報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Cindy” 「ギャング団の暗躍」

2016-10-12 22:42:51 | アンドロイドマスターシリーズ
[10月7日15:00.天候:晴 東京都千代田区有楽町 日生劇場]

 ここでは敷島エージェンシーの古参ボーカロイド、巡音ルカがソロリサイタルを行っていた。
 ルカもまた演歌ではこぶしを効かせた歌い方ができ、ファン層の幅は広い。
 実はここにも、あのギャング団の一味が客として紛れ込んでいた。
 S席に座る、いかにも大金持ちそうな中年女性の身につけるジュエリーに目を付けたボス。

 ボス:「あのババァの持ち物を狙え」

 ボスはオペラグラスに扮した無線機で手下達に命じた。

 部下A:「了解」

 部下は劇場と外側の通路を結ぶドアの前にいて、ボスからの指示を受けた。
 そしてまた別のインカムで、

 部下A:「おい、ヤス。フランケンに命じろ。そろそろ出番だってな」
 ヤス:「は、はい!」

〔「皆さん、ありがとうございました。私はボーカロイドとして、これからも皆様が楽しんで歌を聴いて頂けるよう、頑張りますので、よろしくお願い致します」〕

 拍手が沸き起こる。
 こうして、ルカのソロリサイタルは終了した。

 観客が捌ける中、ボスに目を付けられた中年婦人はルカの控室に向かう。

 観客:「ほんと、いつも感動させて頂いておりますわ。今日なんかも、もう涙が出て困っちゃう!鳥肌が立つって言うの?もうそればっかりよ!」
 ルカ:「お役に立てて何よりです。私の歌で喜んでもらえることは、ボーカロイドにとっても至上の喜びです」
 観客:「それでね、ルカさんにプレゼントがありますのよ。受け取ってくださいましな」
 ルカ:「ああ……えっと……ですね……。お気持ちは大変ありがたいのですが、私はボーカロイドですので、人間の歌手のようなことはできなくて……」
 観客:「もちろん、分かっておりますわ。これはあなたがボーカロイドならではのプレゼントなの。とうぞ、安心して……」

 その時、熱狂的ファンの女性の口と手が止まった。
 ルカの背後を見て、動きが止まったのだ。

 ルカ:「はっ!?」

 ルカも後ろを振り向く。
 そこにいたのは、あのフランケンだった。

 観客:「きゃあああああああッ!誰かぁぁぁぁぁぁっ!化け物よーっ!!」

 ファンの叫び声を合図にするかのように、フランケンが彼女に近づいて来る。
 ルカはその前に立ちはだかった。

 ルカ:「早く逃げてください!ここは私が食い止めます!」
 フランケン:「ウオオオオオオッ!」
 ルカ:「!!!」

 ここでルカのメモリーは切れている。

[同日17:00.天候:曇 帝国ホテル]

 日生劇場の通りを挟んで向かい側には帝国ホテルがある。
 そこで手下Aはヤスの首尾を受け取った。

 ヤス:「兄貴、やりました!」
 部下A:「よーし、よくやった。見た目に宝石身に付けてるババァのプレゼントだからな、きっと中身も親分の大好きなダイヤモンドのアクセサリーでも入ってるぜ、こりゃ」

 部下Aはそう言って、中年女性ファンからガメてきたルカへのプレゼントの中身を開けた。
 すると中に入っていたのは……。

 部下A:「あ?何だこれ?」
 ヤス:「何スか?」
 部下A:「こりゃ株主優待券じゃねぇか!ガソリンスタンドの!」
 ヤス:「ええっ!?」
 部下B:「あのババァ、エネオスの株主だったのか……。おおかた、これでエンジンオイルと引き換えてくれって話か……」
 部下A:「のんきに解説してる場合か、このバカ!宝石か札束かっぱらって来ねぇと、俺達ゃ東京湾ダイブの刑だぞ!?」
 ヤス:「人間そっくりの姿してるのに、車のエンジンオイルで動くんですねぇ……。お前もかい?」
 フランケン:「…………」(←コクリと頷く)

[同日同時刻 天候:曇 日生劇場]

