ノベラーエクスプレス関東

 自作の小説がメインのブログです。
 主にSF、ファンタジー、ミステリーの脳内妄想を文章化したものです。

“大魔道師の弟子” 「ダンテの付き人はイリーナに決定」

2017-03-27 22:11:12 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[3月3日11:30.天候:晴 長野県大町市 某旅行会社支店]

 旅行会社社員:「……と、JRのチケットですね」
 稲生:「はい。何とか、お願いします」
 社員:「少々お待ちください」

 稲生は白馬村を出て、県内最寄りの市域である大町市に来ていた。
 社員が稲生の依頼を受けて、何やら旅行商品を検索している。
 その間、稲生は手持ちの鞄の中から、1枚の紙を取り出した。
 それは原本ではなく、コピーであったが、そこにはこう書かれていた。

『イリーナ・レヴィア・ブリジッドへ。

 此度、東アジア魔道団日本拠点リーダーとの会談があることは既知の通り。今回その随行員として任命する。尚、その直弟子2名についても随行を認める故、準備を怠ることのないように。
 尚、羽田空港から現地へのアクセスについては全て任せる』

 と。
 こう書かれていることから、ついダンテは国内線で来るのかと思うだろうが、そうではない。
 イリーナに言わせると、どうもイギリスから国際線で来るらしいのだ。
 羽田空港は国際路線の数が増えたので、それで来るとのこと。
 ダンテともあろう者なら、外国からでも魔法で瞬間移動できそうなものだが、いつもいつもそうするわけではないらしい。

 社員:「お待たせ致しました。御希望のホテルと列車などがお取りできましたので、ご確認の方お願い致します」
 稲生:「取れましたか!ありがとうございます」
 社員:「それではまず、最初の列車が……」

[同日15:08.天候:晴 信濃大町駅→大糸線普通列車内]

 稲生:「もしもし。あ、マリアさんですか?……ええ、僕です。何とか、予定通りの列車とホテルが取れました。……はい、支払いは全て先生からお借りしたカードを使わせて頂きました。……そうですね。今から電車に乗って帰ります。夕食までには戻りますから。……いや、大丈夫ですよ」

 稲生はスマホ片手にチラッと、電車の中を見た。
 ボックスシートには、既に稲生専属の随行員としてダニエラが着席していた。

 稲生:「ダニエラさんという、最強のメイドさんがいますので。……ええ、それじゃ失礼します」

 稲生は電話を切って、電車の中に戻った。
 乗降ドアは半自動扱いなので、ドアボタンを押して自分でドアを開けることになる。
 もちろん、乗ったら閉めるのがマナー。

〔「お待たせ致しました。15時8分発、普通列車、白馬方面、南小谷行き、まもなく発車致します」〕

 2両編成のワンマン列車なので、肉声放送は運転士が行う。
 あとは自動放送が流れるだけだ。

〔「4番線から、普通列車の南小谷行きが発車致します」〕

 車掌の代わりに運転士が顔を出して、ホームの安全確認を行う。
 各駅いつもそうするわけではなく、始発駅などで行うだけで、あとはホームに設置されているミラーや目視による確認だけだ。
 地方の駅ではあまり駆け込み乗車してくる乗客もおらず、列車は静かに発車した。

〔今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この列車は大糸線下り、白馬方面、各駅停車の南小谷行きワンマンカーです。これから先、北大町、信濃木崎、稲尾、海ノ口の順に、終点南小谷まで各駅に停車致します。【中略】次は、北大町です〕

 車窓には雪景色が広がっているが、車内は暖房が効いて温かい。

 稲生:「幸いにして予定通りの列車とホテルが取れたわけだけども、もしかして、これも魔法か何かなのかな?」

 稲生がボックスシートに向かい合って座るダニエラに聞いたが、寡黙なメイドは無言で大きく頷くだけだった。
 必要があれば喋るのだが、それ以外は無言そして無表情である。
 このダニエラ、もしマリアの屋敷に侵入者があった場合、他のメイド人形達のようなザコキャラではなく、ちゃんと中ボスを張れるものと思われる。
 稲生よりも強いはずだ。
 だが、ダニエラはどういうわけだか、恐らくは自分より弱いはずの稲生の命令はしっかり聞く。
 無表情でいることが多いが、たまに微笑を浮かべる時があるし、侵入者を追跡する際には銃火器片手に狂気の笑いを放ちながら追い回していた。
 笑ってはいないものの、銃火器片手に敵を追い回す様は、某ロアナプラの某メイドさんそのものである。
 これなら安心して留守を任せられるというもの。

[同日16:30.天候:晴 長野県白馬村郊外山中 マリアの屋敷]

