報恩坊の怪しい偽作家!

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“大魔道師の弟子” 「青い目の人形」 ワンスターホテル~都営地下鉄大江戸線

2021-07-01 15:52:10 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[6月23日08:00.天候:晴 東京都江東区森下 ワンスターホテル→レストラン“マジックスター”]

 稲生:「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経……」

 朝の勤行を終えた稲生は、部屋の電話の受話器を取った。

 稲生:「あ、もしもし、マリア。おはよう。今、出られる?……分かった。じゃ、今から行くよ」

 朝食を取りに、マリアを誘ったのだ。

 稲生:「どれ、行って来るか」

 稲生は鍵を手に、部屋を出た。

 マリア:「今日はどうするんだ?」

 エレベーターに乗ってから、マリアが聞いてきた。

 稲生:「取りあえず、かつての担任の先生に聞いてみる。さすがに平日の今日行っても、授業中だから断られるだろうし」
 マリア:「そうか。しかし、いざとなったら魔法で侵入もできるぞ?」
 稲生:「僕の母校でそれは勘弁してくれよ」
 マリア:「分かった分かった」

 エレベーターが1階に着いて、ドアが開く。

 エレーナ:「おっ、稲生氏、マリアンナ。おはようだぜ」
 稲生:「おはよう」
 マリア:「おっス」
 エレーナ:「『ゆうべはおたのしみでしたね』」
 マリア:「ンなワケあるか!」
 稲生:「いつの時代のドラクエだよ……。というか、女将さんと交替したんだ」
 エレーナ:「そりゃ、女将さんに夜勤までやらせたらアレだろ?そこは住み込みバイトの私の出番だぜ」
 稲生:「カネの為とはいえ、一生懸命働くところは憎めないんだよなぁ……」

 夜勤の方がバイト代が高い為。
 かくいう作者も、警備員バイト時代はバイト代に目が眩んで夜勤を率先して行っていた。
 今では別の会社で正社員。

 店員:「いらっしゃいませー」

 レストランに行くと、キャサリンの使い魔カラスが擬人化した店員達が働いていた。
 エレーナは黒猫、キャサリンはカラスと、正に“ベタな魔女の使い魔の法則”通りである。

 稲生:「バイキングじゃなくなったんだね」
 店員:「コロナ禍の影響でぇ……」

 緊急事態宣言やまん防の出ている所では、バイキング形式を止めて定食形式に変えたホテルは多い。
 それだけならまだマシな方で、朝食サービスそのものを取り止めにしてしまった所も散在する。

 稲生:「和定食1つ」
 マリア:「私は洋定食」
 店員:「はいっ、かしこまりましたぁ!」

 やたら元気なカラス娘である。

 稲生:「取りあえず食べたら、学校に連絡してみるよ」
 マリア:「分かった。その後は?」
 稲生:「すぐに行けるようなら行くけど、もしダメなら……取りあえず、うち来る?」
 マリア:「行く!行くわ!」
 稲生:「わ、分かった」

[同日09:00.天候:晴 同ホテル5F 512号室]

 朝食を終えて部屋に戻った稲生は、東京中央学園上野高校に掛けてみた。

 稲生:「あ、もしもし。僕、第○×回の卒業生の稲生勇太と申します。……はい。当時、3年3組の担任だった沼沢先生とお話しさせて頂きたいのですが……。あ、はい!お願いします!」

