報恩坊の怪しい偽作家!

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“大魔道師の弟子” 「意外な訪問者」

2017-10-28 20:00:43 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[10月21日18:00.天候:曇 長野県北部山中 マリアの屋敷1F西側 大食堂]

 稲生:「へえ……。アナスタシア組の皆さんが来ていたんですか」
 マリア:「そう。東アジア魔道団の動向について、師匠に情報提供しに来たみたい」
 稲生:「“魔の者”は最近気配を見せなくなって良かったと思っていたんですが、今度は同じ魔道師が敵対してくるなんてねぇ……」
 マリア:「実際にこの屋敷を壊されたんだ。あれが実質的な宣戦布告みたいなものさ」
 稲生:「うーむ……」
 イリーナ:「ごめんごめーん!遅くなったわ。さ、早いとこディナーにしましょ」

 マリアの屋敷と銘打ってはいるが、実際のオーナーはイリーナであり、マリアは住み込みの管理人といったのが実情だ。
 イリーナが席に着くと、料理を乗せたワゴンをミカエラとクラリスが持って来た。
 フランス人形形態の時はコミカルな動きを見せてくれるマリアの人形達だが、人間形態の時はこの屋敷のメイドとしてよく働く。
 但し、侵入者に対しては魔女の使役する人形として、サバイバルホラーのザコ敵並みの攻撃を仕掛けて来る。
 あまり酒を飲まない稲生は葡萄ジュースだが、イリーナとマリアはワインである。
 マリアはワインしか飲まないが、イリーナはロシア人らしく、ウォッカを飲むこともある。
 イギリスもビールが有名な国ではあるが、マリアは何故か弱い。
 これは多分、マリアは生粋のイギリス人ではないからだろう。
 元はハンガリー生まれの移民である。
 本人曰く、日本のビールが合わないだけらしいが……。

 イリーナ:「ユウタ君、チケットは取って来たの?」
 稲生:「はい。ホテルも都内に一泊取りました」
 イリーナ:「東京に一泊?」
 稲生:「はい。といっても、ワンスターホテルではありませんので」
 イリーナ:「別に、ワンスターホテルでもいいのよ」
 稲生:「それが、満室だったんです。エレーナに聞いたら、やっぱり3連休に掛かっているので混みやすいのと、あと団体の予約が入っちゃったとのことで」
 イリーナ:「団体の予約?」
 マリア:「嫌な予感がするけど、聞いてみよう」
 稲生:「はい、アナスタシア組です」
 イリーナ:「ハハ……(苦笑)」
 マリア:「日本を超エンジョイしてるじゃないか」
 稲生:「その為に少し高いホテルになっちゃいましたけど、その分、設備とかは充実してるはずなんで」
 イリーナ:「ああ。いいよいいよ。でも、どうしてわざわざ東京のホテルに一泊するんだい?」
 稲生:「御登山の参加費用を正証寺に納めなくてはならないので。それに、正式に離檀願が受理されていないということは、やっぱり参詣する必要があるだろうと思いまして」
 イリーナ:「いい心掛けだね」
 稲生:「……本当にいいんですか?魔道師の修行と仏法を併用しちゃって……」
 イリーナ:「日蓮正宗さんの内規に違反してなければいいよ。そちらの宗派に、『魔道師の修行と並行するべからず』ってあるの?」
 稲生:「無いと思います。ただ、占いとかは宗門の書籍で否定してるんですよね。“となりの沖田くん”とか……
 イリーナ:「日蓮さんも、蒙古襲来を自分で占って、『今年を過ぎることはないでしょう』とか時の権力者に言ってなかった?」
 稲生:「あれ、占ってたのかなぁ……?」
 イリーナ:「あ、因みにフビライ皇帝を唆したヤツが東アジア魔道団にいる可能性が出て来たから気をつけてね」
 稲生:「いきなり真相暴露!?」
 イリーナ:「まあ、確かに占い師にもインチキなヤツらは多いから、それに惑わされるなって意味だとは思うけど」
 稲生:「あ、きっとそうですよ」
 イリーナ:「そりゃ確かに、自分で信じる神様仏様がいるんだったら、そっちの教えを優先するべきよ」
 稲生:「……ですね」
 マリア:「因みにうちの門規では、キリスト教の信仰だけ禁止されてる。仏教は禁止されてないから、ユウタの信仰は問題無いはずだ」
 イリーナ:「ダンテ先生もユウタ君のことは知ってるわけだから、そこで注意しないということは、そういうことになるわね」
 稲生:「なるほど」
 イリーナ:「東京で一泊した後、富士山の麓に向かうのね?」
 稲生:「その予定です。高速バスだと作者みたいに往復ヒュンダイ・ユニバースに当たるというとんでもないことになる上、着山時間に間に合わなくなる恐れがありますので、新幹線にしました」
 イリーナ:「うん、分かった分かった。ついでだから、向こうの温泉にゆっくり浸かりたいんだけどぉ……?」
 稲生:「ええ、一泊して帰りましょうね」
 イリーナ:「良かったね、マリア!」
 マリア:「はい!」
 稲生:(温泉旅行がしたかったのかな?この女性達は……)

