報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“アンドロイドマスター” 「次の敵」

2014-10-17 19:32:47 | アンドロイドマスターシリーズ
[10月13日20:00.東京都文京区 東京ドームシティ・ミーツポート 敷島孝夫]

「みんなー!どうもありがとー!」
「ありがとうございまーす!」
 台風が接近してくる中、ライブは無事に終わった。
(やっぱ中止にしなくて正解だったな)
 敷島はステージ袖でボカロ達の活躍を見ながら、感慨深げにそう思った。
(財団本部が襲われたというが、エミリーとシンディの活躍で人的被害は無かったらしいから、まあ大丈夫だろう)

 控え室に戻って来たボーカロイド達を出迎える敷島。
「皆、よく頑張ってくれた。この調子で、ガンガン売り出していこう」
「おーっ!」
「台風の接近で今日は帰れないから、臨時に泊まって行くことにする」
「ちょっと。本部が何者かに襲われたんでしょ?大丈夫なの?」
 MEIKOが心配そうに言った。
「ああ。得体の知れぬロボットが1機現れたそうだが、エミリーとシンディが倒してくれたおかげで、人的な被害は無いそうだ」
「そうなの」
「良かったね」

[同日21:00.東京都文京区 グリーンホテル客室 平賀太一&七海]

「敷島さん達と同じホテルにお泊りにならないのですか?」
 七海は平賀の肩を揉みながら聞いた。
「うるさい。俺はテロリズム・ロボットと1つ屋根の下では絶対寝ない」
 暗にそれはシンディのことを指している。
「七海。お前だって、危うく完全に壊されるところだったんだぞ?」
「はい。でも、この前、シンディは謝ってくれました」
 その時のセリフが、
『ソフトウェアが不具合を起こしていて錯乱してたの。ごめんなさい』
 である。
「謝って済むか!てか、あれはそういう仕様になっていただけのことだろうが!」
「アリス博士がオーナーであれば安心ではないかと……」
「なワケあるか!あのウィリーの孫娘だぞ!それに……あの目は野心がある。いつまたシンディを使って、テロをやるか分からんぞ」
(私をカスタムしていた時の太一様も、随分と野心的に見えたけど……)
 と、七海は思った。
 無論、メイドロボットがオーナーの揚げ足取りなんぞ、もっての外である。
「七海。お前は引き続き、アリスの研究所に潜入して監視を続けるんだ」
「かしこまりました」
「敷島さんには、あくまで多忙な敷島さんに代わって、事務作業を七海に手伝ってもらうという名目にする」
「はい」
 平賀は机の上に置いているノートPCを操作した。
 今日の昼間、エミリーとシンディが対応した正体不明のロボットのことについてである。
 まず間違い無いのは、財団で管理・所有している個体ではないということ。
 もちろん、所属の研究者が独自に開発したものでもない。
 屋上に置かれていた木箱だが、警備員や設備員によると、置いた記憶も記録も無いという。
 昨日の夜、巡回した時には木箱など無かったとのこと。
 本当は今朝も巡回があったのだが、台風接近に伴う強風で危険なため、屋上には出ていない。
 そして、普段は展望台から屋上へのドアは施錠されている。
 開錠には専用のカードキーか、非常用の鍵が必要になる。
 勝手に持ち出されたことも、紛失も盗難も無い。
 展望台の監視映像を見ても、何者かが館内から屋上へ木箱を置いたものは無かった。
 つまり、木箱は外から持ち込まれたものである。
「上空からヘリコプターか何かでやってきて、屋上に投下したのかもしれないな」
「どうしてそんなことを?」
「何者かによる財団本部へのテロ。これしか無い」
「そんな……」
「前の仙台支部長は逮捕されたし、これといった組織は無い。犯行声明も出ていないしな」
 ロボットについて分かっている特徴。
 まず、2足歩行で、ある程度ヒトの姿はしているということだ。
 しかし、完全に人間に似せたボーカロイドやマルチタイプ、メイドロボットと違い、件の個体は人間に例えるには無理がある。
 大きさはドアの間口くらいだから、まあ、身長は2メートルくらい。体幅も1メートルくらいといったところか。
 エミリーが記録した画像によれば、力自慢で、体躯の割にはそこそこ素早いといった以外、特長らしきものは見当たらなかった。
 バージョン・シリーズが、どことなく愛嬌を感じられる部分があるのに対し、この個体からはそんなものが見当たらない。
 人類に製造され、人類に使われる以上、例え用途がテロであっても、せめて使う人間には気に入られるようにするものだ。
 先述したアンドロイド達には造形美が重要視され、バージョン達やセキュリティロボットなどには機能美が追求されているわけだ。
 しかし、この個体は……誰がデザインしたのか、とにかく愛嬌が無い。造形美も機能美も感じられない。
 ボロクソではあるが、これが少なくとも財団所属の研究者達の共通認識である。
「随分、不細工な造りね」
 と、さすがのアリスもこの部分だけは平賀と意見が一致した。
「例え試作機であったにせよ、世間に披露目する機会を考えて設計するものじゃ。これではその機会はハナから期待せず、完全に製造者の自己満足といった感じじゃな。……いや、これで満足するそのセンスを疑う」
 と、十条も辛口意見であった。
 爆発してしまったので、とにかく部品をかき集めて分析をしなければならなかった。
 しかし肝心のメモリーなどは無く、部品も有り触れたものばかり。