 電車は時刻表通りに白馬駅に着いた。
 そこで電車を降り、駅前広場に行くと迎えの車が来ている。
 ロンドンタクシーのような車で、マリアが送って寄越した迎えだというのが分かる。
 今のマリアの魔力ではロンドンタクシーがせいぜいだが、イリーナくらいの力を付ければ、ベントレーにすることが可能となるだろう。
 そんな車に乗り込み、ようやく屋敷へ帰り着く。

 稲生:「ただいま、帰りました」
 マリア:「おっ、お帰り。首尾は完璧だったようだね」
 稲生:「ええ、おかげさまで」
 マリア:「夕食までまだ時間があるから、部屋で休んでるといい」
 稲生:「ありがとうございます。実はさっき、車の中で、誰かが待ち伏せしているような予想をしていたんですよ」
 マリア:「ほお……?」
 稲生:「大師匠様の随行員役に、イリーナ先生が選ばれたことを不満に思った他の魔女さんが文句を言いにやってきたという予想で……」
 マリア:「その予想、半分当たったよ」
 稲生:「半分だけ……ですか?それはどういう……?」
 マリア:「こういう意味だ」

 マリアはエントランスホールの隅にある納戸を開けた。

 エレーナ:「んー!んー!」

 グルグル巻きに縛られて、猿ぐつわをされているエレーナの姿があった。

 稲生:「ありゃ!?エレーナが!?」
 マリア:「そうだ。『落ちこぼれ組が大師匠様の付き人を務めるなんて納得いかない!』なんて言って来たので、このようにした」
 稲生:「で、この後どうするんです?」
 マリア:「ケンショーレンジャーの1人、ケンショーブルーへのギフトにしようか?」
 稲生:「処女喪失させる気ですか!?それはヒドい!せめて、横田理事に任せるべきです!横田理事ならスカートめくりだけで満足するオッサンですから!」
 マリア:「いや、下着強奪くらいはするだろう。どうだ、エレーナ?これ以上フザけたこと抜かすなら、本当にケンショーレンジャーへの生け贄にしてもいいんだぞ?あ?」
 エレーナ:「んー!んー!(だったら猿ぐつわ外せっての!喋れねぇっての!)」
 稲生:「全裸でホウキ飛行の刑っての、横田理事が考えたらしいですよ?」
 マリア:「ゲスだな。他門の傀儡師の話だが、生意気な女戦士にノーパン浣腸の刑で公開脱糞の憂き目に遭わせたというのがある」
 稲生:「それもそれでヒドいですし、マリアさんは傀儡師じゃないし、エレーナは女戦士じゃないからダメですよ」
 エレーナ:(こいつら、こんな奴らだったっけ……!?)

 真顔で様々な拷問内容を相談する大魔道師の弟子達に、顔面蒼白のエレーナだった。
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“大魔道師の弟子” 「ダンテの付き人」

2017-03-26 22:44:32 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[3月2日13:00.天候:雪 長野県白馬村郊外山中 マリアの屋敷西側1F大食堂]

 稲生:「どれ……、そろそろ昼休みも終わりだ」

 稲生はマグカップに残っていたコーヒーを一気に飲み干した。
 それをテーブルの上に置いて、屋敷東側にある自分の部屋に戻ろうとした。
 その時、西側の奥に通じるドアが開かれた。
 即ち、そこは上座に1番近いドアである。
 屋敷の主人の部屋や、スイートルームに向かう通路のドアだ。
 そこから、イリーナが具合悪そうにやってきた。

 稲生:「あっ、先生!大丈夫ですか?」
 イリーナ:「うぃー……やっと起きれたよぉ〜……」

 そう言って、上座のすぐ隣の椅子に座る。
 屋敷の実質的なオーナーであるイリーナでさえ、上座には座らない。
 すぐにメイド人形のミカエラが、人間形態でイリーナに紅茶を持ってきた。
 人形形態だとデフォルメキャラとしてコミカルな動きをするミカエラだが、人間形態ともなれば、優秀なメイド人形の1つとなる。

 イリーナ:「ん……スッパ・スィーバ……」
 稲生:「先生、自動翻訳切れてロシア語のまんまになってます。日本語で『ありがとう』という意味くらいは分かってますけど」

 その時、マリアがエントランスホールからやってきた。

 マリア:「ユウタ、そろそろ部屋に戻……あっ、師匠!何やってるんですか!?もうお昼過ぎですよ!?」
 イリーナ:「マリア……ごめん……あんまり大きな声出さないで……。頭が……」
 マリア:「昨日、あんなにウォッカをガブガブ飲むから……!どこかで吐いてたりしてないでしょうね?」
 イリーナ:「ん……それは大丈夫。ちゃんとトイレで吐いたから」
 稲生:(吐いてはいたのか……)
 イリーナ:「ナスターシャとマルファは?」
 稲生:「午前中に帰られましたよ。まあ、あの先生方も相当グロッキーでしたが」
 イリーナ:「だろうねぇ……」

