報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“新アンドロイドマスター” 「満身創痍」

2015-08-03 02:37:59 | アンドロイドマスターシリーズ
[7月22日19:00.天候:曇 デイライト・コーポレーション埼玉研究所前公道]

 研究所の正門からわらわらと出て来るバージョン4.0の集団。
「目標物はゲットしタ!早々ニ撤収ダ!」
「了解!」
 そこへ、道路を封鎖している分隊から緊急連絡が入る。
{「至急、至急!コチラ158号!車列に異変発生!バスが突っ込……」ブツッ!」}
「158号!ドウシタ!?報告ヲ続ケロ!158号!」
「201号、気ヲ付ケロ!」
「ワアアッ!?」
 路線バスが突っ込んで来た。
 既にバージョン軍団を跳ね飛ばした後なのか、既にフロントガラスは割れている。
 最後の個体がバスの運転席をスキャンした時、そこにいたのは敷島だった。

「だぁりゃーっ!!」
 敷島は研究所正門前にたむろしていたバージョン4.0の集団に体当たりした。
 最後の1体は何かを手にして逃げようとしたが、体型ずんぐりむっくりで素早く動けないせいか、敷島運転のバスに跳ね飛ばされた上、電柱と電話ボックスの間に挟まれ、あえない最期を遂げることとなった。
「よーし!着いたぞ!ゆかり!降りるぞ!」
「は、はい!」
 ボーカロイドのゆかりはともかく、バスの前面は完全に原形を留めなくなった状態だというのに、敷島はほとんどケガが無い。
 敷島に付いて中扉から降りたゆかりは、
(もしかして社長、サイボーグか何か?)
 と、疑問に思うほどであった。
「ん?ちょっと待て!これは……?」
 バスの前に、誰かの足が落ちていた。
 人間を轢いた覚えは無いが、左足の太腿から下の部分で、靴は履いていない。
 また、太腿から先は配線やら基板やらが覗いている。
「ロイドの足……ですね」
 ゆかりが言った。
「誰の足だ?……まあいい。行こう」
 敷島は脛の蓋が開いて、中が空っぽになっている足をその場に置いて敷地内に入った。

[同日19:10.同研究所内 敷島孝夫&結月ゆかり]

 所内はバージョン4.0の残骸が散らばっていた。
 動いている個体は無いに等しい。
「これはシンディがやったのかなぁ?」
 敷島は首を傾げた。
「ああ、そうそう。どのタイミングだか知らないが、ゆかりの頭脳の中に、KR団に情報が筒抜けになるような、そんな機器が取り付けられたらしい。俺の話が向こうに筒抜けになった時って、ゆかりが近くにいた時だったからな」
「そうだったんですか……」
「レイチェル達がこのタイミングで襲撃したのも、俺達の情報が漏れたからだ。その時、ゆかりも近くにいたからね。統計を取ってみたら、何だか怪しかったんでね。キミはまだできてから間も無いから、大掛かりな検査はまだ先の話だ。それを狙って取り付けられたってことは、製造の段階から既になのか、あるいは輸送中にやられたか……」
「! 社長!その先に、ロイドの反応が……!」
 ゆかりが左目を光らせた。
「なに?バージョンか?」
 先の廊下は停電しているのか、はたまた消灯しているだけなのか、結構暗い。
 その周辺にも、バージョンの残骸が転がっていた。
「そこまでは分かりません」
 ボーカロイドは種別の選別まではできないらしい。
「よし。その廊下の角を曲った所だな?ちょっと俺が様子を見てくる。バージョンだったらそこの消火器で煙幕を張るから、その隙にその部屋に一時避難しよう」
「は、はい」
 敷島は消火器を手にすると、廊下の角を曲った。
 その先には、確かに両目をオレンジ色に光らせて近づいてくる何かがいるのが分かった。
 まるで片足でケンケンするような感じの音がする。
 片足だけ損傷した個体だろうか?
 それが非常口誘導灯の辺りまで来ると、やっと正体が分かった。
「アルエット!」
「しゃ……社長……さん……」
「お、おまっ……!それ、大丈夫なのか!?」
 アルエットは左足が完全に無くなっており、右腕も損傷が激しいのか、力無く垂れ下がってオイルが洩れて、床に垂れ落ちている。
 赤黒いエンジンオイルが上半身のブラウスを同じ色に所々染め上げており、左側は破れてブラジャーの肩紐が覗いていた。
 で、その肩からも配線などが出てしまって、火花が時々飛び散る有り様である。
「無理しなくていいぞ!」
「バージョン達に……左足を……もぎ取られて……。左足に……博士の……形見……が………」
 そう言うと、アルエットはついに床に崩れ落ちた。
「左足って……ああっ!?バスの前に落ちていたあれか!ちょっと取ってくる!」
 敷島はゆかりにアルエットのことを頼むと、研究所の外へ戻った。
「! え?なに?」
 シャットダウンしたかのように見えたアルエット。
 そうではなかった。
 ゆかりを手招きすると、何かを言った。
「ええっ?」
「お願い……それを……しないと………わたしが………」