 

 体内から出て来たとされる鍵。
 何でこれが出て来たのか、理由は不明だ。
 どこの鍵なのか、タグに付いている番号を見ても意味が分からなかった。
 訳あって、その鍵は平賀が持っている。
 本来なら、その鍵は責任者である十条に預けなければならないのだが……。

 窓ガラスに雨風が強く叩きつける音がする。
 明日には台風が去る予定である。

[同日同時刻 東京都墨田区菊川のマンション 十条伝助&キール・ブルー]

「本当に、よろしいのですか?」
「構わん。やれ」
「かしこまりました」
「『汝、一切の望みを捨てよ』」



 グググッ……!(思いっ切り鍵を握り締めるキール)
 パキィン……!!(鍵が折れた)

 ビュウ!バチバチバチバチ!(暴風が吹き、雨粒が窓ガラスに叩き付けられる)

「今日の嵐は止んだ。しかし、明日は分からない」
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“アンドロイドマスター” 「若博士が見た夢」

2014-10-17 00:23:01 | アンドロイドマスターシリーズ
[5年前の秋の夜 東京都区内某所の超高層ビル 平賀太一]

「来たか!」
 東京決戦に火ぶたが切って落とされた。
 売れないボーカロイド達がようやく都内の大きなハコでのライブに成功し、その足で東京決戦は行われた。
 世界的なマッドサイエンティスト、『ドクター・ウィリー』こと、ウィリアム・フォレストは海外に潜んでいたのではなかった。
 都内の1等地の超高層ビル。
 こんな所に堂々と拠点を構えていたのだった。
 ビルの敷地内だけの決戦かと思われたが、テロリストでもあるウィリーは、そんな生ヌルいことは考えていなかった。
 バージョン・シリーズを大量に投入し、周辺地域を混乱に陥れた。
 とんだ足止めを食らった敷島は、とんでもない作戦を決行する。
 どういうわけだか敷島は大型自動車免許を持っており、避難の為に乗り捨てられた路線バス(オリジナル版では大型トラック、リメイク版では都営バス)を無断拝借し、それでバージョン達の包囲網に突入したのだった。
 ビル内への潜入には成功したが、あまりの激戦ぶりにメンバー達は分散を余儀なくされた。
 後に敷島だけが最上階のウィリーの執務室に辿り着けたわけだが、残された平賀はというと……。

