報恩坊の怪しい偽作家!

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 実際のものとは異なります。

“ユタと愉快な仲間たち” 「やっぱりイケメンに限った」

2014-08-08 14:50:29 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[8月10日14:30.江ノ島海水浴場・移動交番 ユタと愉快な仲間たち]

「盗撮してないのに盗撮犯扱いされた!『キミが悪いんじゃない。イケメンに生まれなかったのが悪いんだ。手の届かない女性を、せめて写真に収めてみたかった。……だろ!?』って取り調べされた!何だこれ!」
「うむ。その通りだな」
 キノは大きく頷いた。
 彼も地獄界に戻れば亡者達を虐げる獄卒である。
「キノ!」
「どーも、すいません。身元引受人のイリーナ・レヴィア・ブリジッドと申します」
「や、こりゃどうも。こちらこそ、うちの若い者がとんだ早合点を……」
 移動交番の責任者と思しき40〜50代の男性巡査部長もまた恐縮していた。
 ユタを逆ナンしたのは、ビーチにおける盗撮や窃盗を現行犯で逮捕することを目的とした女性私服警察官で、ユタが浜辺に向かってスマホを操作していたのを確認し、顔がオタク風ということもあってか盗撮しているかもしれないと思い、職務質問したもの。
 その際、女性から見て生理的に受け付けないと思われる挙動不審な所があったということで、ユタを移動交番に(任意同行という名の)連行したという。
「いやー、大ごとにならなくて良かったよー、盗撮ちゃん」
 キノが笑いながらユタの肩を叩いた。
「盗撮じゃない!」
 ユタの容疑が晴れたのは、実際にスマホに盗撮した画像が1枚も無かったからだ。
 スマホ操作中に現行犯タイーホ職務質問したため、咄嗟に消去することはできない。
「じゃあ、このコは引き取りますね」
「こりゃ、とんだお手数を……」
 ユタ達は移動交番をあとにした。
「ま、ブサメンが小学校の近くを歩いてるだけで、すぐ不審者情報が飛び交う時代だ。諦めな。その辺は、あのおまわりの言う通りだよ」
 キノはズチューとストローを突き刺したプラスチックカップ入りのジュースを飲みながら言った。
「今生のモテ期は諦めて、来世ではイケメンに生まれるよう、今からホトケ様にワイロ送っとくんだな」
「うう……」
 泣き出しそうになるユタ。それを見て、
「おい、そんな言い方ないだろ!」
 威吹がキノに食ってかかる。
「ああっ!?本当のこと言ったまでだろうが!」
「言っていいことと悪いことがある!」
「現実から目を反らすなって、オメー、前に言ってただろうが!」
「2人とも、やめなよ。とにかくマリア、今度はユウタ君から目を離さないように」
「はい」
 イリーナが2人の人喰い妖怪男の間に割って入ると同時に、弟子に指示を出した。

[同日17:00.鎌倉駅江ノ電ホーム→横須賀線ホーム ユタと愉快な仲間たち]

 まるで路面電車のようにのんびりと走る江ノ島電鉄。
 多くの行楽客を乗せて、ゆっくりと終点鎌倉駅のホームに入る。
 片開きのドアが開くと、降車ホームに一斉に乗客が降り出した。
 その中に、ユタ達の姿もある。
「お土産買うヒマあるかねぇ……」
「帰りは17時18分発、“ホリデー快速鎌倉”号です」
 イリーナの質問に、ユタは力無く答えた。
「ほおほお。じゃあ、駅の売店くらいなら覗けるねぇ……」
「そうですね」
「もう夕方になるってのに、まだイジけてるの?」
「イジけてないですよ」
「マリアも一緒にいるんだから、これで機嫌直して」
「ええ……」

[同日17:15.JR鎌倉駅→ホリデー快速鎌倉号 ユタと愉快な仲間たち]

〔まもなく2番線に、当駅始発、“ホリデー快速鎌倉”、南越谷行きが参ります。危ないですから、黄色い線までお下がりください。この列車は、6両です〕

「おっ、間に合った」
 ユタとマリアが先にホームで待っていると、何やら買い込んできた威吹達もやってきた。
「何を買ってきたんだ?」
「弁当売ってたから買ってきた」
 と、威吹。
「えっ、もう?大宮に着いてから何か食べようと思ってたのに……」
「それはそれ。これはこれ」
「ええ〜……。相変わらずだな……」
 ユタが呆れていると、往路と同じ電車、形式番号で言えば185系がやってきた。
 幅1メートルほどある片開きのドアが開くと、すぐに乗り込んだ。