 イリーナは紅茶にミルクを入れて、ミルクティーにした。
 元々酔い覚ましに効くハーブを煎じた紅茶である為、それを飲んで少しは落ち着いたらしい。

 イリーナ:「悪いけど、こんな状態なんで、今日は自習でよろしく」
 マリア:「もう既に想定していますので、ユウタには私から課題を出してあります」
 イリーナ:「おっ、さすがマリア。ロー・マスター(1人前に成り立て)から、ミドル・マスター(中堅)に昇格する日も近いかねぇ……」
 マリア:「まだ、当分先の話だと思いますが」
 イリーナ:「いやいや……」
 稲生:「ところで先生、昨日はどんな話だったんですか?」
 イリーナ:「ん、それなんだけどね、ダンテ先生が来日されるのよ」
 稲生:「はい、それは聞いています」
 イリーナ:「あなた達が奇しくも泊まってしまった、東アジア魔道団の日本拠点に挨拶に伺うんですって」
 稲生:「あのペンションですか!」
 イリーナ:「ユウタ君、あんまり大声……」
 稲生:「あっ、すいません!……でもあのペンション、かなり山奥にあって、行くのはなかなか大変ですよ」
 イリーナ:「ま、この家もそうなんだけどね。ダンテ先生の魔力なら、簡単に行き来できるでしょう。……もしくは、ぺンション以外の場所で会談されるかもしれないしね」
 稲生:「なるほど……」
 イリーナ:「で、いかにダンテ一門の創始者とはいえ、先生お1人で敵か味方かも分からない集団の陣地に行くのは危険でしょう?」
 稲生:「確かに、そうですね」
 マリア:「どちらかというと、利害の対立で敵になりそうな感じですね」
 イリーナ:「私もそう思う。で、そう考えていたのはナスターシャもマルファも同じだったってわけ」
 稲生:「すると、イリーナ先生方で大師匠様の護衛をされるということですね」
 イリーナ:「そういうことになるね。ただ、ダンテ先生は団体旅行が嫌いな方なの。だから、直属の弟子を全員連れて行くわけにはいかないらしいわ」
 稲生:「そうなんですか。(大師匠様直属の弟子って、何人いるんだろう?)」
 マリア:「それで昨日、『誰が大師匠様の付き人になるか』で、ウォッカの瓶5本も空けるくらい騒いでいたというわけですか」
 イリーナ:「ま、そういうことね」
 稲生:「アナスタシア先生が、真っ先に立候補しそうですね」
 マリア:「確かにあの人は武闘派だから、魔道団が敵に回って来た途端、一気に死体の山が出来上がるでしょう」
 イリーナ:「それがねぇ、どうもナスターシャは断られたみたい」
 稲生:「あらまっ!」
 イリーナ:「ナスターシャは弟子が多いんだから、育成の方に力を入れろって言われたらしいよ」
 マリア:「物凄くごもっともなお言葉ですね」
 稲生:「ポーリン先生は、魔界の宮廷魔導師の仕事が忙しいから無理ですよねぇ……」
 イリーナ:「そうね」
 稲生:「マルファ先生はどうなんですか?」
 イリーナ:「ピリピリとした雰囲気の中、空気解読症のあいつが一緒だったら、絶対にブチ壊しになるわ」
 稲生:「ピリピリとした宮廷の空気を一新する役割として、中世には宮廷道化師という者がいたそうですが……」
 イリーナ:「あのねぇ、それはあくまでも宮廷内だけの話でしょう?対立するかもしれない相手との会談に連れて行くような者じゃないわ」
 稲生:「なるほど……」
 イリーナ:「ま、誰が付き人になるか知らないけど、いずれにせよ、会談の前後はこの家に立ち寄られると思うから、そこだけは想定しておいてね」
 稲生:「分かりました」
 マリア:「了解です」

[同日18:00.天候:晴 マリアの屋敷・エントランスホール]

 もうすっかり日が暮れてしまい、邸内ではまもなく夕食の時間になろうという頃、1人の来客があった。

 稲生:「あっ、エレーナ!」
 エレーナ:「こんばんはー。お届け物でーす」

 ダンテ一門の『魔女の宅急便』、ポーリン組のエレーナ。

 エレーナ:「といっても、今日はこれだけだけど」
 稲生:「封筒?メール便かい?」
 エレーナ:「どっちかって言うと、書留に近いね。だから、サインちょうだい」
 稲生:「了解」

