報恩坊の怪しい偽作家!

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“大魔道師の弟子” 「稲荷神社の夜」

2018-05-13 20:19:14 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[魔界時間4月9日19:00.天候:晴 アルカディアシティ、サウスエンド地区(通称、南端村) 稲荷神社]

 稲生達を乗せた辻馬車(魔界における馬車タクシー)が稲荷神社の鳥居の下の階段前に止まる。
 先に威吹が降りた。

 威吹:「さくら達に知らせて来る」
 稲生:「うん。……あ、すいません。領収証お願いします」
 御者:「はい。お名前は?」

 魔界のタクシーにも領収書はあるのか。

 威吹:「おーい、帰ったぞー」
 坂吹:「先生!お帰りなさい!」
 さくら:「お帰り、あなた」

 坂吹は夕食の用意をしていた。
 どうやら坂吹は弟子として、本当に何でもするつもりらしい。
 弟子というよりは従卒とか、フットマンみたいな役回りかもしれない。

 威吹:「電話でも伝えておいたが、今夜はユタと魔女のマリアが泊まることになった。客間の用意はできているか?」
 坂吹:「はい、先生!」
 さくら:「それなら、先に荷物とか置いて来てもらった方がいいかもね」
 威吹:「そうだな」

 やっと階段を登って来た稲生達に、威吹は言った。

 威吹:「ユタ、部屋の用意はできてるから、先にそっちに荷物置いてきなよ」
 稲生:「ああ。そうさせてもらおうかな」
 さくら:「坂吹君、食事の準備は私がしておくから、あなたは稲生様達を案内してきて」
 坂吹:「かしこまりました。禰宜様」

 坂吹は大きく頷くと、稲生達の所へ向かった。

 坂吹:「客間へご案内します」
 稲生:「ありがとう」

 威吹達の住まいと1つ屋根の下であったが、回廊を挟んで反対側に客間はあった。
 稲生は以前、そこに泊まったことがある。
 確か、6畳間が2つ並んだ部屋だった。
 2つの部屋の間は、襖で仕切られている。
 いざという時はその襖を開放して、12畳間とすることも可能。

 坂吹:「お布団2つ並べておきますか?」
 マリア:「なっ……?」
 稲生:「えっ、えっと……その……」

 稲生とマリアが戸惑っていると、後ろから威吹が言った。

 威吹:「こっち、ユタの部屋。そっち、マリアの部屋。そうしろ」
 坂吹:「か、かしこまりました」
 威吹:「ユタ達もそれでいいね?」
 稲生:「う、うん」
 マリア:「OK...」

 もっとも、部屋同士は襖で仕切られただけである。

 威吹:「布団は後で坂吹に敷いてもらうことにして、先に夕餉としよう」
 稲生:「何だか、何から何まで申し訳無いね」
 威吹:「気にするな。ボクとユタの仲じゃないか。ボクの方こそ、キミの家に挨拶に出向かなければならないのに、申し訳無い」
 稲生:「そうそう。父さんが会いたがってたよ」
 威吹:「そうか。なるべく近いうち、時間を作って会わせて頂こう」

 威吹は着物の懐から銀時計を出した。
 これはかつて、稲生の父親、宗一郎からもらったものである。
 裏には『威吹』と名前が彫られていた。
 これは稲生を色々な災厄から守ってくれたことへの礼だという。

 稲生:「多分、今度は金時計でもくれるんじゃないの?」
 威吹:「そんな、気を使って頂かんでも……かたじけない」

 夕食を囲む茶の間に行くと、既に坂吹やさくらが膳を出していた。

 威吹:「まあまあ、まずは一献。ビールなら行けるな?」
 稲生:「あ、ありがとう。アルコール、入れちゃっても大丈夫なんでしょうか?」
 マリア:「もう既に、薬は体の中に染み込んでいるだろうから大丈夫」
 威吹:「薬を飲んだら副作用で眠くなるとのことだが、大丈夫なのか?」
 稲生:「うん。まだ眠くないね」
 マリア:「ああいう魔道師の作る薬で、遅効性の物というと、だいたいが飲んでから4〜5時間ほどで効き出すんだ。もしも勇太の飲んだ薬も、そんなベタな法則通りだったとしたら、実際に寝る時に効き出すだろうね」
 稲生:「そうですか」
 威吹:「夕餉を終えたら、早めに休んだ方が良いということだな。坂吹、やっぱり先に布団を敷いておいてやってくれ」
 坂吹:「かしこまりました」
 稲生:「有紗の幽霊は襲って来ないかなぁ……」
 威吹:「顕正会員にとって神社は謗法の地で、一歩でも足を踏み入れると地獄行きと教わるのだろう?そのように刷り込まれた状態で死んだ亡霊が、今更恐れぬとは思えんな」
 稲生:「それもそうだね」
 マリア:「どうしても心配なら、すぐ隣に私がいるから」
 威吹:「何なら、ボクが一緒に寝てあげようか?布団ならまだ余ってるし……」
 稲生:「あー、そうだなぁ……」
 マリア:「イブキはいいから!さくら氏と一緒に寝てて!」
 さくら:「あらあら……」

 夕食を終えて風呂に入ると、そこでやっと薬が効き出してきたのか、稲生に眠気が襲い出した。
 ちょっとでも気を抜くと、廊下に倒れて寝込みそうなくらい。
 それでも何とか客間に戻ると、布団に潜り込んで眠りに就いた。

[同日22:00.天候:晴 南端村稲荷神社]

 マリア:「ふぅ……」

 マリアもまた風呂を借りると、いつものワンピース型の寝巻に着替えていた。

 威吹:「うーむ……」

 すると廊下の向こうから、威吹が難しそうな顔をして歩いて来た。

 マリア:「風呂上がった。ありがとう」
 威吹:「いや、なに……。ユタはよく寝ている。坂吹に見張りをさせているが、今のところ、亡霊は現れていないようだ」
 マリア:「多分、大丈夫だろう。あれだけ、この神社に入ることを嫌がっていたわけだからね」
 威吹:「うむ」
 マリア:「何か、考え事か?」
 威吹:「ユタの記憶が戻れば分かることだろうが、分からないことが多くてな。最初、遺骨泥棒は魔女の誰かのせいだという話もあっただろう?」
 マリア:「ああ。死霊や霊魂を扱うネクロマンサーというジャンルの魔法使いがいる。だけどうちの師匠が確認してくれたけど、少なくともうちの門内のネクロマンサー達のせいではなかった」
 威吹:「だよなぁ……」
 マリア:「どうした?」
 威吹:「いや、先般見た水晶球の映像なのだが……。どうもオレは、あの者について知っているような気がする」
 マリア:「何だって!?」
 威吹:「いや、もちろん、名前を知っているだとか、前に会ったことがあるとか、そういうことではない。だが、どうもオレは初めてではないような気がするのだ。それが何なのか、思い出せぬ」
 マリア:「……あなたも世界樹の葉を飲んだ?」
 威吹:「いや、オレは飲んでおらぬ。ただ、そんなオレですら忘れていることだから、実際に薬を飲んだユタはほぼ知らないも同然であってしかるべきだと思ったのだ」

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