報恩坊の怪しい偽作家!

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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「こだま718号」

2024-08-09 20:41:45 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[5月6日13時00分 天候:晴 静岡県富士市川成島 JR新富士駅→東海道新幹線718A列車12号車内]

 移動の時間になったのか、東京中央進学塾の生徒達は移動を開始した。

 

 私達は1番後ろをついていく。
 当然その列には、クライアントの次男もいた。
 どちらかというと陰キャの方だろうが、知り合いができたか、数人の塾生達と喋りながら歩いている。
 他の塾生達はもちろん、引率の塾関係者にも不審な点は見当たらない。
 塾生達は有人改札口から、コンコースに入って行く。
 私達は自前のキップで、自動改札機を通過した。
 コンコースに入った後は、エスカレーターでホームへと上がって行った。

 愛原「うーむ……」
 リサ「因みに山手学苑の方も、今は帰りの船の中」
 高橋「どうでもいいだろ、そんな情報よ」

 ホームに上がった塾生達は、13号車の前に並んだ。
 今度の“こだま”718号は本来、普通車指定席は7号車と11号車と12号車だけなのだが、13号車から15号車は、こういった団体の予約があった場合、自由席から指定席車へと変更される。
 今回は大型観光バス2台分の団体客ということで、13号車だけが指定席に転換されたようである。
 私達は、12号車のキップを持っている。
 本来、BSAAとの取り決めでは、リサは1号車か16号車にしか乗れないのだが、何らかの事情がある場合、事前に通知しておけば、BSAAが出動してくることはない。
 もちろん、ただ単に通知だけしておけば良いというわけではなく、ちゃんとした理由を付けなければならないのだが。
 今回、自由席の14号車ではなく、指定席の12号車にした理由はそこにある。
 指定席を確保しておけば、それが理由になると思ったからだ。
 あと、先述したように、13号車から15号車は団体用に指定席に転換されることもある。
 14号車が自由席だと思って乗り込もうとすると、別の団体客によって指定席になっている場合もあるので。
 当然団体予約の場合、既にその車両の座席は満席扱いとされ、その車両に乗ることはできなくなる為。

 

 〔ピン♪ポン♪パン♪ポーン♪ 新幹線を、ご利用頂きまして、ありがとうございます。まもなく、1番線に、13時10分発、“こだま”718号、東京行きが、到着します。黄色い線の内側まで、お下がりください。この電車は、各駅に止まります。グリーン車は、8号車、9号車、10号車。自由席は1号車から6号車と、14号車から、16号車です〕

 通過線たる本線を、通過列車は時速285kmで走行する。
 しかし、待避線も兼ねている副線ホームに、停車列車は時速70~80kmでやってきた。
 やってきたのは、N700A。
 JRマークがオレンジ色なことから、JR東海の車両らしい。

〔しんふじ、新富士です。しんふじ、新富士です。ご乗車、ありがとうございました〕

 列車が到着してドアが開く。
 新富士駅には、稼働柵(ホームドア)が付いていない。
 塾生達はガラ空きの13号車に乗り込んで行く。
 幸い新富士駅に止まる“こだま”号は、“のぞみ”や“ひかり”の通過待ちを行うことが多いので、停車時間が長めに取られている。
 その為、団体客がぞろぞろ乗り降りしていても、客扱い遅れが発生することはない。
 私達は彼らが全員乗車するのを確認してから、隣の12号車に乗り込んだ。
 こちらも指定席だが、一般用である為、一般客達で賑わっている。
 基本的に“こだま”は空いている列車として有名だが、さすがにゴールデンウィークの最終日とあっては、そういった列車でも満席になっていることが多い。
 指定された3人席に座る。

〔「13時10分発、“こだま”718号、東京行きです。発車まで、あと2分ほどお待ちください」〕

 窓側に座ったリサは、テーブルを出して、そこにジュースやお菓子を置いている。
 高橋は、タバコが吸えない状態だからか、少し落ち着きが無い。

 愛原「仕事中は、内容によってタバコが吸えないことも多々ある。こういう辛抱も必要だぞ?」
 高橋「は、はい。一流の探偵のなる為ですもんね」

 高橋は我慢する為か、自販機で買った缶コーヒーを早くも飲み干してしまった。

 愛原「早ェな、おい!w」
 高橋「さ、サーセン……」
 愛原「しょうがねーな。俺が追加の飲み物、買ってきてやるよ」
 高橋「お、俺が行ってきますよ!?」
 愛原「いい、いい!ついでに彼らの様子を見てくる」

 私は席を立つと、12号車のドアからは降りず、あえて13号車の中に入ってみた。
 いかに貸切車両とはいえ、中間車だから、通過する一般客はいるだろう。
 デッキには塾関係者と思しきスーツの男が、スマホでどこかに電話している。
 恐らく、塾に定時連絡でもしているのだろう。
 客室に入ると、塾生達は銘々に過ごしていた。
 合宿が終わったからか、緊張の糸が解れている感じ。
 仲良くなった者同士お喋りしている席もあれば、緊張の糸はまだ解けておらず、1人で参考書に読み耽る者もいる。
 ただ、多くは解れているようだった。
 1人でボーッと窓の外を眺めているコもいたし、早々に座席をリクライニングして目を閉じているコもいた。
 手持ちのスマホにインストールしているBSAAのアプリも、何も反応しない。
 もしもこの中に、リサのように人間に化けて潜り込んでいるようなBOWがいれば、即座に反応する設定にしているのだが、13号車でそのアラームが鳴ることはなかった。

 愛原「ふーん……。本当に何も起こらない」

 私は首を傾げて、13号車からホームに降りた。
 そして、ホームの自販機で、高橋にはペットボトルを、私は高橋が美味そうに飲んでいた缶コーヒーを購入した。
 と、ここで轟音を上げて、上りの“のぞみ”だか“ひかり”だかが通過して行く。
 風圧で、停車中の“こだま”が大きく揺れた。
 あれが通過すれば、もう発車である。
 私は急ぎ足で、今度は12号車のドアから車内に戻った。

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