報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Cindy” 「アーカンソーへ到着、そして……」

2016-05-21 20:49:01 | アンドロイドマスターシリーズ
[5月15日17:30.天候:曇 アメリカ合衆国アーカンソー州リトルロック・ノースリトルロックバスターミナル]

 マクドナルドで昼食を取った後も、何度か休憩を繰り返し、ようやくバスはアーカンソー州に入った。
 グレイハウンドのバスターミナルは基本、市街地にあることが多いが、リトルロックに関しては例外で、アーカンソー川の南岸に市街地があるのに対し、バスターミナルは北岸の郊外(ノース・リトルロック)にある。
 尚、確かにリトルロック市そのものの人口は20万人にも見たないが、州都ということもあり、その都市圏全域を含めれば60万人くらいの人口があるという。
 バスがバスターミナルに到着した時、運転手が何やら喜んでいた。

〔「今日は奇跡的に『Just on time.』ですよ!神に感謝しましょう!」〕

 敷島は時計を見た。
 確かに時刻表通りだが、そんなに喜ぶべきものなのか。
「そうね。むしろ、何か不吉な予感がするくらいだわ。祈っておきましょうね」
 アリスはバッグの中から十字架を出した。
 熱心な信者ではないのだが、一応アリスはクリスチャンである。
「そんな大げさな……」
 敷島は肩を竦めた。
 バスから降りると、テキサス州よりは涼しいように思えた。
「お世話様〜……あ、いや、Thank you.」
 敷島は運転手に日本語で言ったが、すぐに英語で言い直した。
「Have a nice trip!」
「『良い旅を』ですって」
 アリスが運転手の挨拶を日本語に訳した。
 バスの荷物室から係員が荷物を降ろしており、シンディとエミリーが受け取った。
「鳥柴さん、これからどうするんですか?」
「会社から迎えが来ることになっていまして、それで向かいます」
「えっ?一泊してから行かないの?」
 と、敷島。
「本社からの通達で、今日中に決着を付けて欲しいとのことです」
「決着を付けるも何も、そもそもアルバートのラボで何が起きているのかも分からないのにねぇ……」
「とにかく、迎えが来るまで、ここのバスターミナルで待っているようにとのことです」
「何か、腹ごしらえしたくなってきたなぁ。トイレ休憩挟んで、何か食べて来ていいですか?」
 敷島は自分の腹を触りながら言った。
「ゆっくり食べてるヒマは無いと思うので、テイクアウトにしてください」
「えー?じゃまたマックー?」
「いや、敷島さん。確かこのバスターミナルの外に、ピザ屋があったはずです」
 と、平賀。
「さっき、バスの窓から見ました」
「ありましたっけ?」
「ドミノピザっぽいです」
「へえ!ドミノピザって、アメリカにもあるんだー!?」
「いや、あの……ドミノピザってアメリカが創業地ですよ?」
 敷島の天然反応に平賀が呆れた。

 護衛の為に今度はシンディが同行する。
「何か、ピザよりもホットドッグのセットの方が早くできそうだ」
 シンディが代わりに英語で店員に注文した。
「お前はいいよなぁ……。充電すればいいんだから」
「おかげさまで」
 シンディとエミリーはバスの充電コンセントで、しっかり充電していた。
 尚、当然日本とは電圧が違うが、そこはちゃんと変圧器を使っている。