「くそっ!ここは地獄か!」
 各フロアには、もれなくバージョン・シリーズが配置されており、武器が無ければとても進めない状態だった。
 平賀は無差別テロロボット達の攻撃を交わしながら、上階を目指した。
「見ィ~つけたぁ~♪」
「!!!」
 どこからともなく、女性の声が聞こえた。
 無論、平賀にはこれが誰の声なのかすぐに分かった。
「シンディ!」
 声がしただけで、この時点ではまだ姿が見えない。
「エレベーターだ!」
 やっと平賀は、高層階へ向かうエレベーターを発見した。
 外が見えるタイプのシースルー式。
 だが、乗り込んで数階分上昇したところで、
「うわっ!?」
 突然、大きな衝撃が走り、エレベーターが止まった。
「見つけたぁ~!きゃははははは!」
「くっ!?」
 シンディは外窓ではなく、天井をこじ開けて顔を覗かせた。
 不気味な笑み……まるで、快楽殺人者の笑みだ。
 ドアが少し開いたので、平賀は何とか体をドアの隙間に滑り込ませ、外へと脱出した。
「どこへ行くのォ~?」
 同じくエレベーターから出たシンディは平賀を追い回し、高速移動で平賀に先回りした。
「さて、と……」
 シンディは殺人快楽に口元の歪みを直そうともせず、赤く染まったジャックナイフを平賀に向けた。
「ドクターの命令なの。悪く思わないでね」
「何がだ!それで何人殺した!?」
「さァ?覚えてないわ。で、殺す順番までは決められてないの。私の問いに素直に答えてくれたら、この場は見逃してあげてもいいのよ?まあ、次に会った時は殺すけどね」
「質問だ!?」
「敷島孝夫はどこ?教えて」
「敷島さんを先に殺すつもりか。……てことは、まだ殺されていないってことだな。良かった」
「で、どうなの?」
「具体的な場所は知らない。ただ、彼のことだから、恐らくずっと先、つまりずっと上のフロアまで行ってるだろうな」
「ふーん……。やっぱあなたじゃ、その程度か」
 シンディは肩を竦めて、パチンと指を鳴らした。
 どこからともなく、バージョン3.0が3体現れる。
「もう用は無いわ。私が手を下すまでもない。お前達、この人間を肉塊にしてやりな!」
 シンディが命令すると、3体のテロ・ロボットは一斉に右手の銃口を平賀に向けた。
「くそっ……!南里先生、すいませんでした。自分は所詮この程度でした……」
 平賀は既に故人となっている師匠、南里志郎に謝った。
(死んだらあの世で、また先生に教えられるかな……)
 バージョン達が一斉に平賀に向けて、ハンドガンを発砲する(当時の装備はパイソンやガバメント級のハンドガンが主流だった)。
 だが、それを一手に受け止める者がいた。
「なにっ!?」
 それは平賀の最高傑作、日本のメイドロボット第1号たる七海だった。
 メイドロボットとはいえ、耐久性は頑丈だ。
 ボディには、殆ど傷がついていなかった。
「太一様には指一本触れさせないわ!」
 七海はリロードして再び発砲してきたバージョンに体当たりしてきた。
 体型ずんぐりむっくりのバージョンは動きが鈍く、七海の素早い動きに翻弄されてしまった。
「……おい」
 シンディはめんどくさそうに右手を腰にやり、左手で髪をかきあげた。
 そして、
「えっ!?」
「!!!」
 バージョン達が破壊された。
 七海がやったのではない。
 1機は頭部を撃ち抜かれた。
 1機は殴り飛ばされ、天井に上半身を突っ込ませたまま2度と動かなくなった。
 最後の1機は吹き抜けから下に突き落とされ、真っ逆さまに落ちた上、アトリウムにいた別の個体と激突し、爆発した。
 全部、シンディがやったことである。
「フン、役立たずどもがっ!たかがメイドロボット1機程度で手こずりやがって!」
 シンディは頭部を撃ち抜いて床に崩れ落ちた個体に侮蔑の視線を向けて、そう言い放った。
「な、仲間を簡単に壊すなんて……」
 七海は驚愕した。
 と、次の瞬間、
「うっ!?」
 平賀の左手にナイフが突き刺さった。
「太一様!」
 シンディが高速移動で刺したのだ。
「太一様に何てこと……!」
「心配無いわ。すぐにあなたも壊してあげる。あの世でも、ちゃんと仕えられるようにしてあげるから!」
 しかし、七海は怯まない。
 口を真一文字に結んで、シンディに組み付いた。
「メイドロボットの分際で生意気な!!」
 シンディは七海を投げ飛ばした。
 七海は壁に激突し、めり込んでしまう。
「な、七海ーっ!?」
 全身から火花と煙が出た。
「順番が逆になっちゃったけど、あなたも後追いさせてあげる」
 シンディは茫然としている平賀の腹にナイフを突き刺した。
 平賀がその場に崩れ落ちる。
 そして、とどめとばかりに、ナイフを振り上げた時だった。
{「あー、七海。聞こえるか?」}
「ドクター?何の御用ですか?」
 ウィリーから無線通信が入った。
{「もうすぐ南里の手の者が、わしの元へやってくる。至急、戻ってこい」}
「分かりました」
 シンディは通信リンクを切ると残念そうな顔をして、平賀を見た。
「まあいいか。どうせこのまま放っておいても……」
 シンディは急ぎ足で、この場を去った。
 この後、平賀達は駆け付けたボーカロイド達によって救助され、一命を取り留めることができた。

[2014年10月13日07:00.東京都区内のシティ・ホテル 平賀太一&七海]

「はっ……!」
 そこで平賀は目が覚めた。
「太一様?」
 平賀のいつもと違う目覚めに、七海がやってくる。
「太一様、どうなさいました?」
「また……あの夢だ」
「東京決戦の、ですか」
「ああ」
 平賀は呟くように言った。
「俺は絶対に許さない。ロボットを使ったテロを……!シンディを動かしてはダメなんだ……」
「太一様……」

 平賀の左手と右脇腹には、今でもシンディに刺された痕が白く残っている。
 後期タイプとして再稼働した本人には、まだ見せていない。
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“アンドロイドマスター” 「直撃!台風19号」 2

2014-10-15 19:42:40 | アンドロイドマスターシリーズ
[10月13日12:30.財団本部ビル展望台行きエレベーター→展望台→屋上 エミリー&シンディ]

 ピンポーン♪
〔上に参ります〕

「これで展望台に直行よ」
 2人の鋼鉄姉妹は防災センターで鍵を借りて来ると、再び展望台を目指した。
 鍵と言っても、カードキーである。

 ガッシャーン!

