報恩坊の怪しい偽作家!

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“私立探偵 愛原学” 「帰仙のバス旅」

2023-04-08 14:48:32 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[11月5日15時00分 天候:曇 岩手県西磐井郡平泉町 さいき食堂→中尊寺バス停→東日本急行バス車内]

 善場主任に連絡して報告したところ、その調査報告に対する労いがあったものの、海に行く必要は今は無いと言われた。
 確かに最寄りの海は、店主が言った通りのルートなのかもしれないが、上野医師と斉藤玲子が本当にそこに行ったのかは分からない。
 また、仮に行ったところで、今はもう痕跡すら残っていないだろうから、行っても無意味だと言われた。

 善場「東日本大震災さえ無ければ、何がしかの名残があったかもしれません。愛原所長が調査されたように、もしかしたら、2人を知る人がいたかもしれません。ですが、平泉町と違って、沿岸部はあまりにも震災の被害が大き過ぎました。大津波などで痕跡はもう無いでしょうし、2人を知る住民が過去にいたとしても、現在も健在かどうかは不明です。そこまで、民間の探偵業者には求めておりませんので」

 ということだった。

 善場「仙台でも、何らかの情報が得られる見込みがあるのですよね?でしたら、そちらをお願いします」
 愛原「分かりました」

 善場主任の言う通りだった。
 私がそういう電話のやり取りをしている間、リサは食堂のトイレを借りていたのだが、外観も内装も昭和ノスタルジー漂う店であるから、当然トイレも……。

 リサ「トイレが和式ーっ!!」

 と、叫んでいたような気がするが、気のせいだということにしておく。

 
(東日本急行バス停。画像はやや古く、今は別のポールが立っている。また、12時40分発は無い)

 さいき食堂から中尊寺バス停までは、路線バスではほんの一区間の距離である。
 しかし、田舎のバスの一区間は長く、実際に歩いてみると15分くらいは掛かった。
 帰りは高速バスに乗ることにした。
 これなら、乗り換え無し且つ低料金で仙台まで戻ることができる。
 まだ少し時間があったので、私達は平泉レストハウスのトイレや自販機、高橋なら喫煙所を利用した。

 愛原「ここのトイレは、洋式があったよ」
 リサ「くそ……」

 そうしてバス停でバスを待っていると、1台のバスが下り方向からやってきた。

 

 愛原「乗車券は持っていませんが……」
 運転手「現金で大丈夫です」

 とのこと。
 バスに乗り込み、1番後ろの席に並んで座った。
 因みに、車内にトイレは無い。
 さすがに高速道路を走行するからか、車種は観光バスタイプであったが。

 高橋「上野医師も、このバスに乗ったんスかね?」
 愛原「いや、乗っていないだろう。中尊寺は確かに50年前も観光地だったとは思うが、こんな便利な高速バスが当時から運行されていたとは思えない。せいぜい、俺達が来る時に乗った一般路線バスがセオリーといったところか」

 しかしながら、どうして上野医師はあの民宿に泊まったかだ。
 あのバスは、終点がイオン前沢である。
 今は奥州市になったのだったか。
 しかし、当時は前沢町という名前だった。
 上野医師が暴力団員に追われ、なるべく東京から離れようとしていたことは分かる。
 それなら、バスもなるべく終点まで乗ろうとするのが人情のはずだ。
 それとも、中尊寺の観光をするくらいには余裕があったのだろうか。
 その答えらしき物は、反対側のバス停にやってきた路線バスにあったような気がした。
 少し離れた反対側のバス停に、一般の路線バスが停車した。
 私達が乗って来た路線バスと同じバス会社であったが、行先表示が中尊寺止まりとなっていた。
 仮に50年前も今も同じ運行形態だったとするならば、中尊寺止まりのバスと、イオン前沢行きのバスが運転されていたのだろう。
 上野医師は中尊寺止まりのバスに乗った為、せっかくだからと観光したのかもしれない。
 そして、今宵の宿を探した時、あのさいき食堂(当時は『民宿さいき』という名前だったらしい)だったのだろう。
 誰かの紹介だった可能性は高い。
 あの民宿は中尊寺から徒歩15分ほど離れており、あまり観光客が宿泊するような感じではなかったからだ。
 少し寂れた感じの民宿の方が、ヤクザに見つかりにくいとでも思ったか。

〔「お待たせ致しました。15時10分発、仙台行き、発車致します」〕

 私が考え事をしていると、いつの間にか発車の時刻になり、バスは前扉を閉めて発車した。
 イオンだが、一関市内にも当然ある。
 そこのバス停までは一般道を経由し、乗車しか取り扱わない。
 そしてその近くにある一関インターから東北自動車道に乗り、仙台宮城インターで降りる。
 仙台市内では電力ビル前バス停に停車し、降車しか取り扱わない。
 そして、終点の仙台駅前に到着するルートである。
 バス車内は半分くらいの乗客が乗っていた。
 途中のバス停からの乗車客数を考えると、満席になるかもしれない。
 なので、空いている座席には荷物を置かないようにという放送があった。

 高橋「先生。このバス、仙台に着くのは夕方になりそうですよ?」
 愛原「そうか。一旦、帰ることになるかな」

 母親が斉藤玲子のことについて、クラスメートだった吹奏楽部の後輩に聞いてみるということだったが、あれはどうなったのだろうか?
 私は母親にLINEを送ってみた。
 一応、今は平泉にいること、これからバスで仙台に戻ること、仙台には夕方に到着することを話した。
 すると母親から返信があり、後輩から話が聞けたという。
 ただ、元々学校を休みがちだった斉藤玲子のことに関しては、『確かにそういうコがいたような気がする』程度の記憶しか無く、あれこれ言えるほどの情報は持ち合わせていないという。

 母親:母「せっかくだから、卒業アルバムを返しに行って」

 ということだった。
 まだ返してなかったのかと思ったが、要は私からも直接会って話を聞けということらしい。
 私が、仙台に戻ったらすぐに行くと返信すると、

 母親「明日にしたらどうだい?後輩も家族持ちだし、夕食の時間帯にお邪魔したら、迷惑になる」

 とのことだった。
 まあ、確かに言われてみればその通りである。
 取りあえず今日のところは、実家に戻るしか無さそうだ。

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