[10月13日20:00.東京都文京区 東京ドームシティ・ミーツポート 敷島孝夫]
「みんなー!どうもありがとー!」
「ありがとうございまーす!」
台風が接近してくる中、ライブは無事に終わった。
(やっぱ中止にしなくて正解だったな)
敷島はステージ袖でボカロ達の活躍を見ながら、感慨深げにそう思った。
(財団本部が襲われたというが、エミリーとシンディの活躍で人的被害は無かったらしいから、まあ大丈夫だろう)
控え室に戻って来たボーカロイド達を出迎える敷島。
「皆、よく頑張ってくれた。この調子で、ガンガン売り出していこう」
「おーっ!」
「台風の接近で今日は帰れないから、臨時に泊まって行くことにする」
「ちょっと。本部が何者かに襲われたんでしょ?大丈夫なの?」
MEIKOが心配そうに言った。
「ああ。得体の知れぬロボットが1機現れたそうだが、エミリーとシンディが倒してくれたおかげで、人的な被害は無いそうだ」
「そうなの」
「良かったね」
[同日21:00.東京都文京区 グリーンホテル客室 平賀太一&七海]
「敷島さん達と同じホテルにお泊りにならないのですか?」
七海は平賀の肩を揉みながら聞いた。
「うるさい。俺はテロリズム・ロボットと1つ屋根の下では絶対寝ない」
暗にそれはシンディのことを指している。
「七海。お前だって、危うく完全に壊されるところだったんだぞ?」
「はい。でも、この前、シンディは謝ってくれました」
その時のセリフが、
『ソフトウェアが不具合を起こしていて錯乱してたの。ごめんなさい』
である。
「謝って済むか!てか、あれはそういう仕様になっていただけのことだろうが!」
「アリス博士がオーナーであれば安心ではないかと……」
「なワケあるか!あのウィリーの孫娘だぞ!それに……あの目は野心がある。いつまたシンディを使って、テロをやるか分からんぞ」
(私をカスタムしていた時の太一様も、随分と野心的に見えたけど……)
と、七海は思った。
無論、メイドロボットがオーナーの揚げ足取りなんぞ、もっての外である。
「七海。お前は引き続き、アリスの研究所に潜入して監視を続けるんだ」
「かしこまりました」
「敷島さんには、あくまで多忙な敷島さんに代わって、事務作業を七海に手伝ってもらうという名目にする」
「はい」
平賀は机の上に置いているノートPCを操作した。
今日の昼間、エミリーとシンディが対応した正体不明のロボットのことについてである。
まず間違い無いのは、財団で管理・所有している個体ではないということ。
もちろん、所属の研究者が独自に開発したものでもない。
屋上に置かれていた木箱だが、警備員や設備員によると、置いた記憶も記録も無いという。
昨日の夜、巡回した時には木箱など無かったとのこと。
本当は今朝も巡回があったのだが、台風接近に伴う強風で危険なため、屋上には出ていない。
そして、普段は展望台から屋上へのドアは施錠されている。
開錠には専用のカードキーか、非常用の鍵が必要になる。
勝手に持ち出されたことも、紛失も盗難も無い。
展望台の監視映像を見ても、何者かが館内から屋上へ木箱を置いたものは無かった。
つまり、木箱は外から持ち込まれたものである。
「上空からヘリコプターか何かでやってきて、屋上に投下したのかもしれないな」
「どうしてそんなことを?」
「何者かによる財団本部へのテロ。これしか無い」
「そんな……」
「前の仙台支部長は逮捕されたし、これといった組織は無い。犯行声明も出ていないしな」
ロボットについて分かっている特徴。
まず、2足歩行で、ある程度ヒトの姿はしているということだ。
しかし、完全に人間に似せたボーカロイドやマルチタイプ、メイドロボットと違い、件の個体は人間に例えるには無理がある。
大きさはドアの間口くらいだから、まあ、身長は2メートルくらい。体幅も1メートルくらいといったところか。
エミリーが記録した画像によれば、力自慢で、体躯の割にはそこそこ素早いといった以外、特長らしきものは見当たらなかった。