[同日19:20.同研究所・正面広場 敷島孝夫]

 研究所の外に出た敷島だったが、左足の回収はギリギリできた。
 だが既に脛の蓋は開いており、アルエットの話ぶりでは、どうやら中身を先程のバージョン達が持っていたようだが、捜索は絶望的であった。
 何故なら……。
「何たるちゃあ……」
 バスやバージョン達が炎上していたからだ。
 バスが最初に炎上したのか、バージョンが先に炎上したのかまでは分からない。
 ただ1つ言えることは、その火炎の勢いが消火器の1本や2本では対処できない規模だということだ。
「参ったなぁ……。せめて、アルエットの左足に入っていたものが、燃えにくいものだといいけど……」
 敷島が困った顔して、頭をかいていた時だった。
「諦めなさい……」
「!?」
 背後から聞き慣れた声がした。
 第六感が働いて、咄嗟にしゃがみ込む。
 と、同時に頭上を1発の銃弾が通過していった。
「レイチェル!……げっ!?」
 敷島が声のした方を向くと、そこにレイチェルがいた。
 しかし、敷島が驚いたのは、そのレイチェルが満身創痍の姿だったからだ。
 正直、稼動しているのが不思議なくらい。
 顔の右3分の1くらいが無くなって、機器が剥き出しになって、右目も無くなっている。
 左手も無くなって、火花が不規則に飛び散っていた。
 右足もまた引きずるような感じである。
 しかしまだ動けるようで、敷島に再度、右手の銃口を向けていた。
「お前、もう無理だ。お前の方こそ諦めろ。その様子では……シンディは……」
 シンディはやられてしまったのか。
「この近くで“眠って”いるわよ……」
 喋っている間にも、彼女の口から赤いオイルが血のように落ちる。
「くそっ!」
 レイチェルの右手のライフルに、弾が自動で込められる。
「……なあ、最後に聞きたいことがある。お前の主人、十条伝助はどこにいる?」
「それは……言えない………。KR団の……KRが……何の略だか……知れば……分かる………」
「ああ?」
「さヨウなラ……」

 次の瞬間、銃弾が正面広場に鳴り響いた。
 敷島の命運や如何に!?

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2 コメント

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休日 (ムーディ☆アポ山)
2015-08-03 14:29:25
仕事が激務な中、今日は現実逃避気味に、朝から飲んでるし。

休みを取ったんで、誰にも文句言われる筋合いありませんが。。
と言いながら、仕事の電話が…

今日は飲んだくれに徹します!
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ムーディ☆アポ山さんへ (作者)
2015-08-03 14:54:57
こんにちは。

お疲れ様です。
私は泊まり勤務明けで歯医者に行ってます。
家からの徒歩5分、さいたま市は今が一番暑い時間なので、その5分が苦行です。
末法の世の中において、苦行は無意味のはずなんですけどね。
功徳無き苦行、がんばります。
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