報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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“ユタと愉快な仲間たち” 「いざ、富士宮へ」

2014-09-27 00:09:53 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[8月29日06:20.JR大宮駅・京浜東北線ホーム 稲生ユウタ、威吹邪甲、イリーナ・レヴィア・ブリジッド、マリアンナ・スカーレット]

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の2番線の電車は、6時27分発、各駅停車、大船行きです。……〕

 平日朝の京浜東北線ホーム。
 普段の平日ならこの時間から多くの乗客で賑わうホームも、今日は比較的静かだった。
 ユタを含む学生が夏休みということもあるだろう。
 4人はブルーのシートに腰掛けていた。
 イリーナとマリアの荷物は大きい物で、人が丸まれば入れそうなキャスター付きバッグが2個だった。
「じゃ、着いたら起こしてねー」
 早起きが苦になりつつあるイリーナは、弟子達にそう言い残して仮眠モード。
「よく寝れますねぇ……」
 ユタは呆れるやら感心するやらであった。
「まあ、長年魔道師やってると……ね」
 そういうマリアは寝落ちすることなく、魔道書を広げている。

〔この電車は京浜東北線、各駅停車、大船行きです〕

「マリアさんは朝から熱心ですね」
「再び修行中の身となったからには、当然だろう?早くまた一人前に戻りたい」
「その意気です」
(マリアもユウタ君が近くにいるようになってから、頑張るようになったねぇ……)
 威吹を挟んで寝落ちしているはずのイリーナは、弟子とその彼氏のやり取りを聞いてそう思った。

[同日07:18.神田駅→東京駅、JR京浜東北線1号車内 ユタ、威吹、イリーナ、マリア]

 乗り換え無しで東京駅まで行けるとはいえ、かなりのんびりとした足取りだ。
 さすがに夏休み期間中といえど、そこは平日。
 山手線と並行して走る頃には、車内も立ち客が目立っていた。
 吊り革を掴む客の、電車が揺れる度に鳴る革ベルトの軋み音が聞こえて来る。

〔次は東京、東京。お出口は、右側です〕

「マリアさん、そろそろイリーナさんを起こした方がいいんじゃ……」
「そうだな」
 ユタの声にマリアは頷き、
「師匠、もうすぐ着きますよ。起きて下さい」
 イリーナを揺り動かした。
 しかし、
「うーん……。あと5分……」
「アホか」
「5分も経ったら、新橋か浜松町ですよ~」
 ユタは苦笑いした。
「師匠、早く起きないと、お醤油飲ませますよ?」
「!!!」
 弟子の声に、慌てて起きるイリーナだった。
(醤油が苦手なんだろうか?この人は……)
 とユタは思ったが、真偽の程は不明だ。

〔「ご乗車ありがとうございました。まもなく東京、東京です。お降りの際、車内にお忘れものなさいませんよう、ご注意ください」〕

 電車は東京駅のホームに滑り込んだ。
 ここで正式な意味での東北本線は終わり。
 ここからは横浜駅まで、正式な意味での東海道本線に入る。
 その境目の駅で、ユタ達は電車を降りた。

〔とうきょう、東京。ご乗車、ありがとうございます〕

 多くの通勤客や行楽客が行き交うホーム。
 ユタが1号車への乗車を強く勧めたのは、何も趣味なだけではない。
 大宮駅や東京駅ではエレベータに最も近く、且つJRバス乗り場である八重洲南口に最も近い車両だからである。
 大きな荷物を持っているだけに、エレベータはありがたい。
「まだだいぶ時間がありますが、どうします?」
「もちろん、朝食はちゃんと取らないとね」
 ユタの質問に、イリーナが片目を瞑って答えた。
「何でそこで、オレの方を向く?」
 威吹は含み笑いをする魔道師の師匠に、眉を潜めた。
「気にしない、気にしない」
「気になるっての!」
「ま、まあまあ。取りあえず、八重洲地下街に行ってみましょう」
 ユタは取り繕うように言った。

[同日同時刻 東京都江東区森下 ワン・スター・ホテル エレーナ・マーロン]

「ご利用ありがとうございましたぁ!」
 エレーナは住み込みで働いているホテルで、フロントの仕事をしていた。
 朝早くからチェック・アウトする宿泊客もいる。
 で、格安の宿泊料金と場所柄、外国人客も多く、魔法で語学堪能なエレーナは重宝されていた。
 宿泊客の姿が無くなると、机の上に置いてある水晶玉に手をかざす。
(マリアンナは、新しい杖を作りにお出かけか。私は魔界から持ってきたのがあるからなぁ……)
 週末は忙しくなるので、エレーナはしばらく出かけられそうに無さそうである。

[同日08:05.JR東京駅・JRバス乗り場 ユタ、威吹、イリーナ、マリア]

「うーん……。今日は絶好の行楽日和……」
 イリーナが呑気に空を仰いだ。
「……なワケねーだろ!」
 それにツッコミを入れる威吹。
 そう。東京駅周辺は雨が降っていた。
「関東地方は大気の状態が不安定で、1日中、降ったり止んだりの天気だそうです」
 ユタはスマホを見ながら言った。
「東海地方は晴れるみたいですよ」
「おー、それは良かった」

