[期日不明 時刻不明 洋館(新館)3F(いや、4F?)展望台 井辺翔太、シー、ダニエラ]
「翔太さん!何やってんの!?早く撃って!」
「む、無理です……」
ついに第2の中ボス戦のゴングが鳴った!
相手はメイドロイドのダニエラ。
相変わらず、右目を前髪に隠しながら、狂った笑いを浮かべて井辺達に攻撃してくる。
手にしてるのはショットガンである。
「社長、よくこんな中、相手に攻撃できるなぁ……」
井辺は柱に隠れたりしながら、ダニエラの攻撃をかわす。
ダニエラのショットガンはセミオートではないため、弾を撃ち尽くすと、リロードする際に大きな隙ができる。
それを狙って攻撃する他は無いのだが、何故か井辺は撃てなかった。
「人間の女性を……撃つわけにはいきません!」
「いや、ロイドでしょ!?本人だって、そう言ってるんだし!」
シーは妖精型ロイドながら、井辺の言動に顔を真っ青にしていた。
「あーっはっはっはっは!!」
リロードを終えたダニエラは再び井辺に向かって乱射してきた。
本当に乱射という言葉が相応しく、一応、井辺を狙って撃ってきてはいるのだが、照準が定まらない状態で撃っているので、伏せていたり、物陰に隠れていれば当たることはない。
そして、当たらなければどうということはない。
「そ、そうだ!」
井辺が打って出た作戦、それは……。
ボンッ!
ブシューッ!
「あっ!」
展望台の所々に置いてある消火器。
消火剤の粉が詰められた粉末消火器で、予めボンベ内にガスが充填された蓄圧式と呼ばれているものである(総坊の消火器を参照)。
そこに弾を撃てば、消火器が破裂して辺りに粉が吹き飛ぶ。
まるで、煙幕のように。
井辺は消火器を拾い上げると、それをダニエラに投げつけた。
ダニエラはそれにショットガンを放つが、却ってそれが爆発して粉を浴びることになる。
あとは井辺が銃を放った。
「行きますよ!」
井辺は資材置き場に置かれていた粉塵メガネとマスクを着けて、ダニエラがいる方向に走った。
手にしているのは、スタンガン。
「失礼します!」
井辺はダニエラがいると思われる方向に向かって走った。
しかし、そこにダニエラはいなかった。
「!!!」
背後に回っていたダニエラ。
ニイッと歯を見せて井辺にショットガンを突き付けた。
「し、しまっ……!」
次の瞬間、展望台内に銃声が響いた。
「翔太さん!」
シーが叫ぶ。
「……!……あれ?!」
しかし、井辺は無事だった。
「うわっ!?」
無事でなかったのはダニエラの方。
頭が無くなっていた。
そして、手にショットガンを持ったまま床に倒れた。
首からは血がドクドクと出ているが、しかし肩口からは火花が飛び散っている。
これは、一体……。
「い、井辺様!御無事ですか!?」
「!?」
声がする方を見ると、そこには手に狙撃用のライフルを持ったエリオットがいた。
「お怪我はありませんか!?」
「えっ、ええ……」
「申し訳ありません!うちの者が、とんだマネを!ちょっと私めが目を放した隙に、このようなことになってしまって!何とお詫びしてよろしいやら……」
エリオットは井辺に対し、平身低頭、平謝りだった。
これだけ見れば、とても危険人物には見えない。
いや……。
目深に被ったドゴール帽は取ろうとしないし、そもそもいくら緊急事態だからといって、同じ館の従業員の頭を簡単に撃ち抜くとは……。
それに……。
「よくそんなライフルがありましたね?」
「ええ。この館は自然豊かな場所に建っておりまして、時々野生動物が侵入してきたりするのです。中には熊やイノシシなどの凶暴な動物が侵入したりすることがあるので、念の為に猟銃を備えてあるのです、もちろん、猟銃につきましては、ちゃんと許可を取ってあります」
(いや、そのライフル……。どう見ても、軍事用なんですが……)
井辺自身、銃火器に詳しくはないのだが、どうしてもKR団絡みや、マルチタイプと関わっているせいで、一般人よりは知識が豊富になってしまった。
シンディが搭載しているライフルも軍事用のもので、100メートル先の敵を狙撃することができる。
100メートルというと、JR在来線電車5両分である。
東京駅発着の中距離電車で、15両編成で運転される横須賀線・総武快速線以外の付属の11号車から15号車がちょうど5両編成である。
「ダニエラさんを殺してしまったのですか?」
「仕方がありません。あのままでは、井辺様のお命が危険なところでした。お部屋に戻りましょう。展望台のエレベーターで下階に下りられます」