 稲生はサラサラと受領印の部分にサインをした。
 ダンテ一門で漢字でサインするのは、当然ながら唯一の日本人である稲生しかいない。

 エレーナ:「じゃ、どーもー」
 稲生:「ああ、お疲れさん」

 エレーナはホウキに跨って、すっかり日の暮れた空へと舞い上がって行った。

 稲生:「イリーナ先生宛てだ。一体、誰からだろう?」

 稲生は封筒をひっくり返してみた。
 すると、そこには大師匠ダンテ・アリギエーリの名前が書かれていた。

 稲生:「大師匠様からだ……!」

 稲生は急いでそれをイリーナの所に持って行った。
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“大魔道師の弟子” 「おもしろ師匠組と苦労の弟子達」

2017-03-25 20:39:56 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[3月1日15:00.天候:晴 長野県白馬村郊外山中 マリアの屋敷2F西側応接室]

 イリーナ:「え?ダンテ先生が日本に?」
 アナスタシア:「そうよ。朝鮮半島の政治情勢についてはマスコミが誤魔化してくれてるけど、さすがにジョンナムが殺されたことについて、奴らが黙っていないと思うからね」
 マルファ:「東アジア魔道団かぁ!ほんと、“天秤”を揺らすのが好きな人達だよねぇ!」
 イリーナ:「要はコリア情勢の視察のついでに、日本に来るということかしら?」
 アナスタシア:「表向きはね」
 イリーナ:「表向き……?」
 アナスタシア:「東アジア魔道団の日本拠点が、ついに確認されたわ。イリーナ、あんたも知ってるでしょう?」
 イリーナ:「知ってるも何も、うちのコ達が知らずに泊まりに行ったからね。やっぱ、何かマズった話?」
 アナスタシア:「それについては、どうでもいいみたいね。先生のことだから、挨拶の1つでもしてくるんでしょう。色んな意味でね」
 マルファ:「イリーナぁ、そいつらから挨拶あった?」
 イリーナ:「無いわ。ほんと、何考えてるか分かんない連中ね」
 マルファ:「イリーナ、ブーメラン!」
 イリーナ:「ん?」
 マルファ:「向こうからしてみれば、私達の方だって敵か味方か分かんないと思うね!」
 イリーナ:「う、確かに……」
 アナスタシア:「とにかく、ダンテ先生お1人だけ向かわせるわけにはいかないわ。私達は直属の弟子として、先生をお守りしなければならない」
 イリーナ:「ナスターシャのことだから、『それは私の役目だから、イリーナとマルファは引っ込んでて!』って言いたいわけ?」
 マルファ:「ほらほらぁ、もう一杯飲んで!」

 マルファはアナスタシアにウォッカを注いだ。

 イリーナ:「ちょっ、マルファ!ナスターシャにそれ以上飲ませたら……」

 アナスタシアはクイッとウォッカのグラスを空けた。

 アナスタシア:「そうよ……!先生をお守りするのは、この私の役目……!なのに……なのに……!」
 マルファ:「んー?」

 アナスタシアは俯いた。
 マルファがその顔を覗き込むと、何と、アナスタシアはボロボロと涙を零していた。

 アナスタシア:「先生ったら、『アナスタシアは優秀な弟子であるけども、その弟子達の育成法には問題があるから、その改善にまず力を入れよ』だって!ひどーい!あたしだって……あたしだって……門内で1番多くの弟子を抱えているのに……!」
 マルファ:「えっ、なにこれ?超面白いんだけどー?」
 イリーナ:「あー、やっぱり……。ナスターシャに昼間、ウォッカ飲ませるとねぇ……泣き上戸の絡み酒になるんだよォ」
 マルファ:「うっははははははっ!なになに!?もう酔っぱらったの!?キレる瞬間、アンコール!」
 イリーナ:「面白がっていられるのも、今だけだよ。その状態、夜まで続くから、あとはよろしく」
 マルファ:「えっ、なにそれ!?超面倒!」
 イリーナ:「じゃ、アタシはそろそろ弟子達の指導に行かないといけないから」
 マルファ:「ちょっ、ちょっと待ってー!」

 イリーナが席を立とうとすると、マルファがそのローブを掴む。
 だが、そのマルファの腕をアナスタシアが掴む。

 アナスタシア:「ヒック……!おいコラ、テメーラ、どこへ行くんだ、ああっ!?オメーラも飲むんだよ、ああっ!?」
 マルファ:「イリーナ、助けて!私1人じゃ面倒見切れない!」
 イリーナ:「引っ張るなっての!飲ませたアンタがナスターシャのお尻吹いてあげなさい!」
 アナスタシア:「おい、イリーナ。まだ向こうの部屋に、ウォッカあんだろ?贈答品隠してんじゃねぇよ、コラ。早く持ってこいよ……ヒック!」
 イリーナ:「隠して無いし!ってか、何で酒の在り処知ってんだ、オマエは!?」