バージョン・シリーズが、どことなく愛嬌を感じられる部分があるのに対し、この個体からはそんなものが見当たらない。
人類に製造され、人類に使われる以上、例え用途がテロであっても、せめて使う人間には気に入られるようにするものだ。
先述したアンドロイド達には造形美が重要視され、バージョン達やセキュリティロボットなどには機能美が追求されているわけだ。
しかし、この個体は……誰がデザインしたのか、とにかく愛嬌が無い。造形美も機能美も感じられない。
ボロクソではあるが、これが少なくとも財団所属の研究者達の共通認識である。
「随分、不細工な造りね」
と、さすがのアリスもこの部分だけは平賀と意見が一致した。
「例え試作機であったにせよ、世間に披露目する機会を考えて設計するものじゃ。これではその機会はハナから期待せず、完全に製造者の自己満足といった感じじゃな。……いや、これで満足するそのセンスを疑う」
と、十条も辛口意見であった。
爆発してしまったので、とにかく部品をかき集めて分析をしなければならなかった。
しかし肝心のメモリーなどは無く、部品も有り触れたものばかり。
体内から出て来たとされる鍵。
何でこれが出て来たのか、理由は不明だ。
どこの鍵なのか、タグに付いている番号を見ても意味が分からなかった。
訳あって、その鍵は平賀が持っている。
本来なら、その鍵は責任者である十条に預けなければならないのだが……。
窓ガラスに雨風が強く叩きつける音がする。
明日には台風が去る予定である。
[同日同時刻 東京都墨田区菊川のマンション 十条伝助&キール・ブルー]
「本当に、よろしいのですか?」
「構わん。やれ」
「かしこまりました」
「『汝、一切の望みを捨てよ』」
グググッ……!(思いっ切り鍵を握り締めるキール)
パキィン……!!(鍵が折れた)
ビュウ!バチバチバチバチ!(暴風が吹き、雨粒が窓ガラスに叩き付けられる)
「今日の嵐は止んだ。しかし、明日は分からない」
「みんなー!どうもありがとー!」
「ありがとうございまーす!」
台風が接近してくる中、ライブは無事に終わった。
(やっぱ中止にしなくて正解だったな)
敷島はステージ袖でボカロ達の活躍を見ながら、感慨深げにそう思った。
(財団本部が襲われたというが、エミリーとシンディの活躍で人的被害は無かったらしいから、まあ大丈夫だろう)
控え室に戻って来たボーカロイド達を出迎える敷島。
「皆、よく頑張ってくれた。この調子で、ガンガン売り出していこう」
「おーっ!」
「台風の接近で今日は帰れないから、臨時に泊まって行くことにする」
「ちょっと。本部が何者かに襲われたんでしょ?大丈夫なの?」
MEIKOが心配そうに言った。
「ああ。得体の知れぬロボットが1機現れたそうだが、エミリーとシンディが倒してくれたおかげで、人的な被害は無いそうだ」
「そうなの」
「良かったね」
[同日21:00.東京都文京区 グリーンホテル客室 平賀太一&七海]
「敷島さん達と同じホテルにお泊りにならないのですか?」
七海は平賀の肩を揉みながら聞いた。
「うるさい。俺はテロリズム・ロボットと1つ屋根の下では絶対寝ない」
暗にそれはシンディのことを指している。
「七海。お前だって、危うく完全に壊されるところだったんだぞ?」
「はい。でも、この前、シンディは謝ってくれました」
その時のセリフが、
『ソフトウェアが不具合を起こしていて錯乱してたの。ごめんなさい』
である。
「謝って済むか!てか、あれはそういう仕様になっていただけのことだろうが!」
「アリス博士がオーナーであれば安心ではないかと……」
「なワケあるか!あのウィリーの孫娘だぞ!それに……あの目は野心がある。いつまたシンディを使って、テロをやるか分からんぞ」
(私をカスタムしていた時の太一様も、随分と野心的に見えたけど……)
と、七海は思った。
無論、メイドロボットがオーナーの揚げ足取りなんぞ、もっての外である。