 敷島は自分だけでなく、アリスの分もちゃんっと買って行った。
 平賀と鳥柴はターミナル内のカフェテリアを利用していたみたいだが、あまり美味くなかったもよう。
 そうしているうちに、ターミナルの外にバスが止まった。
「ああ、あれですね」
 と、鳥柴。
 大きさは、まるでさっき乗って来たグレイハウンドバスを彷彿とさせる。
 だが、近づいて見ると、本当にバスなのかどうか怪しかった。
 側面にはデカデカと、『Daylight Corporation International』と書かれており、まるでデイライト社の送迎バスのようにも見える。
 だが、バスにしては側面に窓がほとんど無かった。
「はーい、お待たせー」
 バスの乗降扉を開けて降りてきたのは、キースとクエントだった。
「キース!クエント!」
「キミ達はバスまで運転できるのか?」
 平賀が驚いた様子で聞くと。
「ゴメーン!僕はキャデラックしか乗れないんだ。ベンツなら、キースだよ」
 よく見ると確かにこのバス、ベンツのログマークが入っていた。
「アメリカ企業なのに、ベンツを使うとは……」
 敷島が呆れた様子だった。
「まあ、いいから乗った乗った」
「うおっ!」
 キースに促され、乗り込んでみると、車内はただのバスではないことに改めて気づいた。
 普通に座席があるのは、前から2列目まで。
 そこから後ろは、モニターや端末などが並んでいる。
「何ですか、これは!?」
 敷島が目を丸くすると、クエントが眼鏡を掛け直し、胸を張って答えた。
「これが『走る司令室』だよ。エミリーとシンディのカメラをこのモニタで見ることができる」
「へえ!」
 試しにシンディと接続してみると、確かにシンディの視点がモニタに映った。
「おー、こりゃいい」
「というわけで、現地に出発するよ!」
「ここからアルバートの研究所までは、ものの1時間といったところだろう。運転は俺に任せてくれ」
「頼んだよ、キース」
 ところが敷島達が座席に座った時、事件は起きた。
「はーい、こちらクエントー」
 バスが走り出し、クエントはキースの横に立っていた。
 クエントのケータイに電話が掛かる。
「……は!?」
 クエントは最初、何が起きたか分からない様子だった。
 そして、敷島の手持ちのタブレットからもアラームが鳴る。
「リンとレンに異変が!?」
「社長!リンとレンからSOS信号を受信!」
「ダラス支社が・何者かに・襲われた・もようです!」
 シンディとエミリーがほぼ同時に報告した。
「一体、誰が!?」
「バージョンAだって!?」
 キースが混乱した様子でそう聞き返した。
「バージョンA!?」
「バージョン4.0とか5.0とかの親戚ですかね?」
「急いで、ダラスに引き返そう!」
 鳥柴も電話を受けていたが、切った後で言った。
「いえ、本社からの通達です。私達はアルバート所長の研究所に向かうようにと」
「バカなっ!リンとレンはうちの商品ですよ!?それが異常があったというのに!」
 すると、バスの後ろ半分改造された『走る司令室』のモニタの電源が勝手に点いた。
 モニタは3つあるのだが、そのうちの真ん中のモニタだ。
 そこに映っていたのは、バージョン5.0に似た個体。
 それまでの4.0が体型ずんぐりむっくりで、素早い動きができなかったのだが、5.0は体型がスマートになり、その分動きも素早くなっている。
 恐らく5.0のアメリカ版だろう。
 アリスはデイライト・ジャパンに入社した際、5.0の設計図を会社に渡していた。
 それに連れ去られるリンとレンの姿があった。
 驚くことに、アメリカ製のバージョン・シリーズ最新型は空が飛べるらしい。
 それと随行する者がいた。
「あっ、あいつは……ジャニス!」
 アルバートが製造・開発した双子マルチタイプの姉の方、ジャニスだった。
 ジャニスは不敵な笑みを浮かべながら、

〔「デイライトの人間どもに告ぐ!このボーカロイド達を助けたかったら、マスターのお城まで来ることね!」〕

 と、言い放った。
「リンに似た顔してる癖に、何か凶悪そうだぞ!?」
「エミリー、命令1つ追加だ。リンとレンを何としてでも救出しろ」
 平賀がエミリーに命令した。
「イエス。プロフェッサー平賀」
「シンディ、お前もだぞ」
「了解、社長」
 折しも天候は悪くなり、雨が降り出してきた。
 バスは規則正しくワイパーを動かしながら、アルバートの研究所へと向かった。

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5 コメント

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つぶやき (雲羽百三)
2016-05-22 20:37:31
日勤の不規則勤務をしていると、尚さら曜日の感覚が無くなってしまう。
今日なんか平日みたいだ。
しかし、ガラ空きの電車を見て、今日が日曜日の夜だと気づかせてくれるのである。
返信する
夏期講習会 (いおなずん)
2016-05-22 20:56:06
昨日・今日と法華講の夏期講習会でした。
Y田さんと二人で、第一期に参加しました。
感想は・・・と聞かれても特にないのですが、こういうことはどんどんやるべきだと私は思っている。

ただし、御法主上人の講話は全然頭に入らない。

新入信者には訳が分からない。

(あくまで、素直な意見です。)
返信する
いおなずんさんへ (雲羽百三)
2016-05-22 22:59:46
 こんばんは。

 夏期講習会、お疲れさまでした。
 お話はY田さんから伺っております。

>こういうことはどんどんやるべきだと私は思っている。

 同感です。
 ですので、私も参加できるよう、平日の部を設けて頂きたいと存じます。

>ただし、御法主上人の講話は全然頭に入らない。

新入信者には訳が分からない。

 まあ、そうでしょう。
 この講話は後日、大日蓮にも掲載されますが、読んでみても、なかなか頭に入るものではありません。
 それだけ夏期講習会は上級者向けの行事だということですね。
 無論、猊下様のお話を全て理解できなくても、耳から脳に入れるだけで功徳があると言います。
 新入信者にあっては、一先ずそれで良いのではないでしょうか。
返信する
夏期一期行った人の話 (にしき)
2016-05-26 06:01:16
お早うです。

やきそばバスで行った人の着山は12時だったそうですよ、何とか昼食、御開扉に間に合ったそうですが。

でもやきそばバスも使いようです。仕事してない年金者は当日焦って着山しなくても「前泊OK制度」があるから前日着山すればいいからです 。
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にしきさんへ (雲羽百三)
2016-05-26 08:04:20
 おはようございます。

 やはり週末は混みますからね、なかなかダイヤ通りの運行は厳しいと思いますよ。
 にしきさんの仰る通り、前泊でもいいですし、布教講演バックレ覚悟の添書登山でも使えます。
 私は来月、添書登山を申し込みまして、また件のバスで向かう予定です。
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