報恩坊の怪しい偽作家!

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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「夜の帰路を往く」

2021-06-16 20:56:41 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[5月5日20:57.天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区 JR大宮駅→宇都宮線1643E列車5号車内]

〔まもなく4番線に、上野東京ライン、東海道線直通、普通、小田原行きが参ります。危ないですから、黄色い点字ブロックまでお下がりください。この列車は、15両です。グリーン車が付いております。……〕

 NEWDAYSで飲食物などを買った私達は、ホームへ向かった。
 ゴールデンウィーク最終日の夜ということもあり、平日と比べれば空いていた。
 それでも下りホームは若干帰宅客で賑わいを見せていたが、上りホームはガラガラだった。
 しかし、今はガラガラでも、それが下り列車と化す時には賑わいを見せるようになるのだろう。

〔「4番線ご注意ください。20時58分発、宇都宮線からの上野東京ライン回り、東海道線直通、普通列車の小田原行き、長い15両編成での到着です。危ないですから、黄色い点字ブロックの内側までお下がりください」〕

 尚、斉藤社長の計らいでグリーン車に乗せてもらえることになったが、あいにくとこのグリーン車、中間車両にある。
 リサが乗るにはBSAAとの協定違反となる。
 その為、どうしても中間車に乗らなければならない場合、善場主任を通してBSAAに連絡しなければならない。
 しかし今は休日の夜ということもあり、直接の電話連絡は躊躇われた。
 そこでメールを使用する。
 メールだと電話よりも速達性・確実性が悪いが、それでも一応、善場主任には通じたようで、『了解』の返信があった。

 リサ:「おー、2階建て」

 普通車でさえ空いているのに、グリーンはもっとガラガラである。

〔「ご乗車ありがとうございました。大宮ぁ、大宮です。車内にお忘れ物の無いよう、ご注意ください。4番線の電車は上野東京ライン、東海道線直通、普通列車の小田原行きです。次は、さいたま新都心に止まります」〕

 5号車に乗り込み、2階席に上がる。
 進行方向左側の席を前後で確保した。
 向かい合わせにはしない。
 テーブルを出して、その上に缶ビールやおつまみを置いた。

 愛原:「大人の鉄旅はな、やっぱこうだろ」
 高橋:「そうっスね。乾杯っス」

 高橋は缶チューハイであった。
 私も苦い酒に飽きたら、たまにそっちに行くこともある。
 ホームから発車メロディの音が聞こえて来た。

〔4番線の上野東京ライン、ドアが閉まります。ご注意ください。次の列車を、ご利用ください〕

 2点チャイムが3回鳴って閉まるのは標準的だが、閉まり切る際、ガチャンと大きな音がする。
 これは通勤タイプの車両には無い。
 客終合図の音がしないのは、ついに大宮駅在来線ホームから輸送係による立ち番が廃止されたことによる。

〔この電車は宇都宮線、上野東京ライン、東海道線直通、普通電車、小田原行きです。4号車と5号車は、グリーン車です。車内でグリーン券をお買い求めの場合、駅での発売額と異なりますので、ご了承ください。次はさいたま新都心、さいたま新都心。お出口は、右側です〕

 愛原:「段々変わってくよねぇ……」
 高橋:「え?何がですか?」
 愛原:「世の中の状況だよ。コロナ禍で一気に変わりやがった」
 高橋:「あー、そうっスねぇ……」

 時刻表を見れば、臨時列車が全便運休となった新幹線のダイヤはスカスカだし、宇都宮線・高崎線は昼間の上野終着・上野始発が無くなった分、本数が減ったし、埼京線も快速電車の停車駅が増えたということは、各駅停車の本数が減ったということでもある。
 そしてなるべく、短距離の電車を長距離運用にした(その分、本数を減らした)。
 そう、大昔の汽車時代のダイヤに退化しつつあるのである。

 愛原:「あのアンブレラの創業者、スペンサーは『人類は進化しなければならない』と言っていたそうだ」
 高橋:「ゾンビが進化ですか?」
 愛原:「いや、ゾンビに関しては完全に失敗だろうな。多分、俺は……そこのリサがそうだと思う」
 高橋:「リサがですか?いや、冗談でしょ?人食い鬼っスよ?」
 愛原:「もちろん、リサで完全体というわけではないだろうさ。もちろん、リサ・トレヴァーという種類の中では、そこのリサが完璧な完全体なんだろう。しかし恐らく、スペンサー……はもう死んでいるから、その後継者達か。その中に白井もいると仮定して、リサですら、人類進化の為の階段の1つに過ぎないんだろう」
 高橋:「マジっスか。じゃあ、ゴールはどこなんですか?」
 愛原:「ゴールはまだ見えない。ずっと先……だと、思っていた」
 高橋:「思っていた?」
 愛原:「もしかしたら、もうゴールは世界のどこかにあるのかもしれない」
 高橋:「どこなんスか、それは?そこに白井がいるかもしれないんスか?」
 愛原:「それは分からない。だけど、ルーマニアの事件が極秘にされているのがどうも気になるんだ」
 高橋:「ルーマニアの山奥の村で起きた、武装ゲリラの内戦ですか」
 愛原:「そんな所で武装ゲリラは無いだろうと思う。確かに東欧には、まだ治安情勢が不安定な所はあるがな。しかもそこにBSAA欧州本部が投入されたって話だ。にも関わらず、日本地区本部には報告書が回されていないって言うんだから驚きだ」