井辺達は図書室を経由してきたが、実はエレベーターもあったのだった。
もっとも、見つけたところで、電源が入っていなければ意味が無い。
そこは管理者たるエリオット。
手持ちの起動キーでエレベーターを起動させた。
「ところで井辺様と同行している妖精ロイドはどこですか?」
「え?あれ?今まで、そこにいたのに……」
「まあいいでしょう。気をつけてください、井辺様」
「何がですか?」
「あれは館の主人のスパイでございます。隙あらば、主人の命により、井辺様に牙を剥く恐れがあります」
「ええっ?」
「ダニエラからようやく聞き出しました。ここの主人は乱心を起こし、井辺様を実験台に使うつもりでいたようです」
「それはエリオットさんも知っていたんでしょう?」
「私が伺っていたのは、『ダニエラがメイドロイドとして、いかにお客様相手ができるか?』という内容だけでした。井辺様に内緒にしていたのは、真に申し訳ありません。実験は失敗です。お客様を殺そうとするなんて、欠陥にもほどがあります」
「あれがロイドですって!?血を噴き出していたじゃありませんか!れっきとした人間でしょう!?」
「いえ、ロイドですよ。あれは血ではなく、オイルです」
「いや、血でしょ!?」
エレベーターのドアが開く。
どう見たって赤黒く、鉄の錆びた匂いのするあの液体は、人間の血液に他ならない。
しかしエリオットは、頑なにオイルだと言い張った。
ロイドが人間の血液代わりに使用するオイルだと……。
「では、参りましょう」
エリオットは井辺の背中を押すようにしてエレベーターに乗り込んだ。
「……それと、エリオットさん」
「何でございますか?」
「旧館で最初に襲って来た46号機なんですけど……」
「2度とお客様の御迷惑にならないよう、処分致します」
「いや、そこまでしなくても大丈夫だと思いますけど、そうじゃなくて……。46号機ということは、1号機から45号機がこの洋館のどこかにいるということですか?」
「あれも実験体でして、ほとんどが実験に失敗して処分となりました。46号機に関しては保留だったのですが、井辺様にご迷惑をお掛けしたとあっては、あのままにしておくわけには参りませんね」
エレベーターが1階に着く。
そこはまだ探索していないエントランスホールの反対側の区画だった。
「……本当は殆ど処分されていないのではないですか?」
「は?」
「実は今、旧館に集結させて私が到着したら一斉攻撃をしてくるとか……」
「な、何を仰いますか!旧館は私が安全を確保しております。私が保証します」
「じゃあ、何故あなたはタイミング良くダニエラさんから私を助けてくれたのですか?」
「それはたまたま深夜の巡回を行っていた時に、銃声が聞こえたものですから……」
「どうやって入ってきたんですか?あの時、エレベーターも階段も封鎖されていたんですよ?」
「! それは……私は立場上、鍵を持っていまして、実はそこには他に非常ドアがあって……」
「先ほどエリオットさんは『実験は失敗だ』と仰っていましたが、実は成功だったのではないですか?」
「!」
「良い実験データが取れたものですから、用済みになったダニエラさんを殺処分した」
「ち、違います!ダニエラは人間ではありません!なので、殺処分ではなく破壊処分です!!」
直後、エリオットはしまったという顔をした。
「なるほど。やはりあなたが来たのは、偶然ではなかったわけですね。私達を展望台に誘い込み、ある程度の戦闘を行わせ、そしてある程度のデータを取ったところで、偶然を装い、ダニエラさんを処分した。と」
「……!」
「ここはやはり研究所なんですね?KR団の!あなたは誰かの住む洋館の執事さんではなく、ここの研究員さんなんじゃありませんか?」
「ううっ……!」
「は、早く、翔太さんに教えなきゃ!」
ダクトの中を飛ぶシー。
実はシーはエリオットの正体を知っていた。
エリオットこそ、シーの処分を決定した権限のある人間だったからだ。
鉢合わせになると、何かされるかもしれないという“恐怖”から逃げてしまった。
だが、井辺達がエレベーターに乗ってしまったので、はぐれる形となった。
急いでシーは隠れていたダクトを通って、何とか下階へ向かおうとした。
そしてようやく1階まで下りて来た時、エントランスホール内に銃声が響いた。
井辺のハンドガンではない。
ダニエラの頭を吹き飛ばしたライフルの発砲音だ。
「翔太さん!」
ようやくダクトを抜けたシーが見たものは……!