 警察が非常線を張る中、敷島とシンディが駆け付ける。

 敷島:「緒方君!大丈夫か!?しっかりしろ!」

 救急車に乗せられる者がいた。
 緒方と言って、ルカのマネージャーをやっている男である。
 もちろん、敷島エージェンシーの社員だ。
 頭に応急手当用の三角巾を巻いており、意識が無い。

 敷島:「私は彼の上司の者ですが、後で病院に行きますので、搬送先が分かったらここに連絡して頂けませんか?」

 敷島は名刺を救急隊員に渡した。
 そこには会社の代表電話だけでなく、自分のケータイ番号も書いてある。
 そして、事件現場へと踏み込む。

 鷲田:「おう、キミか。さっき、キミの部下が搬送されたぞ?」
 敷島:「さっき確認しました」
 鷲田:「いいのか?キミの可愛い部下だぞ?」
 敷島:「まだこれから搬送先を探すでしょうし、もし分かったら、私に連絡してもらうようお願いしてあります。それより、ルカは?」
 村中:「真に気の毒だが……」

 村中は控室の中を指さした。

 敷島:「わあーっ!?ルカーっ!!」

 控室の中には、まるで人間の血のような赤黒い液体が飛び散っていた。
 その血の海のような所の中心には、上半身と下半身を真っ二つにされたルカの残骸があった。

 シンディ:「ひどい……」
 敷島:「ルカ!しっかりしろ!ルカ!!」
 ルカ:「社長……」

 何と、それでもルカは動いていた。

 ルカ:「あのお客様は……無事でしたでしょうか……?」
 敷島:「お、お前……!」
 シンディ:「そんな心配より、自分の心配しな!あんた、自分が今どんな状態だか……分かってるの……!」
 鷲田:「そこのロボットは捜査資料として押収するぞ。まずは所有者であるキミの承認を得ようと思うのだが……」
 シンディ:「押収だなんて……!直させてあげてください!」
 鷲田:「車が死亡事故を起こした時なんかも、その車は事件の証拠として押収することがある。それと同じだ」

 敷島はルカのヘッドホン型の耳を取り外した。
 その中から、メモリースティックが出てくる。

 敷島:「この中に、ルカが遭遇した映像が記録されているはずです。解析ならこれで十分でしょう?車の交通事故だって、ドライブレコーダーの映像で十分立件可能でしょうから」

 もちろんロイドの記憶は、そんなメモリースティックだけに収まっているものではない。
 これは正にドライブレコーダーと同じで、もし自分が何か損傷を受けることがあった場合、その直前の画像を記録しておく為のものである。
 記憶は電子頭脳の中よりも、むしろ遠隔監視している端末とそのサーバーの中に記録されている。
 だからそれを確認しても良いのだが。

 鷲田:「よし。それではこれを証拠資料の提出を受けたことにしよう」
 村中:「警視!?」
 鷲田:「村中君、すぐにこれを解析してもらいたまえ。おおかた、あの工場から脱走したロボットが映っているだろうがな」
 村中:「は、はい!」
 鷲田:「それと敷島社長」
 敷島:「何ですか?」
 鷲田:「当然さっきのメモリーを確認すれば分かることではあるが……。人間の力で、この巡音ルカというロボットの上半身と下半身を引きちぎることは可能かね?」
 敷島:「不可能に決まってるじゃないですか。人間だって、素手で他人の上半身と下半身を真っ二つになんかできないでしょう?ましてや、ボーカロイドだって戦闘力は持たないけど、頑丈さは人間の比ではないんですから。それを真っ二つにできるのは……」
 鷲田:「あのフランケンと、そこの美人ロボットだけか」
 敷島:「そうですよ!」
 シンディ:「社長、DCJの方と連絡が取れました。すぐにルカを引き取りに来るそうです」
 敷島:「よし。修理代はいくら掛かってもいい。何としてでもルカを直してもらうんだ」
 鷲田:「大金を稼ぐロボットなんて、そうそういないだろうからな。そりゃ、すぐにでも直したいだろう」

 鷲田は敷島の感情にはイマイチ理解できなかったが、でかでかと何枚も貼られたルカのポスターを見てそう言った。

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