「何だ?」
「ガラスの割れる音……?まさか、暴風で展望台の窓が割れた?」

 ピンポーン♪

「!」
 エレベーターのドアが開くと、鋼鉄の姉妹を暴風雨が襲ってきた。
 本当に窓が割れていた。
「マジで!?強化ガラスよね!?そう簡単に割れるものなの!?」
「防災センターに・連絡だ」
「了解!」
 シンディは非常階段の踊り場にある非常電話で、防災センターに連絡した。
「……はい。原因は不明ですが、窓ガラスが1枚割れて、風雨が室内に入り込んでいます。すぐにでも修理または応急処置が必要です。では、よろしくお願いします」
 電話を切った後で、
「どうする?警備員や設備員が来るまで待ってる?」
「……ノー。今・ここは・立ち入り禁止で、一般人は・入って・こない。私達は・ドクター・アリスの・命令を・優先しよう」
「分かったわ」

 2人は屋上に移動した。
 地上でも風雨なのだろうが、超高層ビルの屋上ともなると、人間は危険だ。
 人間に代わって危険な仕事を請け負うのもまたロボットの役目。
「見た感じ、アンテナが折れてることはなさそうね」
「配線を・チェック・してみる」
「お願い」
 エミリーは左脛の中から、ドライバーを取り出した。
 折り畳み傘ではなく、今はドライバーやレンチなどの工具が入っている。
 それで配線盤の蓋を開けた。
 その間シンディは暴風雨に警戒していたが、ある物を見つけた。
 それは、普段から強風に注意していなければならない超高層ビルの屋上にあってはならないもの。
(木箱?)
 暴風雨に飛ばされ、塔屋(屋上にある小屋。大抵は機械室や窓清掃用のゴンドラ格納庫になっている)の壁に激突した跡があった。
 木箱は一たまりも無かったのか、完全にコンクリート壁に負けて大破してしまっている。
 中身があったのだろうか。中身はどこだろう?
「!」
 シンディは右目をオレンジ色に光らせている。
 スキャニングの最中だというのが分かる。
 そして、オイルの跡を発見した。
 それは屋上の縁(へり)に続いており……。
(あの窓だ……)
 手すりから下を覗き込んで見ると、あの割れた窓ガラスがあった。
(木箱の破片が窓ガラスに当たって割れた?……いや、違う)
 そもそも何故、そんな危険物を屋上に置いてあったのかだ。
 台風が接近してくるのが分かっているのだから、もし仮に置いていたとしても、撤去させていたはず。
 まさか、忘れていたのか?
「シンディ!」
 後ろからエミリーの声が聞こえた。
「修理が・完了した」
「さすがね!ミッション・コンプリート!早いとこ、館内に戻りましょう」
「ああ」
 屋上から展望台に戻る階段を下りる。
 もちろん、屋上出入口の鉄扉があるわけで、それを開施錠するのにカードキーが必要だったのだ。
 シンディがカードを手に、ドアに近づいた時だった。

 ドンッ!ドンドン!ドンッ!!

「なに!?」
 鉄扉が内側から、物凄く強い力で叩かれた。
 エミリーが咄嗟に、スキャンする。
「解析・不能!シンディ、気をつけろ!何か・いる!」
「一体、何だってのよ!?」

