報恩坊の怪しい偽作家!

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“ユタと愉快な仲間たち” 「百戦錬磨の見た目は将校」

2014-12-28 19:45:59 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月21日16:44.JR藤野駅 ユタ、威吹、カンジ、マリア、キノ、江蓮]

〔まもなく2番線に、中央特快、東京行きが参ります。危ないですから、黄色い線まで、お下がりください。この電車は、10両です。次は、相模湖に止まります〕

 もうすっかり暗くなったホームに、電車のヘッドライトが近づいてくる。
「逢魔が時……か」
「えっ?」
「これから隧道を通るまでの間、ボク達は妖力を解放するから」
 威吹が言った。
「えー……」
 ユタはその意味を分かっていた。
 ドアボタンを押してドアを開け、電車の先頭車に乗り込む。

〔2番線、ドアが閉まります。ご注意ください〕

 電車はすぐに走り出した。

〔次は、相模湖です〕

 威吹とキノは妖力を解放した。
 2人の瞳が赤色にボウッと光る。
 それだけでなく、蛍光灯の光がその影響を受けて薄暗くなった。
 よく怪奇現象が発生する時に、蛍光灯などの明かりが薄暗くなる描写があるのはそのため。
 実際はあからさまに薄暗くなるのではなく、何となく薄暗いという程度。
 トンネルの中に入ると、あれだけ威吹達が対応したにも関わらず、妖気があった。
 あわよくば、先日の貨物列車のように襲い掛かる恐れがあったのかもしれないが、2度も強い高等妖怪に睨みを利かされては、そうもいかないようだ。
 慌てて逃げて行く様子が感じ取れた。
「因みにトンネル区間は、2つ先の高尾までだ。よろしく」
 マリアは傍観者のように言った。
(それ、僕のセリフ……)
 と、ユタ。

[16:56.JR高尾駅 上記メンバー]

〔まもなく高尾、高尾。お出口は、左側です。京王線は、お乗り換えです〕

「お、お疲れ様。もう大丈夫だよ」
 ユタが言うと、妖気を元に戻す2人。
「妖気を解放すると腹が減るな。昔はそんな時には、手近な亡者を取って食ったり、人間界に出て物色しに行ったりしたものだが……」
「今そんなことしたら退治するからな?」
 と、江蓮。
「さすがにA級霊力ぶつけられると大ケガするもんでよぉ……」
「同感だ」
 威吹は同調した。
(では、S級はもっと恐ろしいわけか……)
 カンジはタブレットを見ながら、チラッとユタにも視線を向けた。
 タブレットが受信している異世界通信オンラインだが、相変わらず、不安を煽る記事ばかりだ。
(安倍総理が会見でもすればいいものを、それもできないほど大変な事態になっているということだ……)

[同日17:54.JR新宿駅 上記メンバー]

 ユタ達は終点の東京駅ではなく、途中の新宿駅で降りることにした。
「そのまま帰るのか、キノ?」
「ああ。今のところ湘南新宿ラインも埼京線も普通に走ってるみてぇだし、それで帰るぜ。まあ、腹減りはもう少し我慢するさ」
 途中で夕食を取ってから帰ろうということになったのだが、キノと江蓮は固辞した。
 恐らく江蓮だけ未成年なので、酒が飲めないからだろう。
 厳密に言えばカンジもそうなのだが(19歳)、妖狐の世界においては成年に達しているという理由で(15歳元服の法則)。
「それじゃ、稲生さん。勧誡のチャンスが来たら、連絡くれよ。藤谷班長よりはしっかり世話するよ」
「ハハハ……。その時はよろしく」
 駅構内で別れた。
「実際、藤谷班長は姿を見せなくなったな?」
「そういえばそうだねぇ……」
「雪女に精気を抜かれましたかね?」
「可能性はあるな」
「ええー……?」
「そんじゃま、取りあえず、適当な店でも探そうか」
「イリーナさんの顔利く、安くていい店無いんですか?」
 ユタが言った。
「アタシの顔ねぇ……」
 いつもは目を細くしている(糸目という)イリーナだが、少し開眼してニンマリと笑った。
(久しぶりに師匠の目が開く所を見たな)
 と、マリアは思った。
 イリーナの目が見開かれたのは、覚えている限り、メチャクチャ怒られた時だ。
 キノに復讐と称して、イリーナから禁じられた魔法を使ったのがばれ、大叱責と平手打ちを食らった。
 その際、目がカッと開かれたのを覚えている。
 いつもはのほほんとしている人物ほど、怒らせると怖いということだ。