[同日同時刻 同屋敷3F西側]

 稲生:「やっと外れた、この仕掛け!」

 稲生は工具箱を手に、イリーナが仕掛けたギミックを解除していた。

 マリア:「ありがとう。いくら師匠とはいえ、勝手に屋敷のギミックを変えられたら困るんだ。危うく私が引っ掛かるところだ」
 稲生:「マリアさんが引っ掛かるくらいだから、僕なんか完全にトラップに嵌まるわけですね」
 マリア:「関係者の私達がトラップに引っ掛かってたら世話ない。いいから、師匠が仕掛けたトラップは全部外せ」
 稲生:「は、はい!これ、日暮れまでに終わります?」
 マリア:「終わらせるんだよ!ユウタ、Japanese Otokogi(男気)とやらを見せてくれ!」
 稲生:「わ、分かりました。(マリアさん、変な日本語覚えちゃったなぁ……)」

 階下からは師匠達の騒ぎが聞こえてくる。

 稲生:「先生達、大盛り上がりですね」
 マリア:「全く。昼間から酒盛りとは、いい身分だ。とにかく、師匠達が酔い潰れている間がチャンスだ。今のうちに、師匠が勝手に改造したギミックを元に戻すぞ」
 稲生:「はい!」

[同日20:00.天候:晴 同屋敷西側3F]

 稲生:「ふぅーっ!やっと終わったぁ!」
 マリア:「ご苦労さん。少し遅いけど、夕食にしよう。向こうの階段から2階に下りれば、エントランスを通ってダイニングに行ける」
 稲生:「はい」

 で、2階を通る際に応接室に寄ってみたのだが……。

 稲生:「イリーナ先生……あ、ダメだ、こりゃ」

 (BGM:パロディウス音頭)

 ドアを開けた瞬間、稲生は今日の指導はもう既に無いことを悟った。
 イリーナを含む師匠達はソファに座り込んだり、上半身を横たえたりしていて酔い潰れていた。
 床には、叩けば響くウォッカの空瓶が5本くらい転がっていた。

 稲生:「マリアさん、先生達、酔い潰れてしまってます」
 マリア:「そんなことだろうと思った。いいよ、ディナーは私達だけで食べよう」
 稲生:「はい」

 稲生とマリアは1F西側のダイニングに向かった。
 長方形の大型テーブル、上座の短辺部分は常に空席になっており、そこは大師匠ダンテの席だとされる。
 屋敷の実質的なオーナーであるイリーナですら、そこに座ろうとしない。
 当然、弟子の身分である稲生とマリアも、上座から離れた長辺部分に向かい合って座るのである。
 大食堂内にはエレクトーンが置かれていて、メイド人形で演奏のできる者がそこに座って演奏を行う。
 因みに今演奏されているのは、ハチャトゥリアン作曲『剣の舞』という、およそ夕食の時間に聴くようなものではないクラシック曲である。

 稲生:「結局、アナスタシア先生は何の御用だったんでしょう?」
 マリア:「ちらっと小耳に挟んだ程度だけど、どうやら近いうちにダンテ先生が来日されるらしいな」
 稲生:「へえ……。じゃあ、こちらの屋敷に寄られるんですね」
 マリア:「その可能性は高い。……クラリス、悪いけど選曲変えて。落ち着かない」

 メイド人形のクラリスは主人のクレームに頷くと、曲を替えた。
 またもや勇ましい曲になった。

 稲生:「『アルルの女』の第2楽章第4部……だったかな?」
 マリア:「全く……。ダンテ先生の付き人を誰がやるかで揉めてるらしい」
 稲生:「何だそりゃ……」
 マリア:「ダンテ先生の付き人だから、まあ、上で酔い潰れてる師匠クラスの誰かだろうね」
 稲生:「ポーリン先生は?」
 マリア:「ポーリン師は宮廷魔導師の仕事が忙しいだろうから、無理だろう」
 稲生:「あ、そうか」
 マリア:「結局のところ、大師匠様が御指名されるから、恨みっこ無しにしてもらいたいものだな」
 稲生:「全くですね」
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“大魔道師の弟子” 「魔女が根暗ばかりとは限らない」

2017-03-24 18:59:24 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[3月1日14:00.天候:晴 長野県白馬村郊外山中 マリアの屋敷]

 稲生:「本当に長野県は雪が多いねぇ……。除雪大変でしょ?」

 屋敷の屋根の雪下ろしや除雪は、マリアの人形達が行っている。
 ファミリア(使い魔)を持つのは魔道師のベタな法則ではあるが、自分が造ったものに魔法を掛けてそのまま使用するという類は案外……珍しいのかどうかは分からない。