 そして、ついにドアが破られた。

「ブオ……ブオオオ……!シュー……!シュー……!」

 それはドアの間口ギリギリの大きさの何か
 2足歩行ではあるが、どういう姿なのかは形容しがたい。
 しかし、今スキャンしたシンディには、一応『ロボット』と出た。
 確かに、ボディの色は全体的にメタリックさを感じるシルバーであるが……。
 何の用途なのかは分からなかったが、少なくともエミリー達を見て、
「ブオオオオ!」
「うっ!」
「来ないでよ!気持ち悪い!」
 巨体に似合わず、軽い身のこなしで鋼鉄姉妹に向かってきた。
「シンディ、撃て!安全性が・見受けられない!」
「言われるまでもないよ!」
 2人は右腕をショットガンやライフルに変形させた。
 そして、一斉に射撃する。
「こんなの財団にいた!?」
「データに・無い!」
 銃撃は恐らく効いているのだろう。
 シンディのライフルで被弾した箇所からは、どす黒いオイルが吹き出ている。
「ブオオオオ!」
「うっ!」
 巨体に似合わず、2人に突進してくる。
 もちろん、2人はかわした。
「気をつけろ!あんなの・まともに・食らったら・ダメージが・大きい!」
「あいつの電子頭脳を撃ち抜いてやるわ!そしたら、動けなくなるでしょ!」
 正体不明のロボットは、屋上の手すりに激突した。手すりがぐにゃりと折れ曲がる。
「シンディ!ビルの外に・出しては・いけない!被害が・出る!」
「アドバイス、どうも!台風が直撃してるってのに、こんなキモいヤツまで来て、作者並みにツイてないわね!」
 何故シンディはそんなこと言うのかというと、台風による暴風雨で銃が濡れてしまい、発砲に支障が出始めたからだ。
 エミリーもそれは分かっているのだろう。
「シンディ!レーザービーマー・だ!それなら・濡れても・支障は無い!」
「ちょっと待って!」
「カスタムパーツを・使って・改良していた・だろう!?私より・攻撃力が・高い・はずだ」
「そりゃそうだけど、溜めるのに時間が掛かるのよ!」
「私が・引き付ける!その間に!」
「わ、分かったわ!レーザービーマー最大電圧充電!」
「ブオオオオ!」
 再び突進してくるロボット。
 エミリーもまた体術でもって組み付いた!
「充電率……28……54……68……」
「ううう……!」
「ブワアアアッ!」
「!!!」
「姉さん!」
 エミリーが屋上の外に投げ飛ばされた。
 人間だったら真っ逆さま。戦闘は強制終了だっただろう。
 だが、そこはマルチタイプ。すぐにエミリーは両足に組み込まれた緊急用の超小型ジェットエンジンを吹かして、速やかに元の場所に復帰した。
 ただ単に戻ったわけではない。
 ジェットエンジンによる高速移動を利用して、ロボットに体当たりした。
 突進して体当たりする能力はあっても、される方は慣れていないらしい。
 エミリーの体当たりを食らって、ロボットはフラついた。
 人間で言えば、ダウンした状態と言えるだろう。
「充電率100パーセント!行くわよ!食らえ!」
 シンディは左目から緑色の光線を放った。
 それはロボットの頭部に突き刺さる。突き刺さって、貫通した。
 案の定、やはりそこに電子頭脳はあったらしく、火花や煙を噴き出しながら、まるで酔っ払いの千鳥足のような足さばきで、あっちへヨロヨロ、こっちへヨロヨロといった感じになった。
 そして、ついに倒れ込み……。

 ボーン!

 小さく自爆した。
「一体、何なのコイツ?どこから来たわけ?」
「!」
 その時、エミリーは自爆して散乱したロボットの部品の中から、あるものを見つけた。

 

「これは……?」
「コイツの中から出て来たの?一応、持っといた方がいいわね」

 展望台に戻ると、エレベーターのドアがまたもや向こう側から叩く音がした。
 一瞬、新手かと思ったが、スキャンしてみると、人間の反応だった。
 どうやらエレベーターが故障して、閉じ込められたらしい。
 エミリー達がこじ開けると、中にいたのはシンディの通報を受けて駆けつけて来た警備員と設備員だった。
 向かっている最中、エレベーターに衝撃が走り、そのショックで止まったという。

「人的被害ゼロ。ミッション・コンプリート!」
 シンディはオーナーであるアリスに、そう報告した。
 無論、現時点では屋上と展望台に現れたロボットの正体については分からなかった。
 ただ、十条の顔色だけが良くなかったが。
コメント (7)
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“アンドロイドマスター” 「直撃!台風19号」

2014-10-15 16:47:54 | アンドロイドマスターシリーズ
 ※実際に東京都内では大きな被害は出なかったようですが、あくまでもこの作品はそれを元にしたフィクションです。被害状況に大げさな所がありますが、あくまでフィクションです。

[10月13日09:00.東京都新宿区西新宿 財団本部 敷島孝夫、アリス・シキシマ、十条伝助]