〔♪♪♪♪。「ご乗車ありがとうございます。この電車は17時18分発、横須賀線、武蔵野線直通、“ホリデー快速鎌倉”号、南越谷行きです。停車駅は北鎌倉、大船、横浜、北府中、西国分寺、新秋津、東所沢、新座、北朝霞、武蔵浦和、南浦和、終点南越谷の順に止まります。……」〕

「やっと帰れるよー」
 ユタは座席にもたれかかって言った。
「おいおい。まだ京浜東北線乗り換えがあるでしょー」
 イリーナが呆れて言った。
「武蔵野線に入ってしまえば、こっちものです」
「そうかい?」
「あとは警視庁、埼玉県警の管轄になります」
「後で神奈川県警にクレーム入れときな。『オタク顔だからっていちいち職質するな』ってさ。まあ、確かにあっちのイケメンの方が悪質だよねー」
 通路を挟んで隣の席では、キノがふざけて江蓮の尻や胸を触っていた。
「少し黙らせてこよう」
 威吹は弁当を置いた。
「いいから、ほっときなよ、威吹」
 ユタが言った。
「しかし、ユタの気に障るようなら……」
「楽しんでるならいいさ」
「ユタがそう言うのなら……」

 17時18分。臨時快速は明るい発車メロディの後、だいたい定刻通りに発車した。

〔♪♪(JR東日本チャイム)♪♪。「お待たせ致しました。本日もJR東日本をご利用威頂きまして、ありがとうございます。17時18分発、横須賀線、武蔵野線直通、“ホリデー快速鎌倉”号、南越谷行きです。【中略】次は北鎌倉、北鎌倉です」〕

 次の停車駅である北鎌倉駅は、臨済宗円覚寺の境内を横切ることで有名で、駅もその位置関係上、駅舎が鎌倉駅寄りに偏った感じに設けられている。
 但し、他宗の境内や外道の敷地内を公共交通機関で通る場合は謗法に当たらないので、作者が博麗神社を訪れても謗法にはならない
 これは顕正会でも教えられているはずだ(作者がいた組織は比較的まともな所だったようで、当時の支隊長がちゃんと教えてくれた)。
「……だけど僕がいた組織では、“やきそばエクスプレス”に乗って大石寺境内に乗り付けた場合は謗法だと言われました」
「じゃあ、バスの営業所を出発したら、ハリウッドの映画スターみたいに、『主人公、火だるまになってバスから飛び降りる』シーンでもやれってかしら?」
「……寺の近くの家に用事があって、信仰とは何の関係も無く乗っても規則違反か。面倒な宗教だ」
 マリアも言った。
「そんなことを顕正会員に言うと、『重箱の隅をつつくな!』と逆ギレしてきます」
「いいじゃないか。重箱の隅をつついて叩くのが法論というものだろう?」
 マリアがそう言い放つと、
「あっ、バカ!」
 威吹が慌てた。
 実は顕正会時代のトラウマ。
 威吹が顕正会員だった頃のユタに同じことを言って、キレられ、顔面を殴られたのだった。
「まあ……第三者から見れば、そうかもしれませんね」
 ユタは苦笑した。
「……あれ?」
 威吹は目が点になる。
「顕正会には御書がありませんから、あまり難しい御金言を引っ張り出して、『御書にはこう書いてある』と言っても、向こうは知らないから、なしのつぶてなんです。しょうがないから、向こうの活動内容や会長の指導について間違っている所を叩くしかない。結果的に、『重箱の隅をつつく』ような感じになっちゃうんですね。まあ、元妙信講員とか、比較的教学を学んでいる人に対しては御書を使いますけど」
「そうなのか」
 すると、イリーナはうんうんと頷いた。
「良かった。ユウタ君、元気になったね」
「えっ?」
「お前ら、ユタを元気づける為にわざと北鎌倉駅から円覚寺の話を振ったのか……」
 威吹はこれまた驚いた。
「ばれた?」
「参ったなぁ……」
 ユタは頭をかいた。

 電車はまだ高い空の上にある夏の日差しを浴びながら、進路を北に向けていた。

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