報恩坊の怪しい偽作家!

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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「こだま706号」

2020-07-06 09:06:58 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月3日10:00.静岡県富士市 JR新富士駅 視点:稲生勇太]

 藤谷の車が駅前ロータリーに入る。

 藤谷:「それじゃ、ここまでで申し訳ないですけど……」
 イリーナ:「いえいえ、とんでもない。助かったよ」
 稲生:「ありがとうございました」
 イリーナ:「ここに、御礼の『儲け話』が書いてあるから、後で読んで」

 イリーナは自分が予知した『儲け話』が書かれたメモを藤谷に渡した。

 藤谷:「あ、こりゃどうもすいませんです」

 藤谷は揉み手をし、照れ笑いにも似た笑みを浮かべてそのメモを受け取った。

 稲生:「それじゃ、班長。ありがとうございました」
 藤谷:「おう。ちゃんとお寺来いよ」
 稲生:「分かりました」

 稲生達は車から降りた。
 時折、ゴーッという音が駅から聞こえてくるのは、通過列車の轟音である。
 駅の中に入る。

 稲生:「10時13分発です。その約5分前に入線してくるので、そろそろといったところですね」
 イリーナ:「そうかい。じゃあ、もう行こうかね」
 稲生:「キップは1人ずつ持ちましょう」

 稲生はイリーナにグリーン券の付いたキップを渡した。
 当初は自由席に座る予定の稲生とマリアだったが、なるべくイリーナと離れない方が良いということで指定席にした。
 幸い、隣の普通車指定席が取れた。
 まだ、コロナ禍による影響は大きいのだろうか。
 それとも、元々空いている“こだま”だからか。

〔「今度の東京行きの電車は、10時13分発、“こだま”706号です。終点東京まで、各駅に停車致します。自由席は……」〕

 ホームに上がると、マリアはホーム上の売店に立ち寄った。
 何を買っているのかというと、ポッキーであった。
 どうやら、朝食だけでは少し足りなかったらしい。

 稲生:「先生は10号車。僕達は11号車です」
 イリーナ:「寝てたら、起こしてちょうだいね」
 稲生:「分かりました」

〔♪♪♪♪。新幹線をご利用くださいまして、ありがとうございます。まもなく1番線に、10時13分発、“こだま”706号、東京行きが到着致します。安全柵の内側まで、お下がりください。この電車は、各駅に止まります。グリーン車は8号車、9号車、10号車。自由席は1号車から6号車と、13号車から16号車です。……〕

 新富士駅の前後は線形が良い為、通過列車は最高速度の時速285キロで通過する。
 入線してきた列車はN700系であり、N700Aではなかった。
 “祈りとして叶わざるは無し”……とは限らない。

 イリーナ:「それじゃ、アタシゃそっちへ行くよ」
 稲生:「あ、はい」

 列車が到着し、ドアが開くと、イリーナはグリーン車へ乗って行った。
 稲生達は隣の普通車に乗り込んだが、その直前に轟音を立てて通過列車が通過していった。
 風圧と振動で、こちらの列車も揺れる。

 稲生:「ここですね」
 マリア:「うん」

 指定された2人席に腰かける。
 人形達はいつもの通り、荷棚に乗せた。
 ローブも脱いで、窓の横に付いている収納式のフックに掛ける。
 本当はこれ、『帽子掛け』というらしい。
 エレーナなどのホウキ乗りの魔女みたいに、いつも帽子を被っている者なら重宝するのかもしれない。
 しかしそうでない魔法使いの場合は、ローブを掛けるのに使う。

〔「10時13分発、“こだま”706号、東京行きでございます。只今、通過列車の通過待ちを行っております。発車まで、しばらくお待ちください」〕

 マリアはテーブルを出すと、その上にジュースとポッキーを置いた。

 マリア:「一本食べる?」
 稲生:「うん、ありがとう」

 稲生は一瞬ポッキーゲームをしたくなったが、何とか抑え込んだ。

 マリア:「? なに?」
 稲生:「い、いや、何でも無い」

[同日10:13.JR東海道新幹線706A11号車内 視点:稲生勇太]

〔「レピーター点灯です」〕

 東京駅なら発車メロディが流れるが、ここでは普通の発車ベルが鳴り響く。

〔1番線、“こだま”706号、東京行きが発車致します。ドアが閉まります。ご注意ください。お見送りのお客様は、安全柵の内側までお下がりください〕
〔「ITVよーし!乗降、終了!」〕

 マリアはポッキーを食べていたが、今は荷棚に乗っていた人形達も下りてきて、一緒にポッキーをポリポリ食べている。

 稲生:「“こだま”、車内販売無いからねぇ……」

 人間形態だと凛としたメイドであり、他のメイド人形達のリーダー的存在として働くが、人形形態だとコミカルな動きを見せてくれる。
 そんなのを眺めているうちに、“こだま”706号は発車した。

 乗客A:「こっちだ、こっちだ」
 乗客B:「急げ!」

 後ろの車両に向かって、スーツ姿の男性乗客達が走って行く。
 何のことはない。
 イリーナが乗車していると聞いて、占ってもらおうと思っているのだ。
 イリーナは門内ではヘタレ師匠として通っているが、占いの腕前に関しては文句をつける1期生はいない。
 そんな彼女の占いの見料は【お察しください】。
 特に定額というわけでもなく、イリーナが相手を見て値段を決めることもあるし、向こうの方から言い値を払ってくる場合もある。
 イリーナが持っているプラチナカードだって、とある世界の大物を占いで助けてあげた見料の1つである。
 そんな彼らにとって、弟子である稲生やマリアは歯牙にもかけない存在であろう。
 さっきの男性達も、稲生達には目もくれずに走り去って行った。
 いや、そもそもイリーナに弟子がいることすら知らないのかもしれない。

 マリア:「師匠はどこでも稼げるな」
 稲生:「凄いよねぇ……」
 マリア:「私もまだ予知夢を見る程度だからなぁ……」
 稲生:「それで夢占いとかできるんだから、大したものだと思うよ」
 マリア:「いや、それだって確実ってわけじゃないし。もっと、より確実なものにしないと……。勇太だって、予知夢を見たりしない?」
 稲生:「たまーにね。でも、『たまーに』程度じゃ、占いで生活できないし」
 マリア:「ま、それもそうだ」

 マリアはまた一本ポッキーを齧った。

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