 稲生:「この屋敷も広いからねぇ……。ダンジョンとしては面白いかもしれないけど、住む方としても結構大変……」

 尚、侵入者に対しては、ホラーアクションゲームを強制的にやらされるのが魔法使いの屋敷だ。
 ザコキャラとして、この屋敷の維持管理を行う人形達、最初の中ボスとして稲生、次にマリア、大ボスとしてイリーナが立ちはだかる……のだが、稲生は真っ先にやられ役で、マリアが完全に詰みキャラ役である。
 といっても、今年に入ってから侵入者など1人もいないのだが。
 来訪者ならある。
 あるのだが、もちろんこんな屋敷にホイホイ訪れるのは、同じ魔道師しかいなかった。

 稲生:「はい、どちら様ですかー?」

 正面玄関のドアを開けて、稲生は来訪者の対応をした。
 ドアの向こうにいたのは、黒スーツ姿にサングラスの男。

 男:「こんにちは。イリーナ先生はいらっしゃいますか?」
 稲生:「じょ、じょ……浄水器なら要りません!ダニエラさん呼びますよ!?」

 ダニエラとは稲生専属のメイド人形のことである。
 まるでロボットのように無口で表情も乏しいが、メイドとしての能力は高い。
 また、戦闘力も高く、マシンガンを片手で発砲できるほど。まるで、どこぞの猟犬と呼ばれたメイドさんのようである。

 アナスタシア:「あー、だから私が直接行こうって言ったのにねぇ……」
 男:「ですが、先生……」
 アナスタシア:「あー、いいからいいから」
 稲生:「アナスタシア先生でしたか……」
 アナスタシア:「私の弟子が驚かせて悪かったね。イリーナは起きてる?」
 稲生:「あ、はい。ご案内します。起きてる?
 アナスタシア:「相変わらず広い家だねぇ……。ここに3人しか住んでないなんて、もったいなさ過ぎるわ」
 稲生:「まあ、そうですね。アナスタシア先生は、どういう所にお住まいなんですか?」
 男:「それは内緒だ」
 アナスタシア:「いいんじゃない。日本においてはタワーマンションを買ってるよ」
 稲生:「凄いですねぇ……」
 男:「タワマンの最上階が、アナスタシア組日本拠点だ。ホウキで直接出入りできる便利な場所だ」
 稲生:「それはそれは……。(以前エレーナが、『タワマンの高層階は乱気流が強くて近づけない』とか言っていたような気がするけど……)」

 稲生はアナスタシア達を応接室に案内した。

 稲生:「こちらで少しお待ちください。すぐにお呼びします」
 アナスタシア:「起きてるといいわね」
 稲生:「ダニエラさん、お茶をお出ししてください」
 ダニエラ:「かしこまりました」

 稲生は室内のアンティークな固定電話の受話器を取った。

 稲生:「あ、先生。実は今、アナスタシア先生がお見えになってまして……はい。……あ、はい。よろしくお願いします」

 電話を切る。

 稲生:「すぐこちらに参りますので、少々お待ちください」
 アナスタシア:「いいよ。特に急いでないし……」
 稲生:「このすぐ近くの部屋にいらっしゃるとのことで、もうまもなく来ら……」
 イリーナ:「お待たせー」

 イリーナ、暖炉の向こうから現れる。

 アナスタシア:「あんたはサンタクロースか!」
 イリーナ:「たまたまこの屋根裏部屋で、魔道書の整理をしてたもんだから、ちょうど良かったさねー」
 稲生:「先生、いまダニエラさんがお茶の用意をしております」
 アナスタシア:「あ、そうそう。いくら打ち合わせと言っても、手土産無しじゃ、私も脱出ゲーやらされる恐れがあるので、これを持ってきたわ」
 イリーナ:「いいじゃないのよ。ちょうど今、新しいギミックを仕掛けていたところだったんだから、楽しんでいきなって」
 アナスタシア:「魔道書の整理やってたって言ってなかった?」
 稲生:(また新しい仕掛けが増えるのか……。3階に行く時、要注意だな……)
 アナスタシア:「せっかくの手土産なんだ。お茶じゃなくて、これで一杯やろうよ?」

 アナスタシアが持ってきた手土産は、ロシア製のウォッカだった。

 イリーナ:「やめときなさいって。あんた、昼間にウォッカを飲むと……」

 と、そこへまた呼び鈴が鳴った。

 稲生:「あれ?また来訪者ですね。アナスタシア先生以外に誰か?」
 イリーナ:「おかしいね。アタシはナスターシャ(※)しか呼んでないよ?」

 ※アナスタシアのロシア語における愛称。アーニャは間違い。

 稲生は急いでエントランスに行った。
 だが、応接室とエントランスは多少離れているのにも関わらず、その陽気な声が聞こえてきた時、2人の師匠は憂鬱な顔をしたのである。