 私達がデイライトに協力している役得で、BSAAの極秘文書の中でも、比較的機密性の低い(が、それでも一般には公開できない)文書を閲覧することができる。

 愛原:「何かあると見るべきだ」
 高橋:「なるほど。BSAAが突入した時点で、バイオハザードの臭いがプンプンしますもんね」
 愛原:「そういうことだ」

 噂ではアメリカのルイジアナ州で起きたバイオハザードの生還者が、そのルーマニアの内戦に巻き込まれたということだが……。
 噂の域を出ない以上、あまり口にはできない。

[同日21:30.天候:晴 東京都千代田区丸の内 JR東京駅]

〔まもなく東京、東京。お出口は、右側です。新幹線、中央線、山手線、京浜東北線、横須賀線、総武快速線、京葉線と地下鉄丸ノ内線はお乗り換えです。電車とホームの間が広く空いている所がありますので、足元にご注意ください〕

 上野駅を出た電車は、上野東京ラインを走行した。
 電車の窓からは東京中央学園は見えない。
 新幹線は地下に入ってしまうので、上野界隈の景色を見られる。
 ましてや、グリーン車の2階席は尚更だ。
 秋葉原でヨドバシカメラの建物の前を通り過ぎれば、東京駅はもうすぐなのは新幹線と同じ。

〔「ご乗車ありがとうございました。まもなく東京、東京です。到着ホームは10番線、お出口は右側です。お降りの際はお忘れ物の無いよう、よくお確かめください」〕

 電車は東海道本線のホームに滑り込んだ。
 今も昔も9番線と10番線は、東海道本線上りホームである。

〔東京、東京。ご乗車、ありがとうございます。次は、新橋に止まります〕

 東京駅で電車を降りる前、既に上野駅から乗客が増え始めていた。
 そして、この東京駅からも乗客が増えようとしている。
 そうなる前に、私達はホームに降りた。

 愛原:「じゃあ、ここからタクシーだな」

 車内で出たゴミは、デッキにあるゴミ箱に捨てておいた。
 地方の電車では普通車でもゴミ箱が設置されていることもあるが、首都圏ではグリーン車にしか無い。

 絵恋:「先生。パールが迎えに来ているようです」
 愛原:「なに?どこだ?」
 絵恋:「八重洲中央口です」
 愛原:「八重洲中央口か」

 そこからタクシー乗り場は近い。
 また、中央口なら、私達がどの車両に乗っていても、すぐ向かうことができる。
 霧崎さんも考えたな。

 霧崎:「お帰りなさいませ、御嬢様」

 八重洲中央改札口に行くと、メイド服を着た霧崎さんが恭しく出迎えた。
 その言葉はメイドカフェのメイドさんのセリフそのものだが、彼女らが喉からでも腹からでもなく、その間から声を出す感じなのに対し、霧崎さんのは完全に地声である。

 絵恋:「あ、ただいま」
 リサ:「それじゃサイトー、また明日」
 絵恋:「待って!せめてタクシー乗り場まで御一緒させて!」
 高橋:「女々しいヤツだなー」
 絵恋:「悪かったわね!」
 愛原:「まあまあ、高橋。いいじゃないか。絵恋さんは女の子なんだし」
 高橋:「女好きの女ですよ?」
 愛原:「別にいいじゃないか」

 というわけで、八重洲口側のタクシー乗り場まで一緒に行った。
 先頭に並んでいる高級そうな黒塗りセダンも、その後ろに並んでいる最近ベタなトールワゴン型も料金は同じである。
 だが、前者に乗るのは絵恋さんが相応しいと考え、そちらに譲った。
 私達はその後ろに並んでいたトールワゴン型の方に乗る。
 ただ、3人で乗るのならこっちの方が良い。
 何故なら、セダン型と違って、床の中央に出っ張りが無いからである。
 大抵この場合、私が真ん中に乗ることになるので。

 愛原:「菊川1丁目までお願いします」
 運転手:「菊川1丁目ですね」

 今度のタクシーには、助手席後ろにモニタは付いていなかった。
 さて、ようやく私達のゴールデンウィークが終わろうとしている。
 今回もまた白井を見つけることは叶わなかったが、全ての真相が明らかになるのはいつになるのだろうか。
 全くもって不明だ。

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