報恩坊の怪しい偽作家!

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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「出発前の計画段階」

2019-01-28 10:22:18 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月12日10:30.天候:曇 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日から3連休であるが、予定は仕事のみ。
 こうして事務所も開けている。
 私は事務所で電話をしていた。
 いや、これは別に仕事の電話というわけではないのだが……。

 斉藤秀樹:「我が全日本製薬は鬼怒川に保養所がありますが、そこ以外にもありますから御紹介させて頂きますよ」
 愛原:「そんな、お気遣い無く」
 斉藤:「いいえ。私の学生時代の謎を解いて頂いた御礼です。あの後も、当時の先生の行方は追っていますからね」
 愛原:「ええっ?」
 斉藤:「例え墓場でも、それがどこにあるのか突き止めたいのです。あ、これは私の私怨ですから、愛原さんを巻き込むつもりはありません」
 愛原:「私怨!?」

 斉藤社長の高校時代、科学の教師だったという日本アンブレラの研究員。
 その本体であるアンブレラ・コーポレーションは、アメリカ中西部の町で大規模なバイオ事件を引き起こし、その隠蔽工作に奔走したものの、結局は失敗。
 政府より業務停止命令を受けて信用を失い、株価は大暴落。
 当然ながら経営が破綻し、それで幕引きとなった悪の製薬会社である。
 ただ、政府の方もアンブレラ社におもねっていた部分があって、ヘタすりゃ政界にも飛び火する恐れがあったので、慌てて経営破綻させて幕引きを図ったことが現在発覚している。
 日本アンブレラ社はアメリカ本体より経営が切り離されて細々と活動していたが(むしろ日本を拠点に再興しようと考えていた)某県霧生市のバイオ事件を機に完全に消滅してしまった。
 この辺、日本の方がむしろ冷たいもので、斉藤社長率いる全日本製薬会社を始め、全ての取引先が逃げ出した為に再興など土台無理であった。
 私はこの見事なまでの遁走ぶりが、むしろ怪しいような気がしてしょうがない。
 斉藤社長は、私の前では良い顔をして下さるが、実は裏の顔なんかあったりしてな。
 ま、この会社も国内では有数の大製薬企業で、その経営者ともなれば、いくつもの顔を持つのは当然だろうが……。

 愛原:「そ、それで私達はいつ出発すれば良いのでしょう?」
 斉藤:「もちろん愛原さん達の御都合で結構ですよ。何しろ、娘のお守りをして頂けるということで、ありがとうございます」
 愛原:「でもこの3連休はさすがにムリ?」
 斉藤:「そうなんですよー。何しろ、勉強は不出来な娘でして、今頃は学校で追試です。明日は日曜日ですが、赤点対象者の特別補習があります」
 愛原:「うわ……」
 斉藤:「愛原さんの所は大丈夫でしたか?」
 愛原:「リサですか?うちにいますから、多分赤点は取っていないかと」
 斉藤:「素晴らしい。いや、実に素晴らしいですな」
 愛原:「リサは……違った意味で特別ですから」
 斉藤:「ええ、分かってますよ」
 愛原:「来週の土日は何も予定が無いので、この日を開けておこうかと思います」
 斉藤:「了解しました。私が株主になっているホテルがありますので、その優待券を駆使させて頂きましょう」
 愛原:「何から何まですいませんね」
 斉藤:「いえ、これは私からの依頼と報酬ですよ」
 愛原:「ん?」
 斉藤:「まだあなたには私の学生時代の謎を解いて頂いたという報酬をお支払いしておりませんでしたし、今度は娘のお守りをして頂くという依頼の報酬を先払いさせて頂くだけの話ですよ」
 愛原:「なるほど。そういうことでしたか」
 斉藤:「もしも契約書が必要でしたら、サインしに伺いますよ?」
 愛原:「あ、いや。正式な仕事の依頼ではないですからね。そのご足労は無用ですよ」

 私は笑みをこぼしながら答えた。

 愛原:「それにしても、斉藤社長はどうしてここまで私を目に掛けて下さるんですか?」
 斉藤:「そうですねぇ……。全て説明しようとすると、日が暮れてしまいます。それくらい複雑な事情があるんですよ。まあ、簡単に一言で言ってしまえば、『私怨を晴らしてくれるのは愛原さんしかいない』とそう思ったからです」
 愛原:「また私怨ですか……」
 斉藤:「愛原さんは義憤に燃える正義感をお持ちであるとお見受けします。それを買いたいのです」
 愛原:「失礼ながら、些か買いかぶり過ではないかと思いますが……。ま、全幅の御信頼を頂いた以上、報酬に見合った仕事はさせて頂きますよ。……はい、分かりました。では、また後ほど」

 私は電話を切った。

 高野:「斉藤社長がいい支援者になってくれそうですね」
 愛原:「俺なんか買っても、あまり大した利益は出ないと思うんだが……」
 高橋:「そんなことないですよ。その社長、ちゃんと人を見る目があるってことですよ」
 高野:「そうですよ。さすがは大企業家は違いますね」
 愛原:「うーん……」

 何か、話が出来過ぎているような気がする。
 嫌だね。
 こんな仕事をしていると、すぐ人を疑う癖が付いてしまう。
 職業病だな、これは。

 高野:「予定表に、『温泉旅行』って書いておきますね」
 愛原:「おいおい……」

[同日同時刻 天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 斉藤家]
(ここから三人称となります)

 電話を切った斉藤秀樹。
 ここは斉藤家の応接室である。
 斉藤の向かい側のソファには、来客が座っていた。
 煙草を嗜んでおり、テーブルの上の豪華なクリスタル製の灰皿に灰を入れている。

 斉藤:「随分と絶好調のようだな?キミが面倒を見ている、この愛原学探偵事務所とやらは……」
 ボス:「おかげさまで。私もこちら側の人間とはいえ、探偵の端くれ。依頼人の御要望には、極力応えるものだ。どうやら、その成果に御満足頂けたようだな」
 斉藤:「御苦労……」
 ボス:「いや、なに……。私が後見している彼らを使って、どうするつもりなのかね?」
 斉藤:「電話で言った通りさ。この業界のイメージをどん底までダウンさせたアンブレラの連中を、徹底的に叩き潰す。それだけさ」
 ボス:「しかし、製薬会社としてのアンブレラはもうこの世から消え失せた。今存在しているのは、民間軍事会社としてのアンブレラだ。それを潰す気か?」
 斉藤:「いや、そういうことじゃない。ま、見ていてくれ。悪いようにはしない」
 ボス:「そうかね。(……この男、他に隠し事があるな。恐らく、本来の目的は愛原君ではなく……)」

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