 魔道師:「こんにちはー!きゃー!イリーナ、ナスターシャ、久しぶりー!」
 アナスタシア:「……後でポーリンに、頭痛薬くれるように注文しといてくれる?」
 イリーナ:「うんうん。2人分、注文しておくさね」
 稲生:「ちょっと困ります!勝手に入られちゃ!」
 イリーナ:「あー、ユウタ君、心配無いから。こいつも一応、師匠クラスだから」
 稲生:「ええっ!?」
 イリーナ:「マルファ組のマルファ・エリゴ・サハノビッチ。一応、アタシ達の同国人」
 マルファ:「マルファです!あなたが新しく入った日本人ね!よろしくー!」

 マルファは稲生の両手を取ってブンブンと振った。

 稲生:「ど、どうも。稲生勇太と申します。まだまだ新人の見習ですが、どうかよろしく……お願いします」
 マルファ:「あっ、ウォッカだー!いいねぇいいねぇ!私も御相伴に預かろー!」
 アナスタシア:「ちょっと自由人、勝手に触んないでくれる?」

 マルファは金髪のストレートボブである。
 何か、マリアを快活にしてもう少し大きくしたといった感じを受けた。
 イリーナやアナスタシアと比べれば背は低いものの、それでも稲生よりは高い。
 何か、ロシア人というより、ラテン系といった印象だ。

 イリーナ:「ま、いいさ。ロシアから飛んできたってことは、何か情報持ってきてくれたんでしょ?“魔の者”とか?」
 稲生:「えっ!?」
 マルファ:「ううん。ディズニーリゾートに来たついでー!」

 ズコーッ!

 アナスタシア:「帰れ、自由過ぎる人!会議の邪魔!」
 マルファ:「えー?いーじゃーん!」
 イリーナ:「あー……まあ、せっかく来たんだから、一緒に話でもしな。あー、ユウタ君、グラス3つ持ってきてくれる?」
 稲生:「あ、はい。ただいま」

 稲生は急いで隣の部屋に行くと、既に人形が用意していたグラスを持ってきた。
 ややもすれば陰険な性格の魔女が多い中、まるでラテン系のように陽気な、しかも師匠クラスのマルファが加わり、イリーナ達の打ち合わせが始まった。
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“Gynoid Multitype Cindy” 「歌に隠された意味」

2017-03-24 13:39:53 | アンドロイドマスターシリーズ
[2月14日17:00.天候:曇 東京都江東区豊洲 敷島エージェンシー]

 初音ミクが今一度、“オホーツク旅情歌”を歌う。
 この歌詞の中に、大きな秘密が隠されているということだが……。
 敷島達は会議室の中にいた。
 白いスクリーンに映し出されているのは、北海道の地図である。

 シンディ:「『宇登呂(ウトロ)の浜辺に旅人がきたよ』という意味ですが、これだけでは何の意味もありません」
 敷島:「どういうことだ?」
 シンディ:「2番の歌詞、『日暮れの沙留(さるる)に旅人がきたよ』という意味と対を成して初めて意味が通じるのです」
 敷島:「? まだよく分からん」
 シンディ:「こういうことです」

 シンディは北海道の地図を動かした。
 具体的には歌詞に登場した地名の部分、つまり道東部分を拡大した。
 沙留と呼ばれた地名のある場所を点で光らせ、更に宇登呂と呼ばれた部分も点で光らせる。
 そして、互いに沙留から東へ宇登呂から北へ線を走らす。
 すると、その交点部分には……。

 敷島:「海……みたいだな」
 シンディ:「はい。この交点の底には、『初音ミク』が沈められています」
 敷島:「……は?」
 シンディ:「分かりませんか?ボーカロイドを開発したのは、エミリーを製造した南里博士なんですよ?ボーカロイドも、本来は兵器なんです。私達と同じように」
 敷島:「エミリー、シンディの言ってることは本当か?」
 エミリー:「本当です。どうしてそのヒントを音楽家が知っていたのか、どうしてそれを歌詞にしたのか、どうしてそれを最高顧問は御存知だったのかは存じません」
 敷島:「あの海の底を……探せというのか?」