「敷島君、どうするのかね?台風の直撃は今日じゃぞ?昨日中に帰れば良かったのではないかね?」
「いえ、まだイベントが中止になるとは限りませんので」
「いやー、これは中止じゃろう。実験期間は今日までの予定じゃったが、現時点でほぼ98パーセント終了した。これだけでも、解析は可能じゃ。あくまで所属員達の安全を優先にする。私も交通機関がマヒする前に、菊川のマンションに戻ることにしよう。キミ達も、最悪の事態を想定した方が良いのではないかね?」
「私もそう思うわ。台風は夜中に東京に来るみたいだし、今のうちに帰った方がいいと思う」
「ダメだ。イベントが中止にならない以上は、それに出る」
 敷島は強く言った。
「中止に決まってるじゃない!」
 アリスは敷島に食って掛かる。
「ボカロが台風に強い所を見せるんだ」
「確かに台風でも稼働状況は変わらんじゃろうな。しかし、観客がそれに付いて来られるか疑問じゃぞ」
「そうよ!」
「オレ達は主催者じゃない。特に、今日はドームシティでのライブがある。MEIKO達も合流しての全員ライブだぞ」
「いや、そりゃそうだけど!その後、帰れなくなったらどうするの!?」
「もうホテルは引き払ってしまったのじゃろ?」
「そうなんです」
「もし何じゃったら、今からでも別のホテルを予約しておくか?逆に今なら、簡単に予約が取れるかもしれん。予算については、私から何とかしよう」
「ありがとうございます」
「ボーカロイド達の成功は大きいからな」
 ボカロの活動による売り上げは、財団の運営資金にも充てられている。
「よし、じゃあドーム行くぞ」
「はーい!」
「私はしばらくエミリー達とここにいるから」
「じゃあ、ドームで会おうな」
「会えたらね」
 因みに敷島達が行くのは本当に野球をやっている所ではなく、ミーツポートの方である。

 敷島達が慌ただしく出て行く。
「実験自体は終了したが、解析の方を進めるかね?」
「そうね」

[10月13日12:00.同場所 財団本部ビル最上階展望台 エミリー&シンディ]

 エレベーターが最上階に到着する。
 そこから降りて来たのは、2人の鋼鉄姉妹。
「ここが展望台ね。本当は眺めがいいでしょうに、台風なのが残念ね」
 シンディの言葉通り、窓の外は灰色に雲に包まれ、強風による不気味な音が響いている。
 ここより高さのある東京スカイツリーの展望台や都庁の展望台も、今日は入場中止だそうである。
 当然、ここもだ。
 ならば何故この鋼鉄姉妹が来たのか。人間ではないからか。
「姉さんは、“彼氏”についてなくていいの?」
 シンディはニヤッと笑った。
 キールは研究室にいて、十条とアリスの護衛をしている。
「ここでは・お前を・1人にするな・との・命令だ」
「すっかり信用無いのね、私。まあ、無理も無いか」
 シンディは肩を竦めた。
「台風ではなかったけれど、あの時も大雨だったわね」
「あの時?」
「ウィリアム博士の最期の日」
「ああ」
「今でも謎なんですって?どうしてあのプロデューサーが生身の体のまま、バージョン達の警備網をかい潜って、真っ先にウィリアム博士の元へ辿り着けたかって……」
「一説に・よれば、ドクター・ウィリアムが・そう仕向けた・との・ことだ」
「私がドクターの元へ戻って来た時は、ほとんどイッちゃってたからね。よく覚えてないんだ。でも……確かにこの手……といっても前のボディだけど、これで何度も刺し殺してしまったメモリーは残ってるよ。三原則も何もあったもんじゃないね」
「……こんなこと・言ったら、ドクター・アリスの・お怒りを・買うかも・しれない。お前が・最後に・殺した人間……ドクター・ウィリーは・そうして・良かったのかも・しれない」
「姉さん」
「敷島さんは・それが・できなかった。お前も・しなかったら・もっと多くの・犠牲者が・出たかもしれない」
「やっぱり、三原則も何もあったものじゃないね。早いとこ第0条とやらを、本物の1条に格上げしてもらわないと。また私達、『大局的に見れば、ある特定の個人を殺すことが、より多くの人間の為になる』と称して、また流血の惨を引き起こす恐れがある」
 エミリーとて製造時の用途はシンディと同じ。
 今はそれが大幅に変更されたとはいえ、根底にあるプログラムは変わっていない。
 その時、
{「エミリー、シンディ、聞こえる?」}
 アリスから無線通信が入った。
「イエス。ドクター・アリス」
「何か、ご用ですか?」
{「今、展望台にいるんだよね?」}
「イエス」
「イエス」
{「ちょっとさ、屋上に出て、アンテナを見てきてくれない?何か、通信システムにエラーが出ちゃってね。もしかしたら、台風でアンテナが折れたなんてことは無いと思うけど……」}
「分かりました」
{「物凄い風だろうから、人間の設備員が出ると危ないからね。人間に代わって、あなた達に診てもらいたいわけ」}
「かしこまりました」
「じゃあ、鍵を取りに行かないとね」
{「地下1階の防災センターで鍵を借りられると思うわ」}