 保留音が校歌のオルゴールである。
 電話に出た事務員の話によると、沼沢は今は3年生の学年主任をしているという。

 沼沢:「はい、お電話代わりました。沼沢です」

 学年主任はその年度にもよるが、クラス担任を務めるとは限らない。

 稲生:「沼沢先生!第○×回卒業生で3年3組だった稲生です!」
 沼沢:「稲生……稲生か……」
 稲生:「新聞部にいて、バンドマンの大河内君や着物着た銀髪の威吹と一緒にいた稲生勇太です!」
 沼沢:「ああ、あの稲生か!思い出した!どうした?」
 稲生:「実はお願いがありまして……」
 沼沢:「お願い?」
 稲生:「旧校舎……教育資料館の中を見学させて頂きたいんです」
 沼沢:「教育資料館?何でまたそこに……。もしかして、また『魔界の穴』とか、『化け物』とかでも出るっていうのか?」
 稲生:「あ、いや、そういうことじゃないんです。ちょっと探し物が……」
 沼沢:「探し物?何だ?」
 稲生:「沼沢先生は、『青い目の人形』を御存知ないですか?」
 沼沢:「何だ。それを見たいのか」
 稲生:「あるんですか!?」
 沼沢:「あるよ。教育資料館の1階に、学園の歴史を伝えるコーナーがあるだろ?そこに展示されてるよ」
 稲生:「今から見せては頂けないでしょうか!?」
 沼沢:「今から?おいおい、冗談だろ?今日は平日で、これから授業だ。昨今の治安状況を鑑みて、なるべく平日の昼間は部外者を入れないことになったんだ。まあ、確かに稲生は卒業生だが、今はもう……」
 稲生:「そこを何とか……」
 沼沢:「うーん……。それじゃあ、授業が終わった放課後ならいいよ」
 稲生:「それは今日でも?」
 沼沢:「ああ、構わんよ。そうだな……じゃあ、16時頃に来てくれ」
 稲生:「16時ですね。分かりました。お伺いします!ありがとうございます!」

 稲生は電話を切った。

[同日09:30.天候:晴 同地区内 都営地下鉄森下駅→大江戸線820A電車先頭車内]

 元担任の沼沢とアポイントが取れた稲生は、一旦ホテルをチェックアウトして実家に行くことにした。
 まずは最寄りの森下駅に向かう。

 マリア:「案外上手く行くものだね」
 稲生:「いやあ、良かった良かった」
 マリア:「しかし、まさか既に展示されていたとは……」
 稲生:「お、おかしいな。全然気づかなかった」

〔まもなく3番線に、両国、春日経由、都庁前行き電車が到着します。ドアから離れて、お待ちください〕

 マリア:「『灯台下暗し』って言うのか、こういうの?」
 稲生:「そ、そうかもね」
 マリア:「でも、不思議だな……」
 稲生:「何が?」
 マリア:「いや……」

 轟音と強風を伴って電車が入線してきた。

〔森下、森下。都営新宿線は、お乗り換えです〕

 朝ラッシュが終わった後なので、混雑はしていなかった。
 電車に乗り込むと、空いているクッションの硬い座席に座る。
 すぐに発車メロディが鳴り、車両のドアとホームドアが閉まる。
 それから電車が走り出した。

〔次は両国(江戸東京博物館前)、両国(江戸東京博物館前)。JR総武線は、お乗り換えです。お出口は、右側です〕

 稲生:「何が不思議なの?」
 マリア:「ちゃんと発見されて、しかもちゃんと展示までされているのなら、人形に不満は無いはずだ。親善人形としての目的で、学校に寄贈されたのなら、学校で管理し、展示されるのが当たり前だ。勇太の母校にいる人形はちゃんと目的を果たしているのに、何がそんなに不満なんだろう?」
 稲生:「教育資料館って、あんまり開放されることが無いんです。学園側も、旧校舎を取り壊そうとすると呪いが発動して何人もの死者が出たことに委縮してしまって、それで苦肉の策として教育資料館としてリニューアルすることにしたわけです。つまり、積極的にリニューアルしようとしたわけじゃないんですよ」
 マリア:「飾られてるだけで、その人形を見る者はいないというわけか。なるほど。それなら、人形にとっては不満かもしれない」
 稲生:「もしそうなら、その辺も踏まえて、先生に話してみますよ」
 マリア:「それは頼む」

 取りあえずまずは、稲生の家へ。

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