 するとエミリーは首を横に振った。

 エミリー:「探しても無駄です。何も見つかりません」
 敷島:「どうしてそう言い切れる?部品だけでも……」
 エミリー:「私が回収したからです」
 敷島:「……っ!ますますワケが分からんぞ!?どういうことなんだ!?」
 エミリー:「南里博士は……『聴けば人間の脳幹を停止させる』という恐ろしい兵器を開発してしまいました。それが初音ミクです。分かりませんか?ボーカロイドが、どうして人間のアイドルとはまた別に多くのファンを魅了するのか……。あの者達の歌唱機能には、脳幹を停止させるまでは無いにせよ、人間の心情に巧みに訴える効果があるからなんですよ。平賀博士が、『研究の余地はあるから、せめて危険ではない程度に改良し、稼働テストを行ってみては?』と進言したので、南里博士も乗ったんですよ。だけども、やはり危険であるという懸念は拭えなくて……。それで、私に破壊命令を出されたんです」
 敷島:「それがあのフィールドテストだったのか!?」
 エミリー:「社長が面白いまでに私の追跡をミクと一緒に交わしてくれたので、南里博士も面白がりましてね。それで急遽、初音ミクの稼働を許可したんですよ。私の製作者でもありますが、ほんと、変わった人でしたね」
 敷島:「俺だけが知らなかったとは……!」
 シンディ:「私はウィリアム博士から聞いてましたよ。今から思えば、確かに南里博士より狂っていたウィリアム博士の、初音ミク破壊命令も至極妥当だったんですね」
 敷島:「今のミクは危険じゃないだろう!?」
 エミリー&シンディ:「危険ですよ」
 エミリー:「ただ、社長のおかげで安全に稼働できているんです。だからあなたは、究極にして至高のアンドロイドマスターなんです」
 シンディ:「他の人間がミクのユーザーだったら、とっくに死人が出ていましたよ?」
 敷島:「……!……!!」
 シンディ:「前期型の私の動きを、たかが歌で止めるほどです。お気づきにならなかったのですか?」
 敷島:「俺は……!」
 エミリー:「シンディ、その言い方は失礼だぞ」
 シンディ:「ゴメンなさーい」
 敷島:「ミクには『鉄腕アトム』の歌は歌わせなければいいんだな?」
 エミリー:「今のところは……。ただ、他にも歌わせれば危険な歌があるかもしれません」
 敷島:「大丈夫だ。ミクは歌で人間の心を癒せる優秀なボーカロイドだ。絶対に稼働停止にはさせんぞ」
 シンディ:「社長がお使いになっている間は大丈夫だと思いますが……」
 敷島:「とにかく、話を戻そう。つまり、今の『オホーツク旅情歌』の歌詞は何の意味も持たないということだな?」
 エミリー:「そういうことになります。実際にあの交点から回収した私が断言します」
 敷島:「分かった。それじゃ……」

 と、その時だった。

〔ファンフォン♪ファンフォン♪ファンフォン♪ こちらは、防災センターです。ただいま、地下2階で火災警報が作動しました。係員が確認しておりますので、しばらくお待ちください〕

 敷島:「な、何だ?火事か!?」
 シンディ:「地下2階と言いますと、地下駐車場のあるフロアですね」
 エミリー:「あと地下商店街です」

 防災センターは地下1階にある。

 敷島:「何だか物騒だな。いつでも避難できるように準備しておくか」
 エミリー:「はい」

〔ビューッ♪ビューッ♪ビューッ♪ 火災発生、火災発生。こちらは、防災センターです。只今の警報は、地下2階で火災が発生したものです。1階から地下階の皆様は、お近くの階段から、落ち着いて避難してください。それ以外のフロアの皆様は、避難指示が出るまで、その場でしばらくお待ちください。尚、エレベーターは使用しないでください。避難に際して、介助を御希望の方は……〕

 敷島:「おいおいおい!何があったんだ!?」
 シンディ:「何がって、火事ですわね」

 敷島達は会議室を出た。

 井辺:「社長、どうやら地下駐車場に止めてあった車が炎上したらしいです」
 敷島:「うちで借りてるリース車じゃないだろうな!?」
 井辺:「いえ、業務用駐車場に止められていた工事業者の車だそうで……」
 敷島:「地下駐車場だから高層階のここまで火の手が来るとは思えないが、一応避難できる準備はしておこう。事務所にいるボーカロイドを非常階段の近くに誘導してくれ」
 井辺:「はい!」
 敷島:「ミクもだ!イザとなったら俺達と一緒に避難するぞ!」
 初音ミク:「はい」

 無人となった会議室。
 その時、どういうわけだかプロジェクターが勝手に動いた。
 線と点が移動したのだ。
 それまではオホーツク海を指していたのだが、その反対側に移動したのだ。
 具体的には沙留から東へ伸びていた線が南へ移動し、宇登呂から北へ伸びていた線が西へ移動した。
 そして、北海道内にそれら2つの線が交差する。
 そこにできた交点が点滅し、吹き出しが現れる。
 その吹き出しには、こう記されていた。

 『マルチタイプ0号機、隠避地点』と。

 だが、火災が車1台の全焼だけで済んだことで避難せずに済み、再び敷島達が会議室に戻ってきた時は、その表示は消えて無くなっていたのである。
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