〔「今度の8番乗り場は8時10分発、“やきそばエクスプレス”1号、富士宮行きが発車致します。ご利用のお客様は、8番乗り場にお越しください」〕

「金曜日だから大石寺行きじゃないや」
 と、ユタ。
 頭端式のバスターミナルにやってきたJRバスは最新の年式のもので、大きなワイパーを規則正しく動かしていた。
 ここでは荷物室への荷物の積み込みは、ターミナルの係員がやってくれることが多い。
 LED表示板に『大石寺』ではなく、『富士宮営業所』と表示されている横のドアから乗り込んだ。
「ユウタ君。師匠が前」
 ユタが手持ちの乗車券に指定されている前の席に座ろうとすると、マリアが止めた。
「えっ?」
「こういう乗り物では、上位者が前。下位者は後ろ。師匠は師匠だし、年長。だから師匠が前で、私達は後ろ」
 するとイリーナは困惑と苦笑の交じった顔で言った。
「あちゃー……。こりゃまた高度なビジネスマナー覚えちゃったねぇ……。いいよ。アタシはそんなの気にしないし、ユウタ君と展望席で眺めを楽しみなー」
「それなら、オレがユタの隣に座る」
 威吹が1B席に座ろうとすると、マリアがサッと手持ちの魔法の杖で威吹をブロック。
 首に杖の柄を押し当てて、更に押し返した。
「師匠がそのように仰るのなら、それに従う。それが弟子というもの」
「何がだ、このアホ女!」
 威吹きは首を押さえながら抗議した。
 マリアがホッとしたような、それでいて顔を少し赤らめているのを見たイリーナは、
(無理しちゃって……)
 微笑を浮かべた。
「弟子の躾がなってないな!」
「はいはい。悪かったね~」
 威吹の抗議をさらっとかわすイリーナ。
 さすがにそこは、年の功である。
「年の功?」(←急に冷たい目つきになるイリーナ)
 あんたのことだよ。
「『地に潜む我が僕よ。今こそ魔の封印を解放せん』アペ、サタン、アペ、サタン、アレッペ。我に無礼なる発言せし者に我が魔法の裁きを……」
 わーっ!前言撤回します!さすがは、クール&ビューティーの大魔道師様でありまする!
「ふふっ、そうよね」
「さっきから何を独り言言ってるんだ???」
 威吹の首が傾げられたと同時に、バスは定刻通りに出発した。
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6 コメント

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Unknown (本堂)
2014-09-27 08:05:04
管理人さん、お早うございます。

八重洲地下街ですか? 東京駅を大改造してしまったのでただですら良くわかりずらい?大地下街がもっとわからないですよね。銀の鈴とか残っているのでしょうか?
それと昔、大地下街に「王様のアイディア」というアイディアショップのショーウィンドが有ったの知っていますか?

それと富士宮の「謗法?」は駅前大鳥居の浅間神社だけではなく、大石寺ご近所?の日蓮宗大本山北山本門寺(開山日興の正墓がある)もそうでしょうね?

まあ、あくまで正宗系から見た場合で、世間的には由緒ある寺社にしか過ぎませんが。

てな事言うと巌虎さんブログに載せられた?顕正会バーズさんブログから「浅間神社も北山も大謗法だ、大石寺も御遺命を捨てた謗法だ、大体、ユタさんは魔道師や水晶玉など謗法を題材に小説書くのか?」と粗探し?されそうですが?


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本堂さんへ (作者)
2014-09-27 10:22:41
おはようございます。

八重洲地下街もだいぶ変わりました。
銀の鈴はグランスタと言って、八重洲中央地下改札口を入った所にあります。
山門入り口さんも仰ってましたが、私の小説は言うまでもなく、フィクションです。臨場感を出す為に、あえて実在の場所などを出しているだけです。
それで謗法だと騒がれても困るのですがね。
バーズさんはともかく、宗門関係者が騒ぐと却って新願者を逃す恐れがあるので、広い心で見ていて下さるとありがたいです。
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Unknown (ANP)
2014-09-27 10:46:30
以前に話したjr西日本とか西日本の鉄道の女性専用車ですけどこれは東日本と違って中間車両にありますのでユタさんは安心して先頭車両と最後部にご乗車いただけますwwwww
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ANPさんへ (作者)
2014-09-27 15:07:05
 こんにちは。情報ありがとうございます。

 ほおほお。
 さすが西日本は鉄ヲタを大事にしてくれるJRですな。
 どこかのJR(211系をオール・ロングシートにする、運転席真後ろの席を優先席にしやがる)とは違い、ありがたい限りです。
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Unknown (ANP)
2014-09-27 20:18:27
オールロングシートといえば昔播但線の姫路-寺前間の列車は今は電化されて電車なんですけどかつては客車列車→ディーゼルとなったんですけどディーゼル化の時に混雑が激しいのでキハ58をオールロングシートにして使ってたんですねw
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ANPさんへ (作者)
2014-09-27 21:10:38
 オールロングシートのキハ58ですか。それは珍しいですね。
 東日本には少し前まで烏山線や石巻線などで、オールロングシートのキハ40系が使用されていました。
 石巻線用はラッシュ専用だったので、ワンマン機器は無かったと思います。
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