上がった。
「では、向こうのドアを開けて進んでもらおうか。……逃げようしたらどうなるかは、言わなくても分かるな?」
「分かってるって」
答えながら井辺は何となく周囲を見渡した。
だが、シーの姿は無かった。
エリオットに怯えて逃げてしまったのだろうか。