「翔太さん!何やってんの!?早く撃って!」
「む、無理です……」
ついに第2の中ボス戦のゴングが鳴った!
相手はメイドロイドのダニエラ。
相変わらず、右目を前髪に隠しながら、狂った笑いを浮かべて井辺達に攻撃してくる。
手にしてるのはショットガンである。
「社長、よくこんな中、相手に攻撃できるなぁ……」
井辺は柱に隠れたりしながら、ダニエラの攻撃をかわす。
ダニエラのショットガンはセミオートではないため、弾を撃ち尽くすと、リロードする際に大きな隙ができる。
それを狙って攻撃する他は無いのだが、何故か井辺は撃てなかった。
「人間の女性を……撃つわけにはいきません!」
「いや、ロイドでしょ!?本人だって、そう言ってるんだし!」
シーは妖精型ロイドながら、井辺の言動に顔を真っ青にしていた。
「あーっはっはっはっは!!」
リロードを終えたダニエラは再び井辺に向かって乱射してきた。
本当に乱射という言葉が相応しく、一応、井辺を狙って撃ってきてはいるのだが、照準が定まらない状態で撃っているので、伏せていたり、物陰に隠れていれば当たることはない。
そして、当たらなければどうということはない。
「そ、そうだ!」
井辺が打って出た作戦、それは……。
ボンッ!
ブシューッ!
「あっ!」
展望台の所々に置いてある消火器。
消火剤の粉が詰められた粉末消火器で、予めボンベ内にガスが充填された蓄圧式と呼ばれているものである(総坊の消火器を参照)。
そこに弾を撃てば、消火器が破裂して辺りに粉が吹き飛ぶ。
まるで、煙幕のように。
井辺は消火器を拾い上げると、それをダニエラに投げつけた。
ダニエラはそれにショットガンを放つが、却ってそれが爆発して粉を浴びることになる。
あとは井辺が銃を放った。
「行きますよ!」
井辺は資材置き場に置かれていた粉塵メガネとマスクを着けて、ダニエラがいる方向に走った。
手にしているのは、スタンガン。
「失礼します!」
井辺はダニエラがいると思われる方向に向かって走った。
しかし、そこにダニエラはいなかった。
「!!!」
背後に回っていたダニエラ。
ニイッと歯を見せて井辺にショットガンを突き付けた。
「し、しまっ……!」
次の瞬間、展望台内に銃声が響いた。
「翔太さん!」
シーが叫ぶ。
「……!……あれ?!」
しかし、井辺は無事だった。
「うわっ!?」
無事でなかったのはダニエラの方。
頭が無くなっていた。
そして、手にショットガンを持ったまま床に倒れた。
首からは血がドクドクと出ているが、しかし肩口からは火花が飛び散っている。
これは、一体……。
「い、井辺様!御無事ですか!?」
「!?」
声がする方を見ると、そこには手に狙撃用のライフルを持ったエリオットがいた。
「お怪我はありませんか!?」
「えっ、ええ……」
「申し訳ありません!うちの者が、とんだマネを!ちょっと私めが目を放した隙に、このようなことになってしまって!何とお詫びしてよろしいやら……」
エリオットは井辺に対し、平身低頭、平謝りだった。
これだけ見れば、とても危険人物には見えない。
いや……。
目深に被ったドゴール帽は取ろうとしないし、そもそもいくら緊急事態だからといって、同じ館の従業員の頭を簡単に撃ち抜くとは……。
それに……。
「よくそんなライフルがありましたね?」
「ええ。この館は自然豊かな場所に建っておりまして、時々野生動物が侵入してきたりするのです。中には熊やイノシシなどの凶暴な動物が侵入したりすることがあるので、念の為に猟銃を備えてあるのです、もちろん、猟銃につきましては、ちゃんと許可を取ってあります」
(いや、そのライフル……。どう見ても、軍事用なんですが……)
井辺自身、銃火器に詳しくはないのだが、どうしてもKR団絡みや、マルチタイプと関わっているせいで、一般人よりは知識が豊富になってしまった。
シンディが搭載しているライフルも軍事用のもので、100メートル先の敵を狙撃することができる。
100メートルというと、JR在来線電車5両分である。
東京駅発着の中距離電車で、15両編成で運転される横須賀線・総武快速線以外の付属の11号車から15号車がちょうど5両編成である。
「ダニエラさんを殺してしまったのですか?」
「仕方がありません。あのままでは、井辺様のお命が危険なところでした。お部屋に戻りましょう。展望台のエレベーターで下階に下りられます」
井辺達は図書室を経由してきたが、実はエレベーターもあったのだった。
もっとも、見つけたところで、電源が入っていなければ意味が無い。
そこは管理者たるエリオット。
手持ちの起動キーでエレベーターを起動させた。
「ところで井辺様と同行している妖精ロイドはどこですか?」
「え?あれ?今まで、そこにいたのに……」
「まあいいでしょう。気をつけてください、井辺様」
「何がですか?」
「あれは館の主人のスパイでございます。隙あらば、主人の命により、井辺様に牙を剥く恐れがあります」
「ええっ?」
「ダニエラからようやく聞き出しました。ここの主人は乱心を起こし、井辺様を実験台に使うつもりでいたようです」
「それはエリオットさんも知っていたんでしょう?」
「私が伺っていたのは、『ダニエラがメイドロイドとして、いかにお客様相手ができるか?』という内容だけでした。井辺様に内緒にしていたのは、真に申し訳ありません。実験は失敗です。お客様を殺そうとするなんて、欠陥にもほどがあります」
「あれがロイドですって!?血を噴き出していたじゃありませんか!れっきとした人間でしょう!?」
「いえ、ロイドですよ。あれは血ではなく、オイルです」
「いや、血でしょ!?」
エレベーターのドアが開く。
どう見たって赤黒く、鉄の錆びた匂いのするあの液体は、人間の血液に他ならない。
しかしエリオットは、頑なにオイルだと言い張った。
ロイドが人間の血液代わりに使用するオイルだと……。
「では、参りましょう」
エリオットは井辺の背中を押すようにしてエレベーターに乗り込んだ。
「……それと、エリオットさん」
「何でございますか?」
「旧館で最初に襲って来た46号機なんですけど……」
「2度とお客様の御迷惑にならないよう、処分致します」
「いや、そこまでしなくても大丈夫だと思いますけど、そうじゃなくて……。46号機ということは、1号機から45号機がこの洋館のどこかにいるということですか?」
「あれも実験体でして、ほとんどが実験に失敗して処分となりました。46号機に関しては保留だったのですが、井辺様にご迷惑をお掛けしたとあっては、あのままにしておくわけには参りませんね」
エレベーターが1階に着く。
そこはまだ探索していないエントランスホールの反対側の区画だった。
「……本当は殆ど処分されていないのではないですか?」
「は?」
「実は今、旧館に集結させて私が到着したら一斉攻撃をしてくるとか……」
「な、何を仰いますか!旧館は私が安全を確保しております。私が保証します」
「じゃあ、何故あなたはタイミング良くダニエラさんから私を助けてくれたのですか?」
「それはたまたま深夜の巡回を行っていた時に、銃声が聞こえたものですから……」
「どうやって入ってきたんですか?あの時、エレベーターも階段も封鎖されていたんですよ?」
「! それは……私は立場上、鍵を持っていまして、実はそこには他に非常ドアがあって……」
「先ほどエリオットさんは『実験は失敗だ』と仰っていましたが、実は成功だったのではないですか?」
「!」
「良い実験データが取れたものですから、用済みになったダニエラさんを殺処分した」
「ち、違います!ダニエラは人間ではありません!なので、殺処分ではなく破壊処分です!!」
直後、エリオットはしまったという顔をした。
「なるほど。やはりあなたが来たのは、偶然ではなかったわけですね。私達を展望台に誘い込み、ある程度の戦闘を行わせ、そしてある程度のデータを取ったところで、偶然を装い、ダニエラさんを処分した。と」
「……!」
「ここはやはり研究所なんですね?KR団の!あなたは誰かの住む洋館の執事さんではなく、ここの研究員さんなんじゃありませんか?」
「ううっ……!」
「は、早く、翔太さんに教えなきゃ!」
ダクトの中を飛ぶシー。
実はシーはエリオットの正体を知っていた。
エリオットこそ、シーの処分を決定した権限のある人間だったからだ。
鉢合わせになると、何かされるかもしれないという“恐怖”から逃げてしまった。
だが、井辺達がエレベーターに乗ってしまったので、はぐれる形となった。
急いでシーは隠れていたダクトを通って、何とか下階へ向かおうとした。
そしてようやく1階まで下りて来た時、エントランスホール内に銃声が響いた。
井辺のハンドガンではない。
ダニエラの頭を吹き飛ばしたライフルの発砲音だ。
「翔太さん!」
ようやくダクトを抜けたシーが見たものは……!