報恩坊の怪しい偽作家!

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“大魔道師の弟子” 「北陸新幹線暫定ダイヤ」

2019-11-21 20:03:18 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[11月19日19:00.天候:晴 長野県長野市 JR長野駅]

 稲生達を乗せた長野駅東口行き特急バス最終便は、無事に終点に到着した。
 長野電鉄長野線や善光寺のある方とは反対側に到着する。
 この長野電鉄長野線、長野市の市街地は地下鉄のように地下トンネルを走ることで有名だ。
 もっとも、稲生はまだ乗ったことはない。
 弟子の身分とあっては、自由に歩き回ることができないのだ。

 運転手:「ありがとうございました」
 稲生:「お世話さまでした」

 バスの荷物室に預けた荷物を受け取ると、3人は駅の中に入った。

 稲生:「夕食がまだですね。駅弁を購入して来ます。何がいいですか?」
 イリーナ:「旅情たっぷりだねぃ。肉系統で。あとワインも」
 稲生:「はい。マリアさんは?」
 マリア:「私も同じく。でも、私はワインじゃなくていい」
 稲生:「では紅茶にしておきますね。キップは一人ずつ持ちましょう」

 自動改札口を通るので。
 新幹線改札内コンコースに入ると、途中で駅弁を買った。
 駅弁の販売店ではワインは売っていないので、それはNEWDAYSで購入することになる。

 稲生:「先生、これでいいんですか?」
 イリーナ:「そうそう」

 それはボトル缶に入った赤ワイン。
 プラスチックのキャップがグラス代わりとなる。

 稲生:「ウォッカではないんですね」
 イリーナ:「それが日本の鉄道の売店で買えるんだったら、そうしてもらうよ?」
 稲生:「いやー、見たことないですねぇ……」

 稲生は首を傾げた。

[同日19:36.天候:晴 JR長野駅・新幹線ホーム→北陸新幹線“はくたか”574号10号車内]

〔ピンポンパンポーン♪ 13番線に、19時38分発、“はくたか”574号、東京行きが12両編成で参ります。この電車は上田、佐久平、軽井沢、高崎、大宮、上野、終点東京の順に止まります。グランクラスは12号車、グリーン車は11号車、自由席は1号車から4号車です。まもなく13番線に、“はくたか”574号、東京行きが参ります。黄色い線まで、お下がりください〕

 稲生:「だいぶ冷えて来ましたねぇ……」
 イリーナ:「もうすぐ冬だね。それに、週末はもっと寒くなるよ」
 稲生:「ええっ?」
 イリーナ:「何せ、雨が降るからね」
 稲生:「先生、それは……」

 稲生の声は入線してきた列車の音にかき消された。

〔「13番線に到着の列車は19時38分発、“はくたか”574号、東京行きです。北陸新幹線は台風19号の影響で、通常の8〜9割の本数で運転する暫定ダイヤで運行しております。……」」〕

 ドアが開く。

 稲生:「それじゃ、こちらへ」
 イリーナ:「うん」

 3人が乗り込んだのは普通車指定席。
 イリーナだけでもグリーン車ではないのかと思うが……。
 やはりというべきか、3人席に並んで座る。
 窓側がイリーナ、中側がマリア、通路側が稲生である。

 稲生:「先生だけでもグリーン車という手もありましたが……」
 イリーナ:「いいよいいよ。皆で仲良く行こうよ」

 イリーナはシートテーブルを出すと、その上に駅弁とワインを置いた。
 マリアはいつもの人形が入ったバッグを荷棚に置く。

 イリーナ:「今回は下見を兼ねての上京だよ。つまり、勇太君が上手くアテンドできるかどうかのね。私が引率するわけではなく、私が勇太君に付いて行くという形を取るからこういうことになるのね」
 マリア:「要約すると、『独りは寂しい』ということですね。分かりました」
 イリーナ:「そうとも言うかな」
 稲生:(往々にして魔女は孤独が好きとは限らないんだな……)