「七海。お前は引き続き、アリスの研究所に潜入して監視を続けるんだ」
「かしこまりました」
「敷島さんには、あくまで多忙な敷島さんに代わって、事務作業を七海に手伝ってもらうという名目にする」
「はい」
平賀は机の上に置いているノートPCを操作した。
今日の昼間、エミリーとシンディが対応した正体不明のロボットのことについてである。
まず間違い無いのは、財団で管理・所有している個体ではないということ。
もちろん、所属の研究者が独自に開発したものでもない。
屋上に置かれていた木箱だが、警備員や設備員によると、置いた記憶も記録も無いという。
昨日の夜、巡回した時には木箱など無かったとのこと。
本当は今朝も巡回があったのだが、台風接近に伴う強風で危険なため、屋上には出ていない。
そして、普段は展望台から屋上へのドアは施錠されている。
開錠には専用のカードキーか、非常用の鍵が必要になる。
勝手に持ち出されたことも、紛失も盗難も無い。
展望台の監視映像を見ても、何者かが館内から屋上へ木箱を置いたものは無かった。
つまり、木箱は外から持ち込まれたものである。
「上空からヘリコプターか何かでやってきて、屋上に投下したのかもしれないな」
「どうしてそんなことを?」
「何者かによる財団本部へのテロ。これしか無い」
「そんな……」
「前の仙台支部長は逮捕されたし、これといった組織は無い。犯行声明も出ていないしな」
ロボットについて分かっている特徴。
まず、2足歩行で、ある程度ヒトの姿はしているということだ。
しかし、完全に人間に似せたボーカロイドやマルチタイプ、メイドロボットと違い、件の個体は人間に例えるには無理がある。
大きさはドアの間口くらいだから、まあ、身長は2メートルくらい。体幅も1メートルくらいといったところか。
エミリーが記録した画像によれば、力自慢で、体躯の割にはそこそこ素早いといった以外、特長らしきものは見当たらなかった。
バージョン・シリーズが、どことなく愛嬌を感じられる部分があるのに対し、この個体からはそんなものが見当たらない。
人類に製造され、人類に使われる以上、例え用途がテロであっても、せめて使う人間には気に入られるようにするものだ。
先述したアンドロイド達には造形美が重要視され、バージョン達やセキュリティロボットなどには機能美が追求されているわけだ。
しかし、この個体は……誰がデザインしたのか、とにかく愛嬌が無い。造形美も機能美も感じられない。
ボロクソではあるが、これが少なくとも財団所属の研究者達の共通認識である。
「随分、不細工な造りね」
と、さすがのアリスもこの部分だけは平賀と意見が一致した。
「例え試作機であったにせよ、世間に披露目する機会を考えて設計するものじゃ。これではその機会はハナから期待せず、完全に製造者の自己満足といった感じじゃな。……いや、これで満足するそのセンスを疑う」
と、十条も辛口意見であった。
爆発してしまったので、とにかく部品をかき集めて分析をしなければならなかった。
しかし肝心のメモリーなどは無く、部品も有り触れたものばかり。
体内から出て来たとされる鍵。
何でこれが出て来たのか、理由は不明だ。
どこの鍵なのか、タグに付いている番号を見ても意味が分からなかった。
訳あって、その鍵は平賀が持っている。
本来なら、その鍵は責任者である十条に預けなければならないのだが……。
窓ガラスに雨風が強く叩きつける音がする。
明日には台風が去る予定である。
[同日同時刻 東京都墨田区菊川のマンション 十条伝助&キール・ブルー]
「本当に、よろしいのですか?」
「構わん。やれ」
「かしこまりました」
「『汝、一切の望みを捨てよ』」
グググッ……!(思いっ切り鍵を握り締めるキール)
パキィン……!!(鍵が折れた)
ビュウ!バチバチバチバチ!(暴風が吹き、雨粒が窓ガラスに叩き付けられる)
「今日の嵐は止んだ。しかし、明日は分からない」