[同日18:30.新宿駅界隈 某チェーン居酒屋 ユタ、威吹、カンジ、マリア、イリーナ]

 さすがにイリーナの顔利く所は、何だかヤバそうな感じがあったので、普通の店にした次第。
 うわばみのイリーナと威吹はグイグイ行くが、他の3人はローペース。
 カンジ曰く、
「人間形態では酒が弱い」
 とのこと。
「威吹君の刀、カッコ良くなったじゃない」
 イリーナがハイボールを片手に言った。
「まだ使い勝手に慣れておらん。出来栄え自体は良いが、新機能が余計なものなのか否かは、今後に掛かっている」
「あんなに大金を積んだのに、余計な機能だなんて……」
「ああ。でなければ困る」
「タチアナのアイディアだからね。刀に籠もった妖気を溜めて、それを放つ機能ってのは……」
「西洋の剣なら有りなのかもしれんが、これはどうだか分からぬな」
「キノは前向きだったけどね」
 と、ユタが言った。
「キノは新し物好きというのもあるだろうね」
 キノと比べれば保守的な考え方の威吹には、多少困惑の新機能のようである。
「今後、魔界からの揺さぶりはもっと強くなる。とにかく今は、使えるものは何でも使うつもりでやった方がいいと思うよ」
「まあ、そういう向きもあるがな」
 威吹はそう言って、お猪口に入った日本酒をクイッと飲み干した。
「近いうち、魔界に行くことになると思う。威吹君はその時、初恋の人を探せばいいんじゃないかな」
「お前、案内しろ」
「師匠に向かって、お前とは何だ!」
 マリアが威吹にくって掛かった。
 いつもは雪のように白い肌だが、飲酒と怒りのせいか、露出している肌が全体的に赤くなっている。
「アタシも知らないんだよォ……」
「その割には知っているような口ぶりだが?」
「何気ない心当たりはあるけどね。ただ、もしかしたら、アタシの思い過ごしかもしれないし」
「それでも良い。別に、生きていなくてもいいんだ。せめて亡骸でもあれば、それを人間界に戻してやりたい。あいつがいた社(やしろ)はまだこの時代でも現存しているようだ。そこに行って、供養させるさ」
(僕が脱講する前なら、そこだけは阻止するところなんだろうけどねぇ……)
 ユタは心の中で苦笑いして、サワーを口に運んだ。

[同日同時刻 アルカディア王国 王都アルカディアシティ 魔王城最深部・大水晶 ルーシー・ブラッドプール1世&大師匠]

「大水晶がまた点滅している。本当に大丈夫なの?」
 ルーシーは眉を潜めて、黒いローブを羽織り、同じ色のフードを深く被る大魔道師に問うた。
「御心配の通り、正直申し上げまして、かなり不安定な状態です。これはやはり、バァル大帝が何らかの理由で、引き返していることに他なりません」
「何とかならないの?約束の時期は数百年だけど、このままじゃ……」
「最後の手段を用いる必要があります。しばし、時間を頂きたい」
「えっ?」
 また大水晶が強く、しかし鈍く点滅する。
 赤色だったり、青色だったり、緑色だったりと、色には一貫性が無い。
 ただ、たまに水晶の中に人影のようなものが映り出すことが気になっていた。
(大水晶を作り出す時に、人間を依り代にしたって噂は本当なのかしら)
 と、ルーシーは思った。
 今現在、左手に握っている魔王の杖。
 バァルから預かって久しいが、早めに手放すことになるのだろうか。
 王座に対する執着は無いが、魔界の改革が軌道に乗り出している時に手放すのは、何とも納得しがたい所はあった。
(バァル……。さすがは勘の鋭い老翁ね)

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