 好きで孤独でいるわけではないということか。
 稲生は幕の内弁当とお茶を開けた。
 そうしているうちに、列車が走り出す。

 稲生:「先生の占いに長野の新幹線車両基地が水没することは出ていましたか?」
 イリーナ:「まあ、出ただろうね」
 稲生:「だろう、とは?」
 イリーナ:「そもそも占ってないからね。いや、予知夢っぽいのは見たんだけど、特に危険に分類される見方じゃなかったからね。こうして暫定ダイヤながら、私達は普通に乗れているわけでしょう?」
 稲生:「まあ、確かに……」

〔「……北陸新幹線は台風19号の影響により……」〕

 稲生:「僕達は屋敷の中の停電対応に追われたわけですが、それだけでしたもんね」
 マリア:「何回、再起動掛けに行ったことやら……」

 マリアはチラッとイリーナを見た。

 イリーナ:「さすがに魔法具はそろそろ交換するべきだろうとは思ったわ」
 マリア:「今度は冬が来ますよ。大雪で停電したら、今度こそ凍死ですからね?」
 イリーナ:「うんうん。大雪が来る前に何とかする」

 イリーナは駅弁に箸をつけながら頷いた。

 イリーナ:「ダンテ先生におねだりすれば、すぐにでも……」
 マリア:「あれ、大師匠様からの頂き物だったんですか?」
 イリーナ:「私が1人で買えるわけないじゃない。あんな、大きな屋敷1つの電力を賄えるような魔法具」
 マリア:「はいはい」
 稲生:(もしかして、今回の『大師匠様を囲む会』というのは、先生方のおねだり会?)

 稲生は密かに政治家の後援会がよく行っている『○○先生を囲む会』的なものを想像していたのだが……。
 魔道師の繋がりはもっと単純で複雑なのかもしれないと稲生は思った。

[同日21:26.天候:晴 東京都千代田区丸の内 JR東京駅]

 駅弁を食べた後は静かなものだった。
 イリーナはいつものように爆睡モードに入ったし、マリアは魔道書を取り出して読書を始めたし、稲生はマリアの人形達に車内販売のおねだりをされたりと、楽しい新幹線旅を満喫したようだ。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく終点、東京です。東海道新幹線、東海道本線、中央線、山手線、京浜東北線、総武快速線、横須賀線、京葉線と地下鉄丸ノ内線はお乗り換えです。お降りの際はお忘れ物の無いよう、お支度ください。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕

 それから英語放送が流れる頃、魔道士達が動き出した。

 マリア:「ほら、あんた達、バッグの中に戻って」
 ミク人形:「はぁい」
 ハク人形:「はぁい」
 マリア:「師匠、起きてください。もうすぐ着きますよ」
 イリーナ:「うーん……。あと5分……」
 マリア:「降りられなくなっても知りませんよ」

〔「長らくのご乗車お疲れさまでした。まもなく終点、東京、東京です。お出口は、右側です。……」〕

 イリーナ:「しょうがない。起きよう」
 マリア:「当たり前です」
 稲生:「よいしょ」

 稲生は荷棚から自分の荷物を取った。
 あとついでにマリアのバッグも。

 マリア:「ありがとう」
 稲生:「いえいえ」

 マリアも稲生には笑顔を見せてくれるようになった。
 イリーナが誇らしく思う点の1つである。

〔「ご乗車ありがとうございました。東京、東京、終点です。車内にお忘れ物の無いよう、ご注意ください。……」〕

 ホームに入線し、ドアが開くと乗客達がぞろぞろと降り出した。
 もちろん、稲生達もあとに続く。

 稲生:「あと、ホテルまでタクシーで行こうと思いますので……」
 イリーナ:「いいよ。カードの使える車に当たるといいね」
 稲生:「都内のタクシーなら、今はほぼ使えるとは思いますが……」
 マリア:「今回の『大師匠様を囲む会』で、新幹線に乗る機会はある?」
 稲生:「いえ、あいにくと無いです。ルーシーには残念ですが……」
 マリア:「ま、自力で乗ってもらうしかないか」
 イリーナ:「永住者の特権ね」
 稲生:「それでも、面白い電車には乗る機会がありますよ」
 イリーナ:「それは楽しみね」

 3人は新幹線改札口を出ると八重洲口のタクシー乗り場に行き、そこからタクシーに乗った。
 幸いというかやっぱりというべきか、乗ったタクシーはちゃんとキャッシュレスに対応した車であった。

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