 稲生はパクッとステーキ肉を頬張った。

[同日22:00.天候:曇 マリアの屋敷2F西側 主人の部屋]

 イリーナは机の上に自分の水晶球を置いている。
 その大きさは据置タイプの大きなもので、バレーボールくらいの大きさがある。

 イリーナ:「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ。近日中に何か変わったことがある場合、この水晶球に映したまえ」

 イリーナが水晶球で未来を占っていた。
 これはいつものことである。
 マリアもタロットを使った占いの練習をしていた。

 イリーナ:「ありゃ?」
 マリア:「どうしました?」
 イリーナ:「噂をすれば何とやら……かねぇ」
 マリア:「何がです?まさか、東アジア魔道団の襲撃が?」
 イリーナ:「いや、そうじゃないんだよ。アタシ達的には、大勢に影響は無いの。ただ、ユウタ君が大変なことになりそうな……」
 マリア:「それのどこが大勢に影響が無いんですか!ユウタに何が起こるんです?私のタロットでは、別にユウタに何かあるような結果は出ていませんよ?」
 イリーナ:「うん。ユウタ君自身はね。ま、ユウタ君に当日の行動についてちゃんと指示してあげましょう」
 マリア:「???」

[10月27日17:00.天候:晴 マリアの屋敷に通じる隠れ道と公道の交差点]

 稲生:「うー……!日が暮れて来ると寒いぃぃ……!何で先生は、こんな所に立っていろって言うんだろう???僕の大事な人がここを通り掛かるから、ここで目印になってくれって言うんだけど……」

 滅多に車も通らない峠道。
 路線バスですら平日は1日に3本、土曜日は2本、休日は1本しか無いという有り様だ。
 この交差点のすぐ近くにはバス停があり、はっきり言って稲生くらいしか乗り降りしない他に誰得的なバス停だ。
 仙人峠なんて名前があるのだが、魔道師も仙人みたいなものだとすると、あながち嘘では無かったりする。

 稲生:「ん?車だ……」

 夕闇迫る峠道。
 オレンジ色のセンターラインが引かれている、辛うじて2車線ある県道。
 そこを1台の乗用車が走って来た。
 あまり前に出ると車に轢かれる恐れがあるが、かといって隠れては意味が無いだろう。
 稲生はバス停の前に立ち、いかにもバスを待っている者という体で車から見えるようにした。
 もっとも、もう既にバスの運行は終了しているのだが。
 車は急停止するようにして、バス停から10メートルほど行き過ぎて止まった。
 その車は見覚えのあるベンツEクラスだった。
 型落ちの古いタイプ。
 しかし、角ばったボディが現行モデルより威圧感を出している。
 左ハンドルの運転席から顔を出したのは……。

 藤谷:「稲生君!どうしてここに!?」
 稲生:「藤谷班長!?……こそ、どうしてここに?……あ、いや、僕はイリーナ先生に言われてここに来たんですけど……」

 イリーナの占いによれば、藤谷はこの先で東アジア魔道団の待ち伏せに遭い、崖から車ごと落とされて御陀仏になるという予知だったらしい。

 稲生:「マリアさんの屋敷に案内します。急いでください。こっちです!」
 藤谷:「あ、ああ!」

 稲生は助手席(左ハンドルなので、進行方向右側)に乗り込むと、すぐに藤谷のナビを行った。
 この為、藤谷は事無きを得たのである。
 これも仏法の功徳、御加護であろうか。

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