 2人の鋼鉄姉妹は再びエレベーターに乗り込んだ。
「このエレベーターだと、防災センターまでは行けないから、どこかで乗り換えないと行けないのね」
 シンディはエレベーターのボタンを見て言った。
 ボタンは1階までしか無い。
「簡単だ。1階まで・下りて・そこから・階段を・下りれば良い」
「了解」

[同日同時刻 東京都文京区 東京ドームシティ・ミーツポート 敷島&ボーカロイド・オールスターズ]

「電車にそろそろ遅れが出始めている頃だけど、まだ新幹線は無事っぽいな」
 敷島は出演者控え室にやってきて、呆気無く揃ったメンバーを見て呟いた。
「すいません、出演者の皆さん!場当たりしたいと思いますので、1度ステージに集合してください!」
 スタッフがボカロ達を呼びに来た。
「はい!」
 ボーカロイド達が出て行くのを見送って、敷島はスタッフと打ち合わせである。
(それにしても、アリスにメール送っても返してこねーな……)
 台風のせいだろうかと思った。
 とにかく、ここでのライブは予定通り行われることになった。
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“ユタと愉快な仲間たち” 「魔界情勢」

2014-10-14 19:19:40 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[10月11日07:30.長野県北部某所 マリア邸 稲生ユウタ、威吹邪甲、イリーナ・レヴィア・ブリジッド、マリアンナ・スカーレット]

 ユタ達は洋館のダイニングで、朝食を取っていた。
 給仕をするは、人間と等身大になったフランス人形達。
 しかしその中に、ミク人形はいない。
 人形達の中でリーダー格となったミク人形だが、今ここで動いている人形達で、ユタが知っているのは、白い髪を三つ編みにしているクラリスと名乗る人形だけだった。
 ミク人形とペアで行動することが多い。
「本当はマリアと一緒に外で楽しんできてもらいたいところなんだけど、ちょっと台風が来てるから難しいかな?」
「問題無いですよ。僕はマリアさんと一緒にいられればそれでいいんで」
「そう。それならいいんだけど……」
「それと、オレに話があるんだったな。それも聞こう」
「イリーナさんが威吹に?」
 ユタは首を傾げた。
「魔界のことを話すつもりだから」
 と、イリーナ。
「そうなんですか」

[10月11日09:00.マリア邸1Fリビング イリーナ&威吹]

「お茶を・お持ちしました」
 マリアのフランス人形が、紅茶と緑茶を入れて来た。
「ありがとう、レイチェル。ここに置いといて」
「失礼します」
 メイド服を着用した、レイチェルという名のフランス人形はお辞儀して退出した。
「……皆、同じような人形に見えるが?」
 威吹は首を傾げた。
「ミク人形や、あの白い髪の人形以外はな」
「そのうち慣れるわよ。ま、お茶でも飲んで」
「話というのは何だ?」
「魔界のことについてよ」
「魔界だ?」
「それと、あなたの過去について」
「オレの過去?」
「どっちから話そうかな……。まあ、最近の魔界のことでいいか。今、魔界正規軍が軍人を募集している話は聞いたことある?」
「ああ。同族から聞いたことがある。しかし今の魔界正規軍というのは徴兵制ではなく、志願制だと聞いた。それが大募集とは、どういうことだ?」
「内戦に備えて、かな」
「内戦だと?」
「今、アルカディア王国では、新しい王都を建設中でね。新市街地と旧市街地に分けるって手法かな。だいぶ平和になったもんで、人口も増えたしね。それで今の市街地が随分と手狭になったので、新たな市街地を建設中というわけ」
「それと内戦と、どう関係あるのか?」
「その新市街地建設に反対する勢力があるのよ。結局、魔界共和党というのは人間が主に構成されている政党で、それの肝煎りだから、魔族達が反対しているわけ。『大魔王バァル様は未だ退位しておらず、あくまでルーシー女王は魔王代行である。それが新王都建設など、バァル様を蔑ろにするのも甚だしい』なんてね」
「よく言うものだ。実質、退位みたいなものではないか。おおかた、バァル大帝に重用されていた旧臣共かな?」
「まあ、そんなところね。台頭した魔界民主党が人間だけの共和国を作る為に旧臣達を追い出して、その後魔界共和党が立憲君主制にしたんだけど、結局重鎮には人間が多く登用されたから、不満はあるでしょうね」
「内戦鎮圧の為に、軍備増強か。新しい街作りにも相当カネが掛かるだろうに、意外とあの王国、潤沢国家なのだな」
「まあ、内戦というよりテロリズムに近いかな。威吹君くらいの強さがあれば、幹部に登用されると思うよ?」
「それも同族に言われた。だが、オレは魔界には興味が無い。あくまで、ユタとの盟約の完結に徹するつもりだ」
「そこで、もう1つ。今度は威吹君の過去に触れることになるの」
「オレの過去?」
「威吹君を封印した、巫女のさくらさんよ」
「さくらが、どうしたって?」
「新情報が入ったの。あなたを封印したのは、本人は否定しているけど、ポーリンの可能性が高い」
「ああ。あのクソババァ、いつ殺せる?」
「申し訳無いけど、今のあなたには無理よ。ポーリンを倒すのは諦めなさい」
「ああっ!?」
「本題なんだけどね、あなた、さくらさんの遺体は知ってる?」
「知らんよ。オレが封印されている間に殺されたそうだな?……いや、違う。ポーリンがさくらを殺して、それと入れ替わって、オレを……」
「ポーリンは今まで、知らぬ存ぜぬを貫いて来たわよね。もし本当に知らなかったとしたらどうする?」
「じゃ、誰がやったってんだ!?」
「大師匠様がね、少しヒントを教えてくれたの。さすがにあの御方は、私とポーリン、片方だけの肩を持つわけにはいかないからって、全部は教えてくれないけど、ヒントだけならって……」
「で、そのひんととやらは何なんだ?」
「ポーリンが私との対立で、江戸時代の日本に逃げて来たのは本当。そして逃げた先で、たまたまさくらと会って、その姿を真似たのも本当みたい。だけど、本物は死んでいなかった、という仮定ね」
「それで?」
「おかしいと思ったのよ。さくらさんはポーリンに殺された説と、威吹君を封印した後、東北まで行って、そこでパッタリと足取りが消えたパターン。私は後者に違和感があってね、もしかしたら、たまたま開いた魔界の穴に巻き込まれたんじゃないかって」
「何だと?物凄く強引な話だな。証拠は掴んだのか?」
「あいにくと、まだ。だけど調べてみたら、当時は結構ポコポコ穴が開いたりしてたみたい。偶然その穴にはまって、魔界に飛ばされた人間がいてもおかしくない。“神隠し”とか呼ばれてるけどね」
「魔界に住む人間達は、正にそれで魔界に来た者達ばかりだと聞いた」
 威吹は大きく頷いた。
「さくらさんの死体がそもそも見つかっていないのと……」
 イリーナはテーブルの上に、新聞を置いた。
 それは異世界通信社が発行する新聞、“アルカディア・タイムス日本語版”だった。
「ここの記事を読んで欲しいの」
 それは先ほどイリーナが話した、新市街地建設現場の特集記事だった。
 城壁に囲まれた旧市街地を脱し、隣接する広野に新市街地を建設するというもの。
 約10年の歳月を掛けて完成させる計画の新しい街だが、まずは新魔王城の建設から始めるというものだった。
 現在の魔王城は民主党との内戦ですっかり疲弊し、如何に巨大な城とはいえ、その半分は再建を諦め、打ち棄てなければならないほどだった。
 しかしここ最近、ようやく打ち棄てられた旧館も復旧させて使わなければ回らなくなるほどにまでなった。
 それで新庁舎としての新魔王城なのだが、建設現場にて、地下深くの永久凍土で、氷漬けになった人間の巫女を発見したという。
 その巫女は着ている装束などから、江戸時代初期の人間と思われる、とのこと。
 彼女が如何にして人間界から魔界に来て、しかも何故、地下深くの永久凍土にて氷漬けになっていたかは不明である。
「写真は無いのか?」
「あいにくとね。江戸時代初期の巫女っていうフレーズが引っ掛かったのよ」
「その巫女はどこにいる?ちゃんと、きれいなままなんだろうな?」
「そうよ。王国の肝煎りだから、今の魔王城に保管されてると思うわね」
「確認したい!確認させてくれ!」
「相手は王国政府だからね、そう簡単にOKとはいかないと思うよ」
「アンタの顔が利くだろう?それで何とか……」
「その為にも、向こうとの取引材料が必要だわ。威吹君、あなた、正規兵は無理でも、予備役兵として参加してくれない?正規兵は兵役が決まってるから簡単には抜けられないけど、予備役なら戦闘の都度、召集と除隊の繰り返しで済むわ」
「オレは団体行動が苦手だから、里を飛び出したようなものだが……」
 威吹は渋い顔になった。
「正規兵は軍規も厳しいけど、予備役兵はそうでもないってよ」
「……そうしないと、さくらかもしれない氷漬けの巫女とは会えぬのか?」
「その流れで、安倍君と取り引きよ」
「あ、安倍君?!」
 威吹は一瞬、第96代内閣総理大臣の方を思い浮かべた。
 だがもちろん、イリーナは魔界民主党初代総裁で、尚且つ現・内閣総理大臣の安倍春明の